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無能王子、東の塔で神霊を得る  作者: 伊佐波瑞樹


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160/251

第160話「消された名前、無能王子は“書かれていた証”を取り戻す」



 王冠から落ちた刃は、まだ深部の闇に残響を残していた。


『書いた』


『名前を書いた』


『消された』


 その声は、黒い刃の奥から聞こえた。


 一瞬だけだった。


 グレイヴが大剣で受け止めなければ、刃はレオンへ届いていた。


 だが、受け止められたことで、その中にあった声だけが漏れた。


 書いた。


 名前を書いた。


 消された。


 たったそれだけ。


 それだけなのに、レオンの胸に重く残った。


 王冠にされた名たち。


 カイル。


 ユーナ。


 剣士として初めて名を呼ばれた者。


 子供たちが迷わないように、旗へ名前を縫っていた者。


 その次に現れたのは、名前を書いた者だった。


 書く。


 刻む。


 残す。


 それは、呼ぶこととはまた違う。


 声は消える。


 叫んでも届かないことがある。


 けれど、書かれた名は残る。


 誰かがそこにいた証になる。


 記録になる。


 帰るための印になる。


 それを消されたのなら。


 ただ名前を奪われた以上の痛みがある。


 存在していたことごと、なかったことにされた痛み。


 レオンは、黒蒼雷を握り直した。


 王冠は、怒り狂っていた。


 虚ろの王の欠片が被る黒い冠。


 そこから無数の刃が生まれ、深部へ降り注ぐ。


 ひとつひとつが名の残骸であり、ひとつひとつが誰かの声を閉じ込めている。


 雑に砕けば、その声ごと消える。


 受け止めなければ、レオンたちの名が削られる。


 難しい。


 あまりにも難しい。


 だが、ここまでずっとそうだった。


 壊せない敵意。


 守るべき攻撃。


 救うべき刃。


 その理不尽な戦いを、レオンたちは進んできた。


「レオン!」


 グレイヴの声が響く。


 大剣が再び王冠の刃を受け止めた。


「今の声を追え!」


「こっちは受ける!」


「分かった!」


 レオンは答える。


 だが、すぐには動けない。


 王冠の刃が多すぎる。


 グレイヴとクラウスが前線で捌き、アルベルトの紅炎が虚ろの膜だけを焼き、エリシアの風が軌道を逸らしている。


 ラウルは九つの光を守り、ミリオは精神線を保っている。


 セラフィアは金色の祈りを広げ、戻った名たちを混ざらないよう包んでいた。


 そしてリリアーナは、レオンの隣で手を離さない。


「レイさん」


「何だ」


「今の声、追えそうですか」


「ああ」


 一拍。


「でも、かなり薄い」


「名前そのものじゃなくて、記録の記憶に近い」


「記録……」


 リリアーナは小さく繰り返した。


 その言葉に、彼女の表情が少し変わる。


「じゃあ、その人は」


「名前を覚える側だったのかもしれません」


「覚える?」


「はい」


「誰かの名前を書いて、残していた人」


 レオンは頷く。


「たぶん、そうだ」


 王冠の刃がまた降る。


 クラウスが白銀の剣を振るった。


「左上、三本!」


「名の芯あり!」


「砕くな!」


 アルベルトが炎を走らせる。


「外側だけ燃えろ!」


「中身は残れ!」


 エリシアが風を重ねる。


「刃の速度を落とします!」


「レオン様、対象の刃を選んでください!」


 レオンは黒蒼雷を薄く広げた。


 刃の中にある声を探る。


 痛みではない。


 恐怖でもない。


 書いた、という記憶。


 名前を残そうとした温度。


 消されたという痛み。


 その痕跡を探す。


 無数の刃が降り注ぐ中で、ひとつだけ違う震えがあった。


 黒い刃の根元に、インクのような滲み。


