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天織り満天 - 交錯する世界を繋ぐ花 -  作者: 天堂 かける
第7章 雪山の妖怪

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第128話 雪ん子

雪山へと登り始めた一行は、その途中にあったコテージへと避難し、暖を取りながら休息を取っていた。


外では先程よりも吹雪の勢いが増している。

風が壁を叩きつけるたびに、建物全体が低く唸るような音を立てていた。

この吹雪は、まだまだ収まりそうにない。


そう思っていた次の瞬間——


ガチャ!


勢いよく入口の扉が開き、吹雪と共に見知らぬ人影が飛び込んできた。



「はぁー! 寒いよ〜。急に吹雪いてきたーって、あれ? なんであったかいの?」



元気な声と共に現れたその人物は、一人の女の子だった。


年齢は十歳くらいだろうか。

身長は130cm程。

肌と髪色は、新雪のような綺麗な白い雪色をしている。

髪型も首の辺りで揃えられた可愛いおかっぱ頭。


そこまではいい。


何よりも異様なのは、白い着物姿に草履という出立ちであることだ。


ここは雪山。


この場にそんな服装でいるなど、明らかに普通ではない。

しかし、その女の子は吹雪の中から現れ、実際に目の前へ立っている。



「……」



入って来た女の子は、先客がいたことに驚いたのか、無言で固まっている。

すでに寛いでいた一行も、あまりの不条理な存在に無言。



「……」

「……」

「……」

「……」



互いに見つめ合う時間、およそ三秒。

その短い沈黙を最初に破ったのは、入口に最も近い場所に座っていたクマ。



「……誰だおめぇ」

「!!?」



その一言を聞いた瞬間、白い女の子は、まるで信じられない物でも見たような顔で目を見開いた。


そして——



「……シ、シロクマのぬいぐるみが、喋ったーーーーー!?」

「いや、オラぬいぐるみじゃねぇし」



女の子はクマが喋ったことに心底驚いている様子。

その反応につられるように、黒柴の子犬姿をしたケルベロスも思わず口を挟む。



「というか、お嬢さん誰よ。そんな薄着で外にいるとか、もはやただの変態よ?」



当然、その反応も……。



「いーーーーー!? 犬のぬいぐるみも喋ったーーーーー!!」



そのやかましい反応に、クマとケルベロスは顔を見合わせる。

二匹は「またか」と言わんばかりに、揃って溜め息をついてしまう。


だがしかし、その女の子の反応はこれだけでは終わらなかった。



「か、可愛い!! ぬいぐるみが動いて喋るなんて初めて見た!!」



恐怖するどころか、瞳を輝かせながら二匹へ身を乗り出していくではないか。

驚きは、あっという間に歓喜へと変わっていた。



「どうなってるの!? ぬいぐるみの皮を被ったお化け!? すごーい!!」


「だからよ、ぬいぐるみじゃねぇって言ってっぺよ。何だその悍ましい表現」

「アタシ、この反応に少し慣れてきたかも……」



異常なまでの好奇心と勢いに、流石の二匹も押され気味である。


そんなやり取りを、桃花と佐助は静観していた。

とりあえず、まずは話を聞こうと桃花が一歩踏み出そうとするが……。



「桃花さん、迂闊に近寄らない方がよろしいかと。あれはおそらく話にあった通り、この雪山に出没する『妖怪の雪女』だと思われます」



佐助が静かに制止する。

その目は女の子から一瞬たりとも逸れていなかった。



「あの子が雪女? でも、まだ子供ですよ?」

「子供であろうと、こんな吹雪の中であのような軽装でいるなど、どう見ても普通ではありません」



張り詰めた空気が、コテージの中を包み込む。

しかし桃花は少女を見つめたまま、小さく首を傾げた。



「うーん……。でも敵意は感じませんし、大丈夫だと思いますよ?」

