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天織り満天 - 交錯する世界を繋ぐ花 -  作者: 天堂 かける
第7章 雪山の妖怪

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第131話 モンスターエンジン

強引に自分の家へと招待し、コテージから四人全員を連れ出した雪嵐。

彼は猛烈な吹雪の中、まるで寒さなど一切感じていない様子で、ズンズンと歩みを進めている。


その後を歩く一行は、やや強制的に行く流れになったため多少の戸惑いはあったものの、今ではいくらか落ち着きを取り戻していた。


ただ、一人を除いては。



「……クマ。前を歩く雪嵐の姿を見失わないよう、一定の距離を保ちながら後を追うんだ。それと妙な動きを確認したら、すぐ拙者へ伝えるように」

「……ああ。分かったっちゃ」



元の姿に戻されたクマへと静かに指示を出す佐助。

それに対し、クマも短く返事をして従う。


彼女はまだ、あの二人の妖怪『雪嵐』と『沙雪』を強く警戒している。

先程までの状況を考えれば、それも当然と言える。


そんな二人の間に漂う緊張感をブチ壊すかのように、前を歩いていた雪嵐が突然クマの隣まで歩幅を合わせてきた。

そして、隣を歩く巨大な白熊を見上げ、目を丸くする。



「んんっ!? 何だお前は!! シロクマか!? いつからいた!?」



これには雪嵐も大いに疑問を抱く。


それもそのはず。

つい先程まで、このクマは小さなぬいぐるみサイズまで縮められていたのだから。


それが今では、自分よりも遥かに大きな体となって後ろを歩いている。

急にそんな生き物が現れれば、流石に気付く。



「あ? オラか? オラはおめぇがぬいぐるみっつってたクマだべさ」

「あれか!? どういうことだ!? あんなにちっこかったのに! どうやってデカくなった!?」



雪嵐は驚きを隠そうともせず、矢継ぎ早に問いかける。



「これがオラの真の姿だっての。シン・クマ的な? 後ろにいるヤツらいるだろ? そいつらにオラの体を無理矢理ちっこくされちまってたんだっぺよ。ひでぇ話だべ?」

「なにぃぃぃぃぃ!!? お前!! 自分の体を小さく出来るのかぁぁぁぁぁ!!」


「違うっつーの。おめぇ話聞いてねーのかよ。オラはこいつらに、魔法っつー狂った力で無理矢理ちっこくされてんだべよ。な? ひでぇ話だべ?」

「お前の体デカいな!!! 俺よりもデカいヤツなんて初めて見たぞ!!!」



雪嵐は唐突に話題を変えた。


クマが不憫な目に遭っていた話を豪快に聞き流した……というより、もはや聞こえてすらいない。



「」



これにはクマも絶句。


同情してもらいたかった話を綺麗さっぱりスルーされたのだから、そりゃショックも受ける。

そんなクマの心情など知る由もなく、雪嵐の隣で手を繋いで歩いていた沙雪は、元の姿に戻ったクマを見上げ、目を輝かせていた。



「クマさん大きいねー! 兄上よりも大きいよ! すごーい!」

