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6.香山譲

桜子をマンションに連れて帰り、自分は仕事のために外出した。


あのマンションは、翌日の仕事場所が近いとか、マスコミと遭遇したくないとか、一緒にいるのを見られたくない女性と過ごすとかで住居として使用していないので物も置いていない。

マンションに外部の住人が入るためには、住民の許可が必要で、受付の人間に事前に伝えないと入ることが出来ない為侵入者の心配は無く、桜子には鍵を渡していないので自分から出ることもできない。


いつもは事務所の迎えの車が来るが、今日は呼んでいないので、タクシーを呼びテレビ局の名前を伝える。洗面所に置かれた、過去にこの家に来た女性たちの忘れ物を見ても、僕らのグループが寮生活している公式設定が嘘と知っても、彼女は大きなリアクションを浮かべなかった。


新幹線での彼女の言葉を思い出す。確かに僕を愛している、大好きで自分のほうを見てほしい。そんなことを言っていたはずだ、僕への好意はある。

そんな人間が、他の女性の影を見たら、怒る泣くはなくても悲しむ失望くらいは顔に出すのではないか。


考えていたら、いつの間にかテレビ局に到着したようだ。運賃を支払い、関係者玄関のロビーで初めてスマホの電源をつける。メールの受信が途切れず電話をかけることが出来なくて困っていた時、

「譲くん?」

と聞きなれた声がしたので顔を上げると、学校の制服姿のメンバー、ハリー(本名ハインリヒ)とチャーリー(本名楓)がこちらを見ていた。

学校終わってそのまま来たのだろうか、目立たなかったか聞くと、

「マネージャーの車で来たので問題ありません。それより何が起きてるの?俺のクラスでも凄い聞かれたけど、皆、結婚についてより、昨日の会議で譲くんが出て行った事がなぜかネットの噂になっていて、譲くんの脱退説や僕らの不仲についての質問のほうが多かったです。ここ来る前、学校前に来てた僕たちの追っかけファンの女の子に『ジョーくん取られちゃうよ!彼氏なんだからハリーくん頑張って!!』て励まされちゃった。俺と譲くんのカップリングてまだ人気あったんだね」


ハリーはズバズバと遠慮なく僕に質問をして来る。楓はいつも通り無口だが眉の顰め方が深くこちらを心配していることが見て取れる。マネは車を停めてくるので先に来たと言う二人に、ひとまずここではできない話だから中に入りたいと伝えた。今日の連絡を見ていないので控室の位置やリハの時間が分からなくて不安だったが二人が今来たところを見ると大丈夫だったようで安心する。


当然マネから車の中で話を聞いていた二人の後についてテレビ局に入り、控室に向かう。途中すれ違うスタッフやほかの芸能人から話しかけられそうになるが挨拶だけして足早に通り過ぎる。愛想がないとか某芸能関係者の証言として週刊誌に書かれそうだ。


入り口に「Pluto様」と書かれた紙の貼られた控室にたどり着き、ハリーがノックもなしにドアを開けて入る。


部屋の中のソファにはスマホに集中している様子のGが座っていた。いつも通りに隣や対面のソファーにはスタイリストやメイク担当の女性や顔見知りのタレント(皆当然美人)がGを囲んで気を引きたいのかしきりに話しかけている。


僕たちの気配に気が付いたのか顔を上げたGは

「みんなおはよーーーーーー!」

と本番前なのに高いテンションで挨拶した。そして周りの美女に

「ほかのメンバー来たからごめんね!またね!」と手を合わせた。

周りの美女も気を悪くした様子もなく、

「じゃあねとびおくん連絡するねー」

と続々と席を立ち控室から出て行った。


ソファに座るとわざわざ移動してきたとびおにスマホの画面を見せられる。

ネットニュースの見出しは、「Pluto解散危機・・・・・・・・・・・か?」「リーダーの悲鳴!!!俺はハリーとGの保護者じゃない!!!」など、僕の結婚の記事は見当たらなく、グループの不仲煽りや解散説が圧倒的に占めていた。皆僕の結婚よりグループ全体のことのほうが気になるようだ。関連ニュースとして、今僕たちが広告ジャック中の渋谷の看板のGに赤い塗料のようなものがぶつけられた形跡があり、暴走したファンの犯行かと疑われている。

「結婚の話はキレたゆずるんの冗談てことでみんな解釈してるよー。普段空気読めないギャグキャラでお茶の間に浸透しててよかったねー。あはは、で、本当のところどーなってるの?」

面白そうに僕に聞いてくるとびおに話しかけようとしたその時、ノックとともにドアの開く音がした。振り向くと、ピッピと社長が立っている。とびおの「しゃちょー、ぴゅーまくん、おはよー」の挨拶に答え、二人が部屋に入った時、小走りの足音とともにマネージャーが控室に飛び込んできた。

