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無能王子、東の塔で神霊を得る  作者: 伊佐波瑞樹


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224/251

第224話「もう一度持つ手、無能王子は“離しても戻れる”を知る」



 朝は、置かれた箱を見守っていた。


 神殿の奥。


 石壁に囲まれた保護陣は、静かな光を抱えている。


 外の光は、まだ入っていない。


 風もない。


 救護区域の声も届かない。


 子供たちの紙束も、まだ置かれていない。


 ただ、いつもと少し違う場所に、余白箱があった。


 中心のすぐそばではない。


 遠くでもない。


 見える場所。


 手を伸ばせば届くような場所。


 昨日、中心は初めて余白箱を少しだけ“置いた”。


 持ちすぎないために。


 でも捨てないために。


 背中を向けず、見える場所へ。


 それは小さな一歩だった。


 けれど、中心にとっては、扉の前まで来た日と同じくらい大きな出来事だった。


 箱を置く。


 それは、箱を捨てることではない。


 離す。


 それは、忘れることではない。


 見える場所に置けば、消えない。


 誰も勝手に動かさなければ、守られる。


 昨日の余白記録には、その言葉が残っている。


 箱を置く手の日。


 見える場所に置く日。


 置くけど捨てない日。


 動かさないことも守る日。


 そして。


 置くけど、捨てない。


 その言葉が、今朝の保護陣の中で淡く光っていた。


 余白核は、まだ眠っている。


 その光は少し穏やかだ。


 だが、完全には落ち着いていない。


 昨日、箱を置いたからだ。


 置いたものは、朝になるとどうなるのか。


 消えていないのか。


 誰かに動かされていないのか。


 もう一度持ってもいいのか。


 それとも、一度置いたら戻れないのか。


 その問いが、眠りの底からゆっくり浮かび上がってくる。


 余白箱は、昨日置かれた場所にある。


 保留箱もある。


 アリシアの箱もある。


 透明な器の中には、いやじゃない石。


 布に包まれた鳴らない鈴も、保護陣の端にある。


 どれも、動かされていない。


 レオンは、保護陣の縁に座っていた。


 黒蒼雷は細く、床を静かに巡っている。


 今日は、中心がまず箱の位置を確認するだろう。


 それを誰も急がせてはいけない。


 “ある”と自分で確かめること。


 “戻れる”と知ること。


 それが今日の軸になる。


 リリアーナは、余白核の近くに座っている。


 昨日、中心が眠る前に頼んだ言葉を覚えている。


 箱、見てて。


 リリアーナは見ていた。


 夜の間、ずっと。


 もちろん眠らないわけではない。


 見張り続けるわけでもない。


 それでも、彼女の意識の中では、余白箱がちゃんとその場所にあった。


 動かさない。


 触れない。


 勝手に開けない。


 それを守った。


 エリシアは術式盤を閉じている。


 セラフィアは祈りを静かに巡らせている。


 アルベルトは壁際に座り、昨日より少しだけ落ち着いた顔をしている。


 クラウスは入口側に立ち、ラウルは盾を床へ置いている。


 ミリオは眠そうにしているが、今日も外の精神線は開いていない。


 ミナの許可があるまでは拾わない。


 アリシアは自分の箱の前に座っていた。


 昨日、彼女も箱を見える場所に置くと決めた。


 まだ完全には離せない。


 だが、膝の上から少しだけ前へ。


 手を伸ばせば届く場所へ。


 彼女の箱も、今朝そこにある。


 余白核が、小さく震えた。


『……』


 朝の揺れ。


 誰も呼ばない。


 鈴も鳴らさない。


 待つ。


 保護陣の光が、一度、二度と淡く明滅する。


 そして、いつもより少し早く。


『……おはよう』


 中心の声が響いた。


 けれど、その声はすぐリリアーナへ向かわなかった。


『……箱』


 最初の言葉は、それだった。


 リリアーナは、微笑んだまま答える。


