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天織り満天 - 交錯する世界を繋ぐ花 -  作者: 天堂 かける
第5章 交錯した世界

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第80話 ケルベロスの呪い

「……それはそうと、アンタのスマホ出しなさい。アタシとID交換するわよ」

「は?」



きょとんとするクマに対し、ケルベロスは氷の刃のような言葉を投げつける。



「アタシ、アンタのこと信用してないから。もう悪さはしないと約束はしても、所詮は口約束だからね。だから、アンタが本当に悪さをしないか、アタシがGPSで監視してやるわ」

「なん、だと……!?」


「言っとくけど……アカウント削除しても、番号変えても、スマホを手放しても無駄よ。アンタの『匂い』は、もう覚えたから」

「匂い!?」


「そうよ。アタシ地獄の番犬よ? 鼻はとんでもなく効くの。だから、アンタがどこにいようが、その腐った魂の匂いを辿れるの。文字通り『地獄の果て』までも追っていけるわ」

「……っ!?」



この話が事実なら、この世界のどこにも逃げ場など存在しない。

クマは必死に声を振り絞って抗弁する。



「……だ、だったらっ! IDやら連絡先の交換なんて、やる意味ねぇべさよ!」

「言ったでしょ。これは『監視』よ。辿れる匂いと目で位置確認できるGPS。アンタは狭い研究所や動物園ではなく、この広い世界でアタシにずっと監視され、そしてビクつきながら、死ぬまで生きていくのよ! 罪の代償にしては破格じゃな〜い?」


「嘘だろぉぉお!?」

「嘘じゃないわよ。冗談に聞こえるワケ?」



ケルベロスの瞳が、深紅の魔力を帯びて怪しく発光する。



「それに、アンタもスマホに依存してる口よね? 生意気に最新式の最高級スマホなんて持ってるくらいなんだから。今更スマホを手放すなんてできないでしょ? ま、手放しても意味はないし、結果は同じだけどね♪」

「……」


「あ、スマホに小細工なんかしても無駄無駄よん♪ この意味も、わかるわよね〜?」



その底知れぬ威圧感に、クマは全身の毛が逆立つほどの戦慄を覚えた。



「……コイツ! なんて恐ろしい奴だべさっ!」

「もし小細工なんてしてごらんなさいな。そんな小賢しいことした瞬間、即アンタを引っ捕らえて、美味しく喰って、ア・ゲ・ル・か・ら♡」


「ひぃぃぃぃ!!」



甘く溶けるような声で告げられた捕食宣言に、クマはガタガタと震え上がった。

その様子を見ていた桃花とフィオンも、別の意味で顔を引きつらせている。



「ケルちゃん……相変わらず、一切の容赦がないね……」

「は、はい……同感です……」



ここでクマは、最後の悪足掻きと言わんばかりに必死の抵抗を試みた。



「と、というか! オラの居場所はわかっても、何をしてるかまではわかんねぇべや!」

「わかるわよ」

「なんでだよぉぉ!?」



あっさりと言い返されてしまったクマは、その疑問を叫びながら即返した。



「アタシの魔力を使って、アンタの視覚と聴覚情報を、アタシだけが見聞きできるという魔法を使ったからよ」

「ま、魔力!?」


「そうよ。魔力を使った魔法のことよ。アンタにその魔法をかけたわ」

「どどっ、どういうことだっちゃ!?」



クマの混乱を置き去りに、ケルベロスは事もなげに説明する。



「つまり、アンタが見たこと聞いたこと全てが、このアタシに一方通行で全部筒抜けってこと♡……アタシだけが見られる、特別な特等席みたいなものね♡」

「……」



あまりの用意周到さにクマは絶句した。


プライバシーという概念は、今この瞬間、彼の人生から完全に剥奪されたということになる。

これから四六時中、監視下の生活を強いられることになる。

それは死よりも残酷な宣告とも言えるだろう。



「す、すごすぎる……ケルちゃんだけは絶対、敵に回したくないよぉ」

「はい。私も、そう思います……おそろしや……」



桃花もフィオンも、クマと同じように戦慄していた。

ケルベロスの圧倒的な力、そして徹底した冷酷さを改めて思い知らされる。


クマは涙を浮かべ、震える声で訴えた。



「い、いつの間にやりやがった! というかそれ! もはや魔法じゃなくて、オラにとってはただの『呪い』だべやぁぁ!」

「そうとも言う♡」



ケルベロスは、小首を傾げて「てへっ」とお茶目に微笑んだ。

その可愛らしい仕草が、かえって彼女の持つ魔性の残酷さを際立たせている。


次の瞬間、やけになったようにクマがまた叫び出す。



「……くっそぉぉぉぉぉおおっ!! ちっっくしょぉぉぉおおぁぁあーーーーー!! 絶望したぁぁおぉぉ!!」

「でしょうね。アタシが生きてる限り、アンタに死ぬ以外の逃げ道なんてないんだから♪」



まさに「地獄の番犬」という名にふさわしい非情の瞬間だった。

クマは床に突っ伏し、ものすごい勢いで両手の拳と頭をガンガンと叩きつけている。



「な、なんか……クマさんが可哀想になってきたよ……」



桃花は、床でのたうち回るクマを見て、思わず小さく呟く。


ケルベロスの圧倒的な宣告と、桃花の素朴な同情。

その奇妙な対比が、店内に重苦しくもどこか滑稽な余韻を残している。


だが、その傍らで。

フィオンだけが、ふと眉をひそめ、不思議そうに小首をかしげた。

彼女のエルフとしての鋭い感覚が、微細な違和感を見逃さずに捉えていた。



「ん? あれ? 何……。この魔力って……?」



その呟きは、次の波乱を予感させるように、静かに店内に響いていく……。

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