表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能王子、東の塔で神霊を得る  作者: 伊佐波瑞樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
97/251

第97話「戦いの後、無能王子は初めて“帰る場所”を知る」



 青空だった。


 さっきまで赤く染まっていた空が、嘘みたいに静かだった。


 封鎖結界は消えた。


 侵食魔力も残っていない。


 残っているのは、戦いの跡だけ。


 砕けた石畳。


 崩れた校舎の一部。


 焼け焦げた前庭。


 でも。


 学園は残った。


 生徒たちも。


 教師たちも。


 誰一人欠けずに。


「……終わったんだな」


 バルドが空を見上げながら呟く。


 戦斧を肩へ担いだまま、大きく息を吐く。


「生きてんのが奇跡だろ、これ」


「ええ」


 クラウスも静かに頷いた。


「普通なら壊滅していた」


 王城騎士団の何人かは、まだ呆然としている。


 赤眼。


 地下施設。


 封鎖結界。


 全部、信じられないものばかりだった。


「副団長……」


 一人の騎士が震える声で言う。


「俺たち、ずっと……」


 クラウスは短く返した。


「後で整理しろ」


「今は負傷者優先だ」


「……はい!」


 騎士たちも動き出す。


 学園側と協力して、瓦礫撤去や治療補助を始めていた。


 さっきまで敵だったはずなのに。


 今は、同じように走り回っている。


 エリシアがその光景を見ながら、小さく息を吐く。


「変な光景ですわね」


「まあな」


 アルベルトが苦笑する。


「でも嫌いじゃねぇ」


 その時。


「レイさん!」


 医務班の教師が叫ぶ。


「治療室の準備できました!」


 リリアーナはすぐに頷いた。


「お願いします!」


 彼女は、ずっとレオンを抱えたままだった。


 正確には。


 抱えたまま離せなかった。


「……リリアーナ様」


 エリシアが苦笑する。


「そろそろ下ろしても?」


「だ、駄目です!」


「なんでですの?」


「だってまた無茶したら困るじゃないですか!!」


「今は気絶してますわよ」


「……あ」


 リリアーナの顔が真っ赤になる。


 アルベルトが吹き出した。


「お前、完全に嫁ポジだな」


「なっ……!?」


「違います!!」


「でもずっと抱えてるぞ」


「うっ……!」


 リリアーナは真っ赤なまま、視線を逸らした。


 だが。


 結局、腕は離さない。


 エリシアが小さく笑う。


「もう隠す気ありませんわね」


「そ、そういうんじゃ……!」


 その時だった。


「……ん」


 レオンが小さく動いた。


 リリアーナが即座に顔を近づける。


「レイさん!?」


「大丈夫ですか!?」


 レオンは薄く目を開ける。


 ぼやける視界。


 最初に見えたのは。


 泣きそうなリリアーナの顔だった。


「……近い」


「誰のせいですか!!」


 即座に怒鳴られた。


 レオンが少しだけ目を細める。


「生きてるか」


「生きてます!!」


「そうか」


 そのまま、また目を閉じかける。


「寝ないでください!!」


「……眠い」


「当たり前です!!」


 エリシアが横から口を挟む。


「ほぼ自壊寸前でしたもの」


 クラウスも近づいてくる。


「右腕は特に酷い」


「しばらく動かすな」


 レオンは小さく眉を寄せる。


「動かないと困る」


「動くなと言ってる」


「……」


「そこは素直に聞け」


 レオンは数秒黙り。


「……努力する」


「絶対しませんわね」


 エリシアが即答した。


 アルベルトも頷く。


「しねぇな」


「しませんね」


 リリアーナまで乗る。


 レオンが少しだけ不満そうな顔をした。


「信用ないな」


「あります」


 リリアーナが即答する。


「でも無茶する信用がありすぎるんです」


「……」


 否定できない。


 その時。


 小さな足音が聞こえた。


 ルミア。


 ユノ。


 そして。


 アレンだった。


 まだふらついている。


 だが。


 ちゃんと、自分の足で立っていた。


 レオンは少しだけ目を開ける。


「……大丈夫か」


 アレンは数秒黙り。


 そして。


「……助けてくれて」


 掠れた声。


「ありがとう」


 その瞬間。


 周囲が静かになった。


 地下施設で。


 名前を奪われ。


 怪物にされた少年。


 その子が。


 今、自分の名前で立っている。


 レオンは小さく息を吐く。


「間に合って良かった」


 アレンの目が揺れる。


「……なんで」


「え?」


「なんで、助けたの」


 一拍。


「怪物だったのに」


 レオンは少しだけ考え。


 そして、静かに言った。


「泣いてたから」


 アレンが止まる。


「助けてって言ってた」


「だから助けた」


 当たり前みたいに。


 本当に自然に。


 レオンはそう言った。


 ルミアが泣きながら笑う。


 ユノも目を擦る。


 アレンは唇を震わせ。


 そして。


 初めて、ちゃんと笑った。


「……そっか」


 その笑顔を見て。


 リリアーナの胸が熱くなる。


 エリシアも静かに目を伏せた。


 クラウスが小さく息を吐く。


「王城は……本当に馬鹿だな」


 アルベルトが笑う。


「同感」


 その時。


 学園長がゆっくり前へ出た。


 静かな拍手。


 パン――。


 一回。


 また一回。


 それが、周囲へ広がっていく。


 教師。


 騎士。


 生徒。


 誰からともなく拍手が始まる。


 レオンは少しだけ目を見開いた。


「……何だ」


「当然でしょう」


 エリシアが笑う。


「学園を守った英雄ですもの」


「英雄……」


 レオンが嫌そうな顔をする。


 アルベルトが吹き出した。


「似合わねぇ顔すんな」


「向いてない」


「でも実際そうだろ」


 リリアーナが小さく頷く。


「……わたしは、そう思います」


 レオンは少し黙る。


 拍手。


 歓声。


 感謝の声。


 東の塔では、絶対に聞こえなかった音。


 昔の自分なら。


 居心地悪くて逃げていた。


 でも今は。


 少しだけ。


 悪くないと思ってしまった。


 その時。


 遠くの校舎屋上。


 誰かが静かにこちらを見ていた。


 白いローブ。


 金色の瞳。


 長い銀髪。


 女性だった。


 彼女は静かにレオンを見つめる。


『……黒蒼雷』


 小さな声。


『本当に目覚めたんだ』


 その瞳には。


 驚きと。


 どこか懐かしそうな色が混ざっていた。


 だが。


 誰も、その存在には気づかない。


 レオンだけが。


 ほんの一瞬だけ、屋上へ視線を向けた。


「……?」


 気のせいかと思う。


 だが。


 そこには、もう誰もいなかった。


 風だけが静かに吹いていた。


 そして。


 王立アルディア学園。


 赤眼襲撃事件。


 その戦いは終わった。


 だが。


 王城の闇。


 神霊。


 そして黒蒼雷。


 全ては、まだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