「あります」


『……どこ?』


「昨日、置いた場所です」


 中心の意識が余白箱へ向かう。


 見える場所。


 手を伸ばせば届くような場所。


 そこに、箱はあった。


 動いていない。


 開いていない。


 消えていない。


 余白核が、大きく震えた。


『……あった』


「はい」


『……動いてない』


「動かしていません」


『……開いてない』


「開けていません」


『……誰も、触ってない?』


「触っていません」


 レオンが短く言う。


「守った」


 中心が揺れる。


『……守った』


「ああ」


『……置いても』


 一拍。


『……あった』


 リリアーナの目に涙が浮かぶ。


「はい」


「ありました」


『……捨ててない』


「捨てていません」


『……消えてない』


「消えていません」


 中心は、何度も何度も箱を確認した。


 余白箱は、そこにある。


 昨日の場所に。


 誰にも動かされず。


 勝手に開けられず。


 ただ、そこにある。


 それだけで、中心の中に張り詰めていたものが少しずつほどけていく。


『……りり』


「はい」


『……おはよう』


「おはようございます」


『……れおん』


「おはよう」


『……しずかなあさ』


「ああ」


「静かな朝だ」


『……箱が、ある朝』


 リリアーナは微笑んだ。


「はい」


「箱がある朝です」


 リーネの光が、名簿束のそばで揺れる。


『記録します』


『置いた箱が残っていた朝』


 中心が、深く安堵したように光った。


『……のこった』


 ◇


 朝の確認は、箱をもう一度持つかどうかへ進んだ。


 リリアーナは急がない。


 レオンも黙っている。


 中心が、自分で箱へ意識を向ける。


『……持つ?』


 誰に聞いたわけでもない。


 中心自身の問い。


 昨日置いた余白箱。


 それを今日、もう一度持っていいのか。


 置いたものへ戻っていいのか。


 それは中心にとって、初めての感覚だった。


 置くことは捨てることではない。


 なら、置いたあとにもう一度持つことは、戻ることなのか。


 戻っていいのか。


 リリアーナは、優しく言う。


「持ちたいですか?」


『……わからない』


「はい」


『……持ったら、昨日、置いたの、だめ?』


 レオンが答える。


「だめじゃない」


『……また持つなら、置いた意味、ない?』


「ある」


『……ある?』


「ああ」


「置けたことに意味がある」


「また持つことにも意味がある」


 中心が揺れる。


『……置く、持つ』


「どちらもある」


『……行ったり、来たり?』


「そうだ」


 リリアーナが微笑む。


「箱との距離は、一度決めたら終わりではありません」


『……終わりじゃない』


「はい」


「近くに置く日もある」


「持つ日もある」


「少し離す日もある」


「また近づける日もある」


『……戻っていい?』


「はい」


『……離したのに?』


「離しても、戻れます」


 中心の光が大きく震えた。


『……離しても、戻れる』


 その言葉が、保護陣の中に深く落ちた。


 箱だけではない。


 言葉も。


 人も。


 名前も。


 怖さも。


 光も。


 青も。


 鈴も。


 一度離したら終わりではない。


 置いたら消えるわけではない。


 離しても、戻れる。


 中心は、震えながら余白箱へ意識を伸ばした。


『……持つ』


 余白箱が、ゆっくりと中心の近くへ戻ってくる。


 昨日より少しだけ近く。


 けれど、以前ほど近すぎない。


 中心は、その距離を確かめる。


『……近い』


「はい」


『……でも、昨日より、少し遠い』


「はい」


『……これ、いい』


 リリアーナは微笑んだ。


「その距離でいいんですね」


『……うん』


『……持つけど、少し置いてる』


 レオンが頷く。


「いい距離だ」


『……持つけど、少し置いてる』


 リーネが記録する。


『持つけど、少し置いている日』


