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7.香山譲

歌番組も普段通り問題なく終了し、僕はメンバーと共にマネージャーの車に乗り込んだ。本番中も僕たちを見ていたらしい社長に今日の出来を言われる。


「いつも通りのパフォーマンスだったけれど、今日はメンバー間のアイコンタクトやボディタッチが少なかったぞ!お前たちの売り所なんだから忘れるなよ!!」

というリアクションに困るダメ出しに対し、スマホをいじってたとびおが

「あ、さっきアイドルの子にライン聞かれてしゃちょーの答えておきました!」

と元気に手を上げながら発言すると、

「よし!正解!」

と社長はサムズアップをして、運転席からマネージャーの

「いや不正解だろうが!社長の個人情報をばらまくんじゃない!」

と真面目な突っ込みが入った。


そのあと、会話もなく車は事務所の駐車場に到着する。マネージャーの視線に視線を返し社長室に向かう。

僕たち全員とマネと社長が入っても十分な広さの室内でみな椅子に座り、マネージャーは社長秘書の子に

「2時間くらい緊急以外で誰も近寄らせないでくれ」

と指示をしてドアを閉めた。


皆の視線が集まったのを確認すると、僕は状況を説明した。

桜子の高校に彼女を迎えに行き、そのまま知人の法律関係者にお願いして、退学や保護者との絶縁などを行い結婚した事、今彼女を連れてきてマンションに置いている(どことは言わなかったけど察しがつく人間はいると思う)ことをそのまま伝えると

「いやそれ誘拐じゃないんですか?」

と飛馬にドン引きされた。


確かに、桜子がまだ高校1年生で学校まで辞めさせたことは確かに人権を害している気がすると改めて考えなおしてみる。彼女が望むようなら大学まで学費は出すつもりだけどどうなんだろう、本人に確認しなければ。


ドン引きした空気の室内で、先ほどと違い発狂しなかったマネが咳払いする

「とりあえずこの件に関しては口外無用だ、ここにいる人間以外には絶対に知られるな。譲にはカモフラージュとして、今度共演するドラマの女優と食事に行ってもらう。しっかり撮られるように週刊誌とネットニュースには情報を流し、古参ファンにもそれが事実という体で説明する。」

流石僕たちのマネージャー、優秀だ。と他人事のように関心してしまうが、顔を上げたマネージャーに睨まれる。

「俺たちは許さないぞ。しばらく譲の完全なオフは無し。仕事がなくても寮でメンバーと仲良しアピールを心掛けろ。不仲説出てるの、お前がプライベートだと全くメンバーと絡まないで俳優とか他アイドルとばかり遊んでるのも原因の一つなんだからな。

