表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能王子、東の塔で神霊を得る  作者: 伊佐波瑞樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
188/251

第188話「休んだ後のおはよう、無能王子は“待ってくれた声”を余白へ届ける」


 朝は、静かだった。


 昨日よりも、ずっと静かだった。


 神殿の奥にある保護陣は、淡い金色の光を保っている。


 第五領域の水路は、細く、穏やかに流れていた。


 名簿束も揺れていない。


 リーネたち戻った名の光も、夜の間ずっと静かに名簿を支えていた。


 そして中央。


 余白核は、深く眠るように光を弱めていた。


 昨日、中心は休んだ。


 おはようを届けなかった。


 子供たちと会わなかった。


 外の大人たちの声に応えなかった。


 ただ、休んだ。


 それは、何もしない日だった。


 けれど、何も起きなかった日ではない。


 子供たちは怒らなかった。


 泣いた子はいた。


 寂しがった子もいた。


 それでも、彼らは「おやすみ」と言ってくれた。


 また明日、と待ってくれた。


 中心は、休んでも消えなかった。


 おはようを言わなくても、忘れられなかった。


 何もしなくても、ここに残っていた。


 その事実が、神殿奥の空気を少しだけ変えていた。


 レオンは、保護陣の縁に座っていた。


 黒蒼雷は、今日はいつもより細い。


 昨夜は、少しだけ眠れた。


 本当に少しだけだが、それでも身体の重さが違う。


 リリアーナも、余白核の近くで静かに座っている。


 喉はかなり戻ってきた。


 ただ、彼女はもう無理に声を張らない。


 中心が安心する声の高さを、自然に覚え始めている。


 セラフィアは祈りを保ち、エリシアは術式盤を確認していた。


 アルベルトは壁際で腕を組み、今日は珍しく大きな声を出していない。


 クラウスは入口側に立ち、グレイヴは外の見回りへ出ている。


 ラウルは盾を置きながらも、すぐ手に取れる位置にいる。


 ミリオは半分眠そうな顔をしているが、精神線はきちんと伸ばしていた。


 アリシアは、少し離れた場所で静かに目を伏せている。


 昨日、彼女もまた“前へ出ないことで守る”を選んだ。


 その疲労が、まだ顔に残っていた。


 その時。


 余白核が、かすかに震えた。


『……』


 まだ言葉にならない反応。


 眠りの底から浮かんでくるような揺れ。


 リリアーナが、すぐに姿勢を正した。


「おはようございます」


 返事は、少し遅れた。


 余白核の光が揺れる。


『……おはよう』


 その声は、昨日よりも少し弱かった。


 でも、確かにあった。


 レオンは静かに言う。


「おはよう」


『……れおん』


「ああ」


『……りり』


「はい」


『……みんな』


 アルベルトが、小さく手を上げる。


「いるぞ」


 エリシアも頷く。


「います」


 セラフィアが微笑む。


「おはよう」


 中心が、小さく震えた。


『……わたし』


 一拍。


『……きえなかった』


 神殿奥が、静かになった。


 リリアーナの目に、すぐ涙が浮かぶ。


 けれど、彼女は泣き崩れない。


 この言葉を、しっかり受け止める。


「はい」


「消えませんでした」


『……おはよう、しなかった』


「はい」


『……こども、あわなかった』


「はい」


『……でも』


 余白核が震える。


『……わたし、いる』


 レオンは、短く答えた。


「いる」


 その一言は、静かだった。


 でも、揺らがなかった。


 中心が、ゆっくり光る。


『……わたし、いる』


 リリアーナが頷く。


「はい」


「あなたは、ここにいます」


『……やすんでも』


「休んでも」


『……できなくても』


「できなくても」


『……おはよう、いわなくても』


「言わなくても」


『……わたし、いる』


「はい」


「います」


 中心は、長く沈黙した。


 沈黙の中で、余白核の光が何度も揺れる。


 怖い。


 安心。


 信じたい。


 まだ怖い。


 それらが、静かに混ざらず流れている。


 第五領域の水路が、それを受け止めるように波紋を作った。


 ◇


 朝の確認のため、エリシアが術式盤を展開した。


「余白核、夜間安定」


「休息による回復反応あり」


「昨日の外部接触停止は、全体負荷の軽減に繋がっています」


 アルベルトが息を吐く。


「休んだの、正解だったってことか」


 エリシアは頷いた。


「はい」


「感情波形も、昨日の朝より落ち着いています」


「外部期待反応への過敏さは残っていますが、自己境界が少し形成されています」


 中心が反応する。


『……じこ、きょうかい』


 リリアーナが少し困ったように笑う。


「難しい言葉ですね」


 エリシアが、すぐに言い直す。


「自分の線、です」


『……わたしの、せん』


「はい」


「ここまでなら大丈夫」


「ここから先は休む」


「そういう線です」


