表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能王子、東の塔で神霊を得る  作者: 伊佐波瑞樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/251

第36話「夜の王と黒牙の王、無能王子は王都の闇で本気を見せる」



 王都南区画。


 暁の夜本部前。


 昼だというのに、そこだけ夜のような緊張が満ちていた。


 半壊した門。


 砕けた石畳。


 血の匂い。


 負傷者たちのうめき声。


 そして、互いに一歩も引かぬ二人の男。


 黒牙団頭領ゼノン。


 暁の夜の主、レオン。


 片や王都の裏を力で奪い取ろうとする侵略者。


 片や王都の夜を秩序で支配する守護者。


 誰も口を開かない。


 幹部たちですら、ただ息を潜めていた。


 ゼノンが大剣を肩から下ろす。


 黒鉄の刃は幅広く、普通の兵なら持ち上げるだけでも困難な代物だった。


 だが男は片手で軽々と扱う。


「お前が主か」


 低い声。


「随分若い」


「年齢でしか測れないなら、今すぐ帰れ」


 レオンの返答は静かだった。


 だが、その一言で黒牙団の部下たちの顔が引きつる。


 ゼノンは笑った。


「口は立つ」


「事実だ」


「なら試してやる」


 次の瞬間。


 地面が爆ぜた。


 ゼノンの踏み込み。


 巨体とは思えぬ速度で距離を潰し、大剣が袈裟斬りに振り下ろされる。


 轟音。


 空気が裂け、石畳が砕け散る。


 ミーアが息を呑む。


「レオン様!」


 だが、斬れたのは残像だった。


 レオンはすでにゼノンの横へいた。


 黒い外套が遅れて揺れる。


「遅い」


 短い一言と同時に、掌底がゼノンの脇腹へ突き込まれる。


 鈍い衝撃音。


 ゼノンの巨体が数歩滑った。


 黒牙団側がざわめく。


「頭領が……押された!?」


「今の何だ!?」


 ゼノンは止まり、脇腹を押さえる。


 口端が吊り上がった。


「いい拳だ」


「拳ではない」


「何?」


「まだ触っただけだ」


 空気が凍った。


 クロードが苦笑する。


「相変わらず容赦がありませんね」


 ガルドンは地面に座り込んだまま笑った。


「主、煽り性能まで高ぇ……」


 ゼノンはゆっくりと肩を回す。


「面白ぇ」


 殺気が膨れ上がる。


「なら、こっちも少し上げる」


 全身の筋肉が膨張する。


 身体強化。


 だが副頭領ガラムの粗い強化とは違う。


 洗練され、圧縮された力。


 地面が沈み、周囲の瓦礫が震えた。


 ミーアの顔色が変わる。


「……危険です」


 イグニスが低く言う。


『人間としては上位だ』


 ヴァルガが笑う。


『いいじゃねぇか! 潰し甲斐ある!』


 レオンは一歩も動かない。


「終わりか」


「舐めるなァ!」


 ゼノンが消えた。


 次の瞬間、三連撃。


 横薙ぎ。


 返しの突き。


 蹴り上げ。


 どれも一撃必殺級。


 だがレオンは、紙一重で全てを外す。


 半歩。


 首の傾き。


 体の捻り。


 必要最低限の動きだけで躱していく。


 ゼノンの額に初めて汗が滲んだ。


「……見えてるのか?」


「見えすぎて退屈だ」


「ッ!」


 怒りと共に大剣が振り下ろされる。


 レオンは右手を上げた。


「ノワール」


 影が立ち上がる。


 黒い壁が大剣を受け止めた。


 金属音と共に火花が散る。


 ゼノンが目を見開く。


「何だこれは」


「知らなくていい」


 次の瞬間、レオンの左手に光が集まる。


「ルミア」


 白光が収束し、片手銃の形を取る。


 光のマグナム。


 第二解放の一端。


 黒牙団側が息を呑む。


「武器が……現れた!?」


「魔導具か!?」


 違う。


 誰も理解できない力だった。


 レオンは銃口をゼノンへ向ける。


「一発で終わらせる」


「やってみろ!」


 発砲。


 轟音ではない。


 乾いた閃光。


 ゼノンは咄嗟に大剣を盾にした。


 だが光弾は剣を貫き、肩を掠める。


 鮮血。


 ゼノンが初めて膝をついた。


「……っ、はは」


 笑っていた。


「最高だ」


 狂気じみた笑み。


「王都に来て正解だった」


「残念だったな」


 レオンの声は冷たい。