あと、週刊誌の写真に本当に付き合ってる演技をちゃんとしろ。お前俳優志望設定なのに演技下手すぎるから。」

だいたいお前はな・・・。とマネージャーの僕に対する愚痴が始まり色々日ごろの僕達に対する鬱憤が出てくるけど、この後は大体いつも言われてる話なので皆スルーだ。


ここまで無言だった社長が動いたのを感じた。

「譲。本当は怒って否定して別れさせるべきなんだろうと俺も思うよ。でもお前、久しぶりによく笑ってる気がするから、なんだか状況を変えちゃいけない気もするんだ。」

淡々と述べた社長に皆目を見張る。

忘れがちだけど僕らをここまで売れっ子にした社長だ。唯のブロマンス推せ推せおじさんと化している普段の一面だけではないのだ。

「とにかく今は人気を安定させなければいけない時期だ、総員一層気を引き締めて、一つ一つの仕事に丁寧に取り組むように。」

社長の言葉で場がお開きになった。


時計を見たらもう日付が変わりそうだ、寮に移動する皆に先に行ってほしいと告げて、誰もいない部屋を借り携帯から桜子のいるマンションにある電話番号にかけてみる、

ちょっと長めのコール音の後、

「もし・・・も・・・・し・・・・?」

と少女の困惑した声が聞こえた。桜子の声だ。僕であることを告げると安心したようだ。

今日帰れないことを伝える。冷蔵庫の中に保存食としての冷凍食品ぐらいはあったのではないか、ないなら何かデリバリー頼もうかと聞くと

「いえ、お昼に沢山食べたのでお腹は空いていません。お気遣いありがとうございます。」

と感謝された。不安なので後で和食でも宅配してもらおうと心に決めた。食べられないなら捨ててしまっても構わないし。

後で宅配の料理が届くことと、お風呂も寝室も自由に使っていいことを伝えると安心したように息を吐いた。今日一日色々あったから疲れてるだろうけれどお風呂には入ったほうがいいからねと伝えると

「嬉しいです」

と返ってきたので、桜子は、面倒臭くてもお風呂やご飯は欠かさないタイプと知れた。他人の事を知れてこんなに嬉しいのはもしかしたら初めてかもしれない。


ここで会話が途切れる、受話器の向こうからは夜の街に吹く風の音。不思議に思い、窓を開けているのか聞いてみると

「あっ・・・・・。そうですあのすみません。開けちゃいけなかったですよね閉めます。」

と謝られたので、責めてるわけではなくて夜風もいいけど早く寝たほうがいいよと伝えた。

「はい・・・・すぐそうしますね。おやすみなさい。」

と桜子が電話を切ろうとした。


僕はなぜかその時慌てて、名前を呼んでほしいと口にした。

「・・・おやすみなさい。ジョーくん」

戸惑いそして早口にそう言うと、桜子は電話を切った。


僕自身、若干放心しながら、スマホをポケットに入れ、部屋を出る。

まだ仕事をしているスタッフに挨拶しながら事務所を出ようとすると、応接スペースでイヤホンをしながらこちらを見る楓を見つけた。楓は立ち上がりこちらに歩いて来るが話しかけずに通り過ぎ事務所から出て行った。僕もその後を追う。

先を歩く楓に、待っていてくれてありがとうと伝えたが無言のままだ。二人でそのまま何も話さずに寮に向かった。

寮に到着して僕たちの部屋へ向かう。ここに来るのは何週間かぶりで、公式設定で僕と楓はルームメイトだったりする。僕は仕事やら人間関係で最近寄り付かず、楓はそれプラス学校と作曲活動があるので僕より多忙なはずだ。

部屋につくと

「では俺は作曲の締め切りあるんで」

と彼の仕事場に行くことを僕に告げた。

この寮は広いので、ダンスルームや録音室なども完備されている。各自個室でも全く問題ないが、メンバーの同室という概念があるとグッズなどの売り上げが桁が変わるらしい、よくわからないけど。


立ち去ろうとする楓に声をかける。自分の仕事があるのに待っていてくれてありがとう。あまり無理しないで早く寝るんだよと伝えると、楓は振り返った。

「・・・・。俺、さっき監視するよう言われて待ってたんですよ。」

淡々と告げる楓。とびおか飛馬だろうか?でも二人なら本人が来ると思うのでハリーかなと推理する。それを伝えると、楓は少し表情が柔らかくなった。

「やっぱわかりますよね。」

正解のようだ。一見寡黙でクールに見える楓は、それでいて他人を拒絶せず面倒見の良さがあったりする。グループ内で一番本当に恋するようなオタクが付いているのもチャーリーこと楓だ。

僕がしたことで不信感を持たれてしまったのは当然なので汚名をそそがなきゃいけないねと笑って見せると、

「いや、ハリーは不信感よりきっと他の感情のほうが今大きいでしょうね」

と楓はなにやら考え込むように言った後、じゃあと言って部屋を後にしてしまった。


楓の言ったことは気になったけど、まずは自分も浴室に向かう。脱衣場にある鏡で自分の顔を見てみたけど、相変わらず世界一のイケメンだ。

自分に起きた変化について自分で知れないことへの小さないら立ちも、お風呂場に流れてしまえばいいのに。


そんなことを思った。










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