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天織り満天 - 交錯する世界を繋ぐ花 -  作者: 天堂 かける
第4章 反襲撃

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第53話 闘う者たち

休憩所代わりの簡素な東屋に漂っていた、あの妙な緊張感。


それは今、形を変えて、重力すら無視したかのように、よりややこしい方向へと転がっていた。


始まりは、クマによる無骨な追い剥ぎ。

そこから始まったはずの出来事が、なぜか今、桃花自身が喧嘩を買うような流れへと変質している。


傍らでその推移を眺めるケルベロスは呆れを通り越し、どこか観察を楽しむように三つの首の目を細めていた。



「えーっと……」



桃花は、困惑を隠せないまま目の前の巨体を見上げた。

自分を幾人も飲み込みそうな体躯に、鈍く光る鋭い牙と爪。


どう考えても普通の感覚であれば、まともに戦ったところで、まず勝てる相手ではない。

戦うという選択肢そのものが、生存本能によって掻き消されるはずの相手である。


数分前の自分に「これからクマと喧嘩をする」などと伝えても、冗談だと笑い飛ばしていたかもしれない。


そんな桃花の戸惑いを置き去りにして、クマは完全に「主役」という名の座に酔いしれていた。



「ヒャッホーウ! さぁ、ちっこい人間よ! ヘイカモンカモーン! 骨が折れるまで踊りまくろうぜベイビー! ま、折れるのは、おめぇの骨だけどな! ヒャッハー!」



突然やかましく騒ぎ出したクマ。


低く野太いイケボに似つかわしくない、狂乱のステップ。

両腕を振り回し、地響きを立てて跳ねるその姿には、先ほどまでの悲壮感など微塵も残っていない。


完全に調子に乗って舞い上がっている。



「おめぇに先手は譲ってやるべさ!! どっからでもかかってこいやっほーー!!」



先程までの怯え切った姿は一体どこへやら。


弱そうな人間を相手にできると確信した途端、一気に自分の勝利を確信したようだ。

このクマの辞書からは、恐怖という二文字は消滅してしまったらしい。



「……随分と安上がりな自信ね。しかも今のセリフ、さっきアタシが言ったセリフの使い回しじゃない」



ケルベロスが吐き捨てるように呟く。


桃花を完全に格下と認識したクマは、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながらファイティングポーズを取ると、「シュシュッ」と音を立て、軽快にシャドーボクシングを始めた。

そして掌を上に向け、指をクイクイと曲げて露骨に挑発してくる。


そのあまりに無作法な振る舞いに、ケルベロスの三つの顔が同時に凶悪な形へと歪んだ。



「……このクマ、知性はあるけど頭はアホね! なんか、ものすっごく腹が立ってきたわ! 桃花ちゃん! やっぱりアタシがコイツを消し飛ばすわ! 代わって!」



ケルベロスの声に、地獄の底から響くような明確な怒気が混じる。

調子に乗っているクマの嫌味ったらしい顔を見てしまったのだ。

思いっきりぶっ飛ばしてやりたくなる気持ちにもなるだろう。



「!?」



その一言が空気を震わせた瞬間、クマの体がバネのようにビクッと跳ね上がった。

全身の毛が逆立ち、内股になった膝が笑えるくらいにガタガタと震え出す。

先程の威勢は一気に霧散し、再び捕食される側の顔へと逆戻りしていた。



「ダメだよ」



ケルベロスの言葉に、桃花は即座に首を振った。



「だってケルちゃん……このクマさんのこと、絶対に燃やして真っ黒にするつもりでしょ?」

「そこまではしない!……とは、言えないわね」



ケルベロスは一瞬だけ視線を逸らし、正直に認めた。



「だから私がやるね。それに、喧嘩を売られたのは私なんだから。しっかり買うよ」



交代はない。

その事実を知った瞬間、クマは現金にも再びニヤッと口元を歪めた。



「はっ! おめぇみたいな、ちっこい人間の小娘が、オラと戦って勝てるわけねぇべよ? 今ならまだ許してやるべさ! 身包み置いて、さっさと逃げれ! ホレホレ〜」



見下すような視線とともに、勝ち誇った言葉が飛んでくる。

ケルベロスは、その浅はかさに深い溜息をついた。



(……仮に桃花ちゃんが負けたとしても、次はアタシが相手になる流れなんだけど?)



……ということを、クマはそんな未来など微塵も考えていないのだろう。


ケルベロスはそのことを教えてやろうかとも思ったが、ここは敢えて口に出さず、牙の奥で炎を転がしながら静観することにした。



「私の荷物は渡さないし、逃げも隠れもしないよ」



桃花はこんな状況でも落ち着いている。

彼女の瞳には、揺るぎない決意が灯っていた。



「それに、ここであなたを止めないと、また他の人に追い剥ぎして、たくさん迷惑をかけるよね?」

「ん〜もしかして、オラに勝つ気か?」


「もちろん」



一瞬の躊躇もなく放たれた桃花の答えに、クマは喉を鳴らして笑い飛ばした。



「ハハッ! そんなの無理だっぺよ。無理無理〜! そんなちっこい体してるくせによ。どうやってオラに勝つ気だ? ん? 教えてけろ〜?」

「それが気になるなら、試してみたら?」



桃花は真っ直ぐにクマを見据え、一歩前に出る。



「これは喧嘩でしょ? あなたが売って、私が買ったんだから。やってみればわかるよ」

「ま、喧嘩というよりは『害獣駆除』か『正当防衛』といったところかしらね♪ 絡まれちゃったのはこっちなんだから」



その様子を見ていたケルベロスは横でボソッと呟き、冷ややかに補足する。



「ハハ〜ン。ずいぶんと自信があるみてぇだな……ちっこいくせに」

「先手を譲ってくれるんだよね? なら遠慮なく、こっちから行かせてもらうよ」



桃花は静かに腰を落として構え、地を蹴ってクマの間合いへ踏み込もうとした。


その時——

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