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無能王子、東の塔で神霊を得る  作者: 伊佐波瑞樹


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第159話「王冠にされた名、無能王子は“奪った輝き”を返し始める」



 虚ろの王の欠片が被っていた王冠は、軋んでいた。


 黒い。


 重い。


 歪んでいる。


 それは金でも銀でも宝石でもなかった。


 名の残骸で作られた王冠だった。


 誰かが持っていた名前。


 誰かが呼ばれていた声。


 誰かが大事にしていた記憶。


 誰かが帰るはずだった場所。


 それらを喰らい、砕き、繋ぎ合わせ、無理やり王冠の形にしたもの。


 虚ろの王の欠片は、それを自分の名だと思っている。


 王。


 支配者。


 頂点。


 そう名乗るために。


 自分の中心にある空白を隠すために。


 呼ばれたことのない痛みを、見えないようにするために。


 レオンは、その王冠を見上げていた。


 黒蒼雷が、右手の先で細く鳴っている。


 暴れる雷ではない。


 問いかける雷。


 ほどく雷。


 奪われた名を探す雷。


 隣にはリリアーナがいる。


 手は離していない。


 彼女の指先は冷たい。


 でも、握る力は弱くなっていなかった。


「レイさん」


「何だ」


「王冠に触れるんですよね」


「ああ」


「中心を、見失わないでください」


 レオンは、虚ろの王の胸の奥にある空洞を見る。


 何もない黒。


 だが、さっきとは違う。


 完全な無ではない。


 あなた、そこにいますか。


 怖いなら、怖いでいいです。


 そう呼びかけられた時、その空洞は確かに震えた。


 そして。


 怖い、と言った。


 その声は、まだ残っている。


 名ではない。


 輪郭とも呼べない。


 けれど、もう完全な空白ではない。


「見失わない」


 レオンは答えた。


「王冠を剥がす」


「でも、中心を潰さない」


「はい」


 リリアーナは頷く。


「あなたへ、呼びかけ続けます」


 虚ろの王の欠片が、激しく揺れた。


『呼ぶな』


『それを呼ぶな』


『そこには何もない』


『我は王』


『王冠こそ我』


『王冠こそ名』


 セラフィアが静かに前へ出る。


 金色の光が、七つの名を包んだまま揺れていた。


「違うわ」


「その王冠は、あなたの名ではない」


「あなたが喰った名」


「あなたが奪った声」


「あなたが隠れるために積み上げた、他者の輝き」


 虚ろの王の欠片が、怒りで膨れ上がる。


『黙れ、祈り』


『黙れ、鎖』


『黙れ、鍵』


 セラフィアは退かない。


「黙らない」


「私は、名を祝うためにここにいる」


「奪われた名を、王冠の飾りにはさせない」


 アルベルトが炎剣を肩に担いだ。


「王様のメッキ剥がし、開始ってわけだな」


 エリシアが術式盤を広げる。


「正確には、王冠構造に組み込まれた名の残滓の分離です」


「雑に剥がせば、中の名が崩壊します」


「いつも通り、繊細にお願いします」


「俺に一番向いてねぇ注文だな」


「だからこそ声に出してください」


「分かってるよ」


 アルベルトは炎剣を握り直した。


「外側だけ焼く」


「飾りにされた名は焼かねぇ」


「虚ろの留め具だけ燃やす」


 エリシアは頷く。


「わたくしが風で流します」


「クラウス様は絡みを」


 クラウスが剣を構える。


「王冠の結合部を探る」


「斬るのではなく、外す」


 グレイヴが大剣を低く構えた。


「外殻が暴れれば、俺が受ける」


「レオン、リリアーナ」


「お前たちは中心への呼びかけを切らすな」


 リリアーナが返事をする。


「はい」


 ミリオが精神線を広げる。


「七つの名と皆さんを繋ぎます」


「王冠側に引っ張られないように注意してください」


