第158話「あなたという呼び声、無能王子は“存在を認める”雷を伸ばす」
深部の闇は、息を潜めていた。
いや。
息を潜めているように見えただけかもしれない。
実際には、虚ろの王の欠片はまだ暴れている。
砕けかけた黒い王冠。
崩れた玉座の残骸。
名を喰らって作られた外殻。
それらは今も軋み、震え、怒りのような黒い圧を吐き出していた。
だが、その中心。
何もない空洞。
そこだけは、妙に静かだった。
レオンは、その静けさから目を離せなかった。
ほんの少し前。
リリアーナが言った。
あなた、そこにいますか。
その言葉に、虚ろの核は確かに揺れた。
名前ではない。
真名でもない。
王でも、虚ろでも、支配者でもない。
ただ。
そこにいるものへ向けた言葉。
あなた。
たったそれだけの呼びかけに、あの空洞は反応した。
その事実が、深部の空気を変えていた。
倒すべき敵。
名を喰う怪物。
王を騙る空白。
それは間違いない。
だが同時に。
誰にも呼ばれたことがない存在。
呼ばれたかったのかどうかすら知らないまま、他者の名を喰らい続けた空洞。
その奥に触れなければ、この戦いは終わらない。
レオンは、黒蒼雷を小さく灯した。
右腕は重い。
痛みもある。
何度も雷を細く分け、名をほどき、仲間を守り、虚ろの圧に耐えてきた。
身体は限界に近い。
だが、今の黒蒼雷は暴れていない。
静かだった。
怒りで燃え上がる雷ではなく。
問いかけるための、細い光。
リリアーナが隣に立っている。
手は繋いだまま。
彼女の指も冷たい。
震えている。
それでも離さない。
「レイさん」
「何だ」
「次、どう呼びますか」
その問いに、レオンはすぐ答えられなかった。
どう呼ぶか。
名前がない。
王とは呼ばない。
虚ろと呼べば、状態に閉じ込めることになる。
支配者と呼べば、役割を与えてしまう。
怪物と呼べば、そこで終わる。
でも。
あなた。
その言葉だけは届いた。
リリアーナは、空洞を見つめながら続ける。
「たぶん、あれは」
一拍。
「自分が誰か分からないんじゃなくて」
「誰かとして見られること自体を知らないんだと思います」
レオンは彼女を見る。
リリアーナは震えながらも、目を逸らしていなかった。
「名前をもらったことがない」
「呼ばれたことがない」
「だから、王とか虚ろとか」
「そういう大きな言葉でしか、自分を形にできない」
「でも、本当は」
言葉が少し詰まる。
それでも、彼女は言った。
「ただ、自分へ向けて呼ばれることに反応したんだと思います」
セラフィアが静かに頷いた。
「そうね」
金色の光が、七つの名を包みながら揺れている。
「名を祝う以前の段階」
「存在を認める声」
「あなたは、そこにいる」
「まず、それを受け取れなければ、名には辿り着けない」
アルベルトが眉を寄せる。
「でもよ」
「存在を認めるって言っても、あいつがやったことは消えねぇぞ」
その声は低かった。
怒りがある。
当然だった。
虚ろの王の欠片は、多くの名を喰らった。
アリシアを赤い眼にした。
子供たちを苦しめた。
王都を歪めた。
その相手に、ただ優しく呼びかけるだけでは済まない。
レオンも、それは分かっている。
セラフィアも否定しなかった。
「消えないわ」
「存在を認めることは、罪を許すことではない」
彼女はガレスの光を見た。
赤黒い木札のような光。
罪を持った名。
「名を返すことも同じ」
「名前を呼ぶことは、全てを許すことではない」
「でも、空白へ逃がさないことでもある」
クラウスが剣を握り直した。
「罪があるなら、名を持たせなければ裁くこともできない」
グレイヴが低く続ける。
「存在を認めるのは、責任を曖昧にしないためでもある」
アルベルトは、しばらく黙った。
