10.香山桜子
その後、尚美と明日奈に連絡先の交換を提案されたが、自分のスマホはジョーくんに取られてしまっていることに気が付いた。今のマンションの住所も分からない上にこれからどうやって元の場所に戻ればいいのだろう。一気に現実が見えてきてどっと疲れた私がテーブルに顔を突っ伏す。
頭上から尚美の声が聞こえる
「あーやっぱり体どこか痛めたんじゃないですか?病院・・・はもう空いてないよね・・・どうしよう」
と考え込む様子の尚美に、慌てて顔を上げてただ疲れが急に出てきただけだと伝える。
ポケットからメモを取り出し、記憶にある自分の携帯番号とメアド、ラインIDなどを書き込む二人にそれを渡してスマホを忘れてきてしまったことを伝えたら納得してくれたようだ。
カフェの周りはもう暗くなりかけており退散したほうがいいだろうと感じて離席を促す。
そういえば二人とともにいた害獣を生み出した原因の子はどうしたのか聞くと、
「ああ、害獣を生み出して具合がみるみる悪くなったんで彼女を駅まで送り届けて帰らせました。だから桜子さんの戦闘に助太刀するのが遅くなってしまって・・・・。」
二人とも気まずそうな表情だ。初対面の私への協力をためらわなかったこと、そして戦闘後欠損の後遺症で貧血気味の私を無条件で助けてくれたことの真意を知れてよかった。単なる罪悪感なら、何か他に悪いことを企んでいるよりもましなので。
私は空気を変えるべく話題を振った。自分が家から箒で飛んできたこと、ここらへんの地域を知らないのに家に鍵を置きっぱなしにしてしまったことを話す。
ぷっと吹き出す声がした。
「・・・ドジっ子?」
明日奈が口元に手をあててそう言ったので笑ったのは彼女だろう。
「私が箒で送りますが、闇雲に飛べる程には体力も残ってなくて・・・マンションの特徴は覚えていますか?」
と真剣に心配してくる尚美の言葉を聞いてなんとか思い出す。
確か、渋谷に近いけれど静かで、とにかく高いマンションで入り口に人がいた。と全くはっきりしない特徴を話す。
尚美が
「もしかして・・・」
とつぶやき明日奈を見ると明日奈は分かったようにうなづいてスマホの画面を私に見せた。
画面には学校の教室の窓辺で撮られた写真で、明日奈が画面を拡大すると学校から少し離れたところに頭一つ高いマンションが見えた。
私がここかもしれないと言うと二人は笑顔になった。
「よかったです!ここら辺は高層ビル多いですけれど少し離れたところとなると私たちここしか心当たりがなくて・・。」
ジョーくんのマンションは二人の通う学校から行ける距離だったようだ。
確か彼女たちはPlutoの話をしていたのでジョー君達が少なからず好きなはずで、もし学校の近くに彼の別宅があると知ったらどんな反応をするだろうとふと思った。
二人にそこまで一緒に来てもらえないかお願いすると当たり前のように快諾してくれた。本当にありがたい。
二人の中学校がある場所へは渋谷から電車で二駅ほどで、大学を中心に色々な学校が立っている学区らしい。もう夜も遅いが会社から帰宅する人々に混じって電車に乗り込み。駅に到着して降りると確かに夜ではあるが街に人が少なく大きい建物があちこちにある。
二人は慣れた様子で道を歩き私は必死に付いていくと、駅から続く学校が多い区画への道とは違う方向に二人は曲がった。しばらくまた歩き、明かりのついた住宅街を超えると、区画整理されたばかりのように見える新しい道が見えてきた。ここら辺まで来て私はやっとタクシーから見た風景を思い出してきた。つい何時間か前のことなのに記憶がぼやけている。動揺してよく見ていなかっただけかもしれないけれど。
そのままマンションに入れないので少し離れた人気のないところで三人とも変身して箒を出す。自分一人だと飛ぶ体力がきついので尚美に掴まり超速で一気に上まで飛ぶ作戦だ。
変身した途端、尚美は無言になり、私と明日奈の準備ができたことを確認すると
「それじゃあ。飛びます。」
と一言だけ呟いて一気に上空へと昇った。
突然のことで驚いたけれど尚美は私の手をきちんと掴んでくれていたので振り落とされないで済んだ。
「ちょっとだから飛ぶときは飛ぶって事前に言ってよ心の準備てものがあるでしょう!!」
と置いていかれそうになり慌てて尚美の箒をしっかり握る明日奈。
次の瞬間にはマンション最上階に到達する。
「そういえば、桜子さんの家はどの窓ですか?」
そう聞いて来る明日奈。
記憶に覚えがなかったので周りを一周飛んでもらい、窓が開いてるベランダを探す。電気がついていない部屋をみればいいと思ってたが、最上階に住んでいるのはジョーくんだけのようだ。ワンフロア借りて滅多に帰らないとか本当芸能人てすごい。
少しだけ隙間の空いた窓を見つけたのでそこのベランダに降りる。部屋の中には帰ってきてそのままの私とジョーくんの鞄があった。
私が二人にお礼を言うと明日奈が握り締めていたメモを私に手渡した。
「私たち二人の連絡先です。もし連絡できるようならまた明日か明後日にでも会いませんか?私たち夜中パトロールすることもあるんです」
そう提案してきた明日奈にもちろんお願いしたいと伝えた。
まだまだ二人と話していたい、そう思う私を家の中からの電話呼び出し音が引き戻す。
「私たちはこれで。今日は本当にありがとうございました。また会いましょう!!」
そういって箒に跨りふわりと空に降り出た二人をしばらくぼーっと見送った私だったが、未だに鳴りやまない呼び出し音に気が付き家の中に入りもちろん鍵はかけてカーテンを閉めた。