 ラウルが盾を構えた。


「背後は守る」


「戻った名を、もう一度奪わせない」


 七つの光が揺れた。


 ミオ。


 リセ。


 ノア。


 サナ。


 エルド。


 マリ。


 ガレス。


 それぞれが弱く、でも確かに反応する。


『守る……』


『呼ぶ……』


『逃げない……』


 レオンは息を吸った。


 王冠へ触れる。


 これまでの糸とは違う。


 王冠は、虚ろの王の外殻そのものに近い。


 そこに触れれば、中心の空白も反応するかもしれない。


 外殻が暴れれば、全員が巻き込まれる。


 それでも。


 やるしかない。


 レオンは黒蒼雷を伸ばした。


 王冠の端へ。


 黒い残骸のひとつへ。


 触れた瞬間、鋭い痛みが走った。


「っ……!」


 視界に、無数の光が弾けた。


 歓声。


 拍手。


 王城。


 高い壇上。


 誰かが名前を呼ばれている。


 誇らしげな顔。


 だが、すぐにその光景は黒く塗り潰される。


 呼ばれていた名が、王冠へ組み込まれていく。


 誰かの誇りが、虚ろの飾りへ変えられていく。


 レオンは歯を食いしばった。


「……これは」


 リリアーナが支える。


「レイさん?」


「呼ばれてた」


「大勢の前で」


「誰かが、名前を呼ばれてた」


 エリシアが術式盤を確認する。


「王冠外縁部に、称号・名誉に関する記憶反応があります」


「名を祝福された記憶が、虚ろによって王冠化されているようです」


 セラフィアの顔が歪む。


「名を祝う瞬間を、奪って飾りにしたのね」


 アルベルトが吐き捨てる。


「最悪だな」


 虚ろの王の欠片が揺れる。


『祝福』


『歓声』


『名を呼ばれる喜び』


『それらは王にふさわしい』


『だから我が戴く』


 レオンは低く言う。


「それはお前のものじゃない」


 黒蒼雷をさらに細くする。


 王冠の外縁部。


 黒い飾りの奥に、ひとつの名の芯がある。


 そこへ触れる。


 今度は、歓声ではなく、剣の試合場が見えた。


 若い青年。


 木剣を持ち、息を切らしている。


 周囲の人々が拍手している。


 彼は勝った。


 誰かに名前を呼ばれた。


 その瞬間の喜び。


 レオンは、その名を探す。


「……試合場」


 クラウスが反応する。


「剣士か」


「たぶん」


「勝って、名前を呼ばれた」


 グレイヴが目を細める。


「名誉を得た記憶だな」


 リリアーナが王冠へ向かって優しく言う。


「聞こえますか」


「あなたは、誰かに名前を呼ばれて嬉しかったんですね」


 王冠の黒い飾りが震える。


『違う』


『王の歓声』


『王の名誉』


『王の王冠』


 外殻の声が割り込む。


 だが、その奥から別の声がした。


『……違う』


 若い男の声。


『俺の……』


 レオンが集中する。


「そうだ」


「お前の記憶だ」


『初めて……勝った』


「何の試合だ」


『剣』


『小さい大会』


『たいしたものじゃない』


『でも』


 声が震える。


『名前……呼ばれた』


 リリアーナが微笑む。


「嬉しかったんですね」


『うん』


『母さんが、泣いてた』


『父さんが、笑ってた』


『俺……』


 黒い王冠が、その声を押し潰そうとする。


『王冠へ戻れ』


『歓声は王のもの』


『名誉は王のもの』


『個の喜びなど不要』


 アルベルトの炎が走る。


「黙ってろ!」


「外側だけ燃えろ!」


 紅炎が王冠の黒い留め具を焼く。


 エリシアの風が、焼けた虚ろの膜を流す。


「記憶芯、露出!」


「レオン様、今です!」


 レオンは黒蒼雷を添える。


「名前を聞かせろ」


『……カ』


「カ?」


『カイル……』


 一瞬、広場に残った騎士カイルの顔が脳裏をよぎる。


 だが、これは別のカイルだ。


 同じ名を持つ、別の誰か。


 レオンは静かに呼ぶ。


「カイル」


