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天織り満天 - 交錯する世界を繋ぐ花 -  作者: 天堂 かける
第6.9章 モンスターハント

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第122話 ミラクルメイクアップ

佐助は地面に転がるクマへ視線を落としたまま、静かに口を開く。



「先程、ケルベロスさんが使用していた、体の大きさを変化させていた技。それをクマへ使っていただきたいのです」


「そうくると思ったわ」

「それしかないもんね」



桃花とケルベロスは「やっぱりな」と全く同じ反応を見せた。



「それで、出来ますでしょうか?」



念のため確認する佐助に対し、ケルベロスは自信満々に胸を張る。



「もちろん出来るわ♪ コイツの大きさはどれくらいにする? 希望はあるかしら?」

「そうですね。今のケルベロスさんと同じくらい……では、いかがでしょうか?」


「余裕ね♪ 何なら更に小さくも出来るわよ♪ キーホルダーくらい縮められるわ♡」

「そんなにも小さく出来るのですか!? なんと素晴らしい! ではお願いします!」



その内容を聞き、目を輝かせる佐助。

普段は冷静沈着な彼女とは思えないほど、純粋に心を躍らせていた。


一方のケルベロスも、頼られて悪い気はしない。

むしろ気を良くし、ノリノリである。



「魔法って凄いよね。そんなことまで出来ちゃうんだからさ」



桃花は魔法を見て改めて感心した。



「ウフ♡ だって魔法だもの♪ アタシって、こういうの得意だからね〜♪」



得意げに笑うケルベロス。

そしてクマへ向き直ると、前足をゆっくりと突き出し、縮小魔法を発動させようとした。


だがその時。

ここまでずっと大人しく(というより状況が理解できずフリーズして)いたクマが突如として声を荒げた。



「お、おめぇらよ! オラを無視して勝手に話を進めてんじゃねぇっての! さっきから黙って聞いてりゃ好き放題言いやがってからに! 誰がおめぇらみてぇなイカれた連中と一緒に行くかってんだよ! ペットに成り下がんのもごめん被るっちゃ! いい加減に……!」


