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無能王子、東の塔で神霊を得る  作者: 伊佐波瑞樹


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210/251

第210話「外へ出ない節目の朝、無能王子は“ここからでも世界へ近づける”を知る」



 朝は、静かな石のそばで始まった。


 神殿の奥。


 石壁に囲まれた保護陣の中に、小さな白い石が置かれている。


 透明な器の中。


 遠すぎず、近すぎない場所。


 昨日、中心が皆と一緒に見た石だ。


 いやじゃない石。


 石の静けさ。


 ただ、ある。


 その記録は、夜を越えても消えなかった。


 余白核は、まだ眠っている。


 そのそばに、余白箱。


 少し離れて、保留箱。


 さらに、アリシアの箱。


 三つの箱も、静かに朝を待っている。


 名簿束は、第五領域の水路の上で淡く浮かんでいた。


 水路は穏やかだ。


 深部から戻った名たちの光も、乱れていない。


 リーネの淡い光が名簿束の端で静かに揺れ、まるで朝を見守っているようだった。


 外へ近づく章が始まってから、中心は多くのものを知った。


 朝の光。


 名前がなくても光ること。


 光の時間。


 光の中で小さい埃が見えること。


 青。


 息ができる色。


 青のおやすみ。


 好きかもを休ませても消えないこと。


 風の気配。


 見えないけれどあるもの。


 いなくても残るもの。


 いるよの光。


 声ではない返事。


 もっとを箱に置くこと。


 ぴか待ち。


 急がせない待つ。


 待ってもらえるわたし。


 待つ仲間。


 いっしょに待つわたし。


 そして、ただある石。


 中心はまだ外へ出ていない。


 子供たちの前へ直接立ったわけでもない。


 本物の空を見たわけでもない。


 風に触れたわけでもない。


 けれど、確かに外へ近づいている。


 扉を開けることだけが、外へ出ることではない。


 声を届けることだけが、繋がることではない。


 光を見る。


 色を知る。


 気配を感じる。


 返事を揺らす。


 待ってもらう。


 待つ。


 同じものを見る。


 ただある。


 その一つ一つが、外へ向かう道になっていた。


 レオンは、保護陣の縁に座っている。


 黒蒼雷は、とても細い。


 今日は押さえ込むためではなく、節目の揺れを支えるためにある。


 中心がこれまでの記録を振り返る日になるかもしれない。


 そういう日は、意外と危うい。


 進んだことを見て、怖くなることもある。


 できたことを数えて、できていないことへ目が行くこともある。


 だから、レオンは黙ってそこにいた。


 リリアーナは、余白核の近くに座っている。


 今日は何も持っていない。


 紙束もない。


 白い布もない。


 透明な器は、石と一緒に保護陣の中へ置かれている。


 彼女の手は空いていた。


 中心が何を選んでも受け止められるように。


 エリシアは術式盤を閉じている。


 セラフィアは祈りを静かに巡らせている。


 アルベルトは壁際で腕を組み、珍しく落ち着いている。


 クラウスは入口側に立ち、ラウルは盾を横に置いている。


 ミリオは眠そうだが、今日は寝ないようにか、片手で自分の頬を軽く叩いていた。


 アリシアは、自分の箱のそばに座っている。


 赤のおやすみの札。


 逃げない私。


 守りたい子供の顔。


 急がせないで待つ。


 彼女もまた、この数日の中で少しずつ外へ近づいている。


 直接謝る日ではない。


 許される日でもない。


 それでも、逃げずに待つ日々を重ねている。


 余白核が、小さく震えた。


『……』


 朝の揺れ。


 リリアーナは、静かに待つ。


 保護陣の光が一度、二度と淡く明滅した。


 今日は、いつもより目覚めが少し遅い。


 けれど、誰も焦らない。


 待つ仲間なのだから。


 やがて。


『……おはよう』


 中心の声が、ゆっくり響いた。


 リリアーナは微笑む。