 リリアーナも続ける。


「カイルさん」


 セラフィアが金色の光を広げる。


「カイル」


「あなたの名を祝うわ」


 クラウスが少しだけ目を伏せ、呼ぶ。


「カイル」


 グレイヴも。


「カイル」


 アルベルト、エリシア、ミリオ、ラウル。


 そして七つの光も、名を重ねる。


『カイル……』


 王冠の一部が、ぱきりと音を立てて割れた。


 黒い飾りから、銀色に近い小さな光が抜け出す。


 木剣の形を一瞬だけ取り、深部の闇へ浮かんだ。


『カイル……』


『呼ばれた……』


『嬉しかった……』


 セラフィアの祈りが、その光を包む。


 八つ目の光。


 深部に、またひとつ名前が戻った。


 虚ろの王の欠片が、怒りに震える。


『返すな』


『王冠を欠くな』


『それは我の名誉』


 レオンは言う。


「違う」


「カイルの名誉だ」


 王冠の割れ目から、中心の空洞がまた見えた。


 そこが、かすかに震えている。


 リリアーナが、すぐにそちらへ声をかけた。


「あなた」


 空洞が揺れる。


「今の、見えましたか」


 外殻が叫ぶ。


『見るな!!』


 リリアーナは続ける。


「あれは、あなたのものじゃありませんでした」


「でも」


 一拍。


「呼ばれて嬉しいって気持ちは、見えましたか」


 空洞が、ほんの少し強く震えた。


 レオンは、それを見逃さない。


「お前は、呼ばれて嬉しいという感覚を知らない」


「だから、奪った」


「でも、奪ってもお前のものにはならない」


 外殻が激しく揺れる。


『黙れ』


『黙れ』


『黙れ』


 だが、中心は揺れている。


 確かに、聞いている。


 ◇


 王冠は、今の一つで大きく欠けたわけではない。


 だが、最初のひびは入った。


 虚ろの王の欠片の外殻に、明確な穴ができた。


 エリシアが術式盤を確認する。


「王冠外縁部、構造結合率がわずかに低下」


「カイルさんの名が抜けたことで、隣接する名の残滓にも揺らぎが出ています」


 クラウスが剣を構えたまま言う。


「連鎖する可能性がある」


 セラフィアが頷く。


「ええ」


「王冠は、奪った名同士を無理に結び合わせている」


「一つを返せば、隣の名にも呼びかけやすくなる」


 アルベルトが炎剣を握る。


「つまり、ここから王冠をちょっとずつ剥がしてくってことか」


「ええ」


 エリシアが言う。


「ただし、虚ろも抵抗を強めます」


 グレイヴが大剣を構え直す。


「来るぞ」


 その言葉通り、王冠から黒い光が噴き上がった。


 今度は、剣士カイルの名が抜けた場所を埋めるように、別の残骸が蠢き始める。


 虚ろの王の欠片は、奪った名を再配置して王冠の穴を塞ごうとしている。


『欠けぬ』


『王冠は欠けぬ』


『我は王』


『王冠を失わぬ』


 黒い残骸が、流動し始めた。


 隣の名を潰して、穴へ流し込もうとしている。


 セラフィアが叫ぶ。


「止めて!」


「隣接する名が潰される!」


 レオンは即座に黒蒼雷を伸ばす。


 だが、腕が痛む。


 動きが少し遅れた。


 その一瞬で、隣の名の残骸が王冠の穴へ引きずられる。


 小さな悲鳴。


『いや』


 女の声。


 か細い。


『押し込まないで』


 リリアーナが叫ぶ。


「聞こえました!」


「女の人の声です!」


 エリシアが術式盤を走らせる。


「隣接反応、弱い!」


「このままだと王冠補修に使われます!」


 アルベルトが炎を放つ。


「外側焼く!」


「でも、近すぎる……!」


 黒い残骸が密集していて、炎を当てづらい。


 クラウスが走る。


「俺が隙間を作る!」


 剣が王冠の接合部へ入り込む。


 斬るのではなく、こじ開ける。


 だが、王冠の圧がクラウスの剣を押し潰そうとする。


「ぐっ……!」


 グレイヴが大剣を重ねる。


「押し返す!」


 大剣と白銀の剣が、王冠の残骸をわずかに持ち上げた。


