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天織り満天 - 交錯する世界を繋ぐ花 -  作者: 天堂 かける
第4章 反襲撃

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第50話 殺劇開幕戦

望郷街を出発してから、すでに六日が経過していた。

桃花がこの旅を開始した日から数えると、今日で七日になる。


今もなお、二人は西へと進み続けている。


道中、いくつかの村や小さな町に立ち寄り、のんびりと羽を伸ばしながらの旅となっていた。

そして珍しい店を覗き、地元の美味な料理に舌鼓を打つ。


そんな「旅の醍醐味」を満喫しているせいで、その歩みは決して速くはなかった。

そのため、目的地である「武神街ぶじんがい」までは、まだまだ程遠い場所にいる。


道は続き、風は冷たくなり、遠くには山の気配が見え始めてはいたが、それでもまだ山の麓にすら辿り着いてはいない状況であった。


「……武神街、思ってたよりも遠いね……。まぁ、道草食いまくってたせいでもあるんだけど」


ぽつりと溢れた桃花の言葉に、ケルベロスはスマホの地図アプリから視線を外さずに答える。


「ええ、そうね。アタシたちのペースだと……まだ先は長いわよ」


画面を器用に操作し、現在地と進路を確認するケルベロスの姿は、すっかり現代人そのものだ。


「でも、ここ数日だけは、のんびりと楽しく旅ができて良かったけどね」


その言葉通り、この数日間は驚くほど平穏だった。

うるさい鬼に命を狙われることも、変態の悪魔に絡まれることもない。


そんな穏やかな会話をしていた……その時だった。

前方に視線を向けた桃花が、声を弾ませる。


「あ、ケルちゃん。あそこに休憩所があるよ! 一休みしていかない?」


指し示した先には、小高い丘の上に設けられた簡素な東屋が見えた。


屋根付きのテーブルと椅子が並ぶその造りは、まるでキャンプ場の一角を彷彿とさせる。

少々雑で簡素な作りではあるが、周囲を一望できて見晴らしも良さそうなところだ。


「……?……そうね。一旦休憩しましょうか♪」


二人は吸い寄せられるようにそこへ向かい、桃花は背負っていたリュックをテーブルの上に下ろした。

屋根が作る日陰に腰を下ろすと、心地よい風が吹き抜ける。


桃花はそこでぐぐっと体を伸ばし、景色を見渡した。


「うう〜ん。この場所、周りがよく見えて眺めがいいね〜」

「ええ♡ 天気も良くて晴れてるし、気持ちがいいわ〜♪」


ここで桃花は、次の目的地である武神街のことが気になり、ケルベロスに何気なく話を振って尋ねてみた。


「そういえば、今向かってるところ……武神街って、どういう街なんだろうね? ケルちゃん知ってる?」

「ええ、知ってるわよ。前にも行ったことあるから」

「どんなところ?」


ケルベロスは少しの間を置いてから、さらりと、かつ身も蓋もない一言で答えた。


「 “脳みそが筋肉で出来てる奴ら” が集まる街よ」

「……はい? どゆこと?」


あまりにも雑な返答に、桃花は流石に再度問い返す。


「その武神街にはね、闘技場があるのよ」

「闘技場? 色んな人たちが戦う場所ってこと?」


桃花は目を瞬かせる。

続けてケルベロスは話を続けていく。


「そう。そこではね、定期的に武闘大会が開かれるのよ。そんで、腕に自信のある奴らが参加して、優勝を目指すの。優勝すれば多額の賞金が貰えるのはもちろん、優勝者限定の高級な装備品がもらえるみたい。そして最後に、その街を収めているお偉いさんから、名誉ある称号も与えられるって話よ」

「なんだかすごく賑やかな街みたいだね」


「ええ。だから武器や装備、アイテムを売る店が多く立ち並んでるし、その客のほとんどは、アタシ達みたいな冒険者よ。ある意味では物騒な街とも言えるわ。そんで酒場も多いからいざこざも多い」

