表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能王子、東の塔で神霊を得る  作者: 伊佐波瑞樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/60

第36話「夜の王と黒牙の王、無能王子は王都の闇で本気を見せる」



 王都南区画。


 暁の夜本部前。


 昼だというのに、そこだけ夜のような緊張が満ちていた。


 半壊した門。


 砕けた石畳。


 血の匂い。


 負傷者たちのうめき声。


 そして、互いに一歩も引かぬ二人の男。


 黒牙団頭領ゼノン。


 暁の夜の主、レオン。


 片や王都の裏を力で奪い取ろうとする侵略者。


 片や王都の夜を秩序で支配する守護者。


 誰も口を開かない。


 幹部たちですら、ただ息を潜めていた。


 ゼノンが大剣を肩から下ろす。


 黒鉄の刃は幅広く、普通の兵なら持ち上げるだけでも困難な代物だった。


 だが男は片手で軽々と扱う。


「お前が主か」


 低い声。


「随分若い」


「年齢でしか測れないなら、今すぐ帰れ」


 レオンの返答は静かだった。


 だが、その一言で黒牙団の部下たちの顔が引きつる。


 ゼノンは笑った。


「口は立つ」


「事実だ」


「なら試してやる」


 次の瞬間。


 地面が爆ぜた。


 ゼノンの踏み込み。


 巨体とは思えぬ速度で距離を潰し、大剣が袈裟斬りに振り下ろされる。


 轟音。


 空気が裂け、石畳が砕け散る。


 ミーアが息を呑む。


「レオン様!」


 だが、斬れたのは残像だった。


 レオンはすでにゼノンの横へいた。


 黒い外套が遅れて揺れる。


「遅い」


 短い一言と同時に、掌底がゼノンの脇腹へ突き込まれる。


 鈍い衝撃音。


 ゼノンの巨体が数歩滑った。


 黒牙団側がざわめく。


「頭領が……押された!?」


「今の何だ!?」


 ゼノンは止まり、脇腹を押さえる。


 口端が吊り上がった。


「いい拳だ」


「拳ではない」


「何?」


「まだ触っただけだ」


 空気が凍った。


 クロードが苦笑する。


「相変わらず容赦がありませんね」


 ガルドンは地面に座り込んだまま笑った。


「主、煽り性能まで高ぇ……」


 ゼノンはゆっくりと肩を回す。


「面白ぇ」


 殺気が膨れ上がる。


「なら、こっちも少し上げる」


 全身の筋肉が膨張する。


 身体強化。


 だが副頭領ガラムの粗い強化とは違う。


 洗練され、圧縮された力。


 地面が沈み、周囲の瓦礫が震えた。


 ミーアの顔色が変わる。


「……危険です」


 イグニスが低く言う。


『人間としては上位だ』


 ヴァルガが笑う。


『いいじゃねぇか! 潰し甲斐ある!』


 レオンは一歩も動かない。


「終わりか」


「舐めるなァ!」


 ゼノンが消えた。


 次の瞬間、三連撃。


 横薙ぎ。


 返しの突き。


 蹴り上げ。


 どれも一撃必殺級。


 だがレオンは、紙一重で全てを外す。


 半歩。


 首の傾き。


 体の捻り。


 必要最低限の動きだけで躱していく。


 ゼノンの額に初めて汗が滲んだ。


「……見えてるのか?」


「見えすぎて退屈だ」


「ッ!」


 怒りと共に大剣が振り下ろされる。


 レオンは右手を上げた。


「ノワール」


 影が立ち上がる。


 黒い壁が大剣を受け止めた。


 金属音と共に火花が散る。


 ゼノンが目を見開く。


「何だこれは」


「知らなくていい」


 次の瞬間、レオンの左手に光が集まる。


「ルミア」


 白光が収束し、片手銃の形を取る。


 光のマグナム。


 第二解放の一端。


 黒牙団側が息を呑む。


「武器が……現れた!?」


「魔導具か!?」


 違う。


 誰も理解できない力だった。


 レオンは銃口をゼノンへ向ける。


「一発で終わらせる」


「やってみろ!」


 発砲。


 轟音ではない。


 乾いた閃光。


 ゼノンは咄嗟に大剣を盾にした。


 だが光弾は剣を貫き、肩を掠める。


 鮮血。


 ゼノンが初めて膝をついた。


「……っ、はは」


 笑っていた。


「最高だ」


 狂気じみた笑み。


「王都に来て正解だった」


「残念だったな」


 レオンの声は冷たい。