「今だ!」


 レオンは黒蒼雷を差し込む。


 リリアーナが同時に声をかけた。


「聞こえますか!」


「そこにいますか!」


 女の声が、震えた。


『……いる』


 空洞も、同時に小さく揺れた。


 リリアーナは驚きつつも続ける。


「あなたにも聞こえていますね」


 これは、女の名へだけではない。


 中心の空洞へも向けた言葉だった。


 ふたつ同時に届いている。


 レオンは、それを感じた。


 王冠の名を返しながら、中心の“あなた”にも呼びかける。


 これが今の戦い方だ。


 レオンは、女の声へ集中する。


「何が見える」


『……光』


「光?」


『針』


『糸』


『布』


 マリの光が反応する。


 だが別人だ。


 今度の記憶は、縫う布ではない。


 もっと華やか。


 広げられた布。


 刺繍。


 色糸。


 誰かのために作った旗。


 レオンは息を吸う。


「旗……?」


 女の声が震える。


『祭り』


『小さな旗』


『子供たちが持つ』


『名前を縫った』


 リリアーナが目を見開く。


「名前を、旗に?」


『うん』


『迷子にならないように』


『自分の旗が分かるように』


『小さい子たちの名前を、ひとつずつ』


 セラフィアの表情が切なくなる。


「名を縫う人……」


 虚ろの王の欠片が、その記憶を押し潰そうとする。


『名を縫うな』


『名を掲げるな』


『旗は王のもの』


『名は王冠へ』


 アルベルトが叫ぶ。


「だから違うっつってんだろ!」


 炎が黒い膜を焼く。


 エリシアの風が残骸を流す。


 クラウスとグレイヴが王冠の圧を支える。


 リリアーナが声を重ねる。


「その旗、きっと嬉しかったと思います」


「自分の名前が縫われていたら」


「子供たち、喜びましたよね」


『……うん』


『走ってた』


『旗、振って』


『名前、見てって』


 声が温かくなる。


『私の字、曲がってたけど』


『笑ってた』


 レオンは、黒蒼雷を優しく添える。


「お前の名前は」


『……』


「名を縫ったお前の名前」


 沈黙。


 王冠の圧が強まる。


 女の声が押し潰されそうになる。


 七つの光とカイルの光が、背後で揺れる。


『呼んで……』


『そこにいる……』


『名前……』


 戻った名たちの声が支える。


 リリアーナが呼ぶ。


「思い出してください」


「あなたが縫った名前だけじゃなく」


「あなた自身の名前を」


 やがて、声が聞こえた。


『……ユ』


 レオンが集中する。


『ユーナ』


 リリアーナが微笑む。


「ユーナさん」


 王冠が大きく震えた。


『ユーナ……』


『私は、ユーナ……』


 セラフィアが金色の祈りを広げる。


「ユーナ」


「あなたの名を祝うわ」


 レオンが呼ぶ。


「ユーナ」


 仲間たちも続く。


「ユーナ」


「ユーナさん」


 七つの光とカイルの光も、声を重ねる。


『ユーナ……』


 王冠の二つ目の飾りが外れた。


 色糸のような光がほどけ、旗の形を一瞬だけ描く。


 そして、深部へ浮かぶ。


『ユーナ……』


『名前……縫った……』


 九つ目の光。


 王冠は、さらに小さく欠けた。


 中心の空洞が、また震える。


 リリアーナは、すぐに言った。


「あなた」


「今の人は、名前を縫っていました」


「誰かが自分を見失わないように」


 空洞が、かすかに揺れる。


「名前は、支配するためだけじゃありません」


「迷わないためにもあるんです」


 レオンも続ける。


「お前は名を王冠にした」


「でも、本当は」


 一拍。


「名は、帰るための旗にもなる」


 虚ろの外殻が怒り狂う。


『違う!!』


『名は力!!』


『名は王冠!!』


『名は支配!!』


 セラフィアが静かに返す。


「名は祈りでもある」


 ミオが小さく言う。


