表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能王子、東の塔で神霊を得る  作者: 伊佐波瑞樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/142

第86話「第一騎士団副団長、無能王子は“守るための戦い方”を覚え始める」


 ギィィィィィン――ッ!!


 黒雷。


 白銀。


 二つの刃が正面から激突する。


 衝撃波が学園正門前を吹き抜けた。


 石畳が砕ける。


 結界が軋む。


 周囲の騎士たちが思わず後退した。


「速ぇ……!」


 アルベルトが目を見開く。


「初撃でこれかよ……!」


 エリシアも目を細めた。


「第一騎士団副団長……」


「想像以上ですわね」


 クラウスは鋭い細剣を滑らせるように動かす。


 無駄がない。


 小さい動き。


 だが、異常に速い。


 レオンの刀を逸らし、そのまま喉元へ最短で突き込む。


「っ――!」


 バチィッ!!


 黒雷加速。


 レオンの身体が雷と共に横へ消える。


 突きが空を裂いた。


 次の瞬間には、レオンの斬撃がクラウスの背後へ迫る。


 だが。


「甘い」


 クラウスが身体を半歩ずらす。


 斬撃回避。


 同時に回転。


 白銀の剣閃。


 レオンの脇腹を狙う。


 ギィンッ!!


 レオンが刀で受ける。


 だが。


「っ……!」


 重い。


 速いだけじゃない。


 細剣とは思えないほど一撃が鋭い。


 クラウスが低く言う。


「迷っているな」


「何がだ」


「守りながら戦っている」


 一瞬。


 レオンの目が揺れる。


 クラウスは見逃さない。


「以前のお前なら、もっと踏み込んだ」


「相打ち上等で首を取りに来ていた」


 一歩。


 白銀が閃く。


「だが今は違う」


「後ろを気にしている」


 ギィン!!


 再び激突。


 黒雷と白銀が火花を散らす。


 クラウスの言葉は正しかった。


 今のレオンは、“守りながら”戦っている。


 学園。


 子供たち。


 リリアーナ。


 エリシア。


 後ろに守るものがある。


 だから、以前のような捨て身が使えない。


 いや。


 使いたくない。


 その変化を、クラウスは見抜いていた。


「悪い変化ではない」


 クラウスが静かに言う。


「だが、迷えば死ぬ」


 瞬間。


 クラウスの姿が消えた。


「――!」


 速い。


 今までで最速。


 白銀の残光が三つに分かれる。


 フェイント。


 幻影。


 本命は――右。


 レオンが反応する。


 黒雷加速。


 ギィィィィン!!


 刃が噛み合う。


 だが。


 クラウスの左手が動いていた。


「っ!」


 肘打ち。


 鈍い衝撃。


 レオンの身体が吹き飛ぶ。


 地面を滑る。


 石畳が砕ける。


「レイさん!!」


 リリアーナが叫ぶ。


 だがレオンは即座に立ち上がる。


 口元から血。


 右腕の包帯も裂けた。


 傷が開いている。


 クラウスが目を細める。


「……本当に無茶をするな」


「お前もだ」


「仕事だからな」


「俺もだ」


 クラウスが少しだけ目を細めた。


 その時。


 王城騎士団側が動いた。


「副団長の援護を!」


「突入準備!」


 白銀鎧の騎士たちが一斉に前進する。


 だが。


「行かせません!」


 リリアーナの銀結界が広がった。


 ガァァァン!!


 騎士団の突撃が弾かれる。


 同時に、エリシアの魔導陣が展開。


「氷結拘束陣」


 青白い光が地面を走る。


 騎士たちの足元が瞬時に凍結した。


「なっ!?」


「足が――!」


 アルベルトが炎剣を振るう。


「燃えろ!!」


 轟炎。


 だが、直撃ではない。


 騎士たちの進路を遮断するように炎壁を展開した。


 ドゴォォォッ!!