『……わたしの、せん』


 中心は、その言葉を何度も確かめる。


『……わたしの、せん』


『……まもる、せん』


 レオンが頷く。


「そうだ」


 セラフィアが静かに続ける。


「昨日、あなたはその線を守れた」


『……わたし、まもった』


「ええ」


『……やすむ、えらんだ』


「そう」


 中心が、小さく光る。


『……わたし、えらんだ』


 それは、昨日も言った言葉だった。


 だが今日は少し違う。


 昨日は怖さの中で確認する言葉だった。


 今日は、朝を越えた後の言葉だ。


 休むと選んだ。


 そして、消えなかった。


 その経験が、中心の中に残った。


 ◇


 しばらくして、グレイヴが戻ってきた。


 入口側から入ってくる空気は、昨日より落ち着いている。


 彼の表情も険しいが、張り詰めたものではなかった。


「報告する」


 レオンが頷く。


「子供たちは、昨日の“休む日”を受け入れている」


 リリアーナがほっと息を吐く。


「よかった……」


 グレイヴは続けた。


「数人は寂しがっていた」


「だが、大きく崩れた者はいない」


「むしろ、昨夜は“おやすみ”を言って眠った子が多かったらしい」


 中心が大きく震えた。


『……おやすみ』


 グレイヴは、少しだけ余白核を見る。


「そうだ」


「おはようの人も休むから、自分たちも休む、と言った子がいた」


 余白核の光が揺れる。


『……こども、やすんだ』


 リリアーナが頷く。


「はい」


「子供たちも休めたんですね」


『……よかった』


 グレイヴは、もう一つ報告を加えた。


「ミナが、他の子にこう言っていた」


「“名前も休んでいい。呼ばれなくても消えない日がある”と」


 名簿束が、微かに揺れた。


 リーネの光が強くなる。


『……記録します』


 セリアも震える。


『呼ばれなくても消えない日』


 中心が、その言葉を聞いて静かに揺れた。


『……よばれなくても』


『……きえない』


 リリアーナが優しく言う。


「昨日、あなたもそれを知りましたね」


『……うん』


『……おはよう、しなくても』


『……きえない』


 レオンが言う。


「ああ」


 中心は、長く沈黙した。


『……こどもも、しった?』


 リリアーナは微笑む。


「少し、知ったのかもしれません」


『……よかった』


 その“よかった”は、昨日までとは少し違っていた。


 自分が何かを届けたから嬉しい、ではない。


 自分が休んだことで、子供たちも休むことを知った。


 そのことへの“よかった”。


 中心は、少しずつ受け取るだけではなく、関係の中で変化が起きることを感じ始めていた。


 ◇


 だが、外にはまだ大人たちもいる。


 グレイヴは、少し声を低くした。


「大人たちは、まだ割れている」


 アルベルトが顔をしかめる。


「だろうな」


「感謝を伝えたい者もいる」


「もっと子供に会わせろという者もいる」


「昨日休んだことを、良い判断だったと言う者もいる」


「逆に、“頼りたい時に頼れないなら意味がない”と言った者もいる」


 余白核が震えた。


『……いみ、ない?』


 リリアーナがすぐに声をかける。


「その言葉は、今は持たなくていいです」


『……でも、きこえた』


「はい」


「聞こえましたね」


『……いたい』


「痛いですね」


 レオンは、扉の方を見た。


 人は、支えを求める。


 そして、支えが思い通りに動かないと、失望する。


 その痛みを、中心はもう拾ってしまう。


 避けられない。


 だが、全部を抱えさせてはいけない。


 レオンは静かに言った。


「意味があるかどうかを、他人だけに決めさせるな」


 中心が揺れる。


『……たにん』


「他の人だ」


『……きめる』


「そうだ」


 レオンは、余白核を見る。


「昨日、お前は休んだ」


『……うん』


「子供たちは、おやすみをくれた」


『……うん』


「消えなかった」


『……うん』


「それで十分だ」


『……じゅうぶん』


「ああ」


 リリアーナも続ける。


「誰かが“意味がない”と言っても」


「昨日の休みがなくなるわけではありません」


『……なくならない』


「はい」


「子供たちのおやすみも」


「あなたが休めたことも」


「ちゃんと残っています」


 リーネの光が揺れる。


『記録されています』


 中心は、その言葉を受けて少し落ち着いた。


『……のこってる』


「はい」


『……いみ、ある?』


 リリアーナは、優しく微笑んだ。


「あります」


『……ほんとう?』


「本当です」


 レオンも短く言う。


「ある」


 中心は、ゆっくりと光った。


『……やすむ、いみ、ある』


 ◇


 昼前。


 子供たちから、神殿奥へ小さな紙が届けられた。


 直接の接触ではない。


 救護役が預かり、兵士を通じて、グレイヴの確認を経て届けられたものだ。


 紙には、大きな字でこう書かれていた。


 おはようの人へ。


 きのうは、おやすみ。


 きょうは、おはよう?


