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天織り満天 - 交錯する世界を繋ぐ花 -  作者: 天堂 かける
第4章 反襲撃

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第61話 賊

「さぁ、どうなの? 黙ってちゃ何もわからないじゃない。それとも、事実だから反論できないってことかしら? ねぇ、どうなの!」


「!!」



ケルベロスの声が一段と鋭さを増して響く。


三つ首すべての視線が、土下座するクマへと突き刺さり、その巨躯を情けなく震わせる。


その覇気に圧倒され、クマは言葉を詰まらせながら視線を泳がせている。

クマの狼狽ぶりは、ケルベロスの推理が、限りなく「正解」に近いことを雄弁に物語っていた。



「ねぇ、クマさん。本当のこと言ってくれる? 大丈夫、何もしないから」



桃花はクマの前に静かに膝をつき、子供に言い聞かせるような慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

だが、その瞳の奥には、拒絶を許さない意志の強さが宿っている。


クマはしばらくの間、自身の影を見つめて沈黙していたが、やがて重い鎖を引きずるように口を開いた。



「………………ああ、そうだ。今の話、全て当たってるべ……全部な」

「……は? ウソ? 全部当たってるの?」



クマの言葉にケルベロスは一瞬自分の耳を疑い、つい聞き返してしまう。



「ああ、そうだべ。一つの間違いもねぇ……完璧だっちゃ」



自らの推理が「名探偵」のごとく的中したことを知り、ケルベロスの表情に隠しきれない歓喜が広がる。



「……まさか、アタシが言ったことが全部当たってるなんて、ちょっと信じられないわ……でも凄くない? あの推理マンガやアニメで大人気の『名探偵 乱歩ドイル』みたいじゃない? アタシって天才だったのかも!」



驚きよりも、推理を的中させた高揚感が勝り、ケルベロスは尻尾を振らんばかりに喜びに浸る。



「う、うん。私も、まさか全部が当たってるとは思わなかったよ」



二人は顔を見合わせ、予想以上の事実に、戦慄にも似た驚きを共有した。

その異様な盛り上がりを目の当たりにし、クマは再び死の予感に怯え始める。



「も、もしかして……オラ、やっぱり殺されるんか……?」



事実が明るみに出たことで、先ほど交わした「もう悪さはしない」という約束が反故にされてしまうのではないか。

そんな絶望が、クマの曇った瞳にありありと浮かんでいた。



「……いいえ」



桃花は透き通った声で、きっぱりと首を振る。



「クマさんは私たちに、もう悪いことはしないと誓ってくれたし、正直に話してもくれた。だから私たちはそれを信じるし、これ以上、危害を加えることはしないよ」

「フン! 桃花ちゃんがそう言うなら仕方ないわ。何もしないであげる」



鼻を鳴らしつつも、ケルベロスはどこか上機嫌である。



「それに、アタシの推理が当たっていたことが、なんだかとっても嬉しいの♪ 謎の高揚感に満たされていて、すっごく気持ちイイわ♡ これは、なかなか味わえない感覚ね〜♪」