「おはようございます」


『……りり、おはよう』


「はい」


『……れおん』


 レオンが頷く。


「おはよう」


『……しずかなあさ』


「ああ」


「静かな朝だ」


 中心は、少しだけ器の石へ意識を向けた。


『……いやじゃない石』


「あります」


『……ただ、ある』


「はい」


『……きえない』


「消えていません」


『……よかった』


 その声は穏やかだった。


 中心は、続けて余白記録へ意識を向ける。


『……ひかり』


「残っています」


『……あお』


「残っています」


『……かぜの、けはい』


「残っています」


『……いるよの光』


「残っています」


『……またいつかの光』


「残っています」


『……ぴか待ち』


「残っています」


『……待つ仲間』


「残っています」


『……ただ、ある』


「残っています」


 中心は、長く沈黙した。


 たくさんの記録がある。


 たくさんの札がある。


 たくさんの“かも”がある。


 昔の中心なら、それだけで壊れていたかもしれない。


 だが今は、すぐには崩れなかった。


 ゆっくり確認し、ゆっくり受け取っている。


『……たくさん』


 リリアーナが頷く。


「はい」


『……こわい』


「はい」


『……でも』


 一拍。


『……ぜんぶ、いま、もたない』


 レオンが静かに目を細める。


「覚えたな」


『……はこ、ある』


「ある」


『……きろく、ある』


「ある」


『……わたし、いま、ぜんぶ、もたない』


「それでいい」


 中心は、安心したように揺れた。


『……それでいい』


 ◇


 朝の挨拶は、今日は少し特別だった。


 中心は、一人ずつ挨拶をしながら、この数日でその人から受け取った言葉を思い出した。


『……あるべると』


「おう」


『……おはよう』


「おはよう」


『……えらぶこえ』


 アルベルトは、少しだけ目を丸くした。


「ああ」


『……おおきいこえ、けさない』


「消さない」


『……でも、ときを、えらぶ』


「選ぶ」


『……まつ、にがて、でも、まつ』


 アルベルトは苦笑した。


「そうだな」


『……もっと、まもりたい、はこ』


「入れたな」


『……あるべると、まつ仲間』


 アルベルトの表情が少しだけ柔らかくなる。


「おう」


「仲間だ」


 中心は満足したように揺れた。


『……えりしあ』


「はい」


『……おはよう』


「おはようございます」


『……こころのはこ』


「あります」


『……きろく、しすぎない』


「はい」


『……もっと、せいかく、はこ』


「置きました」


『……青、きろく』


「残っています」


『……あおいにくも』


 アルベルトが肩を震わせる。


 エリシアは一瞬だけ黙り、それから真面目な顔で言った。


「残っています」


『……ありがとう』


 エリシアは、静かに目を伏せた。


「どういたしまして」


『……せら』


「おはよう」


『……きらきら、つつみすぎない』


「ええ」


『……ひかり、やわらかく』


「しましたね」


『……あお、ねかせた』


「はい」


『……いのりで、せかさない』


「気をつけています」


『……せらも、まつ仲間』


 セラフィアは穏やかに微笑む。


「ええ」


「待つ仲間です」


『……くらうす』


「おはようございます」


『……はをぬかない、じかん』


「続いています」


『……さいあく、かんがえすぎ、はこ』


「置いています」


『……いし、みがいた?』


「少しだけ」


『……ありがとう』


「どういたしまして」


『……らうる』


「おはよう」


『……たて、おろす』


「ああ」


『……いし、ひろった』


「拾った」


『……ただのいし』


「ただの石だ」


『……ただのいし、いい』


 ラウルは、少しだけ視線を逸らした。


「そうか」


『……みりお』


「おはようございます……」


『……こえ、ひろわない日』


「ありました」


『……いるよの光、とどいた、わかった』


