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天織り満天 - 交錯する世界を繋ぐ花 -  作者: 天堂 かける
第6.2章 一撃勝負

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第99話 ニンジャスレイヤー

この宿「六文銭」の立派な造りの入口前。

朝の爽やかな陽光を浴びながら、楽しく写真撮影をしていた一同。


しかし、スマホの画面に映し出されたその画像には……。


背筋を凍らせるような無数の手と、おぞましい怨念の籠もった顔がいくつも写り込んでいた。


それを見てしまった桃花とフィオンは、一瞬にして顔面蒼白。

朝の心地よい冷気とは全く違う、別種の戦慄に震え上がる。



「のの信繁おじちゃん!! こここれって!! し、心霊的で幽霊的なやつじゃない!? ややや、ヤバいよヤバいよぉ!! 呪われちゃうよぉ!! いや? もう呪われちゃってるぅぅ!?」



桃花は完全にパニックに陥り、あたふたと涙目になりながら取り乱している。



「悪霊退散!! 悪霊退散!! 臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!! 」



その横にいるフィオンに至っては、この衝撃の大きさに正気を失っていた。

激しく混乱しながら、必死に指で何かを空で切るような動きをしている。


だが、そんなパニック状態の二人に対し、信繁と佐助、そして六郎の反応は薄い。

三人ともに「またか……」とでも言いたげに、呆れ半分、慣れ半分の表情を浮かべていた。


信繁は苦笑しながら、怯えきっている桃花とフィオンの頭へ、自身の手をポンと優しく乗せた。

その大きくて温かい手の感触に、二人の強張っていた肩の力が少しだけ抜けていく。



「ビビらせちまって悪かったな二人とも。これはな、うちの従業員の一人、『才蔵』ってやつの仕業だよ。幽霊でもバケモノでもない、しっかりと今を生きている人間の手だ。だから安心していいぜ」


「「……へ?」」



その予想外すぎる種明かしを聞いた桃花とフィオンは、同時に顔を上げ、間抜けな声を漏らした。


これは幽霊やバケモノの類ではなく、生きている人間。

恐怖より先に、理解が追いつかない。


信繁の顔とスマホの画面を交互に見比べながら、桃花とフィオンは戸惑い気味に口を開く。



「これが……人間!? 嘘でしょ!? あ、でも、信繁おじちゃんが言うなら、そうなの、かな……? いや! もしそうだとしても限度があるってっ!」


「そうですよ! これが生きた人間の仕業だとしても! これは流石に驚きますし、やりすぎですよっ! 今が夜じゃなくて心の底からよかったと思ってます! 今日の夜、絶対寝れない……。またお酒を飲むしか……」



フィオンが激しく首を振りながら激しく泣いている。


だが、改めて写真を見直してみても、明らかにおかしい……。

どう考えても、人間一人の仕業には見えない。


普通、人間の手は左右を合わせて二つのみ。

だがその画像には、軽く見積もっても「六十以上の手」が写り込んでいる。

しかも、そのポーズは多岐にわたっていた。


ハートサイン。

ピースサイン。

親指を立てたグッドサイン。


他にも鶴や狼、蟹などを手で影絵みたいに作ったものなど。

まるで千手観音のように、様々なポーズをノリノリで決め込んでいた。


更には手だけではなく、異様な顔まで写っているというてんこ盛り。


天狗。

般若。

能面。

ひょっとこ。


などといった、お祭りの露店で見かけるお面。


ハイレベルなものになると、あのカリスマヘヴィメタルの「閣下」や、デスメタルの「メタルモンスター」を彷彿とさせるような悪魔化粧。


そして、一昔前に流行った「ガングロギャルメイク」や、厚化粧が水で崩れた顔まで。

お化けの代表なら、心霊現象で言う、あの有名な「貞子」の仮装などもあった。


様々な枠組みを超えて、色んなバラエティに富みすぎていた。

もはやこれは、度が過ぎた悪ふざけの展示会場である。


しかし――


この正体が「生きた人間の仕業」だと聞いてから改めて眺めると、不思議と悪い気がしない。

呪いや恨みといった陰惨なものは微塵も感じられず、なんなら全力で遊び、からかっているようにすら見える。


するとここで、佐助が静かに口を開き、その「才蔵」という人物について説明を始めた。



「この男の名は、『霧隠才蔵きりがくれ さいぞう』。先程ノブが言った通り、弊社の従業員で『真田十勇士』の一人でもある『隠密』です。まぁ、わかりやすく言うと拙者と同じ『忍者』ですね」