炎剣の柄を握る手に力が入る。
それから、短く息を吐いた。
「……分かった」
「甘やかすんじゃねぇならいい」
エリシアが横から静かに言う。
「アルベルト様」
「何だよ」
「今の確認は必要でした」
「誰かが言うべきことです」
アルベルトは少しだけ目を丸くし、それからそっぽを向いた。
「……そっかよ」
「ええ」
そのやり取りに、ほんの少しだけ空気が整った。
優しさだけではない。
怒りもある。
警戒もある。
許せなさもある。
その全てを持ったまま、呼びかける。
それが今必要なことだった。
◇
七つの光は、静かに揺れていた。
ミオの光は、まだ雨の冷たさを帯びている。
リセの光には、白い花の柔らかさがある。
ノアの光には、小さな木の騎士の輪郭が残っている。
サナの光は、薬草の匂いのような緑を帯びていた。
エルドの光は、焼き菓子の温かさを思わせる橙。
マリの光は、何度も縫い直された布の淡い白。
ガレスの光は、赤黒い痛みを抱えながらも、木札のような茶色を奥に残している。
それぞれ違う。
混ざらない。
でも、孤立していない。
七つの光は、小さな円を作っている。
その円が、深部の中で唯一、穏やかな場所だった。
リリアーナがその光たちへ声をかける。
「みんな」
七つの光が、わずかに揺れる。
「次も、わたしたちは呼びます」
「でも、今度は名前じゃないかもしれません」
「だから」
一拍。
「一緒に、そこにいるよって伝えてくれますか」
少し沈黙があった。
最初に返ったのは、ミオだった。
『そこ……いる』
リセが続く。
『聞こえる……』
ノアが。
『一人じゃ……ない』
サナが。
『声……ある』
エルドが。
『来たよって……』
マリが。
『ほどけても……ここ』
ガレスが、最後に低く言う。
『逃げるな……そこにいろ』
不器用な言葉たち。
けれど、それらは確かに力を持っていた。
戻った名たちが、今度は名のない空洞へ声を届けようとしている。
レオンの胸が、静かに熱くなる。
救った相手に支えられる。
それは重い。
でも、悪くない重さだった。
「ありがとう」
レオンが言う。
七つの光が、小さく震えた。
虚ろの王の欠片が、それを見ていた。
外殻はなお王を装っている。
砕けかけの王冠を押さえつけるように、黒い影が何度も形を取り直す。
『やめろ』
声が響いた。
『名を並べるな』
『声を重ねるな』
『空白へ声を投げるな』
『そこには何もない』
リリアーナが、ゆっくり息を吸った。
「何もないなら」
一拍。
「どうして嫌がるんですか」
虚ろの王の欠片が止まった。
レオンも一瞬、リリアーナを見る。
彼女は怖がっている。
でも、引いていない。
「何もないなら、届かないはずです」
「聞こえないはずです」
「でも、嫌がっています」
「それは」
声が震える。
「聞こえているからじゃないんですか」
深部が沈黙する。
虚ろの王の欠片の外殻が、ぎしりと軋んだ。
『違う』
低い声。
『違う』
『違う』
『聞こえぬ』
『聞こえぬ』
『我には届かぬ』
エリシアが術式盤を見た。
「中心核、微振動」
「リリアーナ様の声に反応しています」
アルベルトが小声で言う。
「やっぱ聞こえてんじゃねぇか」
クラウスが剣を構えたまま言う。
「否定が強いほど、反応がある」
グレイヴが低く言う。
「なら、次も届く」
レオンは頷いた。
「行く」
リリアーナがすぐに手を握り直す。
「一緒に」
「ああ」
◇
今度は、先ほどのように長く道を開くのではなく、全員で少しずつ前線を押し上げることになった。
虚ろの核へ近づきすぎれば危険だ。
だが、遠すぎれば声が届かない。
だから、グレイヴとクラウスが前へ出て、黒い圧を受けながら少しずつ道を確保する。
アルベルトとエリシアが左右の侵食を削り、流す。
