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無能王子、東の塔で神霊を得る  作者: 伊佐波瑞樹


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第95話「黒蒼雷VS神霊侵食核、無能王子は“壊れた大人”を真正面から叩き潰す」



 ドォォォォォォォンッ!!!!


 空が裂けた。


 黒蒼雷。


 赤い侵食核。


 二つの力が、真正面から激突する。


 轟音。


 衝撃波。


 赤い封鎖結界そのものが悲鳴を上げた。


「っ……!」


 教師陣が結界維持に必死になる。


 学園の建物が震える。


 石畳が浮き上がる。


 だが。


 誰も目を逸らせなかった。


 空。


 その中心。


 レオンとオルディスが、真正面からぶつかっていた。


 黒蒼雷が空を駆ける。


 オルディスの赤い侵食魔力が、それを呑み込もうと広がる。


『無意味だ』


 オルディスが低く言う。


『感情では世界は変わらない』


『人は壊れる』


『だから管理するしかない』


 レオンは黒蒼雷を纏ったまま突っ込む。


「じゃあ」


 一歩。


「お前は何で壊れた」


 空気が止まる。


 オルディスの目が細くなる。


『……何?』


「お前、自分で言ってる」


 レオンの刀が赤い侵食を斬り裂く。


 バチィィィィィッ!!


 黒蒼雷が空を焼く。


「人は壊れるって」


「お前が一番分かってる」


 オルディスの周囲の赤い魔力が揺れた。


 ほんの僅か。


 だが確かに。


 レオンは続ける。


「だから全部切り捨てた」


「感情も」


「名前も」


「他人も」


 一拍。


「自分も」


 その言葉。


 オルディスの顔から笑みが消える。


 赤い瞳が揺れた。


『……黙れ』


「図星か」


『黙れ!!』


 侵食核が爆発的に膨れ上がる。


 赤い波動が空を埋め尽くす。


 学園側が再び苦しみ始めた。


「うっ……!」


「魔力侵食……!」


 リリアーナが膝をつく。


 だが。


 次の瞬間。


 黒蒼雷が、彼女たちを包み込む。


 優しい熱。


 侵食を押し返す雷。


 エリシアが目を見開く。


「……防いでる」


「全部、一人で……!」


 クラウスが低く呟く。


「いや」


「違うな」


 全員が見る。


 クラウスは空を見上げたまま言う。


「あれはもう、一人の戦い方じゃない」


 確かに。


 今のレオンは違う。


 ヴァルガ。


 ノワール。


 リリアーナ。


 アレン。


 ルミア。


 みんなの声を背負って戦っている。


 だから。


 黒蒼雷は壊すだけじゃない。


 守っている。


 オルディスが歯を食いしばった。


『何故だ……!』


『何故そこまで他人へ拘る!!』


『切り捨てれば楽になる!!』


『痛みも消える!!』


 叫びだった。


 研究者じゃない。


 壊れた人間の叫び。


 レオンは静かに答える。


「それ」


 一歩。


「逃げてるだけだろ」


 オルディスの赤い瞳が見開かれる。


「痛いから切った」


「失いたくないから捨てた」


「壊れたくないから閉じた」


 一拍。


「全部、お前の弱さだ」


 その瞬間。


 オルディスの侵食魔力が暴走した。


 ゴォォォォォォォッ!!


 赤い空間が歪む。


 怒り。


 否定。


 そして。


 隠し切れない焦り。


『違う!!』


『私は正しい!!』


『私は!!』


 レオンが一気に踏み込む。


 黒蒼雷加速。


 空間が弾けた。


 ギィィィィィンッ!!


 刀と侵食術式が激突する。


 オルディスが目を見開く。


 速い。


 今までよりさらに。


 レオンの踏み込みが深い。


「っ――!」


 オルディスが赤い槍を展開。


 無数。


 だが。


 レオンは止まらない。


 黒蒼雷が槍を砕く。


 影が侵食を喰う。


 ヴァルガが笑う。


『押し切れ、主!!』


 ノワールも低く言う。


『今のお前なら届く』


 レオンは刀を握る。


 右腕が限界を超える。


 でも。


 止めない。


 オルディスが叫ぶ。


『何故だ!!』


『何故壊れない!!』


 レオンは真正面から答えた。


「支えられてるからだ」


 その瞬間。


 リリアーナの瞳が揺れた。


 エリシアも息を呑む。


 空。


 黒蒼雷の中。


 レオンは確かに言った。


「一人じゃないから」


 オルディスが止まる。


 一瞬。


 本当に一瞬だけ。


 その隙。


 レオンは逃さなかった。


 黒蒼雷が、さらに深く唸る。


 神霊輪が回転。


 空間が裂ける。


「――終わりだ」


 静かな声。


 次の瞬間。


 黒蒼雷の一閃が、オルディスの侵食核を真正面から斬り裂いた。


 ドゴォォォォォォォォォンッ!!!!


 赤い空が砕けた。


 侵食核が崩壊する。


 オルディスの瞳が揺れる。


『……ありえ、な……』


 黒蒼雷が赤を呑み込む。


 封鎖結界が崩れ始めた。


 バキィィィィンッ!!


 赤い空へ、巨大な亀裂。


 学園中へ風が吹き込む。


「結界が……!」


「壊れてる!!」


 教師たちが叫ぶ。


 リリアーナが空を見る。


 赤い封鎖空間。


 それが、黒蒼雷に押し潰されていく。


 オルディスが、初めて恐怖の顔をした。


『やめろ……!』


『この研究は必要なんだ!!』


『神霊は管理しなければならない!!』


『人は弱い!!』


 レオンは静かに答える。


「知ってる」


 一歩。


「弱いよ」


「だから支えるんだろ」


 オルディスの赤い瞳が揺れる。


 完全に崩れ始めていた。


 レオンは続ける。


「お前は」


「弱さから逃げた」


「だから」


 一拍。


「誰も救えなかった」


 その言葉。


 オルディスが止まる。


 何かを思い出したみたいに。


 一瞬だけ。


 悲しそうな顔をした。


 だが。


 次の瞬間。


 赤い術式が、オルディス自身を包み込んだ。


 ルカの顔色が変わる。


「まずい!!」


「何ですの!?」


「自壊術式!!」


 空気が凍る。


 オルディスが笑った。


 歪に。


 壊れたまま。


『なら最後に』


『全部巻き込んで終わらせる』


 赤い魔力が暴走する。


 学園側が青ざめる。


「そんな……!」


「まだ終わってない!?」


 だが。


 レオンの目は静かだった。


 黒蒼雷が、さらに深く収束していく。


 ヴァルガが低く笑う。


『行けるか、主』


 ノワールも問う。


『全部斬る?』


 レオンは短く答えた。


「ああ」


 その瞬間。


 黒蒼雷が、空全体を覆った。


 オルディスが初めて恐怖する。


『な……』


「もう」


 レオンが刀を構える。


「終わりだ」


 静かな声。


 だが。


 今までで一番重かった。


 そして。


 黒蒼雷が、赤い暴走術式ごとオルディスへ振り下ろされた。

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