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11.香山桜子

昨日はジョーくんからの電話に出た後、まもなく部屋のインターフォンが鳴り、受付のコンシェルジュが配達が来たけれど頼みましたか?と聞いてきたので、肯定して通してもらった。そして、玄関の前にいたコック服の配達人から食事を受け取った。支払いは注文者のジョーくんが決済済みと言われ配達人はそのまま帰っていった。

食事は野菜を中心とした和食で、脂こいものはなかったが、とても食べられる体調ではないなと思い冷蔵庫に入っていたアイスコーヒーを飲むことにした。

その後入浴して、沢山ある部屋の中から物が少なく多分客間であろう部屋に入りベッドに横になるとそのまま眠ってしまった。


翌日目が覚めて、見知らぬ天井を確認。やはり夢ではなかった。

固定電話を確認しに行ったが留守電は入っていなかった。なぜか途端に不安が生まれる。

彼はここにもう帰ってこないんじゃないか。冷静に考え直したら昨日一日で衝動的にとんでもないことをしたわけで、警察が入ってきて出ていくよういわれるのではないか。

そんな極端なことを考えながら座っていると、玄関の開く音と小走りの足音が聞こえ、ドアが開くとそこにはジョーくんが立っていた。

ジョーくんは私を見ると、

「ただいま」

と言った。

戸惑いつつお帰りなさいと返すと、安心したようにふわりと笑ってくれた。

これにドキドキしてはいけないと自分に言い聞かせる。でもやっぱりかっこいい。

自分の中で色々葛藤していると荷物を置きに奥の部屋に行ったジョーくんを追いかける、途中私が使用した部屋を見たジョーくんに使用してよかったのか確認する。すると、

「もうここ君の部屋てことでいいよ」

と軽く決められた。家主が決めたことなので私は反論できないけれど大丈夫なのかは心配になる。


そのまま二人で昨日の食事を温めなおして食べる。

ジョーくんから、私の事を他のメンバーや事務所に話したと報告された。

バラエティ番組でたまに映ることもあるジョーくんたちのマネージャーは確かとても怖そうな人だったのでジョーくんは大丈夫だったのか心配になったけれど、またこの部屋に来れたということは納得させた解釈でいいのだろうか。


色々考えながらも食事を終えた。片付けた後。ジョーくんは持ってきて居間に置いたままだったスーツケースを開けてスマホとネットブックを出して私の前に置いた。二つとも優しいピンク色のデザインだ。

「色を見た時に君に似合うと思って。気に入ってくれた?」

と微笑むジョーくん。

私は感謝の言葉を言うのも忘れてわざわざ買ってきたのか聞いてしまったが、

「ああ、まあ、うちの事務所にいっぱい届くから余ってるんだよね。ウイルスとか盗聴器GPSは事務所に届いた時点で確認してるから問題ないよ」

と特に気を悪くした様子もなく返答してくれた。

物騒な単語も出てきたが、プレゼントであると理解する。確かに高額なものを送ったファンはインパクトが大きくメンバーから認知されやすいだろう。

自分はお金を稼いでいないので申し訳ないと慌てながら伝えると、

「別に僕のお嫁さんなんだからなんでも頼ってよ」

と軽く返されてしまった。


どうしよう、幸せすぎる。

思わず顔を伏せて身もだえる。

ここで素直に喜べるかわいい人間だったら良かったのだが。残念なことに私は与えられる愛情というものに人生で初めて出会ったような状態なので戸惑いと拒絶。勘弁して解放してという幸福からの逃げの気持ちのほうが大きく生まれる。

大きな愛に包まれることに疑問を持たない、そんな幸せな人生は歩めなかった人間だ。


何か役割がないとできることがないと、それがない人間はいらない必要ない迫害される。

そんな恐怖に勝手にとらわれてしまいそうになる。


だから自分のために役割が欲しい。


そんなことを考えていて、役割が欲しいという言葉だけが、無意識に口から出てしまっていたようだ。


とても顔が上げられず、でもそのままでいるわけにもいかないので覚悟を決めてジョーくんを見たら、考え込む表情でスマホをいじっていた。誰かからラインでも来たのだろうか。それを聞ける立場に今自分はあるのだろうけど、とても自分は聞けると思えない。


どうにもならない空気に悩んでいると、

「陸上部だったよね・・・。長距離走のエースだったって」

とジョーくんが突然私の話していないはずの情報を言った。

当然驚いた。そんな私の些細な情報まで知ろうとしてくれるなんて。と感動しそうになったけれど、今この状況でそれが話された意味が掴めないので喜びより疑念のほうが強い。


確かに私は陸上の選手だった。

魔法少女になってまず戦闘で強くなる前に私には体力が足りないということを自覚し、まずは体力持久力をつけるために、個人競技としての側面が強そうな部活に入って体力をつけることにした。

団体競技は論外で、テニスは阿部のようなつっかかってくる女子が多そうという偏見から消去法で陸上部となった。

もちろん余り群れない私に反感を持つ生徒もいたが、顧問は結果がすべての人間で私が練習に取り組む態度を正当に評価してくれた。

何回か大会に参加して、入賞も経験ある。

昨日まで通っていた高校はその推薦で入学しているし、結果的に色々役に立った部活動であったが、私自身は競技にも仲間にも顧問にも関心がなかった。魔法少女として日々消滅と隣り合わせな状況で周りと話す余裕もなかったのだ。それが周囲との摩擦やジョーくんへの圧倒的な依存につながったのかな。


色々思い出していると

「走ることは好き?」

とジョーくんに聞かれたので、生きるために必要だったと返した。ジョーくんはきっと進学への影響や私自身の嗜好だと解釈しただろうけれど。害獣と戦うために必要だったなんて言えるわけがない。説明もできないし。


そんなことを考えていたら

「また、走りたい?」

とジョーくんに聞かれ、私は反射的に頷いた。今のこの落ち着かない気持ちも、走れば飛んで行ってくれる気がする。そんな逃げのような思いからくる行動で、自分でも嫌になったけれど。

「今なら転校てことで手続き通るかもしれない。出かけるから変装してくれる?」

とジョーくんに言われ、

ついさっきまで何事か考えていたけれど、何かしようとしてるのはわかる。私が関係してなくても、割とこの人の行動は突飛だ。


ジョーくんの決めたことに私が反論することはできないししようとも思わない。

とりあえずスーツケースから出された眼鏡を受け取り、出かける準備を行うために私は椅子から立ち上がった。

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