ラウルとミリオが七つの光を守りつつ、精神線を伸ばす。
セラフィアが金色の祈りをレオンとリリアーナへ繋ぐ。
全員で、少しずつ。
無理に突撃しない。
急がない。
だが、止まらない。
深部の闇は、その歩みを嫌がるように震えた。
『来るな』
『来るな』
『来るな』
黒い針が飛ぶ。
クラウスが弾く。
「焦っているな」
「なら、効いている」
黒い口が現れる。
アルベルトが燃やす。
「口だけ燃えろ!」
「名前は焼かねぇ!」
黒い波が押し寄せる。
グレイヴが受ける。
「押せ!」
「ここで止まるな!」
エリシアの風が、圧を分散させる。
「流路安定!」
「レオン様、リリアーナ様、声を!」
レオンは空洞へ向かって言った。
「聞こえるか」
空洞は震えない。
リリアーナが続ける。
「あなた、そこにいますか」
ほんの小さく。
空洞が揺れた。
エリシアが叫ぶ。
「反応あり!」
虚ろの外殻が激しく暴れる。
『違う!!』
『違う!!』
『それは我ではない!!』
レオンは目を細めた。
「それは、って言ったな」
リリアーナも気づく。
「はい」
セラフィアが息を呑む。
「外殻と核の間に、ズレがある」
「王を名乗る外殻は、中心の反応を否定している」
エリシアが術式盤を操作する。
「中心核と外殻の波形が一致していません」
「これまで一体化していた反応が、分離し始めています」
アルベルトが炎剣を握る。
「つまり、王ぶってる外側と、空っぽの中身が別れかけてるってことか」
クラウスが頷く。
「なら、外殻に騙されるな」
「呼ぶべきは中心だ」
レオンは、空洞を見た。
外側は叫んでいる。
王だ。
問うな。
見るな。
呼ぶな。
だが、中心は小さく揺れている。
あなたという言葉に。
そこにいますかという問いに。
それなら、続ける。
レオンは黒蒼雷を細く伸ばした。
攻撃ではない。
空洞へ向かう、一本の線。
「俺は、レオンハルト・フォン・アルディア」
一拍。
「レイでもいい」
「お前を王とは呼ばない」
「虚ろとも、まだ呼ばない」
「でも」
黒蒼雷が、静かに空洞の手前で止まる。
「そこにいるなら、聞いてくれ」
リリアーナが、レオンの隣で言った。
「わたしは、リリアーナ・ヴァイスです」
「あなたに名前を押しつけに来たわけじゃありません」
「でも」
一拍。
「そこにいるなら、いないことにしたくありません」
空洞が、わずかに震えた。
今度は、先ほどよりはっきりと。
虚ろの外殻が叫ぶ。
『やめろ』
『やめろ』
『いない』
『そこにはいない』
『何もいない』
レオンは、外殻を見ない。
中心を見る。
「いないなら、どうして震える」
沈黙。
「いないなら、どうして嫌がる」
さらに沈黙。
リリアーナが続ける。
「怖いんですか」
空洞が、強く震えた。
虚ろの外殻が爆発するように膨れ上がる。
『怖くない!!』
『我は王!!』
『王は恐れぬ!!』
アルベルトが低く言う。
「めちゃくちゃ怖がってんじゃねぇか」
エリシアが小さく頷く。
「恐怖反応、明確です」
グレイヴが大剣を構え直す。
「来るぞ」
外殻から黒い刃が無数に生まれた。
怒り任せの攻撃。
中心へ近づく声を断つための刃。
グレイヴとクラウスが前へ出る。
アルベルトの炎が刃を焼き、エリシアの風が逸らす。
ラウルが背後を守り、ミリオが線を繋ぐ。
セラフィアが金色の光を広げる。
「続けて!」
「今、中心が聞いている!」
レオンは頷く。
刃が飛ぶ中で、声を届ける。
「怖いなら、怖いと言え」
リリアーナが少しだけ驚いてレオンを見る。
それは、彼がこれまで仲間から何度も言われた言葉だった。
そして、自分でも少しずつ言えるようになった言葉。
レオンは、空洞を見つめて言った。
「俺も怖かった」
