表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能王子、東の塔で神霊を得る  作者: 伊佐波瑞樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/64

第43話「塔を侵す影、無能王子は自分の領域を一歩も渡さない」


 東の塔。


 夜。


 風は弱い。


 空は静かだ。


 だが――


 塔の外側だけ、空気が歪んでいた。


「……来たか」


 レオンは窓の外を見たまま呟く。


 遠く。


 だが確実にこちらへ向かってくる気配。


 複数。


 統制されている。


 そして何より――


 “質が違う”。


『主』


 イグニスの声が低くなる。


『ただの兵じゃない』


「ああ」


『強いな』


『面白そう!』


 ヴァルガは楽しそうだった。


 対照的に、ノワールは冷静だ。


『数、六……いや、七』


「一人隠してるな」


『うん、うまい』


 気配を完全に消している。


 だがレオンには見える。


 感じる。


 東の塔という“自分の領域”に入ってきた時点で、隠しきれるものではない。


「……ミーア」


「はい」


 すぐ横に立っていた。


 気配すら読まれていない。


 それが彼女の強さでもある。


「内部封鎖」


「了解」


 即答。


 迷いなし。


「塔内、完全隔離状態へ移行します」


 足音も立てずに動く。


 塔の結界が一段階強化される。


 外からの侵入難度が跳ね上がる。


 だが――


「それでも来る」


 レオンは断言する。


 あの連中は引かない。


 それだけの覚悟と任務を背負っている。


 数分後。


 塔の正面入口。


 石の階段。


 そこに、影が現れた。


 黒い外套。


 無駄のない動き。


 整った呼吸。


 兵士ではない。


 訓練された“殺し”の気配。


「……ここか」


 先頭の男が呟く。


 低い声。


 年齢は三十前後。


 目が鋭い。


 その背後に六人。


 全員が同じ空気を持っている。


「東の塔」


 別の男が言う。


「魔力ゼロの王子が幽閉されていた場所」


「過去形ではない可能性がある」


 淡々とした会話。


 感情が薄い。


 だが油断はない。


「命令は?」


「調査。抵抗があれば排除」


「排除か」


 短く頷く。


「なら、入る」


 男が一歩踏み出した瞬間。


 空気が変わった。


「それ以上、進むな」


 声。


 上から。


 全員が同時に視線を上げる。


 塔の入口。


 その上の石壁。


 そこに、立っていた。


 レオン。


 黒い外套。


 風に揺れる。


 夜の中で、金の瞳だけがはっきりと光っていた。


「……出てきたか」


 先頭の男が言う。


「レイ・ノクト」


「その名前で呼ぶな」


 即答。


 男の目が細まる。


「やはり、そうか」


 確信。


「第一王子」


「違う」


 レオンは一歩も動かない。


「ここにいるのは、東の塔の管理者だ」


 その言葉。


 空気が重くなる。


 “管理者”。


 それは、ただの居住者ではない。


 この場所の主という意味。


 男たちは理解した。


「……なるほど」


 少しだけ笑う。


「厄介だな」


「帰れ」


 短い命令。


「ここは立ち入り禁止だ」


「王命だ」


「関係ない」


 即答。


 沈黙。


 男たちの空気が変わる。


 戦闘態勢。


「排除対象と判断」


 先頭の男が告げる。


「構えろ」


 六人が同時に動く。


 剣。


 短剣。


 魔導具。


 全員が一流。


 普通の騎士団では相手にならない。


『主』


 イグニスが静かに言う。


『いいのか?』


「何が」


『殺すかどうかだ』


 レオンは一瞬だけ考える。


 王城の兵。


 ここで殺せば、事態は一気に加速する。


 だが――


「半殺しでいい」


『了解』


 空気が変わる。


 次の瞬間。


 男たちが同時に踏み込んだ。


 速い。


 音が遅れてくる。


 だが。


「遅い」


 レオンは消えた。


 次の瞬間、先頭の男の懐にいた。


「なっ――」


 言葉が出る前に。


 拳。


 腹に入る。


 鈍い音。


 男の身体が浮く。


 そのまま後方へ吹き飛ぶ。


「隊長!?」


 残りの六人が動揺する。


 だが止まらない。


 横から二人。


 背後から一人。


 同時攻撃。


 だが。


 レオンは振り返らない。


「ノワール」


『はい』


 影が伸びる。


 足元から絡みつく。


「っ!?」


 三人同時に拘束。


「動けない!?」


 そこへ。


「ヴァルガ」


『おうよ!』


 雷。


 一瞬の閃光。


 武器だけを焼き切る。


 精密な制御。


「武器が!?」


 混乱。


 そこへ。


 残り三人が距離を取る。


「魔導士か!?」


「違う」


 レオンは言う。


「ただの学生だ」


 その瞬間。


 踏み込む。


 一人。


 顎へ掌底。


 沈む。


 二人目。


 膝を砕くように打撃。


 崩れる。


 三人目。


 首筋へ一撃。


 意識を刈り取る。


 数秒。


 それだけで終わった。


 静寂。


 残っているのは、最初に吹き飛ばされた男だけ。


 ゆっくりと立ち上がる。


 血を吐く。


「……化け物か」


「違う」


 レオンは冷たく言う。


「お前が弱いだけだ」


 男が笑う。


「報告が正しかったわけだ」


「何の」


「魔力ゼロの王子が、別の力を得た」


 レオンの目が細くなる。


「余計な詮索だ」


「王は興味を持っている」


 男は言う。


「お前を」


 沈黙。


 風が吹く。


「なら伝えろ」


 レオンは言う。


「興味があるなら、直接来いと」


 圧。


 空気が震える。


 男は一瞬だけ息を呑む。


「……いいだろう」


 ゆっくりと後退する。


 倒れた部下たちを見て、苦笑する。


「全員連れて帰る」


「好きにしろ」


「次はもっと来るぞ」


「来ればいい」


 即答。


 男はそれ以上何も言わず、撤退した。


 気配が消える。


 完全に。


 静寂が戻る。


 レオンはゆっくりと息を吐く。


『主』


 セレネ。


『大丈夫?』


「問題ない」


『嘘じゃないね』


「今回はな」


 ミーアが近づく。


「全員無力化済みです」


「殺していない」


「承知しています」


 少しだけ微笑む。


「優しいですね」


「効率だ」


「そういうことにしておきます」


 レオンは塔を見上げる。


 東の塔。


 かつての牢。


 今は違う。


 ここは。


「……守る場所だ」


 静かに呟く。


 王は動いた。


 敵も動いた。


 もう隠れる時間は終わりだ。


 なら――


 迎え撃つだけだ。


 無能王子は。


 自分の領域に踏み込む者を。


 一人も許さない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