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天織り満天 - 交錯する世界を繋ぐ花 -  作者: 天堂 かける
第5章 交錯した世界

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第70話 人をたずねて三千里

「それじゃ、早速お話ししていきましょうか♪」



ケルベロスの一言が落ちた瞬間、店内に漂っていた間延びした空気が、わずかに冷度を増して引き締まった。

ここからは、隠された真実へ向かうための、目的を持った対話になる。


クマは、フィオンが用意してくれたブルーシートを器用に床へ広げると、その上にどっしりと腰を下ろし、あぐらをかいて話を聞く体勢に入る。

その巨体に似合わず、妙に手慣れた動きだった。


フィオンもまた、先ほどのパニックを引きずったように、少し緊張した面持ちで椅子に浅く腰掛け、ぴんと背筋を伸ばす。


自然と四人が輪を作るように向かい合い、対話の場が静かに整えられていった。



「あ、その前に一つだけ……フィオンさん」

「はい? なんでしょうか」

「なぜ、私たちをこのお店に案内してくださったのですか?」

「え?」



その問いに、フィオンはきょとんと目を丸くし、瞬きを繰り返した。



「私たちの事情を、ある程度は察してくれていたと思ったのですが、さっきの様子だと……どうやら少し違ったみたいだったので」

「あっ、それは……ですね。えっと……」



フィオンの視線が泳ぐ。


膝の上で指先を落ち着きなくもじもじと絡ませ、明らかに動揺している様子だ。

しばらく逡巡した後、彼女は小さく息を吸い込み、意を決したように顔を上げた。



「……み、皆さんが……とても可愛かったので」

「……え?」

「あ、いや……その! 村の外から来た可愛い女の子と、二本足で立って歩く愛らしいワンちゃんと大きな熊さん達と一緒に触れ合って……お話がしたかっただけなんです! 出来心だったんです! 本当にすみません!」



勢いよく頭を下げるフィオン。

そのあまりに純粋すぎる理由に、店内の空気は、ぽかんと間の抜けたものになった。



「え? あ……そう、だったんですか……。でも確かに、二本足で立って歩く犬と熊は、普通じゃないですよね」


拍子抜けした桃花だったが、「可愛い」と真っ直ぐに言われたことを反芻し、じわじわと頬を赤く染めていく。

照れ隠しのように視線を落とし、小さくはニヤついた。



「あ、でも……フィオンさんに可愛いって言われると、ちょっと照れるし、嬉しい……えへへ」

「ウフ♪ フィオンちゃんったら、素直でいい子じゃな〜い♡ そんなにアタシが可愛いなら、いくらでもナデナデしてもいいのよん♪」



ケルベロスも満更でもない様子で、尻尾を揺らしながら声を弾ませる。



「……オラって、可愛いのか?」



ぽつりと首を傾げて呟くクマ。

そのクマの言葉に、桃花とケルベロスは顔を見合わせ、思わず小さく吹き出した。


フィオンが招き入れた理由は、あまりに意外で拍子抜けしたが、それを聞いた二人の肩からは、確かな強張りが抜けていた。


だがクマだけは、自分がそのような「可愛い枠」に含まれていたことに、どうにも納得がいかない様子ではあったのだが。



「でも正直、さっきは助かりましたよ」



桃花は笑いを収め、改めてフィオンへと向き直る。



「あの状況は、村の人たちを怖がらせてしまって、少しマズイ雰囲気だったので。タイミングよく声をかけてもらえて、本当に良かったです」

「……そう言ってもらえると、とても救われます……」



フィオンは心底安堵したように、胸を撫で下ろした。



「楽しいおしゃべりはアタシも、大・歓・迎! だけど……。でも、その前に」



ケルベロスは一度言葉を切り、子犬の顔に鋭い知性を宿して表情を引き締めた。



「アタシたち、フィオンちゃんに色々と教えてもらいたいことがあるの。まずは、その話から聞いてもいいかしら?」

「あ、はい。私で良ければ……」



だがここで、フィオンは少し考えるように視線を落とす。



「ですが、私もこの村に来てまだ一ヶ月ほどですので……あまりお役に立てないかもしれませんが……」



その言葉が落ちた瞬間、桃花とケルベロスの脳裏で、ある情報がカチリと音を立てて噛み合った。



「ん? 今から一ヶ月ほど前って言ったら……」

「ええ、そうね。さっきクマが話していた時期とぴったり重なるわ。コイツが最後に十文字村へ立ち寄ったのも、ちょうど一ヶ月前」

「時期が重なるね。これって偶然かな?」

「それは、まだわからないわ……でも何かありそうね。まずは話を続けましょ」


「……」



クマは黙ったまま、話に耳を傾けている。

そのクマ自身も、現在の状況をまだ把握できていない。


なぜ、見知ったアジトが清らかな薬屋に変わっているのか。

店主はどこへ行ったのか。

そして、絶対的な力を持っていたはずのリーダー「熊坂長範」はどうなったのか。


今、この場にいる三人は、同じ空白のピースを求めていた。



「……あの、どうかされましたか?」



怪訝そうに尋ねるフィオンに、ケルベロスは軽く首を振る。



「ううん。何でもないわよ。ねぇ、フィオンちゃんは一ヶ月前にこの村に来たのよね? どういう経緯でここへ来たの?」

「……実は私、三ヶ月前に、ここから遠く離れた異大陸からやって来たんです」


「異大陸? フィオンさんは、海の向こう側から来たってことですか?」


「はい。海を渡り、樹海の奥深くに隠された『エルフの里』から参りました。里の場所については、掟により詳しくお話しすることはできないのですが」

「エルフの住む場所って、異大陸にあったのね。しかも樹海の奥だなんて……どおりで見つからないはずだわ」



希少種の存在が目の前にいるという事実に、桃花とケルベロスは改めて感嘆の息を漏らす。


だが、ここでクマが、ふと湧いた純粋な疑問を低く唸るように口にした。



「……話の腰を折っけどよ。おめぇみてぇなやつが、なんでそんな遠くから、こんな辺鄙なとこに来たんだべさ。ま、これはオラの単純な疑問だけんどもな」


「それは……『ある方』に会うためです」

「ある方……? それはどんな人なんですか?」



桃花は首を傾げ、その人物の名を尋ねた。

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