「置いていかれるのが」
「誰も来ない場所へ戻るのが」
「守るものが増えて、失うのが」
一拍。
「でも、怖いと言えば、誰かが聞いてくれた」
リリアーナの瞳が揺れる。
彼女も続ける。
「わたしも怖かったです」
「呼ぶ側じゃなくて、呼ばれる側になるのが」
「役目がなくなったら、ここにいていいのか分からなくなるのが」
「でも、聞いてもらえました」
七つの光が、背後で揺れた。
ミオが言う。
『ミオ……怖かった』
リセが。
『リセ……痛かった』
ノアが。
『ノア……渡せなかった』
サナが。
『サナ……助けたかった』
エルドが。
『エルド……待ってた』
マリが。
『マリ……直せなかった』
ガレスが、低く。
『ガレス……戻りたくなかった』
それぞれの声。
それぞれの怖さ。
それぞれの痛み。
混ざらないまま、並んで届く。
空洞が、大きく震えた。
深部の闇が、一瞬だけ薄くなる。
虚ろの外殻が叫ぶ。
『やめろ』
『やめろ』
『やめろ』
『別々の声を聞かせるな』
『痛みを分けるな』
『怖いなど』
『怖いなど』
『怖いなど――』
そこで、声が詰まった。
外殻ではない。
中心から。
小さな声が漏れた。
『……こわい』
深部が、完全に止まった。
レオンは息を呑んだ。
リリアーナの手が震える。
セラフィアの金色の瞳が大きく見開かれる。
アルベルトも、エリシアも、クラウスも、グレイヴも。
誰も動かなかった。
今の声は、王ではない。
虚ろでもない。
支配者でもない。
ただ。
怖いと初めて言った空白の声だった。
リリアーナの目に涙が浮かぶ。
「……聞こえました」
レオンは頷く。
「ああ」
外殻が震える。
『違う』
『違う』
『今のは我ではない』
『我は王』
『王は恐れぬ』
『王は――』
レオンが遮った。
「今の声を聞いた」
外殻が止まる。
「怖いんだな」
空洞が震える。
リリアーナが優しく言う。
「怖いなら、怖いでいいです」
「名前がなくても」
「返事の仕方が分からなくても」
「今、聞こえました」
一拍。
「あなたは、怖いって言えました」
その瞬間、空洞の周囲に細いひびが入った。
黒い外殻ではない。
空白そのものに、わずかな輪郭が生まれたようだった。
セラフィアが息を震わせる。
「……存在反応が生まれている」
エリシアが術式盤を見る。
「中心核、無反応領域から微弱な個別波形へ変化」
「これは……名前ではありません」
「でも、完全な空白ではなくなっています」
クラウスが低く言う。
「怖いと言ったことで、自己が生まれたのか」
セラフィアが頷く。
「まだ自己とは呼べない」
「でも、最初の輪郭よ」
アルベルトが小さく呟いた。
「マジかよ……」
グレイヴが大剣を構えたまま言う。
「油断するな」
「外殻はまだ残っている」
その通りだった。
虚ろの王を名乗る外殻は、激しく震えている。
中心が怖いと言った。
それを認められない。
だから、さらに暴れる。
『違う!!』
『違う!!』
『我は王!!』
『恐れなどない!!』
『空白などない!!』
『名など不要!!』
黒い外殻が、中心を覆い隠そうとした。
レオンは動く。
黒蒼雷を細く伸ばし、覆いかぶさる外殻と中心の間に差し込んだ。
「隠すな」
外殻が唸る。
『邪魔をするな』
「怖いと言った声を、なかったことにするな」
リリアーナも叫ぶ。
「その声は、聞こえました!」
「あなたが否定しても、わたしたちは聞きました!」
七つの光も震える。
『聞いた……』
『こわい……聞こえた』
『いた……』
セラフィアの祈りが広がる。
「怖いという声を、祝福はしない」
「でも、否定もしない」
「それは、最初の輪郭」
外殻が、狂ったように暴れる。
黒い刃。
針。
口。
糸。
全てが再び生まれ、レオンたちへ襲いかかる。
