盗賊と女の子
あれ……?
確か、謎の果物の木の下で休憩してたらウトウトして少し眠ったはずなのですが……?
どういうわけか目が覚めると見覚えのない洞窟のような場所にいた。
そんな洞窟の隅の少し奥まった所で私は暢気に寝転がっているのだ。
しかも何故か両手は縄で後ろ手に縛られている。
どういう事?
これって、これって、もしかして攫われちゃった……?
それなのにここまで気付かずにずっと寝てたのか私は……。
そんな私の上に五歳くらい女の子が覆い被さっている。
その目にはうっすらと涙が浮かんでいて、今にも泣き出しそう、というよりずっと泣いていたように見える。
ん? というか…………に、人間だー!?
これじゃ私が化物みたいですね……化物でした……うはははは……食べちゃうぞー! なんちゃって。
この泣きそうな女の子には申し訳ないが、私は今この世界で初めて出会えた人間に感動している。
一頻り喜んで辺り見渡すと、少し離れた所で八人の男達が焚火を囲んで談笑しながら食事を摂っている。
私の目が覚めた事に気付いたのだろう、三人の男が笑みを浮かべながらこちらへ歩み寄ってきた。
「よう、嬢ちゃん。ようやくお目覚めみてえだな」
うわぁ。
伸びっぱなしでテカテカ油ぎった髪に、もはやどこから顔なのか判別できない程に伸びた汚……ワイルドな髭。
体には臭そうな……いえ、使い込まれた様な皮製の胸当てを着けていて、その腰には剣をぶら下げている。
何というか……いかにも悪人です! といった風貌だ。
そんな男の人達が八人。
でも、見た目だけで悪人だと決めつけるのは良くない判断だ。
あんな所で寝てた私を助けてくれただけかも知れません。
この女の子も迷子だったのを保護してくれているだけという可能性もある……かな?
ふむ……?
「……」
「ビビっちまって声も出ねえか、へへっ!」
「そりゃそうだ、俺達ゃ極悪非道の盗賊サマだからな!」
「安心しな。最初はちっとばかり痛てえかもしれねぇが、すぐに気持ちよくなるからよ。ぎゃはは」
ないわぁ。
少しも、全く、微粒子レベルも安心できないわぁ……。
ここまで分かりやすい悪人もそうは居ないのではなかろうか。
しかも自分達で極悪非道とか言っちゃってるし。
「小汚ねえ格好しちゃいるが、ツラは悪くねぇ。この辺じゃ見ねえ顔立ちだしな、今日はツイてやがるぜ、たっぷり可愛がってやるぜ」
私は小汚くなんか……いや、まあ確かに小汚いといえなくもないですが……。
私は好き好んでこんな格好している訳じゃないし、それにどう考えてもこの人達より汚くない! ……はず。
ええい、許すまじ悪党共め!
それにしても本当に運が良かった。
以前の私であれば何も出来ずに震えていたのだろうと思う。
だけど今はこの子を救う事が出来るだけの力がある……と思う。
この盗賊達の見た目は中々の迫力ではあるが森で出会った化物と比べると、やはりどうしても見劣りしてしまう。
とは言え、あんな化物がいる世界の人間なので、見た目以上に物凄く強いという可能性もあり得るので油断は禁物だ。
さすがに向き合っただけで「こやつ……できる!」みたいなのは分からないけど感じる魔力も小さいし、強そうには見えないというのが私の所感だ。
森でのサバイバル生活で戦闘には多少自信もついたけど、毒などで行動不能にされてしまう可能性だってある。
……いや、いまさら普通の毒とか効かなそうな気もするな、八本足の大トカゲの毒でも死ななかった訳だし。
いずれにせよ戦ってみなければ分からないという事か。
この子が見ているのであまり使いたくはないが、最悪魔眼で何とかなるだろう。
「さっきからぼーっとしてどうしたんだ、あ? 俺に惚れちまったか? ぎゃははは」
「大方びびってションベンでも漏らしたんだろうぜ」
「やる前からイッちまったんじゃねぇかぁ。こいつぁ、とんだメス犬だぜ」
清々しい程の下衆さ加減ですね、これなら遠慮は必要なさそうだ。
言動が子供の教育によろしくないのでさっさとやってしまいましょう。
「大丈夫だよ、すぐにお家に帰れるからね。……少しだけ待っててね」
私は微笑み、女の子に優しく語りかける。
怖いだろうに、泣き叫びたいだろうに、それでもこの子は声を上げる事なく気丈にも堪えているが、とめどなく溢れ出る涙は堪えきれないのだろう。
女の子は泣き腫らした顔で心配そうに私を見ている。
「あ? てめぇ何言って――」
ブチンッ
それにしても、この程度のヒモで私を縛れると思っているのでしょうか?
