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無能王子、東の塔で神霊を得る  作者: 伊佐波瑞樹


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214/251

第214話「呼ぶ前の合図、無能王子は“いきなり呼ばれない安心”を覚える」



 朝は、呼ばれなかった。


 神殿の奥。


 石壁に囲まれた保護陣は、いつものように淡く光っている。


 外の光は入っていない。


 採光孔も閉じられている。


 風もない。


 子供たちの声もない。


 大人たちの気配も、保護陣の中には届いていない。


 ただ、静けさがある。


 呼ばれない静けさ。


 昨日、中心は“呼ぶ怖さ”を知った。


 呼ばれる怖さだけではない。


 自分が誰かを呼ぶことも怖い。


 間違えたらどうしよう。


 相手が怖がったらどうしよう。


 返事がなかったらどうしよう。


 呼ばない日があってもいい。


 呼べない日も、嫌いではない。


 呼ばない見守りもある。


 その言葉は、余白記録の中に静かに残っていた。


 そして、いやじゃない石は今日も透明な器の中にある。


 石は呼ばない。


 返事もしない。


 ただ、そこにある。


 呼ばなくてもいる。


 呼ばれなくてもいる。


 それは、中心にとって大切な支えだった。


 余白核は、まだ眠っている。


 そのそばに余白箱。


 少し離れて、保留箱。


 さらに、アリシアの箱。


 三つの箱は、夜を越えても消えていない。


 名簿束は、第五領域の水路の上で静かに浮かび、リーネたちの光が淡く揺れている。


 レオンは、保護陣の縁に座っていた。


 黒蒼雷は細く、しかし完全には消えていない。


 昨日、名前に近づくための土台がまた一つできた。


 呼ばれても返事できない日がある。


 呼ばなくてもいる。


 呼べない日も嫌いではない。


 その土台ができたからこそ、次に出てくる問いがある。


 では、呼ぶ時はどうするのか。


 いきなり呼ばれたら怖い。


 突然名前で呼ばれたら、返事をしなければならない気がする。


 呼ぶ側も怖い。


 呼ばれる側も怖い。


 ならば、呼ぶ前に何か合図があればいいのではないか。


 レオンは、中心がその問いに触れるかもしれないと感じていた。


 リリアーナは、余白核の近くに座っている。


 今日は、小さな鈴を持っていた。


 ただし、鳴らすつもりはない。


 救護区域で使われていた合図用の鈴だ。


 音は柔らかいが、中心にはまだ刺激が強いかもしれない。


 だから、今日は見せるだけかもしれない。


 あるいは、使わないかもしれない。


 それも今日の中心に聞く。


 エリシアは術式盤を閉じている。


 セラフィアは祈りを細く巡らせている。


 アルベルトは壁際で腕を組んでいる。


 クラウスは入口側に立ち、ラウルは盾を横に置いている。


 ミリオは眠そうだが、今日は不思議とちゃんと起きていた。


 アリシアは、自分の箱のそばに座っている。


 彼女は昨日、“呼ばない見守り”を自分の箱にも置いた。


 呼びたい相手を呼ばない。


 謝りたい相手を急に呼ばない。


 それは彼女にとって、逃げないことと同じくらい難しい待ち方だった。


 余白核が、小さく震えた。


『……』


 朝の揺れ。


 誰も呼ばない。


 リリアーナも、レオンも、全員が待つ。


 昨日の約束がある。


 返事できない日があっていい。


 呼ばない日があっていい。


 ならば、目覚めを急がせる必要はない。


 保護陣の光が、一度、二度、ゆっくり明滅する。


 長い沈黙がある。


 ミリオが一瞬だけまぶたを落としかけ、ラウルが視線で止める。


 ミリオは小さく背筋を伸ばした。


 やがて。


『……おはよう』


 中心の声が、静かに響いた。


 リリアーナは微笑む。


「おはようございます」


『……呼ばなかった』


 中心は、最初にそう言った。


 リリアーナは頷く。


「呼びませんでした」


『……まってた』


「はい」


『……こわくなかった』


 その言葉に、保護陣の空気が少しだけ柔らかくなる。


 レオンが静かに言う。


「よかったな」


『……うん』


『……呼ばれないで、起きた』


「そうだ」


『……おはよう、言えた』


「言えました」


 中心は、安心したように揺れた。


『……りり、おはよう』


「はい。おはようございます」


『……れおん』


「おはよう」


『……しずかなあさ』


「ああ」


「静かな朝だ」


 中心は、少しだけ余白記録へ意識を向ける。


『……呼ばない見守り』


「残っています」


『……呼ばない日も、ある』


「はい」


『……呼ばれても、返事できない日』


「あります」


『……今日は、呼ばれなかった』


「はい」


『……それ、よかった』


