第40話 豪熱マシンガンアタック
「……でもね。アタシ、言われっぱなしは大嫌いだから……言い返すんだけどっ!」
そのまま、獲物を狩る獣のような目でサキュバスへ向き直ると、ケルベロスは反撃の毒舌を炸裂させた。
「サキュバスさぁ。アンタって陰湿よね〜。アンタがどうでもいいって思ってる人間に憑かないと、大好きなオリアスに近づけもしないなんて……。ただの根性無しで腰抜けの愚か者じゃない。言ってる意味わかる? 要するに……ただの、おバカちゃんってことよっ!」
「はぁ!?」
「その上、大して可愛くもないくせに、顔もスタイルも中身もスペシャルで最上級の男を狙うなんて……。身の程も弁えられないくらい脳みそが腐って傷んでるのかしら〜? バカ丸出しぃ? というか……もはや、ただの可愛くもないバカね!」
「なんですって! この駄犬が……!」
「それで、挙げ句の果てに鎖で縛られ捕まってるし〜。そんなバカな姿のアンタを、今まさに目の前にいる “大好きなオリアス様” が見てるのよ〜? ねぇ、あんたこの状況をどう思う? アタシに教えてくれる〜? アタシ知りた〜い♡ 哀れで惨めで情けない姿を晒してる、おバカでケバいサキュバスちゃん!」
「っ……こ、この……!」
ケルベロスの追撃は止まらない。
むしろ、その言葉の鋭さは更に威力を増していく。
「男を惑わす悪魔の女が、逆に男の悪魔に惑わされるなんてね! 滑稽よ! 全っ然面白くないけど、あえて笑ってあげるわ! 鼻でね! フン!」
(……よくそんなに次から次へと言葉が出てくるなぁ……。まるでマシンガンを撃ちまくっているかの如くだよ。ケルちゃん……相当、頭にきたんだな)
桃花は内心で震えながらも、ケルベロスの迷いのない強さに不思議な安心感を抱いていた。
そこで、オリアスは困ったように、あるいは天然の純粋さのような表情で口を挟む。
「ケルベロスさん。私はサキュバスさんを惑わすようなことなんて、今まで一度もしていませんよ?」
サキュバスを気遣ったのか、それとも本気で無自覚なのか。
オリアスは訂正するかのように、真面目な顔で話している。
「はぁ!? アンタ自覚ないの!? 無自覚だろうが何だろうが、惑わすものは惑わすのよ!」
それを聞いたゼフォンも、妙に納得したように頷く。
「そうそう。オリアスは昔からなんだよな。無自覚でそういうことやるんだ」
「……ねぇ、ゼフォン。オリアスのこと言えないわよ。アンタも一緒よ」
ケルベロスの火の粉がゼフォンにも降り注ぎ、巻き込まれる。
「そうですか? 俺は結構、気をつけてますが……」
「自分では気付いてないだけ! アンタも同類よ! 何言ってるワケ!?」
ゼフォンは「え? 俺も?」と、本気で不思議そうに首を傾げている。
(……ケルちゃんの言う通り、ゼフォンさんも間違いなく100%惚れさせ系ですよ)
桃花も心の中で激しく同感した。
ケルベロスの容赦ない口撃を真正面から受け、叩きのめされたサキュバスは、シクシクと涙を流して泣き始めてしまった。
「フン! アンタの涙なんて、軽くて薄っぺらくて汚らしいわ! 同情も買えないくらい安いのよ! 激安ね! というか、そんなの激安セールでも買わないわ! 何ならタダよタダ! よかったわねタダで! 価値ゼロ! ま、タダでもアンタみたいなバカはいらないけどね! タダの邪魔で生ゴミクズボケアホ悪魔ポンコツ女!」
(……ちょっと何言ってるのかわからない。というか、言い過ぎだよケルちゃん。まだ怒りが収まらないの? 私、見てて可哀想になってきちゃったよぉ……)
全く収まる気配がないケルベロスの一方的な猛攻に、桃花は戦慄しながらも、ついサキュバスを憐んだ目で見つめてしまう。
「サキュバスさん……」
そして、この光景を見ていたオリアスは、ジャケットの内ポケットからハンカチを取り出し、サキュバスの涙を拭おうと優しく手を伸ばす。
その瞬間、サキュバスは「えっ!」と声を出し、とんでもなく嬉しそうな涙目の上目遣いにて、オリアスを見上げた。
オリアスの行動を見たケルベロスはというと……。
「だからっ! アンタが今! そういうことしちゃダメでしょうがよ! 天使かよ! どんだけ優しいのよ! やめなさいよ! 悪魔のくせに!」
「そうだぞオリアス。ここは俺が——」
代わりにゼフォンがしゃがみ込み、サキュバスに手を差し出そうとする。
「何やってんの!? アンタもダメ!! バカなの!? わざとなの!? アホなの!?」
ケルベロスの激しいツッコミが、オリアスとゼフォンへと炸裂した。
(……何だこれ? お笑い? 魔族コント? それともケルちゃんのキレ芸?)
もはやロビーは、ただ騒がしいだけの「魔族の漫才劇場」と化していた。
そんな騒動の真っ只中──
今まで一度も口を開かず、沈黙を守っていた「インキュバス」が、ここで急に異様な存在感を放ち始めてきた。
彼は頬を異常なほど赤らめ、荒い呼吸を繰り返しながら、唐突に熱を帯びた声を漏らしている。
「はぁはぁ、これ、いい……すごくいい……。うん」
ケルベロスの激しい罵詈雑言。
もはや暴力とまで言える「言葉の雨」に当てられたのか、彼の瞳は怪しく濁り──
「こ、これは……き、気持っちイイィィェェーー!! もう少しで、何かが、生まれる、気がするぅぅっ!! あ?……もう生まれてたァァァァーーーー!!」
「何が?」
インキュバスの頭のおかしい狂った悲鳴(?)を真横で聞いた桃花は、驚愕を通り越し、絶対零度まで冷え切った感情で反応してしまった。
いきなり狂ったように騒ぎ出したインキュバスは、完全に「あっちの世界」へと入り始めていた。
ケルベロスの強烈な毒舌という「ご褒美」が、彼の危ない音量のツマミを、最大まで回してしまったようだ。
また、新しい事件の匂いしかしない。
そう思った瞬間、桃花は思わずその場で天を仰ぐ(その天井には気持ち悪いバケモノが張り付いていて、バッチリと目が合った)。
朝から絶望感の混ざった特大の溜息をついてしまう。
本日の騒動、早くも第二幕の開演である——




