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天織り満天 - 交錯する世界を繋ぐ花 -  作者: 天堂 かける
第6章 改再会

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第86話 「真田 信繁」

信繁が営む宿、「六文銭」の中へと入っていく桃花とケルベロス。


その宿の内装は、外装と同じく重厚で格式高い和風な造りをしていた。


入ってすぐの視界に飛び込んできたのは、威風堂々と飾られた鎧と兜だ。

そして、刀と槍もその横へと静かに立て掛けられている。


これらはただの装飾品ではなく、実際に使用されていた実戦の痕跡が多々見受けられた。

傷や泥、血などがそのままになっており、なんとも生々しく、息を呑むような雰囲気を放っている。


床は青々とした畳張りになっており、壁には「土足厳禁」と力強い墨で書かれた張り紙が貼ってある。


奥へと続く扉は、襖と障子で区切られており、細かく部屋分けがされているようだ。

更に奥へと視線を向けると、なんと涼やかな音を立てる小さな滝まで設えてある。

その静かに落ちる水の音が、宿の中に柔らかく響く。


ここはまるで、ぎゅっと小さく圧縮した城のようであった。


一歩足を踏み入れただけで、空気がピンと張り詰めるような、心地よい緊張感が肌を刺す。



「そんで、フィオンちゃんはどうする? 少し寄っていくかい?」



信繁が振り返って声をかけると、フィオンは少し申し訳なさそうに微笑んだ。



「あ、私は少し開店の準備を進めますので、また後でお伺いしますね」



フィオンのその言葉に、ケルベロスが機敏に反応した。



「あらそう? あ、でも後で女子会は開催するから♡ 予定は空けておいてね〜♪」

「はいっ! 必ずっ!」



ケルベロスの一声に、フィオンはとても力強い返事をした。

瞳をキラキラと輝かせ、楽しみすぎて興奮を抑えきれていない。



「うぅ……な、なんか変な流れになってきたよぉ……」



気まずそうな顔で肩を落とし、小さくぽつりと呟いた桃花。

この後、自分に訪れるであろう事態を想像してしまう。


女子会。


その題材は間違いなく、桃花の「初恋の人物との再会」について、であるのは確実。


これだけでも心が激しく揺さぶられているというのに、ここから更に記者会見の如く、根掘り葉掘り聞かれてしまうのだろう。


桃花はこれからの展開を予感し、つい重い溜め息をついてしまった。

さっき、クマが尋問されていた姿がふと頭をよぎり、少しだけ彼に同情してしまう。


フィオンに笑顔で見送られ、中に入った桃花とケルベロス、そして信繁の三人が宿の奥へと進む。



「ん? この後、フィオンちゃんと三人で女子会やるのか?」



不思議そうに首を傾げる信繁に、ケルベロスは胸を張って答える。



「フィオンちゃんとは、ついさっき知り合ったばかりなんだけどね♪ でもアタシたちはもう、仲の良いお友達なのよ〜ん♡」

「だははっ! 仲が良いことは良いことだぜ! 世界は平和が一番!」



豪快に笑う信繁。

その屈託のない笑い声が宿の中に響き渡り、静謐な空気をパッと明るく変えていく。



「ところでお前さんたち、これから女子会やるってことは、今日はこの村に泊まるんだよな?」

「う、うん。今日は泊まるつもりだよ。もう夕方だしね」



桃花は少し複雑な面持ちで答えた。

怒涛の展開が続きすぎて、まだこの状況にも戸惑いが残っている。



「それならここに泊まっていけよ! 俺の宿だ! もてなしてやるぜ!」


「え? いいの?」

「あらやだマジ!? アッハ〜ン♡ それ超嬉しいわ〜ん♪ それじゃ、ダンディのお言葉に遠慮なく甘えることにするワ〜ン!」

「語尾が犬みたいになってるよケルちゃん」



桃花は、ケルベロスのテンションがおかしくなっていることに、即ツッコミを入れる。



「だってアタシ犬だもの♡ ワンくらい言うわよん♪」



だが、地獄の番犬であるケルベロスが「ワン」と鳴く強烈な違和感に、桃花の緊張が緩んでいく。



「それにしても、まさかここで桃花ちゃんと再会するとは夢にも思わなかったぜ。しかも魔族と一緒だなんてな……。そのケルベロス……いや、ケルちゃんか。そういや、俺の自己紹介がまだだったな。ま、さっきから名前で呼ばれてるから必要ないかもしれんがよ」