だが、攻撃は乱れていた。
先ほどまでのような統制がない。
中心と外殻が分かれ始めている。
虚ろの王の欠片は、崩れかけている。
だからこそ危険だった。
エリシアが叫ぶ。
「外殻、暴走!」
「攻撃パターン不規則!」
クラウスが剣を構える。
「読みにくいな」
アルベルトが炎を燃やす。
「読めなくても燃やすとこは燃やす!」
「外だけな!」
グレイヴが大剣を上げる。
「耐えろ!」
「今、中心へ声が届いている!」
ラウルとミリオが七つの光を守る。
セラフィアが中心への祈りを維持する。
レオンとリリアーナは、空洞から目を逸らさなかった。
そこには、まだ名前はない。
だが。
怖いと言った。
それは、大きすぎる一歩だった。
◇
レオンは、息を整えた。
次の言葉を選ぶ。
名前ではない。
まだ早い。
怖いと言ったばかりの空白へ、いきなり名を求めれば壊れる。
だから、次に必要なのは。
「怖いなら」
レオンは言った。
「逃げるなとは言わない」
ガレスの光が少し揺れる。
レオンは続ける。
「でも、隠すな」
「王の外側に」
「虚ろの中に」
「喰った名の陰に」
「隠すな」
リリアーナがそっと続ける。
「怖いなら、怖いまま」
「そこにいてください」
「わたしたちは、また呼びます」
空洞が、小さく震える。
外殻が叫ぶ。
『呼ぶな』
『呼ぶな』
『呼ぶな』
しかし、中心はもう完全には隠れない。
エリシアの術式盤に、細い光点が浮かんでいた。
それは名前ではない。
まだ色も薄い。
でも、反応だった。
存在の点。
虚ろではなく、王でもなく、ただ“そこにいるもの”としての微かな反応。
エリシアは、声を震わせる。
「中心核、固定できそうです」
「ただし、外殻の攻撃が続く限り不安定です」
セラフィアが頷く。
「次は、外殻を剥がす必要がある」
アルベルトが反応する。
「剥がす?」
「壊すんじゃなくてか」
「ええ」
セラフィアは虚ろの王の欠片を見る。
「王を名乗る外殻は、喰われた名の残骸で作られている」
「ただ砕けば、中の名も傷つく」
「でも、中心から分離し始めた今なら」
一拍。
「外殻に縛られている名を、さらに返せる可能性がある」
レオンは、虚ろの外殻を見る。
王冠。
玉座。
黒い影。
それらはまだ無数の名の残骸でできている。
つまり。
中心へ届くためには、外殻を剥がしながら、そこに縛られた名を返していく必要がある。
やることは増えた。
難易度は上がった。
でも、道は見えた。
レオンは、黒蒼雷を握る。
「外側の名を返す」
「中心は、呼び続ける」
リリアーナが頷く。
「はい」
「“あなた”を見失わないように」
グレイヴが大剣を構える。
「なら、次は王冠だな」
クラウスが頷く。
「王冠に縛られた名をほどく」
アルベルトが炎剣を肩に担ぐ。
「いよいよ王様のメッキ剥がしってわけだ」
エリシアが術式盤を構える。
「表現は雑ですが、方針は合っています」
セラフィアが金色の光を広げる。
「王冠にされた名を、ひとつずつ返す」
「そして中心へ、“あなた”という呼びかけを届かせ続ける」
七つの光が、小さく揺れる。
『呼ぶ……』
『返す……』
『そこにいる……』
虚ろの王の欠片が、怒りに震えた。
『やめろ』
『王冠に触れるな』
『我の名を奪うな』
レオンは、静かに返した。
「それは、お前の名じゃない」
一拍。
「奪った名だ」
黒蒼雷が、王冠へ向かって細く伸びる。
中心の空洞は、まだ小さく震えていた。
怖い。
そう言った声が、確かにそこに残っている。
レオンたちは、次の段階へ進む。
王を名乗る外殻を剥がし。
奪われた名をさらに返し。
そして、名もない中心へ呼びかけ続けるために。
深部の戦いは、ようやく“王冠”へ届こうとしていた。