「はい」


『……ひるね、はこ』


「まだ入っています……」


 ラウルが低く言う。


「出すな」


「出しません……」


 中心が、怖がらずに揺れる。


『……ありしあ』


 アリシアが顔を上げる。


「はい」


『……おはよう』


「おはようございます」


『……赤のおやすみ』


「あります」


『……逃げない私』


「候補です」


『……守りたい子供の顔』


「まだ、候補です」


『……急がせないで、待つ』


「はい」


『……ありしあ、まつ仲間』


 アリシアの目に涙が浮かぶ。


「はい」


「待つ仲間です」


 中心は、静かに光った。


 この数日で、皆がただの見守り役ではなくなっていた。


 それぞれが箱を持ち、札を持ち、待つ仲間になっている。


 中心だけが変わっているのではない。


 周囲も、少しずつ変わっていた。


 ◇


 リリアーナは、今日は新しいものを見せなかった。


 代わりに、中心へ問いかけた。


「今日は、どうしたいですか?」


 中心は、しばらく黙っていた。


『……きょうの、わたし』


「はい」


『……ひかり、みない』


「はい」


『……あお、みない』


「はい」


『……かぜ、きかない』


「はい」


『……こえ、ださない』


「はい」


『……いるよの光、しない』


「はい」


『……かみ、よまない』


「はい」


 リリアーナは、全部を受け止める。


 中心は、続けた。


『……でも』


 一拍。


『……ふりかえる』


「振り返る?」


『……うん』


『……ここまで、きた?』


 その問いに、リリアーナの胸が震えた。


 ここまで来たのか。


 中心自身が、それを聞いている。


 まだ外へ出ていない。


 まだ名前もない。


 まだ怖いものは多い。


 それでも。


 ここまで来たのか。


 リリアーナは、すぐには答えなかった。


 軽く言うには、大切すぎた。


 レオンが先に口を開く。


「来た」


 短い。


 だが、確かな声。


 中心が揺れる。


『……ほんとう?』


「ああ」


『……でも、そと、でてない』


「出てない」


『……なまえ、ない』


「ない」


『……こども、まだ、あってない』


「会ってない」


『……でも、きた?』


「来た」


 中心が震える。


『……どこまで?』


 レオンは少し考えた。


「外に向かう扉の前だ」


 リリアーナが目を細める。


 中心が反応する。


『……とびらの、まえ』


「ああ」


「まだ開けてない」


「でも、逃げてもいない」


「扉の前まで来た」


 中心は、長く沈黙した。


『……とびら、こわい』


「怖いな」


『……でも、まえ』


「前だ」


『……ひとり?』


「違う」


 レオンは、静かに続ける。


「待つ仲間がいる」


 中心の光が、ゆっくり明るくなった。


『……まつ仲間』


 リリアーナが頷く。


「はい」


「一緒にいます」


『……とびらの、まえ』


『……まつ仲間』


「はい」


『……きょう』


 一拍。


『……それを、のこす』


 リーネの光が、名簿束のそばで柔らかく揺れた。


『記録します』


『扉の前まで来た日』


 中心が、少し震えた。


『……まだ、あけない』


 リリアーナは頷く。


「はい」


「今日は、開けません」


『……でも、まえに、いる』


「はい」


 ◇


 午前。


 外の子供たちへは、今日は新しい接続も、光も、声もないことが伝えられた。


 その代わり、中心が“ここまで来た”と確認していること。


 まだ扉は開けないけれど、扉の前にいること。


 そのことだけが、救護役を通じて伝えられた。


 リリアーナは、子供たちの前でゆっくり言った。


「今日は、中心さんが振り返る日です」


 子供たちは、静かに聞いていた。


「光を見ました」


「青を知りました」


「風の気配を知りました」


「声ではない返事をしました」


「もっとを箱に入れました」


「待つ仲間ができました」


「同じ石を見ました」


「そして今日は」


