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天織り満天 - 交錯する世界を繋ぐ花 -  作者: 天堂 かける
第6.2章 一撃勝負

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第98話 呪怨

フィオンは、まるでマネキンのように固まっていた。


なぜならば、この十文字村に、あの憧れの存在である「ナイチンゲール」が来ていた話を、ふいに信繁から聞いてしまったためである。



「……………私が、この村にくる前。ナイチンゲールさん、来てたんですか……?」



信繁が発した言葉を、フィオンは恐る恐るもう一度確認する。



「ああ、仕事でこの国のお偉いさんに会ってきたって言ってたぜ! あの『サナエ』や『家康』。あとは、『近藤や土方』とか……。他にも色んなやつらに会ってきたとか言ってたぞ」


「………………」



確認して聞いたはいいが、全く言葉にならないフィオン。

というか、そもそも話を聞いているのかすら怪しいまである……。


だが、信繁はそのまま話を続ける。



「ナイチンゲールは、世界中をビュンビュン飛び回って活躍してるからな! 次は『アーサー王』に会う予定だとも聞いたぞ。あの最強騎士団『円卓の騎士』の連中が最近全く言うことを聞かず、クソ生意気で困ってるらしいから、その相談に乗るって言ってたな」



この発言を聞いた瞬間、あの冷静な佐助が、一瞬焦りの表情を見せる。



「なっ! おいノブ! 他国の内政情報をこんなところで軽々しく話すな!……全く、ナイチンゲール様も、なぜそんな大事なことをサラッとノブに話してしまうんだ……。気を許し過ぎなんだよ全く。桃花さんとケルベロスさんも、今の話は一切聞かなかったことに。フィオンさんも……って、聞こえてなさそうですね」



その場にいた桃花とケルベロスに対し、佐助は強く口止めをした。



「わ、わかったわ。アンタも、色々と大変なのねぇ……」



佐助の焦りように、ケルベロスは同情してしまう。



「………………」



だがフィオンだけは、やはり話を聞いていない。

というか、もはや聞こえてすらいない。

言葉が消えた。

感情が追いつかない。

フィオンは呆然としたまま、祈りの姿勢で固まっていた。


まさか——


こんなにも近くに。

こんなにも最近に。

自分の憧れの存在が、この十文字村へ来ていたなんて。


二ヶ月程のズレはあったにしても、このタイミングが合わなかったという間の悪さ。

フィオンはポカンと天を仰ぎ、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。


運がなかったとしか言いようのないその姿は、哀愁さえ漂わせている。

あまりにも切ないすれ違いだった。


蝋人形のように、カチカチに固まっているフィオンを見て、事情を知らない信繁と佐助の二人は、頭の上に「?」を浮かべ、首を傾げている。


桃花とケルベロスは苦笑いをしながら、哀れみを含んだ目で、ただフィオンを見つめることしかできなかった。

慰めの言葉も見つからない。


ここで、事の経緯を信繁と佐助へと説明するため、ケルベロスが静かに口を開く。



「……フィオンちゃんね。そのナイチンゲールに会うために、わざわざ自分の故郷から出てきて、ずっと旅をしてたのよ。だから今の話を聞いて、入れ違いになっていたことが、すっごくショックなんだと思うわ」



それを聞いた信繁と佐助は、「そういうことか」と納得した言葉を漏らす。



「なるほどな、事情はわかったぜ。……なら、フィオンちゃんよ。俺、アイツの連絡先知ってるから、その旨を伝えてやろうか?」


「…………え? あ、はい……。お願いします………って信繁さん!? ナイチンゲールさんの連絡先、知ってるんですか!?」



絶望の淵から引き戻されたフィオンは、弾かれたように信繁を見た。



「ああ、知ってるぜ。昔からよく世話になってるし、何度も命を助けてもらったことがあるからな。SNSでの交流もあるから、もし会いたいなら連絡してやるよ」


「いいんですかっ!? 是非お願いします! ああっ! なんてこと……! 昨日と今日とで、こんなにも素敵な日になるなんて! 慈悲愛しき聖母神様は、私を見離さなかったぁっ!」



「SNS」の恩恵により、フィオンの顔には再び満開の喜びが咲き誇った。

絶望の底に沈みかけていた心が、一瞬で浮かび上がり、光を取り戻す。



「ウフ♡ よかったわね、フィオンちゃん♪ アタシよりもダンディの方が、確実にナイチンゲールと連絡が取れるわよん♡」


「お? なんだ、ケルちゃんもナイチンゲールと知り合いなのか? これまた奇遇だな! そんならよ! この後、みんなで写真撮影しようぜ! その画像と一緒に伝えてやるぜ! 良い考えじゃね? アイツもきっと喜ぶぜ!」


「あら♡ それはイイ考えね♪ アタシ写真に撮られるの超ダイスキだから♡ テンションアゲアゲでいくわよ〜ん♪」



「そういえばケルちゃん、『望郷街』の夜の屋台でも、女性店員と一緒にノリノリで写真撮ってたね。その時は私がスマホで撮ってたっけ……」



少し前のことを、ふと思い出した桃花。

その表情は、どことなく嬉しそうであった。


信繁の提案に、その場の空気は一気に和やかなものへと変わっていく。

そして、昨日紹介した「望月六郎」も無理やり厨房から外へ連れ出してきた信繁。


朝の爽やかな陽光の下、信繁のスマホを使って和気あいあいとしながら、みんなで写真撮影を行う。



「よっしゃ! 撮るぜ! ポーズ決めな!」



笑顔。

賑やかな声。

新しい関係の始まりを祝うような、とても明るい時間。


みんな楽しげな声と共に、可愛いポーズや、ド派手な「JoJo立ち」のようなポーズを決めまくったりなど、何枚もの様々な写真を撮影していった。


そして、その思い思いに撮った写真の出来栄えを、みんなで揃ってスマホの画面を確認していたのだが——


何と、そこには……。



「……ぇ……?」

「ひぃぃぃぃぃっ!!」



写っていたものは、あまりにも異様で衝撃的なものであった。


写ってはいけないもの。

在ってはならないもの。


それは、「ありえない」位置から不自然に伸びる腕。

本来存在「しない」はずの、数えきれない程の無数の手。

そして、至る所に「この世のものとは思えない」程に悍ましく、恐ろしい顔面たち。

言葉にできないくらい、怒りと悲しみが入り混じった表情。


まるで、この世に未練があるかのように……。

生きている人間が羨ましくて羨ましくて、仕方がないかのように……。


この小さな画像の中に、とても強く凄まじい怨念を感じる。


それらが、撮影した写真「全て」に映り込んでいた。

ぼんやりなどではなく、はっきりと……。


この瞬間、誰もが言葉を失う。


朝の爽やかで楽しい空気が音もなく崩れ落ちる。


それを直視しまった桃花とフィオンは、背筋が凍るくらい、とんでもなく激しい戦慄に襲われていた。


そして同時に——


この「心霊的現象」に、またしても絶句する……。

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