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天織り満天 - 交錯する世界を繋ぐ花 -  作者: 天堂 かける
第5章 交錯した世界

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第79話 蜘蛛の糸

「……あのね。当然そういう流れになってくるでしょ。アンタも犯罪に加担してたんだから、しっかりと警察は調べてくるわよ」


「ぐっ……」



クマの喉の奥から、絞り出すような呻き声が漏れた。



「悪党なんてものはね。自分が捕まれば芋づる式で仲間を売るものよ。自分だけが捕まるなんて嫌だものね〜♪」



楽しげに語尾を跳ねさせるケルベロスとは対照的に、クマの顔色は土色を通り越して真っ青に染まっていく。



「く、熊坂長範は、そんなこと……!」


「そんなことしないって? どうかしら〜? 警察って飴と鞭を上手に使ったりするからね〜♪ 吐けば罪を軽くしてやるとかで〜? アンタのことあっさりゲロってるかもよ? なんなら今頃、美味しいカツ丼でも出されて、涙流しながら喋ってたりして〜♡」


「!?」

クマの瞳が激しく揺れる。



長年築き上げたはずの信頼への疑念と、迫り来る公権力の影。

今になってようやく、自分の足場が砂の城のように崩れていく感覚に襲われていた。


そこへ桃花が、ふと頭をよぎった純粋な疑問を口にする。



「でもさ、ケルちゃん。クマさんのこと警察が逮捕なんてできるの? 相手は動物だよ?」



あまりにも真っ当な問いに、ケルベロスはしばし思考を巡らせた。



「そこは難しいところよね。コイツに知性があって言葉を話すとはいえ、法的にはただの動物なわけだし」


「うん。動物を裁く法律なんてないもんね……。じゃあもし、警察が本気でクマさんを探して、捕まえたらどうなるの?」



一瞬の静寂。

黒柴姿のケルベロスは口元を三日月のように歪め、甘く、そして残酷な響きを込めて言い放った。



「駆除♡」


「イィィェェェェーーーーガァァァァァァァアーーーーー!!!」



その単語が鼓膜を叩いた瞬間、店内に鼓動を狂わせるほどの大絶叫が炸裂した。

耳をつんざくようなとてつもない音圧。


薬棚の瓶がカタカタと震え、物理的な衝撃波となって周囲を襲う。



「う、うるさいです……」



騒音とも言える絶叫に、流石のフィオンも思わず顔をしかめ、両手で耳を塞いだ。

まるで懲りていないクマの様子に、ケルベロスは深い溜め息をつく。



「……まったく、このバカクマ! あれだけアタシが、“うるさい!” って言ってるのに全然理解できてないようね! デカい図体の割に胆っ玉がダニより小さいわ!」



呆れ果てるケルベロスを横目に、桃花は苦笑しつつも、現実的な問題に向き直る。



「そ、それはそうとケルちゃん。クマさんのこと、どうしようか?」



一段落ついたタイミングで、クマの処遇について話題を移す。



「そうね。ここまでの案内は済んだし、うるさいしデカいし目障りだし、邪魔。もう用無しね」



その言葉を聞いた瞬間、絶望の淵にいたクマの顔に、奇跡でも見たかのような光が差し込んだ。



「や、やっと!! オラを解放してくれるだか!? やったぜぇっ!! ベイベェェーー!!」



両手を天高く突き上げ、勢いよくガッツポーズを決め込んだ。

(その際、天井に手がぶつかる)


地獄から天国へ這い上がったような安堵感がクマを包んでいく。


だが——


ここでフィオンが、またとんでもない爆弾発言をクマへと叩き込む。



「え? 熊肉、逃しちゃうんですか? それはもったいないですって。今すぐ熊鍋にして食べましょう! 私が美味しく調理してあげますからね!」


「やったぜっ!! ヒャッホォォーーィイィ何だってぇぇぇぇ!!?」



あまりにも唐突に出てきた物騒すぎる言葉に、クマは自分の耳を疑ってしまう。



「あ、確かにそうですよね。熊肉もったいないですよね。お腹も空いたし……じゅるり」



フィオンの言葉に、桃花までが瞳を輝かせて同調する。


魔法を唱え始めるフィオン。

刀を抜く構えの桃花。


二人を包む空気は、もはや「熊鍋」という名の究極の料理に取り憑かれたハンターそのものだった。

一歩、また一歩と、死神のような足取りでクマへと迫っていく……。



「おいおいおいっ!? 嘘だべ!? ここまで耐えてきたってのに!! なんて奴らだべっさ!! や、 やめれぇぇぇ!! こっち来んなぁぁぁぁーーーー!!」



クマの安堵は一瞬にして打ち砕かれた。


天国から地獄に叩き落とされるとは、まさにこのこと。

振り子のように揺さぶられるクマの心は、もはや限界だった。


桃花とフィオンの瞳には、食欲という名の純粋で昏い光が宿っている。

単なる「駆除」ではなく、肉の塊として「消費」される死の恐怖が、目の前にちらつく。



「あー、はいはい。ストーップ。こんなガサツなバカクマを食べても、色んな意味で後味が悪いし、頭バカになるわよー」



本気で獲物を定める二人の間にケルベロスが割って入り、ギリギリのところで宥める。



「えーダメですか? 残念です……」

「えー絶対美味しくできるのに……」



あからさまにガッカリと肩を落とす二人からは、演技ではない本気の落胆が伝わってくる。



「おめぇらよぉ! いい加減しつけえぞ! オラを食おうとすんなっ!」



先程から何度も、絶低絶命の危機に陥ってはいるのだが、その度に運良く命拾いしている。

クマは滝のような冷や汗を拭いながら、信じられないものを見る目でケルベロスを仰ぎ見た。



「だがよ……まさかおめぇが、オラを庇うようなことを言うとはな……意外だべ」



クマを庇ったケルベロスに、安堵した表情を向ける。

一瞬で救われた気がしてしまう。


——しかし。


ケルベロスは、決してそんな慈悲深い聖女などではない。


「地獄の番犬」と呼ばれている魔獣なのだから——

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