「心配してたんだぞ譲!説明しろ!」

激昂しながらもドアを閉める個人情報管理意識の高さは流石僕たちのマネージャーだ。


とりあえず全員一旦座ってもらう。6人の視線が僕に集まる。

リハーサルの準備を急かされないのでまだ時間はあるのだろう、僕は一呼吸置いて口を開き、

「ご報告が遅れて申し訳ありません。僕香山譲は本日光桜子さんという一般の方と入籍しました。まだまだ未熟な二人ですが、これまで以上に努力していく所存ですのでご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」

と一息で言い切り頭を下げた。


ガタッと音がして顔を上げると、マネージャーが無言で掃除用具入れまで歩いていき扉を開け、顔を突っ込んでそのまま「ほんぎゃああああ・・・・」と人間が出せない悲鳴を出していた。

社長がおとなしいなと思い見てみたら放心したようだ。

「本当!ねえどんな子?写真見せて!」

と隣でテンション高く僕の腕を叩いて来るのがとびおで、

「大胆ですね」

と静かに一言呟いたのが楓だ。

「いい加減にしてください!!」

楓の隣に座っていた飛馬l(ピッピの本名はひゅうま)が叫んだ。

「確かに俺たち今まで譲さんに甘えてた部分ありますよ。いじられキャラだからって許されないようなイジり方したのかもしれません。なら、なんでそれを直接俺たちに言ってくれなかったんですか!こんな方法を使ってグループを潰そうとするなんて譲さんそんな人だと思ってませんでした・・・・・。」

飛馬は自分で言ったことに自身でも衝撃を受けたようでハッとして言葉を切った。

確かに僕のした行為は僕に関わる沢山の人のこれからの生活を変えるかもしれない事だ。

今の地位までの努力を無にする可能性もある。

全員の言葉がなくなったと思ったその時

「譲くん。」

と若く、けれど落ち着いた声が聞こえた。ハリーだ。


「譲くんはPlutoをもう辞めたい?」

ハリーの言葉に否定を返す。

「譲くんはファンの人達が嫌い?」

もう一度、否定を返す。

正直なことを言うと、好きという感情は桜子よりファンに対しての方が大きい。家族やメンバーに対しての好きはまた別次元だが。そういえば桜子はもう家族になるのか、僕にとって。

「譲くん。譲くんは、今幸せ?」

ハリーの質問に僕は目をしっかり合わせて、

「僕はいつでも幸福だよ」

そう、答えた。


「そう、わかった。」

ハリーは笑顔を作った。

謝れる立場ではないが、彼が言葉を我慢した事は俺にも分かる。

「Plutoを壊したり、『ジョー』がいなくならないのなら。俺が言える事はないよ」

そう言って話を締め括るハリーに、

「なーんだほとりんったらさみしかったんですかーー?」

とテンション高くとびおが絡みに言った。(ハリーの事をほとりんと呼ぶのは彼だけだ)


ハリーはとびおにより注意を逸らされたようでいつもの自信満々なガキ感が戻ってきた。

とびおはハリーに絡みながらも露骨に怒りをこちらに向けている。はっきりと口にした飛馬以上に、彼は僕の行動に怒りを抱いている。付き合いの長い僕だからこそわかる。

飛馬は何か言いたそうにこちらを見て、でも辞めて下を向いた。

楓は興味のなさそうないつも通りの無表情に見えるが、まだ不審気な視線をわからないようにこちらに向けている(まあわかるんだけれどね)


僕たち5人が表面上は納得したという空気を示したところで、マネの咳払いが聞こえた。

「譲の件は、今日の収録終了後事務所でまた話し合うぞ。もうリハの時間だ準備しろ」

マネの掛け声で全員仕事モードに切り替える。

僕に簡潔に今日の進行を説明した後、放心状態を継続していた社長を引きずり控室から退散するマネを見送り、衣装やメイクを確認するためスタッフを呼ぶ。

一気に喧騒に包まれる中、

「譲さん」

と後ろから声がした、振り返るとばつの悪そうな飛馬

「さっきはすみませんでした。心にもないことを言ってしまいました。」

頭を下げながらそう言う飛馬に、お前は間違ってないと告げる、今からでもリーダーになるか?と軽い口調で言ってみると、

「そんな悲しいことを言わないでください」

とまた怒りそうに眉を曲げた。

「俺たちのリーダーは譲さんしかいないんです。今までもこれからも」

飛馬はそれだけ言ってメイクさんとの打ち合わせに向かった。彼はいつも髪形が凝っているので時間が掛かる。


まだまだやるべきことは多いが、僕はひとまず全ての思考を仕事に集中するべく、鏡に映った自分自身を見つめた。






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