 中心は安心したように揺れた。


 ◇


 朝の挨拶は、その“戻れる”を抱えたまま始まった。


『……あるべると』


「おう」


『……置いたもの、また持つ?』


 アルベルトは、少しだけ笑った。


「持つな」


『……置いたのに?』


「置いたから、また持てる」


『……どういうこと?』


「ずっと持ってると、腕が死ぬ」


 エリシアが静かに目を閉じる。


「言い方」


「でも本当だろ」


 アルベルトは続ける。


「置くと、腕が休む」


「休んだら、また持てる」


『……休んだから、また持てる』


「そうだ」


『……置くの、無駄じゃない』


「無駄じゃない」


 中心は、その言葉を箱へ置いた。


 エリシアへ。


『……えりしあ』


「はい」


『……閉じた記録、また開く?』


「開きます」


『……閉じたのに?』


「必要な時に開きます」


『……閉じる、終わりじゃない』


「はい」


「閉じるのは、休ませることです」


『……開くとき、戻る』


「そうです」


 セラフィアへ。


『……せら』


「はい」


『……祈り、置いて、また祈る?』


「ええ」


『……置いたら、終わりじゃない』


「終わりではありません」


『……戻れる』


「戻れます」


 クラウスは言った。


「刃も鞘から抜き直します」


 ラウルは。


「盾もまた持つ」


 ミリオは。


「寝ても、また起きます……」


 ラウルが短く言う。


「起きろ」


 中心が少し揺れる。


『……寝ても、戻る』


 最後に、アリシア。


『……ありしあ』


「はい」


『……箱、置いた?』


 アリシアは、自分の箱を見る。


 昨日より少しだけ前に置かれた箱。


 彼女の手は、今は膝の上にある。


「置きました」


『……消えた?』


「消えていません」


『……動いた?』


「動いていません」


『……戻る?』


 アリシアは、涙を浮かべた。


「少しだけ」


 彼女は手を伸ばした。


 自分の箱に触れる。


 持ち上げはしない。


 ただ、触れる。


「戻れます」


『……よかった』


「はい」


「よかったです」


 中心は、柔らかく揺れた。


『……ありしあも、離しても戻れる』


「はい」


 ◇


 グレイヴが救護区域へ向かった。


 今日も、ミナへ確認する。


 箱の中身は聞かない。


 名前も聞かない。


 昨日、ミナは箱を見える場所に置くと言った。


 今日は、その置いた箱をもう一度持つ時について、少しだけ聞いていいか。


 中心は、待つ。


 昨日より、少しだけ落ち着いて待てた。


 余白箱が戻ってきたからだ。


 置いても消えなかった。


 戻れた。


 その実感が、中心を支えている。


『……ミナも、戻れる?』


 リリアーナが答える。


「聞いてみないと分かりません」


『……うん』


『……ミナが、いやなら?』


「聞きません」


『……箱』


「置きましょう」


『……うん』


 中心は、余白箱へ言葉を置く。


『……ミナが戻れるか、知りたい』


『……でも、聞きすぎない』


『……ミナの距離は、ミナのもの』


 待つ。


 静かに。


 やがて、グレイヴが戻った。


 保護陣の外側で立ち止まる。


 中心が揺れる。


『……ミナ』


 グレイヴは頷いた。


「ミナは、少しならいいと言った」


『……いい』


「ああ」


『……箱は?』


「開けていない」


『……名前は?』


「聞いていない」


『……戻る?』


 グレイヴは、ゆっくり言った。


「ミナは、昼に置いた箱を、夕方にもう一度持つことがあると言った」


『……夕方』


「ああ」


「暗くなる前」


「夜になる前」


「まだ部屋が明るい時に、箱を持つ」


『……どうして?』


 中心がすぐ震える。


『……聞きすぎ?』


 グレイヴは慎重に答える。


「近いが、ミナは一つだけ言った」


『……なに?』


「“夜になる前に、ちゃんと戻れるか確かめる”」


 中心が、大きく震えた。


『……戻れるか』


「ああ」