信繁はそう言って改めて向き直り、初めて会ったケルベロスへと自己紹介をする。



「俺の名前は信繁だ。 本名は『真田さなだ 信繁のぶしげ』。今は見ての通り、この十文字村で宿を運営してる。よろしくな!」

「さなだ? 『真田 信繁』って、ダンディ……もしかして……」


「どうした? もしかして、俺のこと知ってんのか?」

「知ってるも何も……!」



信繁の本名を聞いた瞬間、ケルベロスの目がまた別の意味で変わった。

獲物を狙う目ではない。

驚愕と納得が入り混じった色である。


その名を知っているという、はっきりとした雰囲気が漂う。



「ダンディ……アンタって『武将』でしょ? いや『元』武将か。『トヨトミ』に仕えてたとかっていう」

「おお? よく知ってるなケルちゃん。まさか魔族側にも知られていたとはね。光栄だぜ」


「え? 信繁おじちゃんって、武将だったの?」


「ああ、昔の話だけどな。今は訳あって、もうやってないがね」

「そ、そうだったんだ……私、知らなかったよ」



この事実に驚きを隠せないでいる桃花。

だが同時に、心のどこかで深く納得もしている自分もいた。


当時子供だったとはいえ、昔の自分が稽古で一度も勝てなかった相手。

そして、あの威風堂々とした風格。


宿の入り口に飾られた本物の武具たちも、単なる趣味ではなく、彼の生きた証なのだと気づかされる。



「命知らずの人間がいるって、魔界でもそのエピソードは話題になったほどよ。敵陣へ暴走族のように単身特攻していった弾丸のような武将だってね……。しかも、多種多様な乗り物に乗って、突っ込んでいったとも聞いたわ」


「あの時はまだ若かったからな。体力が有り余っててよ。全然じっとしてられなかったし、血の気も多かったんだわ!」


「い、いや、信繁おじちゃん……。だからといって、いくらなんでもそれは無茶しすぎだよぉ!」



桃花が呆れて苦笑する中、ここでケルベロスは更に追加の話を重ねる。



「しかも、このダンディね。人間の敵軍勢はもちろん、鬼の大軍にまで単身特攻したって話よ」


「鬼の大軍にまで特攻していったの!? 命知らずにも程があるよぉ! よく生きてたね!?」


「敵陣のド真ん中に突っ込んでいって、槍一本で次から次へと、バッサバッサと斬り伏せていったらしいのよ。しかも色んな乗り物に乗って轢いたり、跳ね飛ばしたりと大暴れ……」


「ありゃ? 俺、鬼相手にまでそんなことやってたっけ? でも昔の話だからな。もうやらねぇって……多分な!」


「ホントかなぁ、信繁おじちゃん……今でも十分やりそうな勢いあるけども?」



驚きと呆れが同時に押し寄せてくる。


だが信繁は、当時の壮絶な出来事に対して、まるで武勇伝ですらないかのように豪快に笑い飛ばしている。

その姿は、まさに元武将としての名残を確かに感じられた。


平和な宿屋の主人に収まっているのが不思議な程の熱量が、彼の奥底にはまだ燻っているようにも思えた。



「そんじゃ、自己紹介はこれくらいにしてと。この俺の宿はな? 温泉が売りなんだよ! しかも露天もあるんだぜ! いい湯だから、後でゆっくりと楽しんできな!」



過去の栄光である自分の話をあっさりと切り上げ、信繁は自慢げに笑っている。



「温泉! しかも露天! 私、温泉なんて久しぶりだよ! すっごく楽しみ!」



それを聞いた桃花の顔が、ぱっと明るくなり、ケルベロスも尻尾をブンブンと振る。



「ア〜ン温泉〜♪ アタシも温泉に入れるかしら?」

「ん? 犬も入るのか? 別にかまわねぇよ。なんせ猿も入ってるくらいだからな!」

「……え? お猿さんも、温泉に入るの?」



桃花は一瞬、自分の耳を疑ってしまう。



「あら〜ん? モンキーちゃんも来るの? だから、アタシも入浴OKということかしら?」

「おう! 思う存分堪能してくれよ。ま、猿も入れるんだが、そこはしっかりと入浴料は取ってるぜ!」



信繁はニコッと笑顔でそう言うと、右手の親指と人差し指を繋ぎ、金銭に見立てた輪の(◯の形)の円を作った。



「そこはちゃんとお金は取るんだね。流石は商売人……というか、お猿さんってお金持ってるの?」



様々な疑問に桃花が首を傾げる。



「ウフ♡ 温泉と言ったら、ある意味モンキーちゃんよね! 会えるといいわね〜♪」

「『スケベザル』じゃなきゃいいけどね……。『犬猿の仲』って言葉もあるから、そこもちょっと心配かも……」



張り詰めていた空気が完全に抜け、のどかなやり取りがその場へと響き渡っていく。

色んなことがあったこの日の疲れを癒すため、信繁の宿「六文銭」へと一泊することになった桃花とケルベロス。


そして、この後に控える「女子会」にも備えるべく、桃花は気力体力を回復させる決意を固めるのだった。


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