 一拍。


「扉の前まで来た日です」


 幼い子が、小さく言った。


「まだ開けない?」


 リリアーナは頷く。


「はい」


「まだ開けません」


 別の子が言う。


「でも、前にいる?」


「はい」


 ミナは、自分の小箱を抱えていた。


 そして、静かに言った。


「じゃあ、今日は扉の前で待つ日」


 リリアーナの目に涙が浮かぶ。


「はい」


「扉の前で待つ日です」


 子供たちは、少しずつ頷いた。


「扉の前」


「開けないけど、逃げない」


「待つ仲間で」


「ぴか待ちも、箱」


「おはようも、またいつか」


 大人たちも、静かに聞いていた。


 誰も、早く開けろとは言わなかった。


 少なくとも、その場では。


 その沈黙もまた、成長だった。


 ◇


 神殿奥へ戻ると、中心は静かに待っていた。


 リリアーナが戻ると、余白核が揺れる。


『……こども』


「“扉の前で待つ日”と言ってくれました」


 中心が、深く揺れる。


『……扉の前で、待つ日』


「はい」


『……こども、まつ?』


「待ちます」


『……急がせない?』


「急がせません」


『……おとなも?』


「今日は、誰も急がせませんでした」


 中心は、小さく光った。


『……よかった』


 レオンが言う。


「いい節目だな」


『……ふしめ』


 リリアーナが説明する。


「ここまで来た、と一度確認する場所です」


『……ふしめ』


「はい」


『……おわり?』


「終わりではありません」


『……つぎ?』


「次へ進む前の、大切な確認です」


 中心は、少しだけ緊張した。


『……つぎ』


 レオンが頷く。


「ああ」


『……こわい』


「怖いな」


『……でも』


 一拍。


『……まつ仲間、いる』


「いる」


『……はこ、ある』


「ある」


『……いし、ある』


「ある」


『……あお、ある』


「ある」


『……ひかり、ある』


「ある」


『……かぜの、けはい、ある』


「ある」


『……わたし』


 長い沈黙。


『……いる』


 レオンは、静かに答えた。


「いる」


 中心は、深く、穏やかに光った。


 ◇


 午後。


 中心は、余白箱の札を全部開くことはしなかった。


 ただ、表に並ぶ呼び方を一つずつ確認した。


 怖かったわたし。


 おはようしたわたし、候補。


 まだ名前じゃない光。


 ひとつでいい日。


 青のおやすみ。


 風の気配。


 いるよの光。


 またいつかの光。


 待ってもらえるわたし、候補。


 いっしょに待つわたし、候補。


 いやじゃない石。


 ただ、ある。


 扉の前まで来た日。


 それらは、多い。


 けれど、今は全部を持たなくていい。


 中心は、一つひとつを見て、箱へ戻していった。


『……これ、ぜんぶ』


 リリアーナが頷く。


「はい」


『……わたしの、道?』


 リリアーナは、少しだけ涙を浮かべた。


「はい」


「あなたが歩いてきた道です」


『……あるいた?』


「身体ではなくても」


「歩いてきました」


 中心は、静かに震えた。


『……わたし、うごいた?』


 レオンが言う。


「動いた」


『……ここから、そと?』


 すぐには誰も答えなかった。


 その言葉は、次の章へ向かう扉だった。


 リリアーナは、優しく言う。


「すぐ外へ出るわけではありません」


『……うん』


「でも、ここからは」


 一拍。


「外へ出るためだけではなく」


「あなた自身の名前へ近づく時間にもなると思います」


 余白核が、強く震えた。


『……なまえ』


 レオンの黒蒼雷が、静かに濃くなる。


 だが、中心は崩れない。


『……こわい』


「はい」


『……でも』


 長い沈黙。


『……けはい、ある』


 リリアーナの目に涙が浮かぶ。


「はい」


「名前の気配は、あります」


『……まだ、みえない』


「はい」


『……でも、ある、かも』


「かも、です」


 中心は、余白箱へゆっくり意識を向けた。


