第39話 爆撃準備完了
「結果を先に申し上げますと、サキュバスは “オリアスが大好きな追っかけ”。そしてインキュバスは “大好きなサキュバスを付け回すストーカー”。ということです」
「……え?」
桃花とケルベロスの声が、完璧に重なる。
その沈黙を切り裂くように、縛り上げられていたサキュバスが唐突に絶叫した。
「わ、私のことを……見て欲しかった! 振り向いてほしかったの! 大好きなオリアス様にっ! ずっと! 二千年前からずっとぉぉ!」
告白というよりは、もはや絶叫に近い大声がロビーに反響した。
「だから! オリアス様に一番近いところにいたあの人間の女に取り憑いて、私を感じて欲しかった! 私に気付いて欲しかったの!」
この大騒動の動機が恋愛感情というところが、余計にタチが悪い。
その様子を見ていたゼフォンは、心底呆れたように溜め息をつき、説明を重ねる。
「サキュバスは好意を抱くオリアスに、恥ずかしすぎて全く近づけなかったようです。だから、彼に一番近い位置にいた人間に憑依し、自分の存在をアピールした……。ということらしいのです」
サキュバスは「うんうん!」と全力で肯定している。
その瞳は完全に、恋に狂ったLOVE脳に支配されていた。
ケルベロスは一定の理解を示しつつも、冷ややかな視線を向ける。
「……アンタの気持ち、わからなくはないけどね。でも、あのまま憑いてたら死んでたわよ? あの女」
「は? だから? 何か問題あるわけ?」
サキュバスは鼻で笑うように言い放つ。
「え、え……?」
その無神経な言葉に、桃花は耳を疑う。
「別に人間が死のうがどうなろうが、魔族の私たちには全然関係ないじゃない。何言ってるの? 意味わかんないんですけど」
「なっ……!」
桃花は衝撃を受け、胸がざわざわと波立つ。
人の命を塵芥のように扱うサキュバスの態度に、強い衝撃を隠せなかった。
ケルベロスは桃花の震える手を見つめ、静かに、だが重みのある声で応じる。
「……そうね。本来、魔族と人間は相容れない存在。アンタの言ってることは、ある意味正しいわ。否定はしない」
するとサキュバスは、今度はケルベロスを嘲笑うように睨みつけた。
「というかさ、あんたケルベロスでしょ? 何〜その情けない姿。しかも、なんか隣にいる人間と仲良くしちゃってる感じだしぃ〜。一体何やってんの? プライドないワケ?」
サキュバスの言葉を受け、ケルベロスは落ち着いた態度で返答する。
「この子とね。一緒に旅をすることになったのよ。今は仲間で、アタシのお友達よ。それにこの姿、動きやすくて可愛いからアタシけっこう気に入ってるの♪」
「ケルちゃん……」
桃花が名前を呼んだ瞬間、サキュバスの口元が醜く歪んだ。
「ケルちゃんって! 何あんた! そのメスガキにそんな可愛い呼ばれ方されてるの!? しかも仲間とか友達だとかって! いつから人間の飼い犬に成り下がったワケ? 超ウケるんですけどぉ〜! SNSで言っちゃお〜」
「ちょっと、あなた!!」
桃花が強く声を上げたその時——
「サキュバス……言葉が過ぎるぞ。黙るんだ」
「!!」
ゼフォンの氷のように鋭く、重い声がロビーを制した。
感情的ではない、その静かな一言に込められた威圧感に、サキュバスはビクリと肩を震わせ、即座に口を閉ざす。
ケルベロスは桃花へ向けて、慈しむような優しい眼差しを送った。
「そんな顔しないで桃花ちゃん。魔族は本来、自分たちの利益のために、人間を喰い物にしたり、物みたいに扱ったりする。そんな狡猾で残忍な連中が多い生き物なの」
「……でも、ケルちゃん」
だが、ケルベロスはこれで終わらない。
このまま黙って引き下がるような、殊勝で可愛い「犬」などではなかった——