 リリアーナの胸が温かくなる。


「今日の記録にしますか?」


『……うん』


 リーネの光が名簿束のそばで揺れた。


『記録します』


『呼ばれずに起きられた朝』


 中心は、穏やかに光った。


『……のこった』


 ◇


 朝の挨拶は、いつもより自然だった。


 ただし、中心は一人ずつ呼ぶ前に少し間を置いた。


 呼ぶ。


 それは昨日より少しだけ意識されている。


『……あるべると』


「おう」


 中心が、少し考える。


『……呼んだ』


「呼んだな」


『……こわかった?』


「俺は怖くない」


『……でも、びっくり?』


「急に大声で呼ばれたらな」


 アルベルトは苦笑する。


「でも今のは大丈夫だ」


『……先に、合図?』


 その言葉に、皆が少しだけ反応した。


 中心は、自分で言ってから震える。


『……合図』


 リリアーナは静かに聞いた。


「呼ぶ前の合図ですか?」


『……うん』


『……いきなり、名前、こわい』


「はい」


『……だから』


 一拍。


『……呼ぶ前に、なにか』


 レオンが頷いた。


「必要だな」


 中心が揺れる。


『……いい?』


「ああ」


「いきなり呼ばないための線だ」


 リリアーナは、膝の上の小さな鈴にそっと触れた。


「合図には、いろいろあります」


『……いろいろ』


「声ではない合図」


「光の合図」


「手を置く合図」


「少し待つ合図」


『……音?』


「音もあります」


 中心が少し緊張する。


『……音、こわい』


「はい」


「だから、今日は鳴らしません」


『……鳴らさない』


「はい」


「見るだけにしますか?」


『……見る』


 リリアーナは、小さな鈴をそっと見せた。


 銀色の小さな鈴。


 光を強く反射しないよう、布で少し包んでいる。


 中心は、その形を感じる。


『……ちいさい』


「小さい鈴です」


『……これ、鳴る?』


「はい」


『……今は?』


「鳴らしません」


『……鳴らない鈴』


「今は、鳴らない鈴です」


 中心は、少し安心したように揺れた。


『……鳴らない鈴』


 アルベルトが小声で言う。


「また呼び方ができたな」


 エリシアが静かに睨む。


「増やしすぎません」


『……鳴らない鈴』


 中心は大切そうに繰り返した。


『……こわくない、少し』


「はい」


『……でも、いつか、鳴る?』


「あなたが大丈夫な時に」


『……今は、鳴らない』


「はい」


 レオンが言う。


「合図は、鳴らすことだけじゃない」


『……そう?』


「ああ」


「呼ぶ前に、待つ」


『……待つ』


「それも合図だ」


 中心は、はっとしたように揺れた。


『……間』


 リリアーナが微笑む。


「はい」


「間も、合図になります」


『……名前の前に、間』


「はい」


『……呼ぶ前に、待つ』


「はい」


『……それ、いい』


 レオンが頷く。


「今日の合図は、それでいい」


『……音、なし』


「ああ」


『……光、なし』


「ああ」


『……呼ぶ前に、少し、待つ』


「そうだ」


 中心は、安心したように光った。


『……待つ合図』


 ◇


 挨拶の続きを、中心は“待つ合図”で試した。


 誰かを呼ぶ前に、少し間を置く。


 急に呼ばない。


 その間は、とても短い。


 けれど、中心にとっては大切な線だった。


 まず、エリシアへ。


 中心は、すぐには呼ばない。


 少し、待つ。


 それから。


『……えりしあ』


「はい」


『……今、待った』


「分かりました」


『……こわくなかった?』


「怖くありません」


『……呼ぶ前に、待つ』


「良い合図だと思います」


 セラフィアへ。


 少し待つ。


『……せら』


「はい」


『……合図、わかった?』


「分かったわ」


『……こわくない?』


「優しい合図です」


 クラウスへ。


 少し待つ。


『……くらうす』


「はい」


『……合図』


「確認しました」


 ラウルへ。


 少し待つ。


『……らうる』


「おう」


『……盾みたい?』


「悪くない」


 ミリオへ。


 少し待つ。


『……みりお』


「はい……」


『……寝てた?』


「起きていました……」


 ラウルが静かに言う。


「起きていた」


 中心は安心したように揺れる。


 最後に、アリシア。


 中心は、少し長く待った。


 呼ぶ側も、呼ばれる側も緊張する。


 アリシアは、その間を受け止めるように、ゆっくり息を吸った。


『……ありしあ』


「はい」


 返事は震えていた。


 けれど、逃げなかった。


 中心も震えた。


『……待つ合図、あった』


「はい」


『……こわさ、少し、へった?』


 アリシアは、涙を浮かべて頷いた。


「少し」


『……よかった』