「「忍者!?」」



その単語を聞いた桃花とフィオンの目は限界まで見開かれた。



「はい。現在、才蔵の仕事としては、主に裏方で動いてもらっています。営業や事務、法務、折衝、備品の発注、事前調査といった業務内容ですね。ですが……この写真にある通り、悪ふざけが趣味な側面もあって、少々困ってもいるのです……」


「悪ふざけが趣味なの!? というか、あの一瞬でこれだけのことを、たった一人でやってたんですか!? いくら忍者とは言え、こんなの人間技じゃありませんよ! これがあの忍法ってやつなんですか!?」



淡々と語る佐助に対し、桃花は思わず勢いよくツッコミを入れてしまった。


得体の知れない恐怖から解放された反動もあってか、感情の振れ幅が忙しい。


この話に流石のケルベロスも、隠密行動が本分である、才蔵の忍びらしからぬ自己顕示欲の強さに、少々呆れ気味に肩をすくめた。



「その才蔵ってヤツ、忍びだから姿を現さないのは、百歩譲ってまだ理解できるわ。それはわかるんだけど……。その割には、やたらと変なところで自己主張が強いわね。お茶目というか、何と言うか……」



すると、横にいた六郎が、顔を引き攣らせながらも愛想笑いを浮かべて口を開く。



「ぼ、僕も以前、仕事中に今回のような事が何度もありました……。僕の場合は写真ではなく、実際に目の前で物が消えたり出てきたり、そして動いたりと……。次々と超常現象が発生してました。それを初めて見た時は、腰を抜かしましたよ……」



そう語る六郎の表情は引き攣っている。


最初に遭遇した際、彼がどれほど恐怖の底に叩き落とされたかが容易に想像できた。

まだ完全に笑い話には昇華できていないその様子から察するに、今も日常茶飯事なのだろう。


おそらく、他にも被害者が多数いると思われる。

これには、流石の信繁も少々苦笑い気味だ。



「佐助が言ったように、才蔵は裏方での活動を任せてるんだが、ほとんど姿を現さないんだわ。アイツ極度の恥ずかしがり屋だからよ。そのくせして、こういった度が過ぎた遊びをしょっちゅうやらかすんだ。しかも俺らだけじゃなく、客に対してもそんなことやるもんだから、“ここの宿はバケモノ屋敷だ!” なんて呼ばれたこともあるほどでさ。仕事はしっかりやってくれるんだがなぁ……」



それを聞いたケルベロスは、呆れを通り越し、哀れみを含んだ表情になっている。 



「その才蔵ってヤツ、極度の恥ずかしがり屋のくせして、こういうところでは目立ちたがり屋なのね。実はコイツ、もしかして裏では寂しがり屋だったりするのかしら……? 色んな『屋』を持ってるわね」



癖の強すぎる忍びの才蔵に、ほとほと信繁も困り果てている様子。

それは佐助も同様であった。



「その悪ふざけの度に、拙者が呼び出して厳重注意をしようとするのですが、全く応じてくれません。普通に見つけ出すだけでも一苦労です。時には仲間や従業員、村人たちをも駆り出し、全戦力を総動員して才蔵を捕らえます。捕らえた後は、みんなに迷惑をかけた分、しっかりとお灸を据えて懲らしめるのですが……」



信繁と佐助は「やれやれ」と困り顔を見せるが、その口調にあまり深刻さはなく、仲間に対する確かな信頼と愛情のようなものが感じられた。


この話に対し六郎も、その当時を思い出すように話す。



「もはやこれは、『大規模なかくれんぼ』のようなものです。しかも、才蔵さんを見つけるのは、なぜか決まって僕のような子供たちが圧倒的に多いんです。僕も何度か見つけてますし……」


「そ、そう。大変だったわね……。アタシも、その才蔵ってヤツの気配を全く感じられなかったからね。温泉で会った時の佐助レディと一緒よね。流石は忍びと言った感じではあるわ」



地獄の番犬であるケルベロスの感覚すら掻い潜るその隠密性。


達人級の忍び相手ともなれば、その気配を察知することすら至難の業なのだと、改めてその実力に脱帽した。


だが、それにもかかわらず、これだけの騒ぎを引き起こした「張本人」であると同時に、その話題の中心にいる「霧隠才蔵」は、最後までその姿を表すことはなかった……。


ただ——


姿が見えていなくても、間違いなく「近くにいる」ということだけは、この場の全員が肌で感じ取っていた……。

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