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天織り満天 - 交錯する世界を繋ぐ花 -  作者: 天堂 かける
第6.2章 一撃勝負

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第107話 敗者と勝者

「そこまで! 勝負あり。勝者……真田信繁」

「……え?」



佐助から発せられた、この唐突な試合終了の言葉に、桃花は言葉の意味を理解できずにいた。

それは観戦していた三人も同様である。


ついでに言うと、勝ったと言われた信繁本人すら「?」という表情を浮かべているほど。



「なんだ佐助? 俺が勝ったのかよ?」

「ああ、ノブの勝ちだ」



この判定に納得のいかない信繁は、眉をひそめて問い返す。



「俺、なんかやったか? 有効打なんてないはずだが?」

「さっき桃花さんの頭の上に、ポンと手を乗せただろ」


「は? あれが?」

「そう。それで一本だ」



この手合わせは、部位を問わず、「体に攻撃が当たった時点で一本」という取り決めになっていた。

佐助は、信繁が桃花の頭へ優しく手を乗せた行為を、「有効な攻撃」と看做した。

ということらしい。



「おいおい佐助。あれは攻撃じゃないだろう」

「だが実際、しっかりと当たっていただろう? あの時はまだ試合中だった。それに、拙者を判定人として選んだのはノブだ。何か不満でも?」



苦笑しながら抗議する信繁に、佐助は表情を一つも変えずに正論を突きつける。



「お前を判定人として選んだのは、確かに俺だけどよ。だとしても、こんな終わり方ってのはなぁ……」

「ふふっ、いいじゃないか。誰も傷付かず、平和的に決まったんだからな」



判定人の佐助がそのように言う以上、信繁も従うしかなかった。

張り詰めていた空気は霧散し、その場には穏やかな余韻が広がっていく。


一連の流れを見ていたケルベロスは、満足げな表情を浮かべて身を乗り出す。



「あのレディったら、なかなか粋なことするじゃな〜い♪ これには流石のダンディも、あれ以上は何も言えないわよね〜♡」



その横でフィオンは、桃花と信繁の勝負を目の当たりにし、未だに驚きを隠せない様子。

興奮で微かに声を震わせながら語る。



「ケ、ケルベロスさん……。桃花さんって、あんなに凄い動きができたんですね。正直、驚きが止まりませんよ。信繁さんも、もの凄くお強い……」



隣にいた六郎も同様だった。



「……え? もう終わりですか……?」



このあまりの衝撃的な出来事の連続に、未だ現実感が追いついていない。

それほどまでに、今の勝負は常識外れであった。


一方、佐助の判定に対し、信繁はしばらく腕を組みながら「う〜ん」と唸っていた。

だが根が破天荒で大雑把な彼は、すぐに「ま、いっか!」と豪快に笑って納得した。



「佐助が言うなら、それでいいわ! というわけで、また俺の勝ちだな!」



そう言って信繁は、再度桃花の頭にポンと手を乗せ、今度は髪をくしゃくしゃと優しく撫で回す。



「うー、また負けたぁ……」



唇を尖らせて悔しがる桃花。

そう口では言いつつも、彼女の表情はどこか嬉しそうだった。


敗北の悔しさはある。


だがそれ以上に、信繁と近くにいられる心地よさの方が勝っているようであった。

そんな桃花へ、信繁は感心したような口調で語りかける。



「だがよ。正直言って驚いたよ! 六年前から段違いに成長したじゃねぇか! 流石は、あの最強じいさんばあさんに鍛えられただけあるぜ!」



思いがけない大絶賛に、パッと顔を輝かせる。



「え? そ、そうかな?」

「ああ! これは俺も油断してっと、近いうちに負けっちまうかもな!」



満面の笑みで太鼓判を押してくれる信繁。

しかし、桃花は彼の戦いの中での一瞬の身のこなしを思い出し、ジト目になって尋ねる。



「とか言うけどさぁ……。信繁おじちゃん、手加減してたでしょー。私わかるからね?」

「マジ? 一応、力の加減はしたが、手だけは抜いてねぇぞ! というか、それを言うなら桃花ちゃんの方こそ本気出してなかっただろ」


「いや! 私本気だったよ! そうしないと信繁おじちゃんに絶対勝てないじゃん!」

「……もしかして無自覚か? 自分でも気づいてないってことか?」


「な、何? 私、手加減なんてしてないからね!」

「いや、悪いな。真の実力はともかくとして、本気だったのは伝わったぜ! 気にすんな!」



信繁の話を聞いていたケルベロスも、彼と同じことを感じていた。



「……やっぱり、ダンディもそう感じたのね」



以前、桃花に似たようなことを尋ねていたことがあった。

ケルベロスが仲間になった直後に……。

あの時の感覚は、やはり間違いではなかったと改めて思う。



「……なんか気になる言い方だけど?」

「もういいだろ? あれ以上続けて、桃花ちゃんに怪我させたくなかったしよ」


「……あっ!」



ここで桃花は思い出した。

自分が先ほど放った、あの凶悪で近所迷惑極まりない技——『打破是空隕』。


もし信繁が同じ技で相殺してくれなければ、周囲一帯はどうなっていたことか。

さっきまで舞い上がって忘れていた罪悪感が、一気に押し寄せる。



「ご、ごめんね! ついうっかりと言うか! 私、あんな危ない技を信繁おじちゃんに……」

「別にいいって! 俺も同じことやったしな!」


「で、でもまさか……。あの技を同じように出して、相殺させるとは思わなかったよ。いくらなんでも出鱈目すぎだって……」

「だははっ! 細かいことは気にすんなって!」


「全然細かくないよ。私、あの技を覚えるのに、けっこう苦労したんだよ? それを一瞬見ただけで私より強い力で返すとか……。ちょっと凹むんですけど」



桃花は呆れと感嘆の混じった溜め息をついてしまう。

自分の努力をあっさりと超えられた事実に、少しだけ複雑な余韻が残る。


軽く文句を言う桃花だったが、全く気にしていない信繁は、ふとあることを思い出した。



「というか桃花ちゃんよ。軽すぎだろ」

「え?」



信繁は、自身の腕を見つめながら、とんでもない比較対象を口にする。



「俺が普段使ってるダンベルの重量よりも軽いぞ」

「な、ええっ……!!?」



デリカシーの欠片もない信繁の発言に、桃花は今日一番の衝撃を受けて絶叫した。


もちろん周りの観客や、隠れていた者(才蔵)も、そのあまりに不名誉な例えに驚愕した表情を浮かべてしまう。


当然、その失言をしっかりと拾っていた佐助は、額を押さえ、深い溜め息をつく。



「はぁ……もうノブ。そういうことは、女性に対して言うものじゃない。全く……」



それを言われた信繁は「ありゃ?」という顔。

どうやら失言だったという自覚がないらしい。


そんな締まらない空気の中、一瞬だった手合わせは、信繁の勝利で幕を閉じる。


だが……。


ここで終わりではない。

むしろ問題は、この後である。


この規格外の技の応酬がもたらした出来事をきっかけに、ちょっとした大騒ぎが巻き起こることになるのだった。


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