『名は……いるってこと』


 リセが。


『花にも……名前』


 ノアが。


『守る……約束』


 サナが。


『呼ぶ……声』


 エルドが。


『来たよって……音』


 マリが。


『直した……印』


 ガレスが。


『逃げない……重さ』


 カイルが。


『呼ばれた……誇り』


 ユーナが。


『迷わない……旗』


 九つの光が、それぞれの言葉で名前を語る。


 混ざらない。


 ひとつの答えにしない。


 それぞれ違う意味を持っている。


 だから強い。


 虚ろの王の欠片が、さらに震えた。


『やめろ』


『名に意味を増やすな』


『名は王冠』


『王冠でなければ』


『我は』


 そこで止まる。


 我は。


 続かない。


 レオンは、その止まりを見た。


 王冠でなければ、我は何なのか。


 その問いを、虚ろの王の欠片は恐れている。


 中心の空洞は、聞いている。


 リリアーナの呼びかけを。


 戻った名たちの声を。


 名が持つさまざまな意味を。


 レオンは、黒蒼雷を握る。


 まだ王冠には無数の名が残っている。


 全部を一気に返すことはできない。


 でも、確実に剥がれている。


 そして、中心へ届いている。


 ◇


 王冠が再び激しく揺れた。


 今度は外殻が、欠けた部分を補修するのを諦めたようだった。


 代わりに、王冠そのものを攻撃へ変えようとしている。


 黒い残骸が刃となり、レオンたちへ向く。


 エリシアが叫ぶ。


「王冠外縁部、刃化!」


「名の残骸を攻撃に転用しています!」


 セラフィアの顔が険しくなる。


「また名を武器にするつもりね」


 アルベルトが炎剣を構える。


「ほんと胸糞悪いな」


 グレイヴが前へ出る。


「受けるぞ!」


 クラウスが隣へ並ぶ。


「刃の中に名の芯がある」


「砕くな!」


 ラウルが盾を構える。


「七つ……いや、九つの光を守る!」


 ミリオが精神線を広げる。


「九名、安定維持!」


 リリアーナが即座に呼ぶ。


「ミオくん!」


「リセちゃん!」


「ノアさん!」


「サナさん!」


「エルドさん!」


「マリさん!」


「ガレスさん!」


「カイルさん!」


「ユーナさん!」


「ここにいてください!」


 九つの光が返事をする。


 それぞれの声が重なる。


 深部の闇に、小さな輪がさらに広がった。


 虚ろの王の欠片が叫ぶ。


『黙れ!!』


 王冠の刃が降り注ぐ。


 グレイヴとクラウスが前線で受ける。


 アルベルトの炎が刃の外側だけを焼き、エリシアの風が軌道を逸らす。


 レオンは刃の中にある名の芯を探ろうとするが、数が多い。


 とても一度には無理だ。


 リリアーナが叫ぶ。


「全部見ないで!」


「一つずつです!」


「分かってる!」


 レオンは黒蒼雷を細く絞る。


 今は守る。


 次に返す。


 急がない。


 だが、止まらない。


 王冠の刃がひとつ、レオンへ迫る。


 その刃の奥に、かすかな声がある。


『書いた』


『名前を書いた』


『消された』


 レオンは反応する。


 だが、刃は速い。


 グレイヴが間に入り、大剣で受ける。


「レオン!」


「今のを覚えておけ!」


「次の対象だ!」


 レオンは頷く。


「ああ!」


 名前を書いた者。


 消された名前。


 次はそこだ。


 虚ろの王の王冠には、まだ多くの名が縛られている。


 カイル。


 ユーナ。


 そして次の名。


 王冠を剥がす戦いは始まったばかりだった。


 だが、確実に進んでいる。


 中心の空洞は、外殻の奥で小さく震え続けている。


 あなた。


 そこにいるもの。


 怖いと言ったもの。


 その存在へ届くために。


 レオンたちは、王冠にされた名を、ひとつずつ返していく。

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