「闘技場に武闘大会、そして冒険者かぁ……。今更だけど、私たちって冒険者の枠に入ってたんだね」


「その冒険者の中には、人間以外の種族もいるわよ。魔族や妖怪はもちろん、鬼もね」

「え? 人間以外もいる街なの!?」


「そうよ。だから、すっごく物騒な街なの。毎日何かしらの事件が起きてるし、頻繁に死傷者も出るって話だから」

「お、恐ろしい街だなぁ……。楽しみにしてたのに、なんだか不安になってきたよ。あんまり治安が良くないんだね。警察や街を収めている偉い人たちも大変だ」


桃花が肩をすくめると、ケルベロスはニコッと微笑む。


「ウフフ♪ 大丈夫よ。桃花ちゃんは強いから♡ それに何より〜」


自分に指を刺し、胸を張って誇らしげに言い切った。


「この、ア・タ・シ、がいるんだもの♡ 心配ナッシングよ〜♪」

「そうだね。確かにケルちゃんがいると安心するよ」


「今の武神街ってどんな感じかしら♪ 新しいのや懐かしいのとかあるかしら〜♪」

「ケルちゃんって、ホント色んなところに行ってるね」


「そうなの♪ アタシ、すっごく長生きだから♡」

「私とは、生きてる歳の桁が三つ以上も違うもんね」


「まぁ、魔族はやられて死ぬことはあっても、寿命なんてほぼ無いようなものだからね♪」

「そうだったの!? 不老不死ってやつ!?」


「流石に不老不死ではないわよ。神じゃないもの」

「私たち人間から見たら、それはもう神みたいなものですよ?」


「ふふっ。そう? でもそんな魔族も、人間に負けることだってあるのよ?」

「それって……おじいちゃんとおばあちゃんのこと?」


「そうね。あの最恐最悪な怪物二人もそうだけど……アタシ、桃花ちゃんにも負けたじゃない?」

「あの時は、ただのまぐれ勝ちだよ。運が良かっただけ」


「戦場にまぐれなんてないわ。結果はどうあれ、勝ちも負けも全ては必然よ」

ケルベロスは、ここではっきりと言い放った。


「鬼の営業所で話した時、桃花ちゃんにアタシ言ったでしょ? 動きや技、構え、武器装備も、じじばばと同じだって」

「あ、うん。言ってたね」


「桃花ちゃんと戦ってた時ね、“あ、これ、もしかしたらやばいかも〜” って、内心思ってたのよ?」

「でも……その後、あの鬼達を一瞬で丸焦げにしたじゃん。凄い黒炎でさ。あれを私には使わなかったじゃん?」


「使えなかったのよ」


ケルベロスは肩をすくめる。


「あの時のアタシ、元の体でデカかったでしょ? 桃花ちゃんの動きに上手く対応できなくてね。ちゃんと狙えなかったの。それにあの技、大きく息吸わないと出せないのよ。時間も掛かって隙も出来ちゃうし」

「そういうことだったんだね。でも、あの時はギリギリだったよ。全然、私の攻撃が通らなかったからさ。焦ったよ」


「そんで、最後はアタシの炎で自爆。あんな負け方したの初めてよ……。普通に恥ずかしかったわ」

「そ、そうだったんだ……」


どう反応すればいいかわからず、桃花は言葉を失う。


「でも、負けは負けよ。人間でも魔族でも、結局はやってみないとわからないわ。それにアタシ、過去に何度も人間に負けたこともあるのよ?」

「ケルちゃんに勝った人が他にもいたの!?」


「いたのよ。じじばば以外でも、出鱈目に強い純粋な人間もいたわ。それと……人間の姿はしてるけど人間ではない。そんな不思議で、神秘的な雰囲気持った奴もいたわね」

「?」


「……あ、そういえば桃花ちゃんも、何だかそんな雰囲気があるわね。人間だけど人間じゃないみたいな神秘的な感じ?」

「な、なんかすごい話になってない? でも私にはよくわからないんだけど……」


「アタシもよくわからないわ。だって感覚の話だもの♪」

「……私、大丈夫かな……変な病気とかじゃない?」


「ウフフ、大丈夫よ♡ 嫌な感じはないし、むしろ良い感じだから。不安にならないで♪」

「そう? でも、ケルちゃんがそう言うなら大丈夫かな」

「そうそう! この、ア・タ・シ、が言うんだから安心でしょ♡ それじゃ、もう少し休んだら出発し〜ましょ♪」


二人がのんびりと休憩をしながら、他愛無い会話で盛り上がっていたその時。

近くの森の境界線から、のそのそと動く巨大な影が見えてきた。


「……ねぇ、ケルちゃん……あっちの森の方から、大きい人みたいなのが近づいてきてるのが見えるんだけど」

「ええ、アタシにも見えるわ。でもあれ、人間じゃないわね」


「人にしては大きすぎるよね。もしかして鬼!?」

「鬼にしては、なんか毛深いわね」


「毛深いか……そろそろ山も近いし、そこには雪も降ってるって話だよね。もしかして、あの有名なビックフットとか!?」

「似たようなものかもしれないけど、流石にこんな場所にはいないわ。それにあの風貌は……熊ね」


「熊? くまって、あのクマ?」

「ええ、そのクマよ」


次第に距離を詰めてくるクマは、明らかに二人の元へと向かってきていた。

やがて東屋の目の前まで来ると、圧倒的な威圧感で二人を見下ろす。


「……」


「で、でっかいよ〜」

「ウフ♡ 元のアタシの方が、でっかいわよん♪」

「そこ張り合うとこ?」


クマは鋭い眼光で二人を射抜いた。


そして、次の瞬間——


その分厚い顎が動く。


「……おめえらの身包み。ここさ全部置いてけや。命は惜しいべ?」


「はい?」

「クマが喋ったわね。しかも訛ってるし」


クマが喋っている。


あろうことか、その熊は言葉を使って堂々と「追い剥ぎ」を宣言してきたのだ。

しかも、その声は驚くほど低く響く、無駄にクオリティの高い超絶イケメンボイス(イケボ)。


六日間続いていた平穏な旅路に、再び不穏な風が吹き始める。


訛ったイケボを響かせる熊を前に、桃花とケルベロスのまた新たな「厄介事」が幕を開ける。

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