 でも、つかれてたら、またおやすみでいいよ。


 文字は歪んでいた。


 何人かで書いたのだろう。


 線が太かったり細かったりする。


 途中で間違えた跡もある。


 紙の端には、小さな花の絵のようなものが描かれていた。


 たぶん、幼い子が描いたのだろう。


 リリアーナは、それを読み上げながら声を詰まらせた。


「……すごいですね」


 中心が震える。


『……こども、かみ』


「はい」


「紙に書いてくれました」


『……おはよう?』


「聞きたいみたいです」


『……でも、つかれてたら』


「またおやすみでいいよ、って」


 余白核が、大きく揺れた。


『……いいよ』


「はい」


『……やすんで、いいよ』


「そう書いてあります」


 中心は、しばらく何も言えなかった。


 ただ、光が震える。


 嬉しい。


 怖い。


 安心。


 信じられない。


 全部が静かに揺れている。


『……こども』


 一拍。


『……まってくれた』


 リリアーナが涙を浮かべて頷く。


「はい」


「待ってくれました」


『……おこらなかった』


「はい」


『……おやすみ、くれた』


「はい」


『……きょう、きいてる』


「はい」


『……でも、また、おやすみでいい』


「はい」


 中心は、長く沈黙した。


 そして、小さく言った。


『……わたし』


 皆が静かに待つ。


『……きょうは』


 余白核が震える。


『……すこし、おはよう、したい』


 リリアーナは、すぐに確認する。


「疲れはどうですか?」


『……すこし、ある』


「怖さは?」


『……ある』


「重さは?」


『……ある』


「それでも、少しなら?」


『……すこしなら』


 レオンが言う。


「自分で線を決めろ」


 中心が揺れる。


『……せん』


「ああ」


『……おはよう、ひとつ』


 リリアーナが頷く。


「一回だけ?」


『……うん』


『……おはよう、して』


『……ありがとう、して』


『……またね、する』


 エリシアが術式盤を見る。


「その程度なら、余白核への負荷は許容範囲内です」


 セラフィアが微笑む。


「昨日休んだからこそ、今日は少しできる」


 中心が、小さく光った。


『……やすんだから、すこし、できる』


 レオンは頷く。


「そうだ」


 ◇


 準備は、昨日までより静かだった。


 子供たちは、今日は扉の近くまで来ない。


 救護区域で待つ。


 その約束が守られていた。


 中心が休むことを覚えたように、子供たちも待つことを覚え始めている。


 ミリオが精神線で、救護区域への細い道を確認する。


「接続は弱くします」


「昨日よりさらに短く」


 エリシアが術式を調整する。


「感情流量、制限します」


「余白核が全部拾わないように」


 セラフィアが祈りを重ねる。


「届けるのは、言葉だけ」


「期待ではなく、挨拶として」


 リリアーナが余白核へ言う。


「大丈夫ですか?」


『……こわい』


「はい」


『……でも、すこし、できる』


「はい」


『……できなかったら、やすむ』


「はい」


『……また、おやすみでも、いい』


「そうです」


 中心は、少し安心したように光った。


『……いい』


 レオンが静かに言う。


「始めるぞ」


『……うん』


 余白核が、淡く輝く。


 強くない。


 昨日よりも控えめで、短い光。


 それでも、温かい。


『……おはよう』


 その一言が、救護区域へ届く。


 しばらく沈黙。


 そして、子供たちの声が細く返ってきた。