「ここがお前の終点だ」


 ゼノンが立ち上がる。


 肩から血を流しながらも、目は死んでいない。


「まだだ」


 大剣を逆手に持つ。


「俺には背負ってるもんがある」


「興味ない」


「聞けよ!」


 ゼノンが吠える。


「黒牙団三百人。食えねぇ連中を抱えてんだよ。戦場帰り、国に捨てられた兵士、行き場のねぇ孤児、腐った街で生きるしかなかった奴らだ!」


 暁の夜側が静まる。


 ゼノンの声には本物があった。


「奪わなきゃ食えねぇ! だから奪う!」


「それで学生を攫うのか」


 レオンの一言で空気が変わる。


 ゼノンが黙る。


「弱い者を売り、脅し、踏みつけて食わせる?」


「……綺麗事で腹は膨れねぇ」


「そうだな」


 レオンは認めた。


「だが方法は選べる」


 一歩前へ出る。


「お前は簡単な道を選んだだけだ」


 ゼノンの瞳が揺れる。


「黙れ……!」


「苦しい者を集めたなら、なおさら道を誤るな」


 レオンの声は怒鳴りではない。


 静かで、重い。


「王とは、そういう時に道を選ばせる者だ」


 ミーアが息を止めた。


 その言葉は、レイ・ノクトのものではない。


 レオンハルト・フォン・アルディアの声だった。


 ゼノンが吠える。


「知るかァァ!!」


 最後の突撃。


 全力。


 命を賭けた一撃。


 大剣が振り下ろされる。


 レオンは右手に闇銃、左手に光銃を構えた。


「終わりだ」


 二丁の引き金が引かれる。


 光と闇が交差する。


 轟音。


 閃光。


 衝撃波で周囲の瓦礫が吹き飛ぶ。


 ゼノンの大剣が真っ二つに砕けた。


 そのまま男の胸当てが裂け、巨体が宙を舞う。


 十数メートル先の石壁へ激突。


 壁が崩れ落ちる。


 静寂。


 誰も動けない。


 黒牙団頭領ゼノンは、瓦礫の中で意識を失っていた。


 完全決着だった。


 数秒後。


 暁の夜側から歓声が爆発する。


「主ぃぃぃ!!」


「勝った!!」


「王都の夜は我らのものだ!」


 ガルドンが泣きながら土下座した。


「一生ついていきやす!!」


「やめろ、血がつく」


「はいぃ!!」


 クロードが肩をすくめる。


「毎回派手ですね」


「片付けが面倒だ」


「そこなんですね」


 ミーアが駆け寄る。


「お怪我は!?」


「ない」


「本当に?」


「かすり傷もない」


 ミーアはほっと息をついた。


「……よかった」


 レオンは周囲を見渡す。


 黒牙団は壊滅。


 だがゼノンの言葉は残った。


 三百人。


 行き場のない者たち。


 頭領だけ倒して終わりではない。


「クロード」


「はい」


「残党を選別しろ」


「選別、ですか?」


「学生拉致に関わった者は牢。そうでない者は働かせる」


 暁の夜幹部たちが目を見開く。


「吸収するんですか?」


「使えるなら使う」


 レオンは淡々と言う。


「腹が減れば人は腐る。なら仕事を与える」


 ゼノンが言っていたことは一部正しい。


 飢えは人を狂わせる。


 なら狂う前に道を作ればいい。


 ミーアの目が潤んだ。


「……本当に、お優しい」


「違う」


「効率です」


「照れ隠しですね」


「違う」


 神霊たちが笑う。


『主、バレてる』


『優しい王様だな』


『照れてます』


『黙れ』


 その時。


 遠くから伝令が駆け込んできた。


「報告!」


 息を切らしながら叫ぶ。


「学園実習組、無事帰還準備中! 森側の敵勢力も制圧されたとのことです!」


 レオンが少しだけ目を細める。


 アルベルトとリリアーナが守り切ったのだろう。


「そうか」


 短い一言。


 だが安堵が滲んでいた。


 ミーアはそれを見逃さない。


「迎えに行かれますか?」


「……何故だ」


「気になるのでしょう?」


「別に」


「では私が行って、リリアーナ様に“主は心配していました”と伝えてきます」


「やめろ」


「即答ですね」


 周囲に笑いが起こる。


 王都の夜は守られた。


 黒牙団は崩れた。


 だが、無能王子と呼ばれた少年の戦いは終わらない。


 表では学園首席。


 裏では夜の王。


 そして次に待つのは――


 守った者たちとの再会だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