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天織り満天 - 交錯する世界を繋ぐ花 -  作者: 天堂 かける
第3.9章 小休止無双

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第48話 バルカンメッセージ

ラウムとの別れを惜しむ余韻は、リュックサックの中で暴れ出した「文明の利器」によって無惨に打ち砕かれた。


桃花が恐る恐るスマホを取り出す。

すると、そこには視界を埋め尽くすほどの通知が、警告灯のように点滅している。


「な、なにこれ……?」

「ちょっと、それ壊れてるんじゃないの?」


横から覗き込んだケルベロスが引き気味に声を出す。


画面をスワイプしてもスワイプしても、終わりの見えないメッセージの奔流。

それはもはやチャットというより、文字による爆撃バルカンだった。


二人は顔を見合わせ、覚悟を決めて「戦地」の記録を開いてみることに……。




◆ 以下、旅立ち初日(昨日)からのメッセージ内容の 「一部」 ◆

 




⚫︎おじいちゃん


 おい桃花!

 大丈夫か!

 なぜ電話に出ない!

 どうしてメッセージも見てないんじゃい!

 何かあったのか!?

 返事をせんかーい!





⚫︎おばあちゃん


 おじいさん

 桃花なら大丈夫ですって

 旅を開始してまだ1時間ですよ?

 ついさっきじゃないですか

 心配しすぎですって





⚫︎おじいちゃん


 だったらなぜ!

 折り返しの電話がないんじゃい!

 メッセージも全然既読にならんし!

 やっぱり何かあったんじゃないのか!?

 おばあさんや!

 今すぐ見に行くぞい!





⚫︎おばあちゃん


 ただ見てないだけですよ

 今までスマホ持ってなかったんですから

 確認する習慣なんてありませんって

 きっとマナーモードなんですよ





⚫︎おじいちゃん


 いいや!

 もしかしたら

 どこぞのバカな輩に桃花が襲われて

 連絡できんのかもしれぬぞ!

 もしかしたら怪我をしてるのかもしれん!

 絶対ワシらに助けを求めてるぞ!

 泣いてるかもしれん!

 いや、絶対泣いてる!

 桃花は泣き虫ちゃんだからよ!





⚫︎おばあちゃん


 だから大丈夫ですって

 桃花は私たち二人が鍛え上げたんですよ?

 しかも13年間ほぼ毎日

 そう簡単にやられたりしませんよ

 桃花が泣き虫ちゃんなのは否定しませんがね

 あの子すぐ泣くから





⚫︎おじいちゃん


 し、しかしだな……

 もし桃花を傷つけて泣かせるアホがいたらと思うと

 心配で落ち着かんわい!

 あ、そうだ!

 いいことを思いついたぞ!

 今から先回りして

 危険なアホどもを一人残らず全排除しておく!

 これなら安心、安全じゃね?

 我ながらいい考えじゃん!





⚫︎おばあちゃん


 何バカなこと言ってるんですか

 ダメですよそんなことしちゃあ

 もういい歳したジジイのくせに

 弱い者イジメなんて

 みっともないことやめてくださいな

 おじいさんが暴れ出したら

 止められるのは

 この世に私だけしかいないんですからね!





⚫︎おじいちゃん


 クソ!

 こんなことなら!

 桃花にワシの秘奥義まで伝授しとくんだったわい!

 いや、待てよ?

 今からでも全然遅くはないな!

 超余裕で間に合う!

 一瞬で追いつくじゃん!

 ひとっ走りして教えてくる!





⚫︎おばあちゃん ( ´Д`)y━・~~


 バカですか?





⚫︎おじいちゃん


 バカじゃない!

 とか言いつつ

 おばあさんも頻繁に桃花へ連絡してるじゃろがい!

 ワシのこと言えんじゃん!

 わかっとるんだぞ!





⚫︎おばあちゃん


 あら?

 私はちょこ〜っとだけですよ〜

 バカみたいに連絡なんてしてませんから

 小心者感丸出しのおじいさんみたいに〜





⚫︎おじいちゃん (╬⓪益⓪)怒怒怒


 なんじゃとクソババア!

 上等じゃああコラァ!

 表出ろや!