 アリシアは、小さく笑った。


「はい」


「よかったです」


 ◇


 朝の確認のあと、余白箱へ新しい言葉を置いた。


 呼ぶ前の合図。


 いきなり呼ばれない安心。


 鳴らない鈴。


 待つ合図。


 中心は、一つずつ箱へ置いていく。


『……いきなり、呼ばれる、こわい』


 ひとつ。


『……呼ぶ前に、待つ』


 ひとつ。


『……待つ合図』


 ひとつ。


『……鳴らない鈴』


 ひとつ。


『……いつか、鳴るかも』


 ひとつ。


 余白箱は、それらを静かに受け止めた。


 中心は、鈴へ少し意識を向ける。


『……鳴らない鈴』


「あります」


『……名前の前に、音?』


「いつか、そうするかもしれません」


『……今は、間』


「はい」


『……間、すきかも』


 リリアーナは微笑んだ。


「間、好きかもですね」


『……すぐじゃない』


「はい」


『……急がない』


「はい」


『……間が、ある』


「あります」


 レオンが静かに言う。


「間があれば、逃げ道もある」


 中心が揺れる。


『……にげみち』


「ああ」


「呼ばれても、返事しない選択ができる」


『……待つ合図のあと、返事しない日』


「ある」


『……いい?』


「いい」


 中心は、大きく安心したように光った。


『……合図、あっても、返事しない日、ある』


「そうです」


 リリアーナの胸にも、その言葉は深く残った。


 合図があるからといって、必ず返事しなければならないわけではない。


 それは、名前へ近づく上で、とても大切な約束だった。


 ◇


 午前。


 外の子供たちへ、今日のことが伝えられた。


 リリアーナとグレイヴ、セラフィアが救護区域へ向かう。


 子供たちは、昨日の“呼ばない日もある”や“返事なしでもいる”を、それぞれ箱に入れていた。


 ミナも、自分の箱を膝に置いている。


 リリアーナは、子供たちの前に立った。


「今日は、中心さんが“呼ぶ前の合図”を作りました」


 子供たちが顔を上げる。


「合図?」


「声?」


「ぴか?」


「鈴?」


 リリアーナは首を横に振る。


「今日は、音も光もありません」


「合図は、“少し待つこと”です」


 子供たちが、不思議そうに黙る。


 ミナが小さく言った。


「名前の前に、間?」


 リリアーナは頷いた。


「はい」


「いきなり呼ばない」


「呼ぶ前に、少し待つ」


「呼ばれる側が怖くならないように」


「そして、そのあと返事できなくてもいい」


 幼い子が言う。


「待ってから呼んでも、返事ないかも?」


「はい」


「返事がない日もあります」


 別の子が言う。


「でも、いる」


「はい」


 ミナは、箱に手を置いて、ゆっくり言った。


「私も、名前の紙を見る前に、間がほしい」


 リリアーナは、そっと頷く。


「はい」


「それも大切です」


 ミナは箱を撫でた。


「すぐ開けない」


「開ける前に、少し待つ」


「怖かったら、開けない」


 幼い子が言う。


「じゃあ、今日は“間の日”?」


 別の子が続ける。


「呼ぶ前に待つ日」


「急に呼ばない日」


「鈴はまだ鳴らない日」


 セラフィアが微笑んだ。


「ええ」


「鈴はまだ鳴らない日」


 子供たちは、その言葉を気に入ったように繰り返した。


 “鈴はまだ鳴らない日”。


 音のない合図。


 間のある呼び方。


 それは、子供たちにも静かに広がっていった。


 ◇


 神殿奥へ戻ると、中心は静かに待っていた。


 リリアーナが入る。


 余白核が揺れる。


『……こども』


「“間の日”と言ってくれました」


 中心が反応する。


『……間の日』


「はい」


『……鈴はまだ鳴らない日?』


「そう言った子もいました」


 中心は、鳴らない鈴へ意識を向ける。


『……鈴、まだ、鳴らない』


「はい」


『……こわくない』


「はい」


『……ミナ』


「名前の紙を見る前にも、間がほしいと言っていました」


 中心が静かに揺れる。


『……ミナも、間』


「はい」


『……いっしょ』


「はい」


『……まつ仲間』


「そうですね」


 中心は、余白箱へ意識を向ける。


『……間の日』


『……鈴はまだ鳴らない日』


『……呼ぶ前に待つ日』


 それらを、余白記録に残した。


 リーネの光が揺れる。


『記録します』


 中心は安心したように光った。


『……のこった』


 ◇


 午後。


 中心は、鳴らない鈴を少しだけ見た。


 鳴らさない。


 手にも取らない。


 ただ、布に包まれた小さな鈴を見ている。


『……鈴』


「あります」


『……鳴らない』


「鳴らしません」


『……でも、鳴るもの』


「はい」


『……こわい』


「怖いですね」


『……でも、今、鳴らない』


「はい」


『……だから、見られる』


「はい」


