9.香山桜子
頬の冷たい感触に目を開けると私は机にうつ伏せの体勢で気を失っていたようだ顔を上げると、先ほどのギャル二人、赤系のブラウンの髪色の子が水の入ったガラスコップを手に持っていたのでそれを頬にあてたのだろう。上体を問題なく起こせたので身体の消耗は予想より少ないのかもしれない。
周りを見回すと、先ほどの戦闘後武装解除した場所から数歩ほど離れた場所にあるオープンカフェのようだ、目があった店員が注文を取りに来たのではっきりしない意識でコーヒーと答えた。
「店員さんには、先輩が人込みに酔って気持ち悪くなっちゃったんですこし休ませてください。てお願いしてあるので大丈夫です。」
グラスを持った少女がそれを私の前に置きながらそう話した。錠剤の入った瓶も置かれて思わず顔を見る。
「貧血の薬です。私たちも一回大きいケガしたことがあって。欠損部分は治ってるのに体内の血液は減ったままなの謎ですよねー。」
隣の明るめの金髪の少女もスマホを置き改めて私を見ると、飲むように手で促した。
二人に礼を述べ錠剤を水で飲みこむ。痛み止めも必要か聞かれたけれど我慢できそうなので断る。
二人はまず討伐処理への協力感謝を述べ自己紹介をした。
先ほどから話をしているほうが緑の魔法少女で速度の能力持ちの風谷尚美。
無口な金髪の少女が赤の魔法少女で停止の能力持ちの桃井明日奈。
二人ともまだ中学生で魔法少女になって日が浅いらしい。それで戦闘中の人体欠損経験ありとは、やはり都会の害獣は手強いのだろうか。
聞いてみると苦い顔をされた。
「確かにそれもあるんですけど・・・・。そもそもの魔法少女の人数が多いんですよね」
尚美が説明してくれる内容によると、東京は人口密集地なだけあり害獣出現率もトップだ。それは誰が見ても分かることでつまりそれ目当ての魔法少女・・・トウバツショリができず薬効期限までに薬がもらえなかった魔法少女・・・の最後の希望の地となる。
ここで私は思い出す。
魔法少女に一度なると辞められない最大の理由が、戦闘終了後にトウバツ個体数、それが1つの場合はMVP者のみに自分のハムスターから渡される薬だ。
魔法少女になる為には、勧誘に来たハムスターから渡される2つのカプセルを飲む必要がある。
この世界から自分の存在を消す薬と、消えた後新しく体の構成成分を全く変えて変身し武装を纏い戦えるようになる薬。の2つだ。
まずここが第一関門で、この薬によりそのまま死ぬ魔法少女も少なからず存在する。(だいたいが不審死や自然死で処理される)
ただ、薬を飲み一度世界から消えた(死んだ)後、武装を纏い復活できれば正式に魔法少女になれる。
そこからだ、2つ目のカプセル(魔法少女になる薬)には薬効期限がある。だいたい1粒1か月程度で、期限が消える前に飲まないとこの世界から消える、いや、最初から存在しなかったことになるのだ。
私たちはまだ死にたくない、消えたくない、いなかったことになんてなりたくない。そんな思いを抱えて戦い続けることになり、願いの事叶えられた結果などほぼ皆どうでもよくなる。
結局魔法少女になる前とさほど変化のない、もしくはもっと悪くなった現実しか残らないのだ。
薬効期限の迫った魔法少女は手段を選べない、薬を受け取ったMVPを攻撃し奪い取ることはもはや普通で、渡されたらすぐ飲むこと、終わったら害獣処理現場からすぐ消えることは身を守る方法として魔法少女の一般常識だ。
そんな一般常識を確認していると尚美も私が何を思い浮かべたか察したようで
「それで、24時間どこかで戦闘が起こるこの町では、その数だけMVPがいるわけで、薬の在庫十分なんですよね。害獣と戦わなくても、魔法少女を襲えばいいわけですから。」
そういって尚美は自分の腕を擦る仕草をした。明日奈も険しい顔で何かを思い出しており、私は二人のケガの原因が害獣にないことを理解できた。
「私達は大体学校に出る害獣を処理して今までやってこれていましたが、段々と学校内にも魔法少女が増えて来ていて。もちろん変身後見せなければ正体バレはないですけど、この前トウバツ後の魔法少女を付けて行って変身後の身元を特定した魔法少女が現れました」
成る程それで狩場をどうするか迷っていた時の今日のこの戦闘か。
彼女たちは私の狩場を知りたいのだろう。残念だけれど私は今日引越してきたばかりで何も分からない事を伝えると2人は驚いた。
「えぇ!?初見の地形でこれだけ大きな害獣を処理できたんですか?」
まさか伝説の魔法少女‥と考え込んでいるところ悪いけど、単に魔法少女歴が長いだけと伝える。
戦闘参加数は多いが、自分が強い魔法少女だとは思ったこともない。
私は彼女達に何もしてあげられないだろう。過去に失った、いや、いなかったことになった魔法少女達を思い出す。本当に私にできる事はなかったのだろうかと今も考えるのだ。
「ただ、側にいてくれる人が欲しいんです」
黙り込んだ私に、今まで一言も話さなかった明日奈が口を開いた。
「貴方はきっと、何かを奪う時に何も感じない人じゃない。その心を持ち続けられれば、私達は最後まで人間でいられる。そんな気がするんです。」
私を真っ直ぐに見つめて発言した明日奈。
私達が薬を飲めて生きる事を続けられた裏で、消えていく魔法少女は今日も何処かにいる。
戦闘能力の差は個人の技量や努力に関わるかもしれない。
でも、弱いから死ななければいけないなんて事はないと絶対思う。
私より強い魔法少女から見たら、私は弱い魔法少女なのだから強さなんてその場で変わる。それで命を失う事はやはり理不尽だ。
弱くても、誰かに傷つけられて必要とされなくても、それでも生きるか、生きたいか決めるのは自分だ。
私はとても醜い感情が叶うのを夢見て、戦闘を続けて生き残って来た。魔法少女は大体なって2年で90パーセントは消えるとハムスターに言われたことがある。
それでも生きている。綺麗事ばかりしてる訳ではないことは生きた年数が証明している。
全部は伝えられないけれど、それでも一緒にいたいか2人に確認した。
「これからお互いを知っていきましょう」
尚美がそう言ってにこりと笑い、明日奈は無言で手を出してきた。
テーブルの上で三人手を握る。
「インスタに上げるので」と言って写真を撮ろうとする明日奈に対して、尚美と共に笑う。
カフェから見えるモニターに、Plutoのミュージックビデオが映る。
花束を握り、祈りを捧げるジョーくんのシーンがちょうど映った時、私達は握った手に少しだけ力を込めて、そして明日奈のスマホのシャッター音が鳴った。




