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名無しの悪魔ちゃん  作者: こめっこ
第1章 街を目指して
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私の名前は

 今度こそ大人しくなった盗賊だが、また先程の様な事がないとも限らないので、近くに置いてあった縄で一人ずつ後ろ手に縛り上げていく。

 途中、強く締め過ぎて縄が切れたり、痛みで目覚めた者もいたが、その都度意識を奪う事で順調に作業は進んだ。



「すみませんお待たせしました。えーっと……」


 女の子に話しかけるものの、名前を知らない事に気付いて言葉に詰まった。


「あっ、わたしマリーっていうの! 助けてくれてありがとう! あ、あの……お姉ちゃんはなんていうの?」


 小さいのにしっかりしてるし、いい子だねえ。

 盗賊を縛っていた時も大人しくしてたし、こんな状況にも関わらず元気に振舞っている。

 マリーちゃんの身長は私の腰位だから四、五歳くらいだろうか?

 アッシュグレイの髪を左右でおさげにしている碧眼の可愛らしい女の子だ。

 溌剌とした雰囲気も相まって学校の人気者といった感じですかね。

 しかし困ったな。

 私自身名前を知らないので、むしろお姉ちゃんに教えて欲しいよ。

 名乗らない訳にもいかないし、どうしたものか。

 それに、いつまでも名無しの権兵衛さんという訳にもいかないしなあ。


 名前……名前ねぇ……。


 急には思い付かないな……。

 

 ……申し訳ないけど流石に光宙は嫌だしなぁ。


 ていうか本当にいるのかな……?


 いやいや、さすがにネタだとは思うけど……。


 いかん、真面目に考えよう。


 ……ぴかっ……ぴか〜……ぴかぴか〜……ぴか〜?


 くっ……頭の中に……!?


 黄色いネズミが頭の中でじゃれついてくる、私に考える時間を与えないつもりか!?


「私は名無し……」


 焦った私は咄嗟に名無しの権兵衛と言いかけて、そうじゃないと途中で言葉を止めた。

 危ない危ない。


「ナナシお姉ちゃんだね!」


 ふぁっ!?

 中途半端に区切ってしまったせいでマリーちゃんに勘違いさせてしまった様だ。


「ナナシお姉ちゃん、本当にありがとうございました」


 マリーちゃんが勘違いしたまま、ペコリと頭を下げてお礼を言う。

 いやー本当によく出来た子だなあ……。

 って、そうじゃないでしょう!

 でも今更違うなんて言いにくいなぁ……。

 むむむ……。

 特にこれといった名前も思いつかないし、権兵衛よりは……まぁいいや。


「はい、どういたしまして。よろしくお願いしますねマリーちゃん」

「うん、よろしくおねがいします!」

「これからどうしよっか? マリーちゃんは自分のお家とか住んでた場所の名前とか分かりますか?」

「うん、アベリアの街だよ」


 アベリアの街ですか?

 当然だけど聞いた事もない街だ、名前は分かりましたが方角が分かりません。

 ここは一つ盗賊達に道案内してもらいましょうか。

 ここに放置しておく訳にもいかないしね。

 あっ、街に行くならお金も必要か。

 あとで迷惑料として盗賊達から徴収しましょう、そうしましょう。

 ……平然と物騒な考えに至る当たり、私も大概この世界に染まってきたという事でしょうか……仕方ない事とはいえ何だか複雑ですね。


「アベリアの街ですね。でも、今日はもう暗いので出発は明日にしましょう。ご飯もあるから食べたらマリーちゃんは休んで下さいね」

「うん、ありがとうナナシお姉ちゃん!」


 盗賊達が囲んでいた焚火の周りには串に刺したお肉が並んでいる。

 表面が程よく焦げていて食べ頃と見ていいだろう。


 はむはむ。


 お肉の塊に塩を振っただけのものですが意外といけますな。

 若干獣臭いけど鳥の胸肉みたいにあっさりしている。

 脂の旨味はあんまりないけど、一噛み毎にお肉の繊維がほぐれていく様な食感があって、これはこれで悪くない。

 盗賊のくせに私よりも良いものを食べているなんて生意気な。



 ご飯を食べながらマリーちゃんに話を聞くと、どうやら彼女は孤児院にお世話になっているそうだ。

 どうして捕まったのかを聞いてみると、何やら最初は同じ孤児院の男の子が街を抜け出だそうとしていたのを止めていたらしい。

 だけど言う事を聞いてくれずに出て行ったと。

 それでマリーちゃんがその子を追い掛けたけど、途中で見失って迷子になっていたところを捕まったそうだ。


 街の外は危ないと言い聞かされていたようですし、何ヶ所かある門には兵士? が見張っているので普通は出れないけれど、外壁に子供が通れるくらいの小さな穴があり、そこから抜け出したみたいだ。


 マリーちゃんは相当疲れていたのか、ご飯を食べてひとしきり話をしているうちに、こくりこくりと船を漕いで、そのまま寝入ってしまった。

 私は眠らなくても問題ない身体だし、充分眠っていたので見張りをする。


 今のうちに盗賊の持ち物を回収しましょうか。

 まずは一番目についた剣を手に取ってみる。


 ほほー、これが剣か! 思ったよりカッコいいね!


 初めて真剣を持ってみたけど、なかなか悪くない。

 いわゆるショートソードというやつだろう。

 刃こぼれとかしていて正直使い物にはならない気もするけど、用心の為に持っておく事にした。

 女の一人歩きですからね。

 武器を持っていたら多少は警戒してくれるでしょうし、持っていて損はないだろう。

 女性物の服は見当たらないが、黒いフード付きのマントが有った。

 サイズは少し大きいけど、そのおかげで全身すっぽり隠せそうだ。

 さすがにこのボロボロの元ドレスで人前に出るのは恥ずかしい。

 これも有り難く頂いておく。


 次に何やら怪しげな壺をひっくり返したら、宝石と指輪、あとは大きな金貨が三枚出てきた。

 何とも忍びないのですが、そのままにしていても誰かに持ち去られるだけなら私が貰ってもいいよね?

 宝石類はそう大した量ではないので、纏めて皮袋に突っ込んだ。

 ついでに盗賊の財布を回収したところ、全部で小さな金貨七枚、銀貨八十二枚、銅貨二十枚と結構な量があったので、いくつかの小袋に分けて私の迷惑料として懐に仕舞う。

 多少は罪悪感もあるけど先立つものは必要だし、盗賊のものだからと割り切った。


 肩掛けのカバンがあったので、食料を入るだけカバンに突っ込んだ。

 そうこうしていると、外がほんのり明るくなってきた。

 準備は整いました。

 あとはマリーちゃんと盗賊達を起こして街へ行くだけだ。


 なんといっても初めての街ですからね。

 アベリアの街、楽しみです。





ナナシは盗賊をたおした!

ナナシは錆びた剣を手に入れた!

ナナシはマントを手に入れた!


ここまでお読み頂きありがとうございました(๑˃̵ᴗ˂̵)

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