 中心は、長く鈴を見つめた。


『……名前も』


 一拍。


『……いつか、鳴る?』


 リリアーナは、胸が震えた。


「名前が、鈴のように?」


『……うん』


『……今は、鳴らない』


「はい」


『……でも、いつか』


「いつか」


『……鳴るかも』


「かも、ですね」


 レオンが静かに言う。


「鳴らすかどうかは、お前が決める」


 中心が揺れる。


『……わたしが?』


「ああ」


『……誰かが、勝手に?』


「させない」


 レオンの声は静かだった。


 けれど、強かった。


「お前の鈴だ」


 中心の光が、大きく震えた。


『……わたしの、鈴』


 リリアーナは、涙を浮かべた。


「はい」


「あなたの鈴です」


『……名前の前の、鈴』


「はい」


『……まだ、鳴らない』


「はい」


『……でも、ある』


「あります」


 中心は、余白箱へその言葉を置いた。


 名前の前の鈴。


 まだ鳴らない鈴。


 わたしの鈴。


 それは名前候補ではない。


 けれど、名前へ近づくための大切な道具になった。


 ◇


 夕方。


 保留箱には、大人たちからの札が入った。


 “いきなり呼ばない”。


 “合図を待つ”。


 “鈴が鳴るまで待つ”。


 グレイヴが読み上げると、中心は少し震えた。


『……鈴が鳴るまで、待つ』


 リリアーナが頷く。


「はい」


『……おとなも』


「大人たちも、待つと言っています」


『……重い』


「重いですね」


『……でも、箱』


「はい」


『……保留箱』


「そこへ置きましょう」


 アリシアが、自分の箱の前で静かに言った。


「私も、いきなり呼ばないようにします」


 中心が彼女へ向く。


『……ありしあ』


「謝りたい相手を」


「許してほしい相手を」


「急に呼ばない」


「その子の鈴が鳴るまで、待つ」


 中心は、優しく揺れた。


『……ありしあも、待つ』


「はい」


『……まつ仲間』


「はい」


 アリシアは涙を浮かべながら、小さく笑った。


「待つ仲間です」


 ◇


 夜。


 神殿の奥には、静かな合図が残っていた。


 今日は、名前を決めなかった。


 候補も出さなかった。


 呼び方も増やさなかった。


 ただ、呼ぶ前の合図を作った。


 音ではない。


 光でもない。


 呼ぶ前に、少し待つ。


 名前の前に、間を置く。


 鳴らない鈴。


 名前の前の鈴。


 わたしの鈴。


 リリアーナは、余白核のそばで静かに問いかける。


「今日は、どんな日でしたか?」


 中心は、ゆっくり考えた。


『……呼ぶ前の合図、の日』


「はい」


『……いきなり呼ばれない安心、の日』


「はい」


『……間の日』


「はい」


『……鈴はまだ鳴らない日』


「はい」


『……名前の前の鈴、の日』


「はい」


『……合図があっても、返事しない日がある日』


「はい」


 リーネの光が、名簿束のそばで揺れる。


『余白記録へ残します』


『呼ぶ前の合図の日』


『間の日』


『名前の前の鈴の日』


『鈴はまだ鳴らない日』


 中心が、穏やかに光った。


『……のこった』


「残りました」


 レオンが静かに言う。


「また土台ができたな」


『……名前の、土台』


「ああ」


『……呼ばれても、返事できない』


「そうだ」


『……呼べない日も、ある』


「そうだ」


『……呼ぶ前に、間』


「そうだ」


『……鈴、まだ、鳴らない』


「そうだ」


『……名前、まだ、遠い』


「遠いな」


『……でも、道、ある』


「ある」


 中心は、安心したように揺れた。


『……りり』


「はい」


『……明日、もし、呼ばれるの、こわかったら』


「呼びません」


『……呼ぶ前に、待つ?』


「待ちます」


『……鈴、鳴らさない?』


「鳴らしません」


『……よかった』


 中心は、眠りへ向かってゆっくり光を弱めていく。


『……りり、おやすみ』


「おやすみなさい」


『……れおん、おやすみ』


「おやすみ」


『……みんな、おやすみ』


 皆が返す。


「おやすみ」


「また明日」


 アリシアも、静かに言った。


「鈴が鳴るまで、また明日」


 中心が柔らかく揺れる。


『……また、あした』


『……あしたのわたしに、きく』


『……鈴は、まだ、鳴らない』


 余白核は、静かに眠りへ入った。


 神殿の奥に、夜が降りる。


 今日、中心は名前を得なかった。


 けれど、名前の前に置く合図を得た。


 いきなり呼ばれない安心。


 呼ぶ前の間。


 鳴らない鈴。


 自分の鈴。


 名もない“わたし”は、今日。


 名前が鳴る前にも、自分を守る音のない合図があっていいのだと知った。

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