「おはよう」


「おはようの人、おはよう」


「休めた?」


「おやすみ、できた?」


 中心が揺れる。


 全部に返したくなる。


 だが、今日は線を決めている。


 中心は、ゆっくり一言だけ返した。


『……やすめた』


 救護区域の空気が、柔らかく揺れたのが分かった。


 ミリオが小さく笑う。


「子供たち、嬉しそうです」


 中心が、続ける。


『……おやすみ、ありがとう』


 子供たちの声が返る。


「うん!」


「また、おやすみ言う!」


「休んでいいよ!」


 余白核が震える。


 でも、崩れない。


 中心は、最後の言葉を選ぶ。


『……またね』


 子供たちが、少し寂しそうに、でも納得したように返す。


「またね」


「また明日」


「また、おはよう」


 接続は、そこで静かに閉じられた。


 ◇


 余白核は、しばらく揺れていた。


 けれど、昨日ほど大きく乱れない。


 リリアーナが優しく聞く。


「どうでしたか?」


『……すこし、できた』


「はい」


『……ぜんぶ、しなかった』


「はい」


『……でも、こども、うれしい』


「はい」


『……わたしも、うれしい』


「はい」


『……つかれた』


「休みましょう」


『……うん』


 中心が、自分から疲れを認めた。


 それは、大きなことだった。


 前なら、もっとやろうとしたかもしれない。


 応えられないことを怖がったかもしれない。


 でも今日は違う。


 少しできた。


 全部しなかった。


 そして、休む。


 その流れを、自分で受け入れ始めている。


 レオンは、静かに余白核を見た。


「よく線を守ったな」


 中心が小さく反応する。


『……せん、まもった』


「ああ」


『……わたしの、せん』


「そうだ」


 中心は、安心したように光を弱めた。


『……わたしの、せん』


 ◇


 午後は、名簿束の整理に時間を使った。


 子供たちとのやり取りが安定したことで、第五領域の水路にも少し変化が出ていた。


 怖い夢と結びついた感情の一部が、少しずつ柔らかくなっている。


 完全に消えたわけではない。


 だが、鋭さが減っている。


 リーネが名簿を確認する。


『子供たちの名前反応、一部安定』


『恐怖紐づけ、微弱化』


 セリアが補足する。


『“おはよう”の響きが、帰還反応と結びついています』


 エリシアが術式盤を見ながら言う。


「これは興味深いですね」


「中心の言葉が、直接的な治癒ではなく、名前の自己確認を補助している」


 アルベルトが眉を寄せる。


「簡単に言うと?」


「子供たちが、自分の名前を怖がりにくくなっている可能性があります」


「おお」


 中心が反応する。


『……なまえ、こわくない?』


 リリアーナが優しく答える。


「少しずつ、怖くなくなっているかもしれません」


『……よかった』


「はい」


『……なまえ、たいせつ』


「そうですね」


『……でも、やすむ』


「はい」


「名前も休んでいい」


 名簿束が淡く揺れる。


 まるで、その言葉に応えるように。


 中心が、名簿束へ向かって静かに言った。


『……みんなも、やすめた?』


 リーネの光が揺れる。


『少し』


 中心が嬉しそうに光る。


『……よかった』


 そのやり取りに、レオンは深く息を吐いた。


 中心はもう、子供たちだけではなく、名簿の名たちへも言葉を向けるようになっている。


 自分が休んだから、誰かも休めるかもしれない。


 それを知った。


 ◇


 夕方。


