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天織り満天 - 交錯する世界を繋ぐ花 -  作者: 天堂 かける
第4章 反襲撃

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第54話 裸の王様

「ちょっと待てぇーーぃやぁ!!」

「んあぇ!?」



鼓膜を震わせるほどのクマの大声に、桃花は咄嗟に動きを止めた。

クマは血走った眼で、桃花の左腰を指差す。



「おめぇの、その腰にあるそれ」

「何? この刀のこと?」



桃花は、そのまま左腰へと視線を落とす。

腰に差していたのは、おじいさんから譲り受けた刀——『斬魔の太刀「鬼殺死」』。


クマはそれを指差したまま、顰めっしかめっつらで問い詰めた。



「その刀……斬れんのか?」

「え? う〜ん……多分ね」



桃花は首を傾げながら曖昧な返答をした。

なぜならば彼女は、実際にその刀を一度も使ったことがなかったからである。

どのような刀身をしているのか。

長さや厚さ、振った時の感覚や斬った時の感触など、何一つ知らなかったのだ。



「そういえば私……まだ一度もこの刀を抜いたことすらなかったな」

「もしかして……それ、使う気か?」

「ん? そうだなぁ……まだ使ったことなかったし……いい機会だから、ここで使ってみようかな」

「卑怯だべぇ!!」

「ひ、卑怯!?」



再びクマは、森まで震わせるような大声を張り上げてきた。


桃花が、“刀を使ってみようかな” と言った瞬間、ケルベロスの変身時と同じように、まるで自分が被害者であるかのように「卑怯」と喚き出す。



「そんな危ねぇモン振り回してオラに攻撃する気か!? そんなことされたら、オラ死んじまうでねぇか!」



必死な形相で叫ぶ。

ついさっきまで余裕たっぷりな態度だったくせに、今ではまた焦り散らしている。



「ホレ! オラを見てみろや! 武器一つ持ってねぇべさ! 丸腰だっつうーの!」

「丸腰って……」



桃花の顔に隠しきれない困惑が広がる。


クマの意味不明な発言を聞いて、彼女も段々と呆れ始めてきたようだ。

その様子を見ていたケルベロスが即座にツッコんでいく。



「アンタだって、そのデカい図体に、鋭い牙と爪という名の武器を持ってるじゃない。何バカ言ってるわけ?」

「これはオラに元々備わった体の一部で大事なものだべ! 武器じゃねぇ! 関係ねぇ!」



ケルベロスの指摘を受けてもクマは必死に反論する。

あくまで元から備わっているものは、天産物だからノーカウントだと言い張り、丸腰だと主張。



「それに、おめぇらだって牙と爪はあるでねぇか! オラのこと言えねぇべよ!」

「当たり前じゃないの」



こんな不毛なやり取りに、ケルベロスは呆れ顔で深い溜息をついてしまった。



「というか、桃花ちゃんとアンタのとは全くの別物じゃない。一緒にしないでよ」

「死んじまう! 死んじまう! そんなのはおかしいべー!」



クマは半泣きで喚き出す。

全く話を聞いていないし、そもそも聞く気もない様子。

もはや話にならない状況だった。



「……イラッ」



思わずケルベロスの口から本音が漏れ出し、顳顬こめかみがピクリと動く。


自分から因縁を吹っかけておきながら、都合が悪くなるとバカみたいに騒ぎ立てる。

その厚顔無恥さに、苛立ちが限界に近づいていた。


だが一方で、そんな状況でも当の桃花は、一切動じることなく落ち着きを保っている。



「いや、おかしいべーって……いきなり殺したりなんてしないよ。それに刀は峰があるから、斬らない打ち方もできるし」

「おっかねぇ! おっかねぇ! そんなこと言って! オラを油断させた隙にぶった斬るつもりだっぺよ! わかってんだかんな! この卑怯者めが!」

「……だから、いきなりそんなことはしないって……わかったよ。刀は使わない。ね? それでいいでしょ?」



仕方ないといった様子で、桃花は小さく溜め息をつきながら譲歩する提案をした。



「うるせぇ! 信用できねぇ! 信用できねぇ! 刀使わなぇんだったら腰から外して丸腰になれぇ!」



クマの要求は、更にエスカレートしていく。



「コイツ……!」



ケルベロスの三つの口から黒炎が渦巻く。



「……もう、わかったよ」



桃花は仕方なく静かに頷いた。



「刀は外して、あっちのテーブルの上に置いておくよ。それでいいよね?」



そう言って桃花は刀を腰から外し、ケルベロスへと差し出した。



「ケルちゃん、お願い」

「……わかったわ」



渋々、ケルベロスは真ん中の首の口で刀を咥え、東屋のテーブルの上へそっと丁寧に置いた。



「……おい。他にも、まだ何か隠し持ってねぇだろうな? ああん?」



クマの瞳に、卑怯なまでの狡猾さが光る。



「この……クマがっ……!」



あまりにも調子に乗っているクマに対し、ケルベロスの足元から、じわりじわりと黒炎が立ち上り、徐々にその激しさを増していく。



「ほら見てよ。ね? もう無いでしょ?」



桃花は両腕を伸ばし、着物の左右の袖を掴んでパタパタと揺らし、その場でクルッと一回転して見せた。


風に舞う着物の裾。

その様子をクマは舐めるようにじっと見つめていた。


すると、視線がある一点で止まる。


そして、また何かに気づいたかのように、めざとく「それ」を見つけたクマの口角が、ゆっくりと醜く吊り上がっていく。

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