 爆炎。


 騎士団が止まる。


「殿下!」


「本気ですか!」


「うるせぇ!!」


 アルベルトが怒鳴る。


「ガキを実験台にしてる連中に従うかよ!」


 その声は、王城騎士団側にも響いた。


 騎士たちの何人かが動揺する。


「実験……?」


「本当なのか……?」


「副団長……」


 クラウスは答えない。


 代わりに、静かにレオンを見る。


「情報を広げる気か」


「隠す気か」


 レオンが返す。


 クラウスは沈黙する。


 その瞬間。


 ルカが前へ出た。


「隠していたのは事実だ」


 騎士団側がざわめく。


「第五監察官……!」


「本当に生きて……!」


 ルカは拘束具付きのまま、騎士団を見る。


「地下施設は実在する」


「被験者は子供」


「暴走個体は処分」


「失敗個体は廃棄」


「全部、本当だ」


 騎士たちの顔色が変わる。


「嘘だ……」


「そんなこと、王城が……」


「ありえない……!」


 クラウスだけが静かだった。


 だが。


 ほんの僅かに。


 その目が揺れた。


「……ルカ」


 低い声。


「お前、そこまで喋るのか」


「喋る」


 ルカは即答する。


「もう、壊す側には戻らない」


 一拍。


「名前を知ったからな」


 その言葉。


 レオンは少しだけ目を細めた。


 クラウスは静かに息を吐く。


「面倒なことをしてくれる」


「今さらか」


「今さらだ」


 その時だった。


 医務棟側から、小さな悲鳴が聞こえた。


「きゃっ……!」


 リリアーナが振り返る。


 そこには。


 騎士団の別動隊。


 いつの間にか回り込んでいた数名が、医務棟裏から侵入していた。


「子供たちを狙ってます!」


 教師が叫ぶ。


 空気が変わる。


 レオンの目が完全に冷えた。


「……おい」


 低い声。


 クラウスが察する。


「別動隊か」


「知らなかったのか」


 レオンが問う。


 クラウスは数秒黙る。


 そして。


「……私は、正門制圧しか命じていない」


 その声。


 リリアーナが目を見開く。


「じゃあ……!」


「独自行動か、別命令だ」


 クラウスの目が鋭くなる。


「チッ……」


 初めて、彼が明確に舌打ちした。


 レオンはもう聞いていなかった。


 黒雷が爆ぜる。


 バチィィィッ!!


 瞬間加速。


 姿が消える。


「速っ――!?」


 騎士団側が反応できない。


 次の瞬間。


 医務棟裏。


 別動隊騎士の目の前へ、レオンが現れていた。


「な――」


 言い切る前。


 黒雷の蹴りが騎士を吹き飛ばす。


 ドゴォォォッ!!


 壁へ激突。


 別動隊が一斉に剣を抜く。


「確保しろ!」


「被験者優先――」


 その言葉。


 レオンの黒雷が爆発した。


 轟音。


 空気が震える。


「名前で呼べ」


 低い声。


 別動隊が怯む。


「っ……!」


「化け物……!」


 レオンの刀が静かに持ち上がる。


「もう一回言ってみろ」


 怒鳴っていない。


 でも。


 圧が異常だった。


 別動隊の騎士たちが汗を流す。


 その時。


 医務棟の窓が開いた。


「レオン!!」


 ルミアだった。


 ユノもいる。


 別動隊の一人がそちらを見る。


「いたぞ!」


「確保――」


 瞬間。


 レオンの雷が爆ぜた。


 バチィィィィッ!!


 黒い閃光。


 騎士の剣が、根元から消し飛ぶ。


「ひっ――」


 騎士が顔を青ざめさせる。


 レオンの声は低い。


「近づくな」


 その一言だけで、別動隊が止まった。


 怖い。


 本能で分かる。


 この男は、本気で怒っている。


 しかも。


 ただ暴れているわけじゃない。


 ちゃんと“守るため”に怒っている。


 だから余計に止まらない。


 その時。


 背後から白銀の斬撃。


 クラウスだった。


「後ろだ」


 ギィィィィン!!


 レオンが振り返りざまに受ける。


 衝撃。


 火花。


 クラウスは低く言う。


「周囲を見ろ」


「戦場で感情を優先するな」


「……分かってる」


「なら冷やせ」


 白銀の剣がさらに押し込まれる。


「お前は今、怒りで速度が乱れている」


 レオンの目が細くなる。


 図星だった。


 ルミアたちを狙われた瞬間、頭が熱くなった。


 以前の自分なら、それで良かった。


 だが今は。


 守るものがある。


 暴走すれば、巻き込む。


「守る戦いは」


 クラウスが低く言う。


「壊す戦いより難しい」


 ギィン!!


 剣を弾き合う。


 レオンは数歩下がる。


 呼吸を整える。


 黒雷が静かに収束していく。


 リリアーナが少しだけ安堵した。


「……落ち着いた」


 エリシアも静かに頷く。


「ええ」


 クラウスは剣を構え直す。


「今の方が強い」


「お前、敵なのか味方なのか分かんねぇな」


 アルベルトが呆れたように言う。


 クラウスは答えない。


 ただ。


 医務棟側の別動隊を見て、冷たく言った。


「誰の命令だ」


 別動隊が固まる。


「副団長……」


「答えろ」


 空気が変わった。


 王城騎士団側が、初めて揺らぎ始める。


 そして。


 学園と王城。


 その衝突の裏で。


 さらに大きな“王城内部の歪み”が、少しずつ姿を見せ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