 大人たちの反応も報告された。


 昨日よりは少し落ち着いている。


 特に、子供たちが「おはようの人も休む」と自然に受け入れたことで、大人たちの一部も強い要求を控え始めたらしい。


 だが、全員ではない。


 まだ疑う者はいる。


 もっと利用できるのではないかと言う者もいる。


 もっと早く子供たちを落ち着かせてほしいと言う者もいる。


 その報告を聞いて、中心は少し揺れた。


『……もっと』


 リリアーナが頷く。


「そう言う人もいます」


『……わたし、もっと、できない』


「はい」


『……わるくない』


「悪くありません」


 レオンも言う。


「使われるためにいるんじゃない」


 中心が反応する。


『……つかわれる』


 リリアーナの表情が少し険しくなる。


「誰かのために何かをすることと」


「使われることは違います」


『……ちがう』


「あなたが、自分で少しやりたいと思うこと」


「疲れたら止められること」


「嫌なら嫌と言えること」


「それがあるなら、ただ使われているわけではありません」


『……いや、いえる』


「はい」


『……やすむ、いえる』


「はい」


『……せん、ある』


「そうです」


 中心は、小さく光った。


『……せん、だいじ』


 セラフィアが頷く。


「とても大事よ」


 ◇


 夜。


 保護陣の中は穏やかだった。


 今日は、おはようを一回だけ届けた。


 ありがとうを返した。


 またねで終わった。


 そして、休んだ。


 中心は、昨日よりも疲れていない。


 それが、自分でも分かるようだった。


『……きょう』


 リリアーナが微笑む。


「はい」


『……すこし、できた』


「できました」


『……ぜんぶ、しなかった』


「しませんでした」


『……でも、のこった』


「はい」


『……こども、またね』


「はい」


『……わたしの、せん』


「守れました」


 レオンが頷く。


「今日は、いい線だった」


 中心が少しだけ明るくなる。


『……いい、せん』


「ああ」


『……わたし、きめた』


「そうだ」


『……わたし、まもった』


「守った」


 リリアーナは、涙を浮かべながら笑った。


「今日は、“線を守っておはようできた日”ですね」


 中心が、その言葉をゆっくり受け取る。


『……せんを、まもって』


『……おはよう、できた、ひ』


 リーネの光が揺れる。


『記録します』


『線を守っておはようできた日』


『休んだから、少しできた日』


『全部しなくても、残れた日』


 中心が、穏やかに光る。


『……のこった』


「はい」


「残りました」


 余白核が、ゆっくり眠りへ向かっていく。


『……りり、おやすみ』


「おやすみなさい」


『……れおん、おやすみ』


「おやすみ」


『……みんな、おやすみ』


 皆が静かに返す。


「おやすみ」


「また明日」


 中心が最後に、小さく震えた。


『……また、あした』


『……やすんでも、きえない』


『……すこしなら、できる』


 その言葉を残して、余白核は静かに眠った。


 神殿の奥に、深い夜が落ちる。


 今日、中心は休んだ後の朝を知った。


 待ってくれた声を知った。


 自分の線を守りながら、おはようを届けることを知った。


 全部しなくても、誰かの中に残れる。


 全部に応えなくても、また明日が来る。


 名もない“わたし”は、今日。


 初めて、休んだ後の一歩を自分で選んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