「あ? そうか? オメェらの方がちっこいだけだべさ」


「ねーねークマさん! わっちを肩車して! 高いとこから見たい!」

「何でオラがそんなこと……」


「よぉぉぉっしっ!! 俺がクマの肩まで持ち上げてやるからなぁぁぁ!! 落ちないよう、しっかりと掴まるんだぞぉぉぉ!!」



クマの声を掻き消す大声量。

雪嵐は沙雪をひょいっと抱え上げると、そのまま勝手にクマの肩へと乗せてしまった。



「わぁ! すごーい! 高ーい! 顔に雪がバチバチ当たるよー!」

「おい! 勝手にオラの肩さ乗せんでねぇべよ! ってイダダダダ! オラの耳を掴むなっちゃ! 引っ張んなっつーの! 痛いばい!」



口では文句を言いながらも、何だかんだ言って内心ではまんざらでもなく嬉しいクマ。

なぜなら、この場で一番体が大きいのは、紛れもなく自分だったからだ。

内心「オラの時代がキター!」とか心の中で叫びながら、クマは密かに優越感を味わっていた。


それを見て楽しそうにする妖怪の二人。

案外、クマはこの二人との相性がいいのかもしれない。


しかし、その一方で……。



「……」



目の前で戯れている三人を無言で見つめる佐助。


急に距離を詰めてきた二人の妖怪。


この状況に、彼女は一層警戒を強めていた。

いつでも即座に動けるように。

そして誰にも気づかれないように、静かに身構えながら歩を進める。


そんな佐助とは対照的に、クマの後ろで楽しそうなやり取りを眺めていたケルベロスが、フフンと鼻を鳴らす。



「ウフ〜ン♪ あんなクマよりも、アタシの体の方がデッカいわよ〜ん♪」

「そうだよね。ケルちゃんの方が元の姿は大きいよね……」



すると桃花は、そこで何かを思いついたように「あっ!」と声を上げた。



「ねぇ! 変身を解いたケルちゃんの背中にさ、みんなを乗せて走った方が早く着くんじゃない?」

「あら? 確かにそうね♪ アタシとしたことが、盲点だったわ〜♡」



桃花の提案を受け、ケルベロスは歩みを止めた。


次の瞬間。


足元から黒炎が勢いよく溢れ出した。

黒い炎は瞬く間にケルベロスの体全体を包み込み、その姿を完全に覆い隠していく。

吹雪の中に黒炎が舞い上がり、一気に周りの雪を弾き飛ばした。


そして、山をも見下ろす程の巨大な真の姿『地獄の番犬ケルベロス』へと戻る。


この凄まじい魔力と出来事に、前を歩いていた三人は思わず振り返った。



「……」

「……」



クマと沙雪は、そのあまりにも巨大な姿に、ポカンとした表情で止まっている。


そこに立っていたのは、先程まで一緒にいた可愛らしい黒柴の子犬などではない。

黒く禍々しい巨体に、三つの首。

その姿は、まさしく地獄の番犬そのものだった。


このケルベロスを見たもう一人の大男はというと……。



「うおおおおおお!!! 何だその黒くてデカい犬はぁぁぁぁぁ!!! しかも首が三つもあるぞぉぉぉぉぉ!!! いつの間にぃぃぃぃぃ!!!? さては貴様ぁぁぁぁぁ!!! モンスターだなぁぁぁぁぁ!!!?」



