表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能王子、東の塔で神霊を得る  作者: 伊佐波瑞樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/251

第30話「校外実習前夜、無能王子へ忍び寄る二つの影」


 王立アルディア学園。


 校外実習を翌日に控えた学園内は、普段以上の熱気に包まれていた。


 廊下では生徒たちが地図を広げ。


 食堂では必要物資の話で盛り上がり。


 訓練場では最後の調整とばかりに模擬戦が繰り返されている。


「外縁区域って魔獣出るんだろ?」


「治安悪い地区もあるらしいぞ」


「A組は指揮補助つきって聞いた」


「レイ・ノクト代表だっけ?」


「頼もしすぎる」


 本人の意思とは無関係に期待値だけが上がっていた。


 最後列窓際。


 レオンはいつも通り外を見ながら呟く。


「……帰りたい」


「珍しく素直ですね」


 リリアーナが前席から振り返って笑う。


「いつも素直だ」


「それは違います」


「何故」


「本音を半分しか言わないからです」


 妙に鋭かった。


 最近の彼女は、本当に遠慮が減っている。


「実習、楽しみじゃないんですか?」


「面倒だ」


「ほら、出ました」


「事実だ」


「でも皆、少し安心してますよ」


「何故」


「レイさんが代表だからです」


 教室内でも何人かが頷いていた。


「まあ、それはある」


「首席だしな」


「冷静だし」


「殿下より安心感ある」


 前列中央でアルベルトが机を叩いた。


「聞こえているぞ!」


「うるさいですわよ」


 エリシアが即座に刺す。


「静かにできないなら実習で口封じされますわ」


「誰にだ!」


「現実に、です」


 最近、彼女も容赦がなかった。


 教室扉が開く。


 カティア教師が入る。


「着席」


 もう誰も逆らわない。


「本日は実習最終確認です」


 黒板へ予定が書かれていく。


【集合 午前七時】

【王都外縁南区画】

【薬草採集班】

【治安補助班】

【巡回班】


「一年A組は三班に分かれます」


 ざわめき。


「班長は代表、副代表、補佐役」


 全員の視線が自然と三人へ集まる。


 レオン。


 エリシア。


 リリアーナ。


 リリアーナが小さく縮こまる。


「……やっぱり無理です」


「却下します」


 カティアの反応が早い。


「最近先生、それ好きですよね?」


「事実です」


 会話になっていない。


「レイ・ノクト」


「何だ」


「貴方は巡回班長」


「変更を要求する」


「却下します」


「早いな」


「慣れました」


 教師側も進化していた。


「エリシアは治安補助班」


「承知しましたわ」


「リリアーナは薬草採集班」


「……あ、はい!」


 少し安心した顔になる。


 危険度が低いと感じたのだろう。


 だがカティアは続けた。


「なお薬草採集班は森外縁部まで入ります」


「……はい?」


「魔獣注意区域です」


「……はい!?」


 安心が一秒で消えた。


 教室が笑いに包まれる。


 放課後。


 教室を出たところで、リリアーナがレオンを追いかけてきた。


「レイさん!」


「何だ」


「森外縁部って危ないですよね!?」


「多少は」


「多少ってどれくらいですか!」


「油断すると怪我をする程度だ」


「かなり危ないです!」


「そうか」


「そうかじゃありません……」


 彼女は本気で不安そうだった。


「……一つ聞いていいですか」


「内容による」


「もし、わたしの班が危なくなったら」


 少しだけ俯く。


「助けに来てくれますか」


 まっすぐな願いだった。


 レオンは数秒黙る。


「当然だ」


「……え?」


「聞くまでもない」


 リリアーナの頬が赤くなる。


「そ、そういうの……ずるいです」


「意味がわからん」


「レイさんはそればっかりです」


 だが嬉しそうだった。


 そのやり取りを、柱の陰からエリシアが見ていた。


「……自然すぎますわね」


 胸の奥が少しざわつく。


 別に恋ではない。


 まだ、そう言い切れる。


 ただ、気に入らないだけだ。


 たぶん。


 夕暮れ。


 東の塔。


 レオンは帰還すると同時に外套を脱ぎ、椅子へ座った。


 ミーアが温かい茶を差し出す。


「お疲れ様です」


「学園の方が疲れる」


「珍しいお言葉です」


「本音だ」


 ミーアは小さく笑った。


「本日の報告を」


「言え」


「北区画、外部勢力の動き確定。人数は五十前後」


「増えたな」


「はい。さらに――」


 ミーアの表情が引き締まる。


「王都外縁南区画へ、明日移動予定との情報」


 レオンの視線が変わる。


「……実習場所か」


「はい」


 偶然とは思えない。


 暁の夜の縄張りを探りつつ、学園実習と重なる区域へ入る。


 誰かが裏で情報を流した可能性すらある。


「狙いは」


「不明です。ただし、学生を巻き込めば学園の信用失墜。暁の夜も動きづらくなります」


「面倒だな」


「かなり」


 レオンは立ち上がる。


 瞳が静かに冷えていた。


「明日は学園優先だ」


「承知しました」


「だが裏も放置しない」


「……やはりそうなりますよね」


 ミーアは少し誇らしげだった。


 夜。


 王都北区画、廃倉庫。


 外部勢力の男たちが集まっている。


「明日は南区画だ」


「学生どもも来るらしいな」


「混乱に紛れて拠点奪うぞ」


「王都の裏は俺たちのものだ」


 薄汚れた笑い声。


 その屋根の上。


 黒い鴉が二羽、じっと見下ろしていた。


『馬鹿ばっかり』


『主に報告』


 ルミアとノワールだった。


 同時刻、王城。


 アルベルトが父王の前へ呼び出されていた。


「明日の実習で恥を晒すな」


 王の声は冷たい。


「……はい」


「順位戦の失態はまだ消えておらぬ」


「……はい」


「王族として結果を出せ」


 アルベルトは拳を握る。


 悔しい。


 苦しい。


 だが、以前とは少し違った。


 ただ怒るだけでは終われない。


「……見ていろ、レイ・ノクト」


 初めて、勝ちたいと本気で思った。


 翌朝。


 実習の日は、確実に荒れる。


 表では学園生徒たちの初任務。


 裏では王都裏社会の火種。


 そしてその中心には――


 二つの顔を持つ無能王子がいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