第103話 エロティカ・セブンティーン
二人の話を聞いていた佐助が、その「秀吉」という人物についての補足を入れてきたのだが……。
「……先程ノブが話した通り、そのお方は以前、我々が仕えていた『豊臣秀吉』様というお方です。ですが……」
佐助は一旦、意味深に言葉を切った。
そして……。
「敢えて控えめに申し上げますと……。そいつはただの『アホの変態スケベザル』という名で発見された、新種のバカザルです」
全く控えめに申し上げていない。
しかも補足の説明ではなく、ただの悪口である。
だが、それを発言した佐助は真顔。
そのあまりの不意打ち暴言を聞いてしまった信繁は、度肝を抜かれたように慌てた声を上げてしまう。
「ちょっ、おい佐助! それはいくら何でもストレート過ぎるだろ。その呼び方は俺でさえ、ちっとは躊躇したぞ」
それでも、当の佐助は一切気にした様子はない。
全く物怖じせず、遠慮の欠片もないその態度に、流石の信繁も若干引いている。
二人のやり取りを見た桃花は、もはや苦笑いしかできなかった。
「……の、信繁おじちゃんは、その秀吉さんって人から十文字槍を貰ってたんだね」
「ああ。ちなみにその秀吉さんな、今はこの十文字村の『村長』やってるんだぜ」
「そうだったの? 今も近くで関わってるんだね」
その瞬間だった。
まるで「待ってました」と言わんばかりに、再び佐助が割って入ってくる。
「こう申し上げるのもなんですが、その秀吉様……いえ、ヤツのことは『スケベザル』で十分ですね。そのスケベザル、この村の村長してるくせに、自分の欲望に従い過ぎてやりたい放題なんですよ。しかも顔が猿に似てるのをいいことに、あろうことかアホみたいな猿の着ぐるみで正体を偽装し、あたかも “ワシはメス猿ですけど何か?” と言わんばかりに、堂々と女湯に入っていくド変態男なんです。ゲスの極みです」
秀吉の「元・天下人」という、殿堂入りの肩書きがあるにもかかわらず、あまりにも情けない末路。
それを聞いた桃花は、「過去に秀吉から何かされたのか?」と、そんな疑念が自然と頭を過ってしまう。
だが佐助の話は、蛇口から激しく流れ出す水のように、まだまだ止まる気配はない。
「しかもスケベザル。とても素敵な奥方がいるにもかかわらず、呆れるほどバカみたいに不倫を繰り返しておりましてね。それがあって、現在は別居中で独り身同然の暮らしをしております。別居直前に奥方は、長年積もり積もった苦労や怨みを晴らすかのように、そのスケベザルを徹底的に拳でボコボコに叩きのめしてギャン泣きさせた後、颯爽とヤツの元から去っていったんです。とはいえ、スケベザルにとっては不幸中の幸いなのでしょうか、まだ離婚には至っておりません。全く、なぜ『寧々』様は、あんなアホとまだ一緒にいるんだか……。さっさと見限り、捨て置けばいいものを……。ご命令とあらば、今すぐにでもヤツへ毒を盛り、一瞬で地獄へ叩き落としてやるのだが」
冷静ではあるが、明確な殺意と怨念を含んだ、かなり物騒な糾弾。
しかも、普通に人のプライベートを暴露しまくるという暴走ぶり。
まるで長年溜め込んでいた恨み言を、一気に吐き出すかのように語り切ってしまった。
どうやら秀吉という人物は、激しくおちゃめ……いや、相当厄介な問題しかない性格らしい。
佐助のあまりの熱量に、桃花は思いっきり引きつった笑みを浮かべてしまう。
——この人、絶対に秀吉さんから何かされたな……。
そう勘繰らずにはいられなかった。
「ひえぇぇ。秀吉さんって、そんな人だったんですか……。それにしても酷い言われようだなぁ……」
桃花が苦笑混じりにそう漏らす。
それを見かねた信繁が慌ててフォローへ回るが……。
「ま、まぁ……。確かに、佐助や寧々っちの気持ちはよくわかる……。でも秀吉さんはいい人だぞ! 頭も良くて部下の面倒見はいいし、誰にでも気さくに接するからな。よく俺んとこに来て、一緒に酒飲んでるくらいだからね。あの人、無駄に寂しがり屋な一面があるからよ」
ここまでは、美談だった……。
しかし、信繁の拳が徐々に握りしめられ、その顔に隠しきれない感情が浮上してくる。
「でもなぁ……。さっき佐助も言ってたが、秀吉さんって超女好きなんだわ。しかも若くて可愛い美人な女の子を見つけると、即口説きに入りやがる。しかも隙あらば、すぐ調子に乗ってお触りまで開始しようとする手癖の悪さ……。全く、その場を宥める俺の身にもなれってんだよ。あれすっげぇ大変なんだぞ! あのスケベザルめ! 桃花ちゃんには絶対会わせられねぇよ! 今まで秀吉さんを何回ぶっ飛ばしてやろうと思ったことか……」
途中までは、確かにフォローであった。
だが話しているうちに、徐々に信繁の中でも何かが込み上げてきたのだろう。
信繁と秀吉の、腐れ縁が見て取れる内容だが、最後には結局「怒り」が勝ってしまっている。
その言葉には、もはや躊躇も遠慮もなかった。
佐助と同様、過去から現在までに、相当な迷惑をかけられてきたのだろう。
だが、それでも本気で嫌っているわけではないのが、口調の端々から不思議と伝わってくる。
長い付き合いだからこその、呆れ混じりの信頼関係なのかもしれない。
佐助だけは除いて……。
その一方で——
その話の聞いたフィオンは、どこか気まずそうに苦笑いを浮かべていた。
視線も微妙に泳いでいる。
その反応を見る限り、美少女エルフである彼女もまた、その「スケベザル」の被害者なのだろう。
そんなフィオンの様子を察した佐助が、静かに彼女へ寄り添うように口を開く。
だがその内容は、これまたとんでもなく物騒極まりない、恐ろしい言葉だった。