「置いた箱へ」


「自分の手が、また戻れるか」


「確認するらしい」


 リリアーナの胸が熱くなる。


 ミナは、箱を置ける。


 でも、夜になる前に戻る。


 置いた箱が消えていないか。


 自分の手がそこへ戻れるか。


 自分が箱を捨てたわけではないと、確かめるために。


『……夜になる前』


「そうだ」


『……戻れるか、確かめる』


「そう言っていた」


『……ミナ』


 中心は、長く揺れた。


『……わたしも』


「はい」


『……今朝、確かめた』


「はい」


『……箱、あった』


「はい」


『……戻れた』


「戻れました」


 中心は、余白箱へ言葉を置く。


『……夜になる前に、戻れるか確かめる』


 ひとつ。


『……置いた箱へ、手が戻る』


 ひとつ。


『……捨ててないと、確かめる』


 ひとつ。


『……離しても、戻れる』


 ひとつ。


 箱が、柔らかく光った。


『……のこった』


「残りました」


 ◇


 午後。


 中心は、ミナの言葉を何度も確かめた。


『……昼に置く』


「はい」


『……夕方に持つ』


「はい」


『……夜になる前』


「はい」


『……戻れるか、確かめる』


「はい」


『……捨ててないか、確かめる』


「はい」


『……自分の手が、戻れるか』


「はい」


 中心は、自分の余白箱へ意識を向ける。


 さっき戻した箱。


 近すぎず、遠すぎず。


 持っているようで、少し置いている距離。


『……わたしも、戻れた』


「はい」


『……離したけど、戻れた』


「はい」


『……置いたの、だめじゃなかった』


「だめではありません」


『……戻るのも、だめじゃない』


「だめではありません」


 レオンが静かに言う。


「距離を変えていい」


 中心が揺れる。


『……距離』


「ああ」


「近い日もある」


「遠い日もある」


「また近づく日もある」


『……変えていい』


「いい」


『……箱との距離』


「そうだ」


『……名前との距離も?』


 保護陣の空気が少しだけ固まる。


 名前。


 久しぶりに、その言葉が中心から出た。


 リリアーナは息を整え、すぐに急がない。


「はい」


「名前との距離も、変えていいと思います」


『……近い日』


「あります」


『……遠い日』


「あります」


『……また近づく日』


「あります」


『……離れても、戻れる?』


「戻れます」


 中心は、大きく震えた。


 名前へ近づくのが怖い。


 でも、近づいたら戻れないわけではない。


 一度考えたら決めなければいけないわけではない。


 候補を見たら終わりではない。


 距離を変えていい。


 離れても、戻れる。


『……名前も』


 一拍。


『……離れても、戻れる』


 レオンが頷く。


「そうだ」


『……それ、ほしい』


「箱に置きましょう」


 余白箱へ。


『……名前との距離も、変えていい』


『……離れても、戻れる』


『……近い日も、遠い日もある』


 箱が、淡く光る。


『……のこった』


 ◇


 夕方。


 子供たちから、今日の札が届いた。


 “戻れる手”。


 幼い子が書いた札だった。


 ミナはそれを見て、少し困ったように笑ったらしい。


 グレイヴが報告すると、中心が柔らかく揺れた。


『……戻れる手』


「はい」


『……ミナ、笑った』


「少しな」


『……よかった』


 保留箱には、大人たちからの札も入った。


 “離れた後の戻り道を消さない”。


 “置いた箱を動かさない”。


 “戻ることを責めない”。


 リリアーナがそれを聞いて、深く頷いた。


「戻ることを責めない……大切ですね」


 中心が揺れる。


『……戻ること、責める?』


「あります」


『……どうして?』


「もう置いたのに、と言ってしまう人もいます」


『……こわい』


「怖いですね」


『……置いたのに、また持つな?』


「そう言われたら、怖いですね」


『……言わない?』


「言いません」