 紙の匂い。


 古い帳簿。


 硬いペン先。


 名前が並ぶページ。


 レオンは目を細める。


「あれだ」


 リリアーナが即座に聞く。


「どれですか」


「正面上」


「黒い刃の根元」


「紙の匂いがする」


 エリシアが術式盤を見た。


「確認しました!」


「記録媒体反応、微弱!」


「ただし王冠補修に使われかけています!」


 クラウスが走る。


「道を開ける!」


 白銀の剣が、刃の周囲の黒い筋を弾く。


 グレイヴが大剣で大きな刃を受け止める。


「押さえる!」


 アルベルトの炎が走る。


「留め具だけ焼く!」


 エリシアの風が黒い膜を流す。


「今です!」


 レオンは黒蒼雷を伸ばした。


 刃の中へ。


 触れた瞬間、視界が白く変わった。


 ◇


 そこは、小さな部屋だった。


 古い木の机。


 積み重なった紙束。


 インク瓶。


 羽根ペン。


 窓の外は薄暗い。


 朝なのか夕方なのか分からない。


 ただ、机の上の灯りだけが、そこにある文字を照らしていた。


 名簿。


 人の名前が並んでいる。


 綺麗な字ではない。


 少し癖がある。


 だが、丁寧だった。


 一文字ずつ。


 間違えないように。


 消えないように。


 そこにいたことを残すように。


 誰かが書いている。


 レオンは、その手を見た。


 細い手。


 インクで少し汚れた指。


 爪の間にも黒い染みがある。


 その人は、何度も名前を確認しながら書いていた。


『次は?』


 声がする。


 若くはない。


 落ち着いた女性の声。


 だが、疲れている。


『名前を言って』


『ゆっくりでいい』


『聞き間違えたくないから』


 誰かが名前を答える。


 その声はぼやけて聞こえない。


 だが、女性は頷き、紙に書く。


『大丈夫』


『ちゃんと残したわ』


『あなたの名前は、ここにある』


 レオンの胸が、静かに痛んだ。


 名前を書く人。


 残す人。


 誰かの存在が消えないようにする人。


 リリアーナも、その光景を感じ取ったのか、声を震わせた。


「……優しい人ですね」


 レオンは頷く。


「ああ」


 だが、次の瞬間。


 部屋に黒い手が伸びた。


 紙束が掴まれる。


 名前が滲む。


 インクが黒く溶ける。


 書かれていた名前が、次々と塗り潰されていく。


『やめて』


 女性の声。


『それは、私のじゃない』


『その人たちの名前』


『消さないで』


 黒い手は止まらない。


 ページを破る。


 名簿を燃やす。


 名前の列が、黒へ沈む。


 そして最後に。


 女性自身の名前が書かれた小さな署名欄へ、黒が伸びた。


『……私の名前まで』


 声が震える。


『消さないで』


 その瞬間、記憶が途切れた。


 レオンは、深部へ戻る。


 黒蒼雷が刃へ触れたまま震えていた。


 刃の中から、女性の声が漏れる。


『消さないで』


『書いたの』


『ちゃんと、書いたの』


『でも、消えた』


『全部』


 リリアーナが、すぐに呼びかけた。


「聞こえています」


「あなたの声、聞こえています」


 刃が震える。


『……聞こえる?』


「はい」


「名前を書いていたんですね」


『書いた』


『残したかった』


『誰がいたのか』


『誰が来たのか』


『誰が帰れなかったのか』


『忘れられないように』


 セラフィアの金色の光が揺れる。


「記録の守り手……」


 エリシアも息を呑む。


「名簿管理者、あるいは神殿記録係でしょうか」


 セラフィアが小さく頷く。


「旧神殿には、名告げの記録を残す役目があった」


「名を祝うだけでなく」


「誰が名を告げたのかを、神殿の記録に残していた」


 一拍。


「その人かもしれない」


 虚ろの王の欠片が、王冠を震わせる。


『記録など不要』