「ですが危険です。油断は命取りになります」



忍びとして最悪の事態を想定する佐助。

その声には、案内人としての責任感と警戒心が滲んでいた。


一方で桃花は穏やかな笑みを崩さない。



「でしたら、佐助さんは念の為に警戒をしていてください。もし何かありましたら対応をお願いします」


「案内人の拙者が後へ回るなど、そんなことは出来ません。でしたら拙者が行きますので、桃花さんはお下がりください」


「私は大丈夫ですので。佐助さんはそのまま、すぐ動けるようにしていてください」



しばしの沈黙。

桃花の意思が揺るがないことを悟ると、佐助は小さく息を吐いた。



「…………承知しました。ですが、どうか十分にお気をつけて」



桃花の毅然とした指示を受けた佐助は万が一に備え、いつでも動けるよう静かに身構える。


一方の女の子は、クマとケルベロスを見て楽しそうにきゃっきゃと笑っていた。


その様子を見ながら、桃花はゆっくりと驚かせないよう歩幅を小さくして近づく。

女の子の前で、そっと膝を折り、視線を同じ高さに合わせて優しく微笑みかけた。



「ねぇ。あなたのお名前は?」

「!?」



急に話しかけられて驚いたのか、その女の子はスッと一歩引いてしまった。



「………………わ、わっちの名前は……『沙雪さゆき』……」



警戒心を残したまま、小さな声で名乗る。



「私の名前は桃花って言います。ねぇ沙雪ちゃん、お外は凄く吹雪いてるけど、迷子になっちゃったの?」

「……」



沙雪と名乗った女の子は黙り込む。


桃花は、この『沙雪』という子供に合わせて穏やかに話をしていくが、沙雪は明らかに警戒している様子。

それは、背後で隙なく睨みを利かせている佐助に対しても同様であった。


先程のケルベロスやクマに見せた無邪気な態度とは、全く違う反応。

そんな空気を読んだのか、それとも読んでいないのか。


クマは唐突に自己紹介をぶち込んだ。



「オラの名前はクマだっぺ」

「………………え、え? クマ? あなたクマって言う名前なの? 熊が……くま?」



張り詰めていた空気の中で、あまりにもそのまんまな自己紹介をしたクマ。


思わず沙雪は、きょとんとして首を傾げてしまった。

その空気を和らげるように、ケルベロスも続けて自己紹介をする。



「沙雪ちゃんって言うのね〜♪ アタシの名前はケルベロスよ♡ ヨロシクねん♡」

「あ、うん……ヨロシク? え? ワンちゃんとクマさんって、ぬいぐるみじゃない……の?」

「そうよ。ちなみにお化けでもないわよ。ちゃんとした生き物だから」



これ以上の誤解を未然に防ぐため、ここでケルベロスはきっぱりと言い切る。

そして持ち前の遠慮の無さで、一気に核心へと迫る。



「沙雪ちゃんさ、アンタ『雪女』でしょ」

「……!!」



その一言に、沙雪の身体がぴくりと震える。

隠そうとしても、その動揺は隠し切れていなかった。



「別に驚くことじゃないわ。見た瞬間に分かったからね……でも意外だわ。もっとこう、男どもを惑わすような、エロいイヤらしい身体をした大人の女ってイメージがあったからさ」

「ケルちゃん言い方……」



あけすけな発言に、少々呆れる桃花。

それと同時に、距離の近いクマも普通に話の輪に入っていく。



「どっちかっつったら、オラは『座敷童』に見えるけんども」

「わっちは座敷童じゃないよ。このワンちゃんが言った通り、わっちは人間から『雪女』って呼ばれてる妖怪だよ。エロくて男を惑わす女って……もしかして、姉上のこと、かな……?」



沙雪の口からポツリとこぼれた、その最後の一言。


佐助の目が鋭く細められる。

後方で待機していた佐助の警戒が更に一段と強まった。



「姉上だと? まさか、雪女はもう一人いるのか……?」

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