吹雪すら掻き消さんばかりに叫び散らす雪嵐。

そして、迎撃のための戦闘態勢を取る。



「落ち着きなさいバカ。アタシは一緒にいた黒柴の子犬よ。というか、うるさい」

「そうなんです。ケルちゃんはクマさんと同じく、小さい体に変身してたんですよ」



ケルベロスと桃花が冷静に説明する。



「むむっ!!? そうなのか!!? 確かに面影があるとも言えるが……ないとも言えるぞぉぉぉ!!」



あまり信じてはいないようだ。


ほんの少し前まで小さな黒柴だった存在が、今や自分たちの目の前で巨大な三つ首の魔獣へと変貌しているのだ。

頭では説明を理解できても、目の前の光景がそれを簡単には受け入れさせてはくれない。


そんな兄を見た沙雪が、クマの肩の上から声をかける。



「ねぇ兄上、このワンちゃんは敵じゃないよ。このお姉ちゃんの言う通り、さっきまで黒柴だった子だよ。だから大丈夫」



そう言って、沙雪はクマの肩からピョンと飛び降りる。



「そうなのか!? 沙雪が言うんなら大丈夫だな!! これは失敬失敬!!」



雪嵐は彼女の言葉には素直に反応し、あっさりと聞き入れた模様。

急に禍々しい姿をした巨大な魔獣が現れたのだから、無理もない反応ではある。

しかし、それ以上に沙雪の言葉を信頼している証拠なのだろう。


その一方で。



「……」



この中で、一番大きな体を持っているのは自分だった。

間違いなく、ほんの少し前まで自分が一番の巨体だった。


それなのに……。


巨大な三つ首の魔獣が現れたことで、あっさりとその座を奪われてしまった。


この事実にクマはショックを隠せず、放心状態になっている。

あっという間に、彼の黄金時代は終わってしまった。



「さ! 全員アタシの背中の上にお乗りなさい♪ アンタたちの家まで一気に駆け抜けてあげるわ♪ その前に……クマは邪魔だからまた小さくなってなさい」



ケルベロスがそう言った瞬間だった。


その場に突っ立っていたクマの体が、またもや魔法によってぬいぐるみサイズへと戻される。


しかし、そんな彼の不遇な変化に、妖怪の二人は全く気付いていない。

今は、目の前に現れたケルベロスの巨大な姿に夢中のようだ。


更なる追い打ちをかけられてしまったクマは涙目である。



「ほら! クマさんも一緒に乗るよ!」



桃花に軽々と抱き抱えられ、そのまま一緒にケルベロスの背中へと飛び乗っていった。



「なんと!! 凄いではないか!! こんなデカい犬みたいな生き物に乗るなんて初めてだぞ!! よし沙雪!! 一緒に犬の上に乗るぞ!! 楽しみだな!!」

「うん! すっごく楽しみ!」



桃花と同様に、雪嵐は沙雪を軽く抱え、一緒にケルベロスの背中へと飛び乗る。



「うおおおおお!!! 目線が高いぞぉぉぉ!!! これは走り出した時の期待が高まるなぁぁぁ!!!」

「ワンちゃん! 早く走ってー!」



アトラクション感覚ではしゃぎまくる兄妹。

だが、そんな二人をよそに、佐助だけは未だ険しい表情で地上に残っていた。



「……」



しかし、あのように無邪気な笑顔を見せられては、流石の忍びであろうと、多少の警戒は薄れてくる。


少なくとも、現時点で危険度は低い。

佐助は、そう判断しているのだろう。


そして、この状況に自分の中で冷静な判断を下す。



「……今、ケルベロスさんの姿が戻っているのなら、現時点では戦力的に拙者たちが有利。それに桃花さんもいる。もし彼らが敵対したとしても対応は可能だろう……」



だとしても。

油断だけはすまいと、自分自身に強く言い聞かせる。


険しい表情で、まだ地上にいる佐助に対し、ケルベロスが左の首から声をかけた。



「……レディ、心配ないわよ。少なくとも、今のあの二人に危険はないと思うわ。アタシも油断しないでおくから、アンタも早くお乗りなさいな」

「……かたじけない」



ケルベロスの気遣いに対して、佐助も彼女の背中へ一瞬で飛び乗った。

全員が背中に乗ったことを確認すると、ケルベロスは三つの首を軽く動かす。


「さ! これで全員アタシに乗ったわね♪ それじゃ、出発するわよん♡ 振り落とされないように、しっかりと掴まってなさい! ただし乗り心地だけは悪いから、それだけは覚悟なさい!」

「おうよ!! よろしく頼むぞ!! 道案内は俺に任せな!!」



走るケルベロスに、ナビ役の雪嵐。


次の瞬間——


ケルベロスは、最初からフルスロットルで出発し、一気に雪山を駆け出していく。


ドドドドド!!


巨大な四本の脚が雪原を蹴り、猛烈な勢いで前へと進んでいく。

雪嵐の案内に従い、彼らの住処へと向かうが、そこへ辿り着くまでには様々な難所が立ちはだかった。


深く積もった雪。

視界を奪うほどの吹雪。

巨大な雪の壁。

そして、険しい地形。


普通ならば、一つ越えるだけでも相当な時間と労力を必要とする。


しかし……。

ケルベロスにとっては、そんなものは障害ですらなかった。



「この先!! あれを右だぞ!! っとすまん!! 左だったぞぉぉぉ!!」

「オッケ〜イ♪ というか、自分の家までの道を間違えないでもらえる?」



雪嵐の声に応えながら、ケルベロスは難所を強引に突破していく。


雪を蹴散らし、障害物を乗り越え、吹雪を切り裂きながら進む。

この圧倒的な速度と力に、道中の難所は次々と後方へ置き去りにされていった。


そして一向は文字通り、難なく彼らの住処へと辿り着いたのだった。



「着いたよ! ここがわっち達の住処だよ!」



沙雪の声が響く。


あれほど立ちはだかっていた様々な難所も、終わってみれば呆気ないものである。

まるで最初から何も問題など存在していなかったかのように……。


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