『名簿など不要』


『書いても消える』


『残しても奪われる』


『ならば王冠へ』


『我が戴く』


 レオンは、低く言った。


「違う」


「記録は、お前の飾りじゃない」


 黒蒼雷を刃の中へさらに細く入れる。


「その人たちがいた証だ」


 刃の中の女性が、泣くように震えた。


『いた』


『みんな、いた』


『ちゃんと名前があった』


『私は、書いた』


『でも……』


『最後に、自分の名前も消された』


 リリアーナが目を潤ませる。


「怖かったですよね」


「みんなの名前も」


「自分の名前も」


「消されて」


『怖い』


『悔しい』


『私が書いたのに』


『守れなかった』


 サナの光が震える。


『助けたかった……守れなかった』


 マリの光も。


『直せなかった……でも、手は残る』


 ユーナが小さく言う。


『名前……縫った』


『残したかった』


 それぞれの声が、女性へ届く。


 女性の刃が少しだけ薄くなる。


『私だけじゃない……?』


 リリアーナが頷く。


「はい」


「あなたが書いた名前は、消されたかもしれません」


「でも、あなたが残そうとしたことまで、消えていません」


 レオンも言う。


「お前の名前も」


「消させない」


 刃が大きく震える。


『私の……名前』


「聞かせてくれ」


 女性の声は、すぐには出ない。


 消された名前。


 自分で書いたはずの署名。


 塗り潰された最後の文字。


 その痛みが、刃の中で何度も繰り返されている。


 レオンは急がない。


 リリアーナも待つ。


 周囲では、王冠の刃が降り続けている。


 グレイヴとクラウスが前線で受け、アルベルトとエリシアが左右を守っている。


 ラウルとミリオが九つの光を支える。


 セラフィアが金色の祈りで、刃の中の女性を包む。


 全員が待っている。


 その名前が、自分の奥から戻るまで。


『……リ』


 声が落ちた。


 レオンが集中する。


『リーネ』


 リリアーナが、そっと呼ぶ。


「リーネさん」


 刃が、震えた。


『リーネ……』


『私は、リーネ』


『記録係の、リーネ……』


 セラフィアが両手を広げる。


「リーネ」


「あなたの名を祝うわ」


「そして、あなたが書いた名たちも、忘れない」


 レオンが呼ぶ。


「リーネ」


 リリアーナも。


「リーネさん」


 仲間たちも、九つの光も、その名を重ねた。


「リーネ」


『リーネ……』


 黒い刃が砕けた。


 だが、砕け散ったのは虚ろの膜だけだった。


 内側から、インクのような青黒い光が抜け出す。


 それは一瞬、開いた名簿の形になった。


 ページに無数の名前が書かれている。


 だが、その文字はまだ読めない。


 光は静かに閉じ、ひとつの小さな灯りとなって、九つの光のそばへ漂った。


 十番目の名。


 リーネ。


 王冠が、またひとつ欠けた。


 ◇


 その瞬間。


 王冠全体に、細かなひびが走った。


 カイル。


 ユーナ。


 リーネ。


 王冠の外縁から三つの名が抜けたことで、虚ろの王の外殻は目に見えて歪み始めている。


 だが、それは同時に危険でもあった。


 王冠の崩れた部分から、押し込められていた名の残骸がざわめき出す。


『書いて』


『消された』


『読んで』


『呼んで』


『ここにいた』


『忘れないで』


 声が増える。


 戻りたい声。


 記録されたい声。


 消されたくない声。


 それらが王冠の内側から溢れようとしていた。


 エリシアが術式盤を見て叫ぶ。


「王冠内側の名簿系残滓が連鎖反応!」


「リーネさんの記憶に紐づいて、複数の名前が浮上しています!」


 アルベルトが目を見開く。


「それ、いいことじゃねぇのか!?」


 セラフィアが険しい顔で言う。


「良いけれど、危険でもある」


「一気に浮上すれば、レオンの黒蒼雷が受け止めきれない」