「キーホルダーになりなさーい♪」



クマの抵抗をガン無視した明るい声で魔法を放つ。

彼女の前足から淡い光が溢れ出し、一瞬でクマを包み込む。


そして、クマはあっという間にキーホルダーにされた。

そこにいたのは、わずか6〜7cm程まで極小サイズに縮められたクマ。


しかも頭には、金属製のキーチェーンがしっかりとブッ突き刺さっている。

まるで最初から、そういう商品だったかのような完成度。


そのまま地面にポテっと落ちたクマを、ケルベロスがチェーンの端を摘んで拾い上げる。



「あらあら、どうしたの〜? こんなにもバカみたいに小さくなっちゃって〜♪」

「オイ! ナンジャコリャ! ドウナッテンダッチャ! モトニモドセッチャヨ!」



声まで小さくなっていた。

その可愛らしい高音が、余計に笑いを誘う。

クマはキーチェーンにぶら下がったまま、ジタバタと必死に手足を動かして暴れている。


その光景を目の当たりにした佐助は、満足気に目を輝かせた。



「ああ! なんてことだ! これが魔法というものなのですか! 素晴らしい力です!」



普段の冷静沈着な忍びの印象はどこへやら。

どうやら彼女は、本物の魔法を見るのは初めてのことだったらしい。



「クマさんの体が、こんなにも小さくなるなんて……。魔法って、一体どうなってんの?」



桃花もクマの劇的な変化に驚きを隠せない。

何度も魔法は目にしているはずなのに、やはり理解は追いつかない様子。



「アタシにかかれば、これくらいチョロいものよん♪ 簡単すぎて眠くなるわ!」



誇らしげに胸を張る姿は、どこか得意げな先生のよう。



「流石ケルちゃん! ならさ! 違う動物の姿に変化させることとか出来る!?」


「ナンダッテ!!?」



クマだけが最悪の予感に震えた。



「ウフフ♡ もちろん出来ちゃうわよん♪ 何かに変化させてみる?」

「あ、じゃあさ! パンダにしてみて!」


「パンダ!!?」


「オッケーイ♪ それじゃ、次は……パンダになりなさーい♪」


「アアーーーーーー!?」



再び淡い光に包まれ、クマは一瞬で白黒のパンダへと姿を変えられた。

大きさもキーホルダーサイズから、子犬姿のケルベロスと同程度に調整されている。



「……はっ! オラどうなったっちゃ!?」



激しく混乱するパンダ。

当然、自分の姿は自分では見えない。


それを見た桃花は、着物の袖から手鏡を取り出し、しゃがみ込んでパンダの前へと差し出す。



「ほら! 見て見てクマさん! 可愛い子パンダになったよ!」



パンダは恐る恐る鏡を見る。



「……のぉっ!!?」



鏡に映る自分の姿。


そこには、まるで動物園の見世物のような、愛らしい子パンダの姿があった。

彼にとっては信じ難い悪夢だろうが、これは間違いなく現実である。


その事実を直視した瞬間……。



「……Nooooooooooooooooooooooooooo!!!!!」



まるでムンクの『叫び』のような悲しい表情。

そして悲しい絶叫が森中へ響き渡る。


そんなクマの絶望とは裏腹に、この状況を作り出した三人は、きゃっきゃと凄まじい盛り上がりを見せている。


パンダの悲鳴など、一切耳に入っていない。



「どこからどう見てもパンダですな! 凄い再現度です! これは忍びである拙者でも、到底到達できない技の極み……!」



佐助は最大限の賞賛を贈りながら、桃花の隣にしゃがみ込み、うっとりした表情でクマパンダを見つめている。



「ウッフ〜ン♡ こんなのは朝飯前なのよね〜♪ なんならもっとやれるわよ〜ん! ヘイ!  リクエスト〜カモーン!」



褒められて完全に気分を良くしたケルベロスが、更に調子に乗る。



「では拙者が! 次はレッサーパンダを所望します!」

「いいですね! パンダ繋がりのレッサーパンダ! それじゃケルちゃん! レッツゴー!」

「オッケーイ! あ〜らよっと〜♪」



ケルベロスの前足が再び光を放つ。



「やめてけろぉぉぉーーー!!!」



やめてけろと、彼が泣き叫ぼうが絶対やめないのがケルベロス。

こんな面白いことを、絶対やめさせるわけがない桃花と佐助。


そして光が消えていき、お目当ての姿が現れる。



「……おめぇらよ! オラで遊んでんじゃねぇっちゃ! マジで最低なヤツらだな!」



そこに立っていたのは、二本足で立ち上がるレッサーパンダ。

両手を大きく広げ、必死に威嚇のポーズをとっている。


だが、その仕草は怒っているどころか、ただただ愛らしい。



「これはいい!! すっごく可愛いよ!! クマさんはこの姿のままの方が絶対にいいって!!」

「確かに……! クマよりも、このレッサーパンダの方が愛らしい」



すこぶる評判が良いレッサーパンダ。

もはや元の姿になど戻らせない勢い。



「ウッフフ♡ そんじゃ次は、タヌキ! いってみましょ〜♪」

「あ! ならさ! 次は『青ダヌキ』にしてよ! あの丸々とした短足のやつ!」

「それは拙者も見てみたいです! 是非お願いします!」


「なんだって!? てめぇら! いい加減にしやがれっちゃ……! アッーーーー!?」



森の奥深くは、もはや狂乱のパーティー会場と化していた。

誰もクマの悲鳴など聞く耳を持たない。


その後もクマは、次々と様々な動物の姿に変えられ、着せ替え人形の如く散々弄ばれ、三人のおもちゃにされ続けた。


三人にとっては最高の遊び。

クマにとってはトラウマ確定、最悪の悪夢そのものであった……。


……………………………。


……………………。


……………。


……どれくらい時間が経っただろう。


木々の影は長く伸び。

周囲も少しずつ薄暗くなっていく。


夢中になって遊び続けた結果、気付けば空は橙色へ染まり始めていた。



「っはぁー! これ楽しいねー! まだまだ遊び足りないもん!」

「はい。ですが……少々楽しみすぎてしまいましたね。もう夕刻です」



満面の笑みを浮かべ、まだまだ遊び足りない様子の桃花。

その隣で、佐助は懐から趣のあるデザインの懐中時計を取り出し、冷静に時間を確認している。


つい時間を忘れ、遊び呆けてしまったようだ。



「マジ? もうそんな時間? ちょっと遊びすぎちゃったわね〜♪」



ケルベロスも調子に乗りまくって、魔法の無駄遣いを楽しんだようである。


そして——


その魔法の無駄使いを散々受け続けたクマはというと……。



「…………………」



その姿は、最終的に真っ白なアザラシの体にされていた。


精神崩壊寸前。


丸々とした身体で地面に転がり、微動だにしていない。

地上では這いずることしかできないその体では、絶対に逃げられない姿であった。



「それじゃ、この辺でお開きにしましょうかね〜♪」

「待ってケルちゃん! 最後に、最後にもう一回だけ! お願い!」



桃花が名残惜しそうに懇願する。


その瞬間。

真っ白なアザラシから、か細く弱々しい震えた泣き声が聞こえてきた。



「……もう……勘弁してください……。お願いします、お願いします……」



完全に心がへし折られていた。

先程までの威勢の良さは、文字通り影も形もない。



「……あなたのペットにも、何だってなりますので……お許しを……。どうか、元の姿に戻してください。お願いします……」



アザラシの姿で、まるで土下座をしているかのように地面へ突っ伏している。

地面の土には、大量の涙が染み込んでいた。


このアザラシからすれば、目の前で笑い合っている三人は、悪魔か鬼以外の何者でもないだろう。

昨日の物理的、精神的な暴力に引き続き、彼にとって今日も最恐最悪の1日になってしまった。


そんな姿を見下ろしながら、ケルベロスが呆れたように肩を竦める。



「なんで熊鍋にするって言われた時より辛そうにしてんのよ。普通逆でしょうが」

「……」



何も答えなかった。

いや、答える気力すら残っていなかった。


その空気を切り替えるように、佐助が口を開く。



「桃花さん、ケルベロスさん。とりあえず日が暮れる前に、このアザラシを連れ、今日の目的地である町へ向かいましょう。今なら余裕で辿り着けます」



そう言うと、ぐったりと地面に転がるアザラシをヒョイと拾い上げ、小脇に抱えた。

まるで荷物でも持つかのような、あまりにも自然な動作だった。



「やっぱり連れていくんですね……」

「もう反対はしないけどさ、アンタも物好きよね……」



結局連れていこうとするその執念に、二人は呆れ半分で溜め息をついてしまう。


そして、足早に進む佐助の後を追い、三人は本日の目的地へと向かって歩き出す。


こうして武神街までの同行者は、佐助とアザラシ姿のクマが加わり四人。

正確には、二人と二匹になった。


波乱の旅は、この後も更に賑やかに続いていく……。


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