6.香山桜子
ジョーくん(譲さん呼びは自分の中でまだ違和感強い)の質問には焦ったけれど、本当のことは言えるわけない。理解も彼はできないだろう。
新幹線が都心の駅に到着した後、そのままタクシーでまた少し移動した中心街のマンションに連れてこられた。
確かジョーくんのグループは寮生活が売りだったはずだと確認したら。
「メンバー全員何個か住むところあるよ。仕事の都合とかあといろいろね」
とジョーくんは曖昧に笑った。
その理由は、手を洗うために入った洗面台の周り一面に置いてある女性用化粧品の数で察した。
「みんな一回来ただけなのにいろいろ忘れていくんだよね~。忙しいのかな?」
ジョーくんがのんびりとした態度なところを見ると気持ち的に深い仲ではないことに安心した。
安心する資格はあるんだよね私・・・今は。
「僕はこれから仕事で出るけど、帰ってくるまで外出禁止ね。人が来ても出ないで。暇なら部屋の中のもの好きに見ていいから」
ジョーくんはそれだけ言うと、行ってきますと手を振ってあわただしくまた出て行った。
物が少ないというのが第一印象。テレビでやってた寮の彼の部屋はアクションゲームやポケモンのグッズで溢れていたのでそれが趣味とファンは皆認識していたけど、まあ現実はそれだけじゃないよね。
窓の外を見る。マンションがあるのは有名な繁華街がある地域だが、駅や商業施設から少し離れているだけでここまで静かなのかと驚く。
無意識にポケットの音楽プレイヤーに触れた時、大事なことを思い出した。プレイヤーをコンパクトに変形させて開ける。
画面の中にはまだ眠っているピンクのハムスター。寝たふりやめたら?と言ってみた。もぞもぞと画面の中で立ち上がる。
ピンクのハムスターはこちらを見て
「おめでとうございますパカ。あなたの願いは叶いましたねパカ」
と一礼した。いつも通り語尾が謎だ。
それで、私はどんな罰を受けるの?
ハムスターに聞くと、
「いいえ何も。これまで通りにこれからも魔法少女として害獣処理をしていくだけですパカ。でも、」
ハムスターは口だけで笑い、
「桜子の魔法少女になる条件の望みは、ジョーとの結婚パカ。その結婚はずっと続くものか、ジョーから愛されるか、そもそもジョーはずっとジョーのままなのか。芸能人はずっと芸能人でいるわけじゃないですよねパカ?」
そう、私はジョーくんと結婚するために魔法少女になった。
けど、私が魔法少女になったのはつい最近ではなく何年か前だ。その時点で願いが叶わなかったので自分は何も得ない外れくじを引いた負け組魔法少女だと思っていたのだ。
しかし、今朝突然ジョーくんは私の前に現れて結婚してくれた。私を苛むものを消してくれさえした。
おかしい、都合がよすぎる。
その旨をハムスターに伝えると
「それはジョーの考え方パカ」言った。
ハムスターの推理はこうだ。
私がジョーくんと結婚を願った時点で、彼には恋人もそれ以外の関係を持つ女性がいたのだろう、日本では結婚は一人としかできないのでジョーくんはその時点で恋人に別れを告げた。突然の別れの発言に恋人は納得できるはずがない、別れるまで時間がかかったと思われる。
そして、それ以外の女性たちだ。
いつか唯一になりたいと願う女性はまあその気がないと拒否し続ければ去るだろう。問題は不定期の関係性で満足している女性達。彼女たちには付き合ってる認識はないが別れた認識もない。もう会わないといっても気が変わるだろうと時間を置いてまた誘いをかける、ジョーくん本人もストレスとかいろいろ発散するために今回だけならとまた会う。それが続く・・・・・・・・・。
「とまあそんな感じで全員と別れるのに時間がかかったのでしょうねパカ。」
とハムスターは推理を締めくくった。
確かに、ここ数年メンバーの中で、ジョーくんだけが追っかけや出待ちのオタクさえそんなシーンを掴めていないとネットのうわさで見たことがあった。ジョーくんには、誠実にお付き合いしている人がいるのだろうと悲しいが祝福しなければいけない空気がオタクの中で主流となっていたところだ。
まさか私の願いを叶えるために女性関係の整理をしたのが原因とは思わなかった。
「誠実な人を旦那様にできてよかったですねパカ」
ハムスターからは心にもない祝福の言葉を貰った。
今はまだ私は嬉しいと思ってもいい立場なんだからほっといてほしい。と生意気にも思ってみる。
ジョーくんが愛する人に誠実であると分かったところで本題に移る。
今この都心の魔法少女の状況についてだ。




