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天織り満天 - 交錯する世界を繋ぐ花 -  作者: 天堂 かける
第2章 桃と鬼

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第16話 LOVE PHANTOM

ずっと床に額を擦りつけるように土下座していた黄鬼。

するとここで、彼は勢いよく顔を上げる。


「所長が結婚できないはず、ないっす!」


張りつめ切っていた沈黙を、真正面から殴りつけるような大声だった。

その瞬間、営業所の空気が震えた。


「確かに所長は、ちょっと怖いところもある。けど、でもそれ以上に、メチャクチャ美人だし! スタイルだって抜群だし! 仕事もできる!」


息を吸う間もなく、言葉が溢れ出す。


「それに——!」


黄鬼は、ぎゅっと拳を握りしめる。


「昨日、食事に誘ったのは……作戦なんかじゃないです! 俺……所長に、本気だったからです!」

「!」


その言葉を聞いた瞬間、紅葉の目が大きく見開かれた。

怒りでも困惑でもない。


そこにあったのは——


純粋な「想定外」。

感情と思考が追いつかず、一瞬言葉を失っている。


(……あ、あれ? もしかして、これ……「告白」になってない?)


この事態に、桃花も思考が追いついていない。


「え!? ちょっ、急に、何を言って......」


紅葉は言葉を探すように、視線を彷徨わせる。

その頬が、ほんのりと赤く染まっているのがはっきりと分かった。


(……いや、あなた昨日、その男をボロッカスにフッたんだよね? なんで嬉しそうにしてるの?)


心の中で桃花はツッコミを入れる。

一方、告白した黄鬼はというと——


いつの間にか土下座の姿勢を解いた流れで、片膝を床につけていた。

まるで、求婚の言葉を捧げる直前の騎士のように。


「俺、本気です」


改めて伝えた黄鬼の言葉は、驚くほど真っ直ぐで、しっかりと紅葉の目を見つめている。

その雰囲気は、つい今さっきまで情けなく土下座をしていたとは思えない。

驚くほど男らしい顔つきだった。


「……み、みんなが、見てます」


紅葉の声が微かに震え、顔が赤くなっている。

彼女は他の鬼と違って、肌の色が人間と変わらないからよくわかる。


(……いや、"みんなが見てます”って……。さっき、あなたの目の前にいる黄鬼に対して、公開処刑のパワハラを働いたこと忘れてませんか?)


桃花は内心で苦笑する。

だが——


告白という「異物」が投げ込まれたその瞬間。

営業所の空気は、再び姿を変えていた。


張りつめていた恐怖は霧散し、代わりに漂い始めたのは、奇妙な期待と野次馬根性。


——どうなる?

——断られる?

——いや、もしかして……?


そんな緊張感が漂っている。

周りの鬼たちも、なんだか面白そうにソワソワしている感じだ。


その視線が紅葉と黄鬼に集中している。

ざわつきはない。

だが、この沈黙が妙にうるさい。


(……成り行きとはいえ、この状況を作ったのは私だ。ここは一先ず、様子を見よう。というか、なんやかんやで、私も気になる……私だって一人の女の子だもん!)


「所長……。いや、紅葉さん!」


一気に畳み掛けてくる黄鬼。


(……あれれ? そんなキャラだったっけ?)


「え……!? いや、こ、こんなところで……」


紅葉は完全に動揺していた。

視線が泳ぎ、声が裏返る。


だが、その仕草が——


妙に可愛い。


(す、すごいギャップ……。さっきまでとは、まるで別人だよ)


桃花は思わず目を細める。

さっきまで、絶対君臨の所長だった鬼が、今は年頃の女性みたいに戸惑っている。

その変化は、周囲の鬼たちにも強烈な衝撃を与えていた。


ぽかんと口を開けた者。

頬を緩める者。


だがその中に、明らかに「違う反応」をしている鬼が数名いた。


腕を組み、眉間に深い皺を刻む者。

無表情のまま、二人を射抜くように睨む者。


(……ん? もしかして、あの二人……。紅葉を狙ってるんじゃ?)


先を越された苛立ちか。

それとも、仕事の空気を壊されたことへの不満か。

その理由は分からない。

どちらにしても、その視線には明確な敵意が滲んでいた。


「わ、私は……」


紅葉が、ようやく返事をしようと口を開く。

場の視線が、更に一点へと集まった。


——その時だった。

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