その言葉を聞いた瞬間、クマは一気に力が抜けたように、ふにゃっと崩れ落ち、心底からの安堵がその表情に滲み出る。


——だが。



「ただ……」



ケルベロスの声の温度が一瞬で氷点下まで急降下し、三つ首の目つきが一斉に鋭く光る。



「その話が事実だと判明した以上、アンタの背後にいる連中や、グルになっている組織や賊どものことを一つ残らず全部、話しなさい」


「え、なんで!? い、いや……そ、そそそれだけは……勘弁してくだせぇ……」



再び顔色が変わり、またクマは焦り始め、必死の拒絶を試みる。



「ねぇ、クマさん。これだけの事実が明らかになった以上、私たちも知らないふりはできないし、ここで終わりというわけにはいかないよ」



桃花も静かに、けれど逃げ場を塞ぐように言葉を重ねる。



「これ以上、悲しい思いをする人を出さないためにもね。だから、教えて」

「アンタさ、今の自分の立場わかってんの? 無事に帰りたいのなら素直に言いなさいよ」



ケルベロスが、三つの口で同時に、不気味なほど艶やかに微笑んだ。



「!……」



クマの心臓は、安心と恐怖の間で激しく乱高下を繰り返しており、消耗が激しい状態だった。


それに加え、ケルベロスの圧力による精神的ダメージ。

そして、桃花に思いっきり吹っ飛ばされた身体的ダメージ。

それらが全て重なり、今この場で「仲間を売れ」と言われているような感覚に陥っている。


だが、クマがやってきたことは紛れもない犯罪であり、人に迷惑をかける行為に他ならない。

今ここで行われていることは、決して間違ってはいない。



「どうしても……い、言わねぇと、ダメですかいの?」


「当たり前じゃない。もし言わなかったら、アンタのこと捩じ切って、切り落として、すり潰して熊鍋にして食べちゃうかもよ〜?……桃花ちゃんがね♡」

「うん。え、え!? 私が!?」



突然話を振られて目を丸くして驚く。



「だって桃花ちゃん。コイツのこと熊鍋にして食べたがってたじゃな〜い?」

「それはそうだけど……熊鍋じゅるり」



桃花の瞳が、本気の「食欲」を宿してクマを捉える。



「アヒィィェーーーエッ! っぐぅ……!」



熊鍋という言葉に反応し、またしてもイカれた絶叫を出しかけた瞬間——


ギロリ!


鋭いケルベロスの視線に射抜かれ、クマは慌てて両手で口を塞ぐ。



「!……ぷはっ! オ、オラに危害は加えねえんじゃなかったのかよ!? 話が違うっぺ!」


「危害は加えないわよ。さっさとアンタが仲間のことを話せば、それで終わりなんだけど?」


「み、見逃してくれるんじゃねぇのかよ!? 」



今度は桃花へと視線を向け、縋るように訴える。



「う〜ん。見逃すには見逃すよ……でも、だからと言って、何も話さないまま帰すわけにも、いかなくなったよね?」


「ク、クソッ……!」



危害は加えない。

見逃すとも言っている。

だが、その背後にある強制力は暴力的ですらあった。


クマの正体を知ってしまった以上、二人が大人しくクマを帰す気などないことは明白だ。


逃げ場なし。


もし、これ以上の抵抗をしようものなら最悪、本当に熊鍋にされてしまう可能性も再浮上するかもしれない。

クマの脳内で、熊鍋にされる確率が秒刻みで上昇していく。


唯一、解放される道は、犯罪に関わっている仲間のことを全て洗いざらい話すことだけ。


それ以外の選択肢は残されてはいなかった。



「というかさ、そもそも今のアンタに拒否権なんてないのよ。この状況見てわかんないの? アタシ達はアンタに、“お話してくれる〜?”って、優しくお願いしてるんじゃないのよ……」



そして、語尾を強め——



「話せ!って言ってるのよ!」


ドスンッ!


ケルベロスはクマの目の前へと前足を大きく踏み出し、大地を震わせて迫る。

その瞬間、三つ首の口から黒炎が吹き出す。



「オンギャアアエェェーーッスォォイィヤッ!! 話す! ぜ、全部、話しますから! ヤメテェェイヤァァァァーーーーン!!」



完全に観念したクマは本気で怯え、涙目で叫びまくる。



「フン! さっさとそうすりゃいいのよ! というか、うるさい! 黙れ!」

「いや、ケルちゃん。確かにうるさいのはわかるけど、今から話を聞くのに黙れって……」



桃花は苦笑いを浮かべる。

そしてクマは、ようやく本当に観念して語り始めた。



「……オ、オラの仲間は……おめぇがさっき言った通り、人間だ」



一瞬、間を置き。



「その人間は、この辺りを縄張りに活動してる組織の『山賊』だよ。オラも、そこに所属してる」


「え? 山賊って……」

「ええ。ラウムが話してたことね」



望郷街を出る際、Devil’s Doorのイケメン悪魔のラウムから聞いた情報。

彼が言っていた“山賊出没”のことである。


それはきっと、このことであると二人は即座に理解した。



「山賊、とうとう現れてきたわね」

「でもまさか、出会った山賊が人間じゃなくて、クマさんだとは思わなかったよ。というか、山賊に遭遇することすら予想してなかったけど……」


「そうね。でも問題はその次よ」



ケルベロスは、再びクマを睨み据えた。



「さぁ、おバカなクマちゃん。その山賊について、知ってること全部吐いてゲロゲロしちゃいなさい。隠したって何にもイイことなんてないわよ? それと、もし嘘なんて言ったらどうなるか……アンタ想像できるかしら?」



にっこりと笑いながら、暗黙の了解の如く脅しを添える。



「う……は、はい……」



もはや抵抗する気力など、木っ端微塵に砕け散っていた。


これは単なる事情聴取などではない。

一歩間違えれば、拷問にもなり得る状況だ。

下手すれば最悪の場合、熊鍋にもなる。


クマは深く息を吸い込み——

覚悟を決め、山賊について知っている全てを話し始めるのだった。

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