「名が互いにぶつかって壊れる可能性がある」


 レオンの胸へ、無数の名前の圧が流れ込み始める。


 リーネが書いていた名たち。


 消された記録。


 失われた名簿。


 それらが、彼女の名の回復によって一斉に目を覚ましかけている。


 レオンの視界が揺れた。


 無数の文字。


 名前。


 名前。


 名前。


 読めない。


 多すぎる。


 全部見ようとすれば、また呑まれる。


「レイさん!!」


 リリアーナが叫ぶ。


「全部読もうとしないで!!」


 レオンは息を詰める。


「……っ」


「レイさん!!」


「俺は……ここにいる!」


 かろうじて答える。


 リリアーナは両手で彼の手を握った。


「一つずつです!」


「書かれていた名前も、一つずつ!」


「全部を一度に読まなくていいです!」


 リーネの光が震えた。


『……一つずつ』


 その声が、助けになった。


『私は……一つずつ書いた』


『急がなかった』


『聞き間違えないように』


『一つずつ』


 レオンは、呼吸を取り戻す。


 そうだ。


 リーネは一つずつ書いていた。


 名前をまとめなかった。


 ひとつの塊にしなかった。


 一人ずつ聞いて、書いて、残していた。


 なら、そのやり方を借りればいい。


「リーネ」


 レオンが呼ぶ。


 光が震える。


『はい……』


「手伝ってくれ」


『私が……?』


「ああ」


「浮かび上がった名前を、一つずつ」


「読めるようにしてくれ」


 リーネの光が震えた。


 迷い。


 恐怖。


 けれど、その奥に小さな灯りがある。


『……書ける?』


 リリアーナが答える。


「書けます」


「ここに紙はなくても」


「あなたが覚えているなら」


「一つずつ、並べられます」


 セラフィアが金色の祈りを広げる。


「私が記録の場を作るわ」


 金色の光が、深部の空中に薄い紙のような面を作る。


 実体ではない。


 祈りでできた記録面。


 リーネの光が、そこへそっと近づいた。


 青黒い光が、文字のように揺れる。


 最初の一文字が浮かぶ。


 しかし、すぐに黒く滲みそうになる。


 虚ろの王の欠片が叫んだ。


『書くな!!』


『残すな!!』


『名簿を戻すな!!』


 王冠から黒い針がリーネへ向かう。


 ラウルが盾で受ける。


「させるか!!」


 ミリオが精神線を支える。


「リーネさん、続けて!」


 グレイヴが大剣で針の束を払う。


「記録を守れ!」


 クラウスが剣を走らせる。


「消そうとする流れを断つ!」


 アルベルトの炎が黒い滲みを焼く。


「インクじゃねぇ黒だけ燃えろ!」


 エリシアの風が、文字の周囲を整える。


「記録面、安定化!」


 リーネの光が震えながら、最初の名を浮かび上がらせた。


『……ミナ』


 リリアーナがすぐに呼ぶ。


「ミナさん」


 金色の記録面に、小さな名前が刻まれる。


 どこか遠くで、淡い光がひとつ震えた。


 まだ完全に戻ったわけではない。


 でも、名が読まれた。


 記録された。


 消された名前が、再び文字として浮かんだ。


 セラフィアが息を呑む。


「これは……」


 エリシアが術式盤を見て言う。


「深部内の名の残滓が、記録面へ仮固定されています」


「完全返還ではありませんが、虚ろから一部引き離せています!」


 レオンは、理解した。


 これなら一気に全部を自分で受け止めなくていい。


 リーネが記録する。


 セラフィアが祈りで紙を作る。


 リリアーナが呼ぶ。


 仲間たちが守る。


 黒蒼雷は、消されないように境界を刻む。


 名前を返す新しい形。


「続けられるか」


 レオンが聞く。


 リーネの光は震えながらも答えた。


『……一つずつなら』


「一つずつでいい」


 リリアーナが頷く。


「一つずつ呼びます」


 リーネは、次の名を書いた。