 




◯おばあちゃん


 もう出てますけどぉ〜笑

 




◆ 以上、メッセージ内容の 「一部」 ◆


「……」

「……」


朝の静かな通りに、凍りついたような沈黙が降りた。

桃花の持つスマホの画面から、怨念めいたバックライトを放ちながら、二人の顔を青白く照らしている。


「……これ」


沈黙の防波堤を崩したのは、ケルベロスの乾いた声だった。


「桃花ちゃんと、じじばばの三人が入ってるグループチャットよね?」

「……よくわからないけど、多分そういうやつ? なのかな?」


「あの二人……今も一緒に暮らしてるのよね?」

「うん」


「……なんで同じ家の中にいて、わざわざチャットで命の刈り取り合いみたいな会話をしてるわけ? 会って直接話せばいいのに」

「……なんでだろうね? 私にもわかんない」


ケルベロスは理解不能な生物を見るような目で、画面を下へとスクロールし続ける。


「……この二人、仲悪いの? 絶縁一歩手前?」

「いや全然。むしろ、すごく仲良いよ。夕飯の時とかいつも楽しそうだし」


「このやりとりで流石にそれは無理があるわ。これで仲が良いって言えるアンタの家庭環境、ちょっと疑うわよ。修羅の国か何かかしら?」

「私も小さい頃、初めて二人の争いを見た時はそう思ったよ」


ケルベロスは画面の一行、おばあさんの「もう出てますけどぉ〜笑」という一言を、もう一度見返して戦慄した。


「しかもこの二人……この後、絶対戦ったわよ」

「うん。昔からよく喧嘩してたから、特に珍しいことではないよ。庭にクレーター何個も作ったり、家の一部を破壊したりもしてたからね。でも仲はいいんだよ」


「信じられない……。いくらなんでも血の気が多すぎるでしょ! 鬼や悪魔よりも暴れん坊じゃない! 喧嘩するほど仲がいいなんて次元じゃないわ!」


ここで桃花は、メッセージの中にある「あるフレーズ」を見て、不満げに頬を膨らませた。


「というか二人とも、私のこと泣き虫って言い過ぎ!」

「あら? じじばばの言ってること当たってるじゃない。実際アンタ、すぐ蛇口みたいに涙流してるじゃないのよ」


「もう、ケルちゃんまで……というか蛇口みたいは言い過ぎ!」

「ウフ♪ でも泣くことは別に悪いことじゃないわよ。自分の感情を表に出せるってことでもあるからね。泣けない方が、ずっと辛いわよ?」


「うーん。そういうものかなぁ……。でも恥ずかしいよぉ」


そんな微笑ましい(?)会話を、無慈悲な振動が引き裂く。


ブルブルブル。


桃花の手の中で、スマホが狂ったように暴れ出す。

画面を見てみると、そこには「おじいちゃん」と名前が表示されていた。


「あ! お、おじいちゃんから電話だ!」

「きっとメッセージが既読になったことに気づいたのね。まるで獲物を見つけた鷹並みの反応速度だわ」


「はわわ……。ど、どうしよう! ねぇケルちゃん! どうしよぉ!?」

「いや、どうしようって、出なさいよ」


「こ、これ、どうやって出るんだっけ!? このボタン!? あれ!? どっち押すんだっけこれ!?」

「……あ、そういうこと」


桃花は軽くパニックに陥っていた。

以前、自分から一度だけ電話を掛けたことはある。


だが、相手から急にかかってきた電話に出ることは初めてのことだった。

しかも、今までスマホ自体を持ったこともなかったのだから、混乱するのも無理はない。


通話も、メッセージも、通知も。

ほぼすべてがまだ初心者であり、全く操作に慣れてなどいなかった。

文明の利器は、使いこなせなければただの不気味な板でしかない。


「もう、落ち着きなさいな。ほら、ここ見て」


ケルベロスが震える桃花の手元を指差す。


「いい? この緑色の通話ボタンをポチッとタップしなさい。そしたら通話が開始されるから」

「う、うん! ありがと! や、やってみるよっ!」


桃花は全神経を指先に全集中させた。

ドキドキと打つ心臓の鼓動をはっきりと感じながら、ぷるぷると小刻みに震える指が、光る画面へと少しずつ吸い込まれていく——


「……あ! 違う! そっちじゃない!」

「え?」


ケルベロスが大きな声で制止を叫んだ次の瞬間、スマホの画面が暗転した。


「それは通話を “拒否” するボタンよ」


なんと桃花は、間違って赤い拒否ボタンをタップしていたのだ。


「……」

「ねぇ、もしかして、わざと? アンタのじいさんを絶望の淵へと突き落とす高等テクニックか何か?」


「そ、そんなわけないじゃん! ちょっと手が震えてたから、神経が滑っちゃっただけだよ!」

「でも、向こうは”愛しの娘に拒否された”と受け取るかもね……今頃、庭に新しいどデカいクレーターが出来上がってるかもよ?」


「うっ……。どうしよぉ……」

「すぐに掛けなおしなさい」


その瞬間。


ブルブルブル。


再びスマホが震えた。

今度は画面に「おばあちゃん」と表示されている。


「!」


その瞬間、桃花の心臓がドキッと跳ね上がった。


「おばあちゃんから電話だ!」

「もう間違っちゃダメよ」


次は間違えないよう、まるで爆弾の起爆装置を解除するような慎重さで、指を緑のボタンへと近づけていき、確実に慎重に画面を指でタップした——

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