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天織り満天 - 交錯する世界を繋ぐ花 -  作者: 天堂 かける
第6章 改再会

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第89話 ミステリアスな……

「あ……さっきの綺麗な女性だよ」

「あら? 本当ね。それに、信繁ダンディも一緒にいるじゃな〜い♡」



そこには、先ほど浴場で見かけた女性と、宿の店主である信繁が親しそうに会話を交わしていた。

女性は湯上がりの浴衣を端麗に着こなし、長く艶やかな黒髪を後ろで一つに結んでいる。


スラリとした背筋。


ただ座っているだけなのに、一本の抜き身の刀のような凛とした静謐さを纏っていた。

その佇まいには、どこか隙を感じさせない雰囲気も漂わせている。


すると、桃花たちの視線に気づいた信繁が「おーい!」と豪快に手を振って声をかけてきた。



「よう、お二人さん! 温泉はどうだったよ? めっちゃ良かったろ!」

「うん! すっごく良かった! もう何回でも入りたいくらいだよ!」

「そうね〜♪ アタシなんて湯船で浮きながら、つい寝ちゃったくらいよ〜ん♡」



とても嬉しそうに感想を話す二人を見て、信繁は我が事のように満足げな笑顔で応えた。



「そうだろう! 俺がそれなりに苦労して掘り当てた源泉だからな! ここにいる間は何回でも、好きなだけ堪能してくれ!」

「ありがとね! 信繁おじちゃん!」

「ウフ♡ ありがたいわ〜! そういえば、さっき入れ違いでモンキーちゃんが温泉に入っていくのを見たわよ。随分と小慣れた感じだったわね」


「お、そうだったか! 猿にもけっこう人気があってな! 時折、遠方から団体で押し寄せてきて、てんてこ舞いになることもあるくらいなんだぜ」



信繁が自慢げに語る。

おそらく、この宿の名物なのだろう。


壁に目をやれば「猿と混浴可」という、突っ込みどころ満載の張り紙が堂々と貼られている。

そこには、信繁が猿と仲睦まじく入浴する写真や、筋骨隆々での肉体美を惜しみなく晒け出す写真。

そして、素っ裸になった信繁の「大事な部分(股間)」を、足元にいる猿が見事に風呂桶で隠している写真など……。


なんともシュール極まりない、ギリギリで際どいにも程があり過ぎるサービスショットまでもが展示されていた。


更に驚くべきことに、その信繁が巨大なゴリラに背中を流してもらっている写真まで……。

流石は元武将だけはあると、そう思わされてしまう豪快すぎる写真だった。


それらを見つけてしまった桃花は、その衝撃的な「漢」の記録(体)に、顔を真っ赤にしながらも、食い入るようにガン見していた。



「ま、次に温泉で猿どもに会ったら仲良くしてやってくれよ! オス猿とメス猿でしっかり分けてるから、そこは安心していいぜ」

「うえっ!? う、うん!? 安心できるような、できないような……?」



桃花は少し引きつった表情を浮かべながらも、ここ最近の非日常な出来事の連続に、もう細かいことは気にしないことにした。



「ふふっ、お嬢さんとワンちゃん。先程はどうも。ゆっくりできましたか?」



鈴の音のように透き通った声で、柔らかく話しかけてきたのは、温泉の洗い場でほんの少しだけ一緒になった女性だった。

浴衣姿になっても、その内側から滲み出る気高さは一切損なわれていない。



「あ、はい。とてもゆっくりできました……あの、先程は失礼しました。周りも見ずに騒いでしまって……」

「アタシも、ごめんなさいね。温泉は初めてだったから、ついはしゃいじゃったわ」



桃花とケルベロスが居住まいを正すと、女性は優雅に微笑みを返した。



「いいえ、お気になさらず。楽しんでもらえて何よりです」



その余裕のある仕草と落ち着き払った美しい雰囲気に、二人は呼吸を忘れて一瞬見惚れてしまう。


だが、和やかな空気が流れる中、ケルベロスの直感だけが静かに警鐘を鳴らしていた。


あまりにも洗練された所作。

自然体に見えて、いつどこから襲われても対応できるような、完成された静寂。


そこに、ほんの僅かな違和感を覚えていたケルベロスは、まっすぐに女性の目を見据えて問いかけた。



「……ねぇ、お姉さん……。アンタ、ただの客なのかしら?」

「ケルちゃん?」



突然の鋭い問いかけに、少々戸惑った桃花は声を漏らす。


ケルベロスの思いがけない反応に、少し意外な表情を見せた信繁とその女性。


ロビーを流れていた湯上がりの暖かな空気が、再び静かな緊張感へと変化していく。

女性はわずかに目を細め、その鋭い疑問に対して、隠すことなく丁寧に返答する。



「……はい。あなたのおっしゃる通り、拙者はこの宿の客人ではありません」



その声から柔らかな余韻が消え、硬質な響きが宿る。

女性が、すっと僅かに姿勢を正した。



「この宿「六文銭」の給仕者——いえ、正確には……」



柔らかさのあった瞳の奥に鋭さが光る。

そして一拍置いた後、静かに口を開いた——

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