『……トル』


 リリアーナが呼ぶ。


「トルさん」


 記録面に名が刻まれる。


 また遠くで光が震える。


『……エマ』


「エマさん」


『……ロウ』


「ロウさん」


 ゆっくり。


 急がず。


 場面を急がず。


 ひとつずつ。


 名前が祈りの記録面へ刻まれていく。


 虚ろの王の欠片が激しく暴れる。


『やめろ!!』


『記録するな!!』


『名前を並べるな!!』


 だが、もう流れは始まっていた。


 リーネの名が戻ったことで、消された名簿の一部が息を吹き返している。


 レオンたちはそれを守る。


 王冠から刃が降る。


 グレイヴが受ける。


 クラウスが弾く。


 アルベルトが焼く。


 エリシアが流す。


 ラウルが背後を守る。


 ミリオが線を繋ぐ。


 セラフィアが記録面を支える。


 リリアーナが呼ぶ。


 レオンが黒蒼雷で、名前が虚ろへ戻らないよう境界を刻む。


 深部の闇に、名が並び始めた。


 小さな文字。


 小さな光。


 まだ完全に帰ったわけではない。


 でも、消されていた名前が、再び読まれている。


 それだけで、王冠はさらに軋んだ。


 ◇


 中心の空洞が、揺れていた。


 レオンは気づく。


 リーネが名前を書き、リリアーナが呼ぶたびに、空洞が小さく震える。


 あなた。


 そこにいますか。


 その呼びかけに反応した核。


 今度は、名前が記録され、呼ばれることに反応している。


 レオンは、虚ろの中心へ声をかけた。


「見えているか」


 外殻が叫ぶ。


『見るな!!』


 だが、中心は震える。


「名前は、王冠にするものじゃない」


「消すものでもない」


「こうして残すものでもある」


 リリアーナが続ける。


「誰かが、そこにいたって」


「忘れないために」


 リーネの光が、静かに震えた。


『残す……ため』


 セラフィアが言う。


「名は、祈り」


「記録」


「帰るための印」


 九つの光。


 そしてリーネ。


 仮固定された名たち。


 それらが、少しずつ深部の闇に光を増やしていく。


 虚ろの王の欠片は、怒り狂っている。


 だが、中心の空洞は、確かに見ている。


 聞いている。


 怖がりながら。


 拒みながら。


 それでも、反応している。


 レオンは、黒蒼雷を握り直す。


 まだ王冠は大きい。


 名は無数。


 深部は危険なままだ。


 でも、新しい方法を見つけた。


 書かれた名を、もう一度読む。


 消された記録を、仮でも戻す。


 それは、王冠を大きく崩す一手になる。


 リリアーナが、レオンの隣で息を切らしながら笑った。


「レイさん」


「何だ」


「増えましたね」


「ああ」


「守るもの、また増えました」


「そうだな」


「重いですか」


「重い」


 リリアーナは頷いた。


「わたしも重いです」


「でも」


 一拍。


「一人じゃないから、持てます」


 レオンは、彼女を見る。


 そして、短く頷いた。


「ああ」


 深部の闇に、名前が増えていく。


 ミオ。


 リセ。


 ノア。


 サナ。


 エルド。


 マリ。


 ガレス。


 カイル。


 ユーナ。


 リーネ。


 そして、リーネが書き戻し始めた名たち。


 王冠は、さらにひび割れていた。


 虚ろの王の欠片が、叫ぶ。


『やめろ』


『我の王冠を』


『我の名を』


『奪うな』


 レオンは、静かに返した。


「奪っているのは、お前だ」


 一拍。


「返しているだけだ」


 黒蒼雷が、次の王冠の残骸へ向かって伸びる。


 記録された名を守りながら。


 中心の“あなた”へ呼びかけ続けながら。


 レオンたちは、王冠を剥がす戦いをさらに進めていく。

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