「ここがお前の終点だ」


 ゼノンが立ち上がる。


 肩から血を流しながらも、目は死んでいない。


「まだだ」


 大剣を逆手に持つ。


「俺には背負ってるもんがある」


「興味ない」


「聞けよ!」


 ゼノンが吠える。


「黒牙団三百人。食えねぇ連中を抱えてんだよ。戦場帰り、国に捨てられた兵士、行き場のねぇ孤児、腐った街で生きるしかなかった奴らだ!」


 暁の夜側が静まる。


 ゼノンの声には本物があった。


「奪わなきゃ食えねぇ! だから奪う!」


「それで学生を攫うのか」


 レオンの一言で空気が変わる。


 ゼノンが黙る。


「弱い者を売り、脅し、踏みつけて食わせる?」


「……綺麗事で腹は膨れねぇ」


「そうだな」


 レオンは認めた。


「だが方法は選べる」


 一歩前へ出る。


「お前は簡単な道を選んだだけだ」


 ゼノンの瞳が揺れる。


「黙れ……!」


「苦しい者を集めたなら、なおさら道を誤るな」


 レオンの声は怒鳴りではない。


 静かで、重い。


「王とは、そういう時に道を選ばせる者だ」


 ミーアが息を止めた。


 その言葉は、レイ・ノクトのものではない。


 レオンハルト・フォン・アルディアの声だった。


 ゼノンが吠える。


「知るかァァ!!」


 最後の突撃。


 全力。


 命を賭けた一撃。


 大剣が振り下ろされる。


 レオンは右手に闇銃、左手に光銃を構えた。


「終わりだ」


 二丁の引き金が引かれる。


 光と闇が交差する。


 轟音。


 閃光。


 衝撃波で周囲の瓦礫が吹き飛ぶ。


 ゼノンの大剣が真っ二つに砕けた。


 そのまま男の胸当てが裂け、巨体が宙を舞う。


 十数メートル先の石壁へ激突。


 壁が崩れ落ちる。


 静寂。


 誰も動けない。


 黒牙団頭領ゼノンは、瓦礫の中で意識を失っていた。


 完全決着だった。


 数秒後。


 暁の夜側から歓声が爆発する。


「主ぃぃぃ!!」


「勝った!!」


「王都の夜は我らのものだ!」


 ガルドンが泣きながら土下座した。


「一生ついていきやす!!」


「やめろ、血がつく」


「はいぃ!!」


 クロードが肩をすくめる。


「毎回派手ですね」


「片付けが面倒だ」


「そこなんですね」


 ミーアが駆け寄る。


「お怪我は!?」


「ない」


「本当に?」


「かすり傷もない」


 ミーアはほっと息をついた。


「……よかった」


 レオンは周囲を見渡す。


 黒牙団は壊滅。


 だがゼノンの言葉は残った。


 三百人。


 行き場のない者たち。


 頭領だけ倒して終わりではない。


「クロード」


「はい」


「残党を選別しろ」


「選別、ですか?」


「学生拉致に関わった者は牢。そうでない者は働かせる」


 暁の夜幹部たちが目を見開く。


「吸収するんですか?」


「使えるなら使う」


 レオンは淡々と言う。


「腹が減れば人は腐る。なら仕事を与える」


 ゼノンが言っていたことは一部正しい。


 飢えは人を狂わせる。


 なら狂う前に道を作ればいい。


 ミーアの目が潤んだ。


「……本当に、お優しい」


「違う」


「効率です」


「照れ隠しですね」


「違う」


 神霊たちが笑う。


『主、バレてる』


『優しい王様だな』


『照れてます』


『黙れ』


 その時。


 遠くから伝令が駆け込んできた。


「報告!」


 息を切らしながら叫ぶ。


「学園実習組、無事帰還準備中! 森側の敵勢力も制圧されたとのことです!」


 レオンが少しだけ目を細める。


 アルベルトとリリアーナが守り切ったのだろう。


「そうか」


 短い一言。


 だが安堵が滲んでいた。


 ミーアはそれを見逃さない。


「迎えに行かれますか?」


「……何故だ」


「気になるのでしょう?」


「別に」


「では私が行って、リリアーナ様に“主は心配していました”と伝えてきます」


「やめろ」


「即答ですね」


 周囲に笑いが起こる。


 王都の夜は守られた。


 黒牙団は崩れた。


 だが、無能王子と呼ばれた少年の戦いは終わらない。


 表では学園首席。


 裏では夜の王。


 そして次に待つのは――


 守った者たちとの再会だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