↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能王子、東の塔で神霊を得る  作者: 伊佐波瑞樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/251

第54話「自爆結晶、無能王子は“奪わせない怒り”で踏み砕く」


 北棟地下区画。


 赤黒い光が、地下空間を染め上げていた。


 リヒトの手に握られた黒結晶。


 そこから漏れ出す魔力は、先ほどの結界炉暴走とは比べものにならないほど危険だった。


 濃い。


 重い。


 そして不安定。


 地下の石壁が軋む。


 空気が震える。


 魔力そのものが悲鳴を上げているみたいだった。


『主』


 ノワールの声が鋭い。


『あれ、本当にまずい』


「ああ」


『地下ごと吹き飛ぶよ』


「だろうな」


 レオンは静かに答える。


 だが足は止まらない。


 一歩。


 また一歩。


 リヒトへ向かって歩く。


 その姿に、リヒトの顔が引き攣った。


「来るな」


 結晶を握る手が震えている。


「止まれ!」


「嫌だ」


 即答だった。


 リヒトの呼吸が乱れる。


「理解しているのか!? これは暴走核だ!」


「見れば分かる」


「起爆すれば半径一帯が消し飛ぶ!」


「そうか」


「だったら――」


「だから止める」


 リヒトの声が止まる。


 レオンの目は冷えていた。


 静かで。


 低くて。


 だが、確実に怒っている。


「……お前たちは」


 一歩。


「何でも壊していいと思っている」


 また一歩。


「人も」


「場所も」


「学園も」


「全部、“使えるかどうか”でしか見ていない」


 地下空間の空気が沈む。


 リヒトが後退る。


 恐怖。


 それが顔に出ていた。


「違うのか!?」


 叫ぶ。


「王国のためだ!」


「必要な犠牲だ!」


「お前一人を捕らえれば、もっと多くを守れる!」


「だから――」


「黙れ」


 低い声。


 それだけで地下の空気が凍った。


 リヒトの喉が止まる。


 レオンは止まらない。


「その言葉が嫌いなんだ」


 静かな声だった。


「“仕方ない”で踏み潰す考え方が」


 東の塔。


 閉じ込められた日々。


 魔力ゼロ。


 無能。


 不要。


 価値なし。


 全部、“仕方ない”で処理された。


 だから。


 だからこそ。


「俺は認めない」


 リヒトが歯を食いしばる。


「……綺麗事だ!」


「そうか」


「お前一人で何ができる!」


「守る」


「全部は守れない!」


「ああ」


 レオンは否定しない。


「だから、今守れるものを守る」


 一歩。


 踏み込む。


 その瞬間。


「っ!!」


 リヒトが結晶へ魔力を流し込んだ。


 暴走。


 赤黒い亀裂が結晶全体へ走る。


『主!!』


 イグニスの声。


『来るぞ!!』


 爆発。


 直前。


 だが。


 レオンは前へ出た。


「なっ……!?」


 リヒトの目が見開かれる。


 避けない。


 逃げない。


 真正面。


 結晶へ手を伸ばす。


「馬鹿か!? 死ぬぞ!!」


「死なない」


 レオンの手が、結晶を掴んだ。


 瞬間。


 地下空間が赤く染まる。


 暴走魔力が、レオンの腕へ食らいつく。


 皮膚が裂ける。


 熱が焼く。


 普通なら腕ごと消し飛ぶ。


 だが。


『イグニス』


『了解』


 炎。


 ただの熱ではない。


 “制御された熱”。


 暴走魔力を包み込む。


『セレネ』


『うん』


 水。


 荒れ狂う流れを冷やす。


『ノワール』


『抑えるよ』


 影。


 魔力の拡散を拘束する。


『ルミア』


『優しくね!』


 光。


 暴走そのものを浄化する。


 神霊たちの力が重なる。


 レオンの周囲へ、四色の光が淡く浮かぶ。


 地下空間が震える。


 結晶が悲鳴みたいな音を立てる。


「あり得ない……!」


 リヒトが後退る。


「暴走核を、素手で制御している……!?」


 レオンは答えない。


 額から汗が落ちる。


 腕は焼けるように痛い。


 だが離さない。


 ここで離せば、地下ごと吹き飛ぶ。


 学園が終わる。


 だから。


「……黙れ」


 小さく呟く。


 その瞬間。


 レオンの手の中で、暴走結晶へ亀裂が走った。


 赤黒い光が、少しずつ弱くなる。


「馬鹿な……」


 リヒトの顔から血の気が引く。


「止めるのか……!?」


 レオンが力を込める。


 バキッ――!!


 結晶が砕けた。


 同時に。


 地下空間へ吹き荒れていた暴走魔力が、一気に霧散する。


 静寂。


 完全な。


 リヒトが呆然と立ち尽くす。


「……止まった」


 信じられないものを見る目だった。


 レオンは砕けた結晶を床へ捨てる。


 その腕から、血が落ちた。


『主』


 セレネの声が少し心配そうだった。


『腕』


「問題ない」


『問題あるでしょ』


「後だ」


 リヒトが震える声で言う。


「お前は……本当に何なんだ」


「レイ・ノクトだ」


「違う!」


 叫ぶ。


「そんなものじゃ説明できるか!」


 レオンは静かに近づく。


 もう、逃げ場はない。


 兵は全滅。


 結界炉は停止。


 切り札も砕かれた。


 リヒトは後退り、壁へぶつかる。


「来るな……!」


「嫌だ」


「化け物……!」


「それしか言えないのか」


「お前みたいな存在、王城が放置するわけないだろうが!!」


 地下空間へ声が響く。


「捕獲される前に逃げればいい!」


「なぜ学園へ戻った!?」


「なぜそこまでして守る!?」


 レオンは少しだけ目を伏せた。


 そして。


 小さく息を吐く。


「……待ってる奴がいるからだ」


 リヒトが止まる。


「何……?」


「戻る場所がある」


 短い言葉。


 だが。


 その意味は重かった。


 東の塔には、何もなかった。


 一人だった。


 誰も来なかった。


 でも今は違う。


 リリアーナがいる。


 エリシアがいる。


 アルベルトがいる。


 ミーアがいる。


 学園がある。


 待っている場所がある。


 だから。


「もう、奪わせない」


 静かな怒り。


 それが地下空間を満たしていた。


 リヒトは完全に気圧されていた。


 理解したのだ。


 この男は、ただ強いんじゃない。


 “折れない”。


 だから厄介なのだと。


「……はは」


 乾いた笑いが漏れる。


「王城が嫌うわけだ」


 レオンが立つ。


 リヒトを見下ろす。


「終わりだ」


 リヒトはしばらく黙っていた。


 やがて。


 力なく両手を上げる。


「降参です」


 その瞬間。


 地下空間全体の緊張が、ようやく解けた。


『主』


 ノワールが笑う。


『終わったね』


「ああ」


『……でも』


「分かっている」


 レオンは天井を見る。


 上。


 北棟。


 まだ終わっていない。


 陽動側が残っている。


 その時。


 地下通路の上から、轟音が響いた。


 爆発。


 続けて、悲鳴。


 レオンの目が変わる。


「っ……!」


 リリアーナたちだ。


 レオンは即座に振り返る。


 地下を抜ける階段へ。


 だが。


 その瞬間。


 地下全体が大きく揺れた。


 ゴゴゴゴッ――!!


 石壁が崩れ始める。


『主!』


 イグニスが叫ぶ。


『上が崩れてる!!』


 レオンの目が細くなる。


 地下通路封鎖。


 まだ終わっていない。


 王城は。


 最後まで、学園を潰す気だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。