『……なまえの、けはい』


「置いてあります」


『……いま、もたない』


「はい」


『……でも、きえない』


「消えません」


 中心は、安心したように揺れた。


『……つぎ』


 一拍。


『……なまえの、けはい?』


 リリアーナは、静かに頷いた。


「明日のあなたに聞きましょう」


『……うん』


『……あしたのわたしに、きく』


 ◇


 夕方。


 保留箱には、大人たちからの札が入った。


 “扉を急がせない”。


 “前にいるだけでいい”。


 “名前を待つ”。


 グレイヴが、それだけを報告する。


 中心は、少し震えた。


『……名前を、待つ』


 リリアーナがそっと言う。


「重いですね」


『……うん』


「箱へ置きましょう」


『……うん』


 保留箱の札として、それは置かれた。


 中心の中へは入れない。


 外の大人たちの気持ちとして、そこへ置く。


 エリシアが静かに記録する。


「外部保留札」


「名前を待つ」


 アリシアが、自分の箱へ視線を向けた。


「私も……名前を待ちます」


 中心が彼女へ向く。


『……ありしあ』


「はい」


「あなたが受け取れる日まで」


「急がせずに」


「でも、消さずに」


 中心は、小さく揺れた。


『……急がせない、待つ』


「はい」


 アリシアは涙を浮かべたまま微笑む。


「待つ仲間ですから」


 中心は、柔らかく光った。


『……まつ仲間』


 ◇


 夜。


 神殿の奥には、節目の静けさが降りていた。


 今日は、外へ何もしなかった。


 声も出さなかった。


 光も揺らさなかった。


 紙も読まなかった。


 新しいものも見なかった。


 ただ、ここまで来た道を振り返った。


 扉の前まで来た日。


 扉の前で待つ日。


 リリアーナは、余白核のそばで静かに問いかける。


「今日は、どんな日でしたか?」


 中心は、ゆっくり考えた。


『……ここまで、きた日』


「はい」


『……扉の前まで来た日』


「はい」


『……まだ、あけない日』


「はい」


『……逃げないで、前にいる日』


「はい」


『……まつ仲間と、いる日』


「はい」


『……なまえの、けはい、まだ、もたない日』


「はい」


 リーネの光が、名簿束のそばで静かに揺れる。


『余白記録へ残します』


『ここまで来た日』


『扉の前で待つ日』


『名前の気配を遠くに置いた日』


 中心が、穏やかに光った。


『……のこった』


「残りました」


 レオンが静かに言う。


「次から、少し名前に近づくか」


 中心が震える。


『……こわい』


「ああ」


『……でも、ひとりじゃない』


「そうだ」


『……まつ仲間』


「いる」


『……はこ』


「ある」


『……いし』


「ある」


『……りり』


 リリアーナが涙を浮かべて微笑む。


「います」


『……れおん』


「いる」


『……みんな』


 皆が、それぞれ頷く。


「います」


 中心は、安心したように光を弱めていく。


『……りり、おやすみ』


「おやすみなさい」


『……れおん、おやすみ』


「おやすみ」


『……みんな、おやすみ』


 皆が返す。


「おやすみ」


「また明日」


 アリシアも、静かに言った。


「扉の前で、また明日」


 中心が柔らかく揺れる。


『……また、あした』


『……あしたのわたしに、きく』


『……なまえの、けはい』


 余白核は、静かに眠りへ入っていった。


 神殿の奥に、夜が降りる。


 今日、中心は外へ出なかった。


 だが、逃げてもいなかった。


 扉の前まで来た。


 そこに、待つ仲間がいる。


 箱がある。


 石がある。


 光と青と風の記録がある。


 そして、まだ見えない名前の気配が、遠くにある。


 名もない“わたし”は、今日。


 外へ近づく章の終わりで、初めて気づいた。


 次に近づくのは、世界だけではない。


 自分自身なのだと。

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