12.香山桜子
ジョーくんの家になぜか大量に置いてあった女性物の服の中から、派手な色ではないブラウスとスカートを選ぶ。本当はジーンズとかズボンが履きたかったけれどこれらの服を置いていった女性達はあまりはかないようだ。後で取りに来るかもしれないから汚せないなと考えながら着替え、渡されていた眼鏡を掛けて居間で待っているジョーくんに見せる。
ジョーくんはスーツ姿で前髪を上げておでこを出し、眼鏡を掛けていた。芸能人の変装といえばサングラスとか帽子ではないのか疑問に思って聞いてみると。
「それ自分から芸能人ですていってるようなもんじゃん」
と言われた。
二人連れ添ってマンションから出てタクシーに乗り込む。
何気なく車窓を眺めていると、昨日の夜尚美と明日奈と歩いた学校の多い地域に入る。
その中でも歴史のありそうな教会もある建物の前でタクシーは停まり、降りるように促された。
ジョーくんが警備員に名前を告げると入っていいと言われる。
校門から校舎へ続く道を二人で歩く、今日は土曜日なので人も少なめだが、部活動の生徒はいるようだ。
ふと、ジョーくんを見てみる。案外こういった場所に慣れている様子で歩いているので来たことがあるのだろうか。
今私たち二人はどう見えているのだろうと考えながらジョーくんを見る。
スーツに眼鏡は彼のオーラを隠すための判断だろうけれど、イケメンのスーツと眼鏡はむしろ魅力のバフがかかるものだということがわかってないんだろうなと思った。
現に、すれ違う女生徒の中にはジョーくんに見とれる子ばかりだ。私も同じ立場なら見とれて動けなくなっていたかもしれない。
校舎につき、ジョーくんはやはり来たことがあったのか、迷わず校長室と書かれた部屋にたどり着き、ドアをノックした。
入っていいと声がして、ドアを開けて入ると、中にはいかにも責任者ですという貫録をもった男性がなぜか嫌そうな顔をして座っていた。
男性は、挨拶もせずに、
「いや、よくきてくれた。それであの件を不問にしてくれるとは本当なのか?」
とジョーくんに言った。
ジョーくんは、
「君は座って。」
と私に促して、私がソファに座ったのを確認すると、自分は座らずに校長らしき人物の前に立つ。
「お久しぶりです。こちらとしましても。お宅の生徒さんをこれ以上おびえさせるのは心苦しいので・・・あくまで、僕、は許す。ということですけれど」
なんだか芝居がかった微笑みを浮かべるジョーくん
「ところで、この歴史ある学校で学ばせたい子がいまして。」
とジョーくんは私のほうを見た。
この学校に入学・・いや転校しろということなのだろうか
突然のことについていけない私は置いて行かれ、ジョーくんは手持ちの鞄から私に関する資料を出して校長の机に並べた。
校長はそれをじっくり見ると、
「確かに成績出席日数は悪くないから編入は難しくないだろう。わが校の陸上部はここ何年も大きな大会に行けていないので彼女の加入はありがたい・・・。」
難しそうに唸る校長に
「なら問題ありませんね。よろしくお願いします。」
ともう決定のように断言して、
「それでは、細かい打ち合わせや説明は本人に向かわせますので、今日は失礼します」
そう言うと、
「行こう」
とソファーに座る私に言うと足早に部屋を立ち去ろうとするので慌てて追いかけて、失礼しました、これからよろしくお願いします。と一礼して私は校長室を出た。
そのまま校舎を出て来た道を歩くが、ジョーくんは無言のままだ。
もしかすると、ここにいるのが嫌なのか。
ジョーくんの視線を感じたので彼をみて思い切って聞いてみると、
「最初に聞くのがそれなんだ。やっぱわかっちゃうよね」
と苦笑いされた。もちろん目は笑ってない。
学校という場所が嫌いなのだろうか、それとも先ほど校長が言っていた何かがこの学校であったのだろうか。色々気になったけど私が聞いていいことかわからなかったので、この学校に私が通ってもいいのかということだけ聞いた。
「勝手に決めてごめんね。でも、僕の関係者だと最初から分かっていて騒ぎにならないところはここぐらいしかないから。合わないようなら転校していいからいつでも言って。」
と軽く進路について言われたけれど、現状十分なくらい色々してもらっているので反対もなにもない。
今私は何も返せないし、これから返せるかどうかも分からない。
どうすればいいのだろう。私があなたにできることはありますか。
思っていたことが口から出ていたようで、道を歩いていたジョーくんが止まってまっすぐ私を見た。
二人の間には気持ちの良い風が吹き抜けて、空は綺麗な青、部活をする生徒の声が遠く聞こえる。まるでドラマのワンシーンのような風景。相手が私じゃなくてきれいな女優さんだったら完璧だっただろう。
「変わらずずっと好きでいて。」
ジョーくんは静かに、表情のないでも美しい顔でそう言った。
「僕以外を好きにならないで。ずっと変わらず僕だけ好きでいて。」
なんだ。世界で一番簡単なことじゃないか。私は思わずそう言ってしまった。
私はジョーくんだけを愛して他に関心を持たず全て失ってもそれでも手に入れたかった、そのためだけに生きてきた人間だ。
はい、私は変わりませんよ。
そう答えたのに。
「人は変わるよ。僕だって君に出会って昨日から変わった。君も僕と一緒にいることできっと変わってく。」
そうジョーくんは何かを思い出しているように答えた。
タクシーにまた乗り込む。二人とも無言だ。
ジョーくんは何かを恐れているのだろうか?
でも、私の存在や行動で彼を安心させられるのならばそれ以上の幸福はない。
気持ちのうえでは私は変わることはない。
でもそれはジョーくんには伝えることが出来ない。魔法であなたの心は私に向けられてますよ。なんて説明も出来ない。知られたくない。知られるわけにはいかない。
ジョーくんは不安に思っているのかもしれない。突然自分ばかりが見知らぬ少女に惚れて離れられなくなる感情、自分の事が自分でもわからなくなる状況に今陥ってるのではないだろうか。
後でハムスターに洗脳方法や影響について話を聞かないとなと考える。
好きって、どうすればきちんと伝わるのだろう。
出会いや恋をすっ飛ばして、めでたしめでたしの後から物語がスタートしているこの状態、時間をかけて解決する必要がある。
そしてその時間を作るために、私はこれからも魔法少女として戦い続けなければならないのだ。




