第100話 一騎打ち
「ま、とりあえず、写真撮影は済んだな。後はこの画像と一緒に、ナイチンゲールへフィオンちゃんが会いたがってるってことを伝えてやるからな!」
「はい! ありがとうございます! よろしくお願いしますね! 信繁さん!」
「あ、でも俺から伝えるってだけで、来てくれるかどうかはまた別だからな。それは覚えておいてくれよ! ま、アイツは鬼優しいから、時間はかかっても来てくれそうではあるけどね」
信繁の頼もしい言葉に、フィオンは深々と頭を下げる。
そして顔を上げた時には、再び天使のような満面の笑みが戻っていた。
だがここで、桃花が「えっ?」と、つい声が漏れ出す。
「え? 信繁おじちゃん……。そのカオスな写真、そのままナイチンゲールさんに送るつもりなの!?」
てっきり彼女は、「心霊現象的」な写真を撮り直すものだと思っていた。
一応、この写真騒動が一旦落ち着いたところを見計らったケルベロスは、ここが話の切り時だと感じ、桃花に出発の声をかける。
「……朝からかなりのドタバタ気味ではあったけど……。それじゃ桃花ちゃん、そろそろ出発しない? 準備はいいかしら?」
「あ、うん。そうだね、大丈夫だよ」
いよいよ出発の時。
二人はみんなへと向き直り、晴れやかな顔で挨拶をする。
「短い間でしたけど、お世話になりました! すごく素敵な宿でした!」
「ええ♡ ご飯も美味しかったわ〜♪ ご馳走様〜♡」
「おう! 喜んでもらえて俺も嬉しいぞ! また来いや! 次は今回以上に、もてなしてやるからな!」
「もう〜、信繁おじちゃん。今回以上にもてなしちゃったら破産しちゃうよ〜?」
「ウフ♡ アタシはすっごく楽しみにしてるわ〜ん♪ またおもてなししてね〜ん♡」
豪快に笑う信繁と、それに笑顔で応える桃花とケルベロス。
それに合わせて、フィオンと六郎も別れの言葉を紡ぐ。
「桃花さん! ケルベロスさん! 本当にお世話になりました! 私も薬屋と信繁さんの宿で頑張りますね! 道中お気をつけて! またお会いしましょうね!」
「僕も、この宿で精進して参ります。これからのお二人の飛躍を心より願っております。お身体にはお気をつけて」
「はい! また一緒にご飯食べながら、たくさんお話ししましょう! 六郎君にもお世話になりました! また会おうね!」
「フィオンちゃんとお酒飲むの楽しかったわ〜ん♪ また女子会しましょ♡ 六郎ボーイもいい男になるのよ〜♡ フィオンちゃんと一緒に末長く頑張ってね〜♡」
朝の爽やかな空気の中、温かく名残惜しい時間が流れる。
心地よい別れの余韻に包まれていた、まさにその時だった。
「二人とも、これから楽しくやれよ!」
信繁がそう言い放つと同時に、彼は自身の着ていた羽織をバサッと脱ぎ、隣の佐助へと預けた。
突然の行動に、その場の空気が一瞬にして張り詰める。
「……ということでだ、桃花ちゃん。構えな」
「……はい?」
あまりにも急な一言に、桃花はきょとんとしてしまった。
だが、信繁の目は真剣だ。
冗談の気配は一切感じられない。
彼は歴戦の武将が持つ、圧倒的な覇気を纏い、桃花の目の前に立ちはだかった。
「俺がいなくなった後の六年間、桃花ちゃんがどれだけ強くなったのかを試させてくれ! それに今は、妖怪の『鬼退治』やってんだろ? 今まで培ってきたその力を、余すことなく俺に見せてみな! 見送りムードをぶっ壊して悪いが……。出発するのはその後だ!」
「ええっ!?」
「俺と一本勝負。付き合ってくれや! さぁ、かかってきな!」
「……え、え? わ、私、今から信繁おじちゃんと……戦うの!?」
桃花は完全に動揺していた。
つい先程まで別れの挨拶をしていたはずなのに、なぜこんな流れになるのか理解が追いつかない。
心温まる空気から一転、信繁の口から飛び出した「一本勝負」という信じられない提案。
この予想外すぎる事態に、ケルベロスやフィオンも驚きを隠せていない。
六郎に至っては「え?」と間抜けな声を漏らして固まっていた。
更に、ここで佐助までもが一歩前へ出る。
「……桃花さん。拙者も、あなたの実力を拝見したく存じます。あの『伝説で最強の二人』から譲り受けた技を、存分にノブへぶつけてください」
こちらも真剣な眼差しを桃花へと向けている。
桃花の実力を見せてくれと言わんばかりに、佐助も信繁との勝負を後押ししてきた。
先程までの和やかで穏やかな空気は一体どこへやら。
急転直下の展開に、桃花はただ狼狽えることしかできなかった——




