第110話 未来への約束とレッドカード
その微笑ましい様子を、ずっと眺めていたフィオンと六郎の二人は、羨ましさと憧れの入り混じった眼差しを向けていた。
「……いいですね。連絡先の交換って、あんな感じで行われるんですね」
フィオンがぽつりと呟く横で、六郎も同意するように頷いた。
「僕はスマホをまだ持っていないので、あのような光景は何度も見たことはありますが、自分でやったことはありません」
「あれ? そうだったんですか? 六郎さんってスマホ持ってなかったんですね」
驚くフィオンに、六郎は少し照れたように微笑む。
「はい。今のところ、僕は特に欲しいとは思っていません。いずれは持つつもりではいますけどね」
「私も、スマホを持ってはいないのですが、こういうのを見ていると、ちょっと欲しくなりますね」
「あれ? フィオンさんもスマホ持ってなかったんですか? ちょっと意外です」
お互いの共通点を意外に思いながら、二人の距離が少し縮まる。
そんなフィオンと六郎の初々しく純朴な様子を、同時に観察していた信繁。
ここで彼は、キュピーンと閃く。
何やら妙な悪巧みを考えついたようだ。
悪戯を仕掛ける子どものように、怪しい笑顔をニヤリ。
楽しげな信繁は、二人の元へシュシュッと歩み寄る。
「ほっほ〜う。フィオンちゃんもスマホ持ってなかったんだな。それなら今度、六郎と契約してこいよ。初めての連絡先交換だって、その場ですぐに出来るぞ!」
突然の提案に、フィオンと六郎は顔を見合わる。
そして二人同時に「え?」と素っ頓狂な声を漏らした。
しかし、フィオンはその提案に魅力を感じたのか、はにかむように微笑む。
「そうですね。今はまだ、お金に余裕がありませんので無理ですけど、もし貯まってきたら六郎さんも一緒に買いに行ってもらえると嬉しいです! 私、こういうのはあんまり詳しくないので……」
「え、えっと……。そう言ってもらえると、僕も嬉しいのですが……」
六郎は嬉しそうにしながらも、ふと現実的な問題に気づき、眉をひそめた。
「……僕は、まだ未成年なので契約はできません。 なので、フィオンさんの端末を選ぶことくらいしか、お役に立てないかと思いますが……」
もっともすぎる六郎の正論に、信繁はすべて織り込み済みな態度。
すでに、「全部わかってまーす」と言わんばかりに、自信満々の顔で胸を叩いた。
「そこは俺が契約してやるよ! 一応、俺がお前の保護者みたいなもんだからな! 任せとけって! 心配ないさー!」
その力強い言葉に、六郎もフィオンもパッと顔を輝かせる。
佐助との連絡先交換を終えたばかりの桃花とケルベロスも、その賑やかな会話が耳に入っていたようだ。
二人も嬉しそうに声を弾ませて輪に加わる。
「私も、フィオンさんと六郎君と交換したいです! ここで終わるのは寂しいもんね」
「そうね〜♪ ダンディとレディの連絡先は交換したから、フィオンちゃんと六郎ボーイがスマホ持った時にでも、教えてもらいましょ♡」
「二人がスマホ手に入れたら、俺から連絡してやるよ!」
この流れを作った信繁は、ノリノリの上機嫌といった感じである。
思いがけず、未来の約束を貰う形となったフィオンと六郎は、とても嬉しそうな表情を浮かべていた。
この出会いが、その場限りの一期一会で終わってしまわないよう、これからもずっと大事に繋いでいきたい。
そんな温かい想いが優しく広がっていく。
「ねぇ、ダンディ。さっきみんなで撮った写真、アタシに転送してもらえるかしら?」
「もちろんだ! 思い出として取っときな!」
ケルベロスからそのように言われた信繁は、手際よくスマホを操作し、画像のデータを送信する。
「ありがとね♡ あとその写真って、アタシのSNSに投稿してもいいかしら?」
画像を受信しながら、ケルベロスが確認を取った。
「俺は構わないぞ。みんなはどうだ?」
信繁は一緒に写真を撮った、佐助、六郎、フィオン、そしてこの場に姿を見せていない才蔵を含めた四人に確認を取った。
「拙者は問題ない」
「僕も構いませんよ」
佐助が涼しい顔で即答する。
六郎も笑顔で頷いた。
「私も大丈夫です! というか、SNSってなんですか?」
フィオンだけは元気よく返事をしたはいいものの、根本的な疑問を口にして首を傾げていた。
するとその直後、信繁のスマホに一通の通知が届いた。
画面を開き、内容を確認するとそこには……。
「 d( ̄  ̄) OK! 」
という、短い顔文字だけが送られてきていた。
送り主は、この場に姿を見せていない才蔵。
彼らしい、全く問題ないという意味の返答なのだろう。
その自由すぎる返事に、信繁は思わず苦笑する。
一同の了承を得たその一方で、桃花はふと疑問を抱いていた。
(……あれれ? 猿飛さん、さっき連絡先を教えるのは渋ってたのに、SNSに画像を載せるのはいいんだ……。基準がわからん)
そんな謎が頭をよぎる。
よく分からない忍びのセキュリティ基準に、桃花は心の中で盛大なツッコミを入れた。
だが彼女は、敢えてこの場の空気を読み、それを口に出さず胸の奥にそっと仕舞い込む。
その間にも、信繁から転送されてきた写真を、次々と確認していくケルベロス。
とても嬉しそうな表情で画面をスクロールさせていく。
「ウフ〜ン♡ みんな酔っ払って暴れてるようにしか見えないわよ〜♪ これは映えるわね〜って…………え、え?」
楽しげだったケルベロスの声が、途中でピタリと止まった。
スマホの画面を凝視したまま、瞬きもせずにフリーズしている。
送られてきた写真の中に、一部「関係のない写真」が紛れ込んでいるのを見つけてしまったのだ。
画面を見つめるケルベロスは、引きつった笑みを信繁に向ける。
「……ダンディ、今もらった写真の中に、なんかすんごいのが混ざってたんだけど……。これって大丈夫かしら?」
「ん? 違う写真が混ざってたか? どれどれ……」
信繁は気楽にケルベロスの画面を覗き込むが……。
「………………すまん。これは、アウトなやつだな……」
あの豪放磊落で、多少の修羅場では眉一つ動かさないあの信繁が動揺した。
その彼が、思わず「アウト」と声を漏らすほどの「ヤバい写真」。
信繁の過去の秘密か、あるいは致命的な失態を捉えたものなのか。
それとも、また別の「何か」か……?




