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天織り満天 - 交錯する世界を繋ぐ花 -  作者: 天堂 かける
第6.2章 一撃勝負

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第97話 戦場の聖女

「それでは、信繁さん! 佐助さん! 早速ではありますが、明日からお世話になります!」



ロビーに心地よく響き渡ったのは、フィオンの元気いっぱいの声。

言葉の通り、彼女は明日からこの宿「六文銭」にて従業員として働く運びとなったのだ。


新たな門出に胸を張るフィオンの姿を見て、信繁は我が事のように口元を緩め、嬉しそうに笑う。



「おう! いい返事だフィオンちゃん! 楽しみにしてるぜ!」



彼の意気の良い声が響くだけで、その場の空気がパッと明るく華やぐ。

信繁が纏う、不思議で心地よい覇気。

彼と一緒にいれば、きっと誰もが自然と勇気や元気をもらえるのだろう。


そんな魅力に溢れた彼らと共に働けるフィオンを、傍で見守っていた桃花は、ほんの少し羨ましく思っていた。



「……フィオンさん! 良かったですね! 宿と薬屋の方も二足のわらじで、これから忙しいでしょうけど、応援してます!」


「はい! ありがとうございます! 桃花さんにも、ご迷惑をおかけしてしまったのに、こんなに応援までしてもらえて……。また十文字村へ立ち寄った時は、すっごくたっくさん! おもてなしをしますからね! やられたらやり返す……恩の倍返しです!」



フィオンは感極まったように桃花の両手をぎゅっと取り、真正面から太陽のような満面の笑顔を向けて感謝を伝えた。


そのあまりにも無垢で眩しい笑顔を至近距離で浴びた桃花は……。



「い、いや、そんな……私は何もしてませんよ……。フィオンさんが頑張った結果ですって!」



まっすぐで曇りのない感謝。

その破壊力は、あまりにも強烈だった。


表向きでは控えめに返しながらも、桃花の内心は凄まじい大嵐に見舞われていた。



(ぎぃゃっほぉっ!……か、可愛いぃぃ!! なんっっつぅ、破壊力のある可愛すぎる笑顔!! こ、これは……下手すると女性でも好きになっちゃうよ!! た、耐えるんだよ私!! 新しい扉は開いてはいかんっ!! エルフ恐るべーっし!!)



桃花は、湧き上がる自身の煩悩と必死に葛藤していた。


ついさっきまで、信繁に対する想いで切なさを感じたとは思えない。

なんとも感情豊かで、どこまでも頭の中が忙しい女である。


そんな二人のやり取りを微笑ましく見ていた信繁は、ふと思い立ったようにフィオンへ話を切り出した。



「フィオンちゃんが来てくれると、あの六郎も大喜びするだろうぜ! アイツやる気スイッチ押しまくりだろ! っくぅぅ〜、仕っ方ねえな……! 俺がアイツを、イイ男に仕立て上げてやるとするかな! うんうん! まず手始めに、筋トレと野球、それと花札に……」



腕を組みながらフフンと、どこか企みを含んだ悪戯っぽい笑みを浮かべる信繁。


それを見た佐助は「はぁ……」と、わざとらしく溜め息を漏らす。

だが、その表情には呆れよりも、どこか楽しげな色が混じっていた。



「……ま、それはそうと、フィオンさんのような可憐な方が入ってくれると、従業員の士気は爆上がりでしょう。それに、お客様のウケも間違いなくいいでしょうし、リピーターにもなってくれる確率も上がります」


「お、そうそう! マジで佐助の言う通り! この宿はSNSもやってるからな! ガンガンと客が来るだろうぜ! それに……」



ここで信繁の言葉が一瞬途切れる。

そして、そのまま得意げな表情のまま、フィオンが全く予想もしていなかった言葉が飛び出した。



「フィオンちゃんは、滅多にお目にかかれない、ハイパー希少種の『エルフ』だしな!」



その瞬間、フィオンの動きがピタリと止まった。



「……ええっ!? ちょっ、なんで!? なぜ私がエルフだと!? 皆さんには話していなかったはずですよね!? どうしてわかったんですか!?」



信繁から「エルフ」という単語を聞いてしまった彼女は、あっさりと秘密を見透かされたことで激しく動揺していた。



「なんでわかったかって? んーっとな……。少し昔の話になるが、俺たちが若い頃、武将っつーのをやってた時なんだが……」



ここで信繁は、フィオンがエルフであることを見抜いた理由を話し出す。



「俺たちは、敵将の猛者ども相手に、戦でよく傷だらけになりながらずっと戦ってたんだよ。そんで当然、死にかけたことが何度もあるわけだ。もちろん俺だけじゃなくて、他の仲間もそうだったがね」



その場にいる全員、黙って信繁の言葉に耳を傾けている。



「……んで、そんときにな。俺はもちろん、傷ついた仲間たちを治療するために、当時の俺たちの総大将が、あの超有名な『ナイチンゲール』と知り合いでよ。めっちゃ必死に頼み込んで呼んでくれたんだわ。だから、エルフの存在や特徴も知ってたってわけだな。ま、エルフを知ってた経緯を簡単に言うと、こんな感じだ」


「!!?」



それを聞いたフィオンは、正体を当てられたこととはまた別の意味で、雷に打たれたように驚愕した。


その驚きは、ここで質を変える。

動揺から、純粋な衝撃へ。


自分が心の底から尊敬してやまない存在であり、旅の目標であり、何より会いたいと切望している「ナイチンゲール」。


その人物の名前がたった今、目の前で実際に会った信繁の口から語られたのだから、衝撃を受けるのも無理はない。


このあまりの偶然に、フィオンは驚きを隠せずにいる。

目を見開いて口をパクパクとさせ、衝撃が強すぎて声が喉に張り付いてしまい、言葉が追いついてこない。



「な、なな……。ナイチンゲールさんと信繁さんって、お知り合いだったんですか!?」


「ん? ああ……知り合いっちゃ知り合いだな。フィオンちゃんがこの村にくる前……。今から三ヶ月くらい前、わざわざ俺たちに会いに来てくれてな。この国の最後の滞在日に、この六文銭の宿へ泊まってくれたんだぜ!」


「し、信じられない! まさかナイチンゲールさんとお知り合いの方が、昨日今日で二人も出会えるなんて!」


「当時の仲間全員がな、ナイチンゲールのことを『白衣の戦女神』なんて呼んでてよ。一切休憩もせずに、あんな過酷な戦場の中をずっと駆けながら、必死に仲間を治療して救ってくれたんだよ。俺もアイツには一生頭が上がらねえぜ」


「なんて素晴らしいお方なんでしょう!! 凄い!! ああっ、聖母神様!! 私にこの奇跡をお与えくださり、ありがとうございます!!」



フィオンは極度の興奮のあまり、反射的に信仰する神へと両手を合わせ、天に向かって祈りを捧げていた……のだが……。



「……………………………………………………………………信繁さん。今なんて?」



祈りの最中、先ほど信繁が発した「ある言葉」が、フィオンの頭の中で激しくリフレインする。


つい最近、この十文字村へ、あの「ナイチンゲール」が来ていたという、その衝撃的な話に……。


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