 レオンが低く言う。


「言わせない」


 中心は安心したように光った。


 アリシアは、自分の箱へ手を伸ばした。


 今朝、触れただけだった箱を、夕方に少しだけ持ち上げる。


 手が震えている。


 だが、彼女は持った。


「……戻れました」


 中心が静かに揺れる。


『……ありしあ』


「はい」


『……戻れる手』


「はい」


 アリシアは涙を浮かべながら、箱を胸に抱いた。


「でも、また置きます」


『……置く?』


「はい」


「持てたから」


「また置ける気がします」


 中心は、深く光った。


『……持てたから、置ける』


 その言葉も、余白箱へ置かれた。


 ◇


 夜。


 神殿の奥には、戻る手の静けさがあった。


 今日は、ミナの箱の中身を見なかった。


 名前も聞かなかった。


 ただ、ミナが置いた箱をもう一度持つ時のことを知った。


 夕方。


 夜になる前。


 戻れるか確かめる。


 捨てていないと確かめる。


 自分の手が、ちゃんと箱へ戻れると確かめる。


 リリアーナは、余白核のそばで静かに問いかけた。


「今日は、どんな日でしたか?」


 中心は、ゆっくり考えた。


『……置いた箱が残っていた朝』


「はい」


『……もう一度持つ日』


「はい」


『……離しても戻れる日』


「はい」


『……戻れる手の日』


「はい」


『……箱との距離を変えていい日』


「はい」


『……名前との距離も、変えていい日』


「はい」


『……戻ることを責めない日』


「はい」


 リーネの光が、名簿束のそばで揺れる。


『余白記録へ残します』


『もう一度持つ手の日』


『離しても戻れる日』


『箱との距離を変えていい日』


『名前との距離も変えていい日』


 中心が、穏やかに光った。


『……のこった』


「残りました」


 レオンが静かに言う。


「名前に近づく準備が、また一つできたな」


『……名前』


「怖いか」


『……こわい』


「だろうな」


『……でも』


 一拍。


『……離れても、戻れる』


「ああ」


『……近づいて、こわかったら、離れていい』


「いい」


『……また、戻っていい』


「いい」


 中心は、深く安心したように揺れた。


 余白箱は、今朝戻ってきた距離のまま。


 近すぎず。


 遠すぎず。


 持つけど、少し置いている距離。


『……りり』


「はい」


『……今夜は、この距離』


「はい」


『……近すぎない』


「はい」


『……でも、見える』


「見えます」


『……戻れる』


「戻れます」


 中心は、いやじゃない石へ意識を向ける。


『……いし』


「あります」


『……鈴』


「鳴っていません」


『……箱』


「あります」


『……ミナの戻れる手』


「記録にあります」


『……名前との距離』


「変えていいです」


『……よかった』


 中心は、眠りへ向かってゆっくり光を弱めていく。


『……りり、おやすみ』


「おやすみなさい」


『……れおん、おやすみ』


「おやすみ」


『……みんな、おやすみ』


 皆が返す。


「おやすみ」


「また明日」


 アリシアも、自分の箱を見える場所に置き直して言った。


「離しても戻れると覚えて、また明日」


 中心が柔らかく揺れる。


『……また、あした』


『……あしたのわたしに、きく』


『……離しても、戻れる』


 余白核は、静かに眠りへ入っていった。


 神殿の奥に、夜が降りる。


 今日、中心はミナの箱の中身を知らなかった。


 けれど、ミナが置いた箱へ戻る手を知った。


 そして、自分も戻れた。


 名もない“わたし”は、今日。


 大切なものと、ずっと同じ距離でいなくてもいいのだと知った。


 近づいて。


 離れて。


 また戻る。


 それでも、捨てたことにはならない。


 名前とも、きっと。


 いつか、そんな距離で向き合えるのかもしれない。

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