魔力で強化するまでもなく、軽く力を込めただけで縄は簡単に千切れた。
これでは脳筋と言われてもしょうがないかもしれませんねぇ。
ともあれ先手必勝やられる前にやりましょう。
まずは正面にいる男に水面蹴りで足を払いつつ立ち上がる。
バギッ
折れた……?
予想外の脆さに戸惑ったがそれも一瞬、素早く隣の男の腹に軽くパンチをしてみた、
すると「ヴェッ」と息を吐いて、目がクルンと回って白目を剥いた。
「うぐぁああああ!」
と同時に、水面蹴りでお手本のように一瞬宙に浮いた男が落下して、折れた足の痛みに気付き、大声を上げた。
白目を剥いた男はその場に崩れ落ち、気を失っているように見える。
あっ、なんかビクンビクンしてる……あ、止まった……。
胸が上下しているので死んではいない様だけど、正直どうでもいい。
すると、その様子を観察していた私と残った一人の男と、ふと目が合った。
「え……ちょっ――」
「ていっ」
確認の為、問答無用で腹パンしてみたが先程の男と同様に呆気なく倒れた。
……なんか弱すぎる気がする。
三人を行動不能にした私は、未だ唖然としている様子の残り五人の盗賊を見据えた。
状況を把握したのか、私の視線に触発されたのか盗賊達は一斉に立ち上がり、各々の武器を抜いてこちらに駆け出してくる。
それに対し私も駆け出して素早く間合いを詰めた。
試しに先頭の男の脛をちょんと蹴れば骨が折れ、走っていた勢いと相まって顔面から突っ伏した。
そのまま男達の間をすり抜けつつ、同じように一人ずつ脛をちょんちょんと蹴って行く。
誰も私の動きを捉える事すら出来ずに、次々と転倒していった。
薄々は感じていたが、まさかの予想を上回る弱さに私の中で逆に罠なんじゃないか説が生まれた。
しかし、彼等の様子を見る限りそれは無いな、とあっさり棄却された。
「痛てぇぇ!」
「ぐあああああ! このクソったれが!」
「てめぇ、このクソ女何しやがった!」
「クソが、ぶっ殺してやる!」
ぶっ殺すも何も寝転がってるじゃないですかー。
この程度で文句を言われても困りますし、因果応報というやつですよ?
殺されなかっただけ感謝して欲しいぐらいだ。
もしかしたら私のように怪我が治るかと思い、暫く様子を観察していたが特に変化は無いのでやはり私が異常なだけなのだろう。
そして、さっきからずっと私を罵倒していて流石に五月蝿い。
足を折るのは失敗だった様だ。
一先ず静かにしてもらう為に気絶させる事にする。
ペシッ、ペシッ、ペシッ、バシッバシバシ
一人目は加減が分からず何度も殴ったので、顔が少し悲惨な事になってしまった。
四人目は一発で倒れたから、少しコツが掴めたような気がする。
弱すぎると意味ないし、強すぎると死んじゃうだろうし。
全く手がかかる大人だ。
あっ、お腹を叩けば早かったんじゃ……うむ、次からはそうしよう。
そうやって一人づつ気絶させ終わると、洞窟の入り口から盗賊の仲間と思しき男が姿を見せた。
格好からしてこの男も盗賊とみて間違いないだろう。
「こりぁあ、どういう――」
最後まで語らせる事なく、瞬き一つ程の速さで男の元に一足飛びで向かう。
男が目を大きく見開いて驚いている隙に腹パン!
するとまた「ヴェッ」と息を吐いて気絶した。
もしかして見張り役かな?
てことは外にも仲間がいる可能性があるね、一応見に行くかな。
こっそりと外の様子を伺うと、案の定もう一人の見張り役がいた。
私は素早く近付き、必殺腹パンをお見舞いした。
見張り役の盗賊達も気絶させた盗賊達と一緒に洞窟の端にまとめて転がしておく。
一段落してふう、と一つ息を吐き、改めてこちら見つめている女の子に向き直る。
「大丈夫? どこか痛いところとか、ない?」
「す、すごーい! お姉ちゃんすごいよ! すごいカッコよかった!」
何やらとても興奮していて、凄い凄いとピョンピョン飛び跳ねて全身を使って表現している。
先程までとは打って変わったその様子を見て怪我はなさそうだと一安心した。
「お姉ちゃん、ありがとう!」
「はい、どういたしま――」
「油断しやがってバカが、死ね! ファイアボール!」
他の盗賊より頑丈だったのか、寝そべったままの男の掌から炎の塊が放たれた。
いや、この口ぶりだと初めから寝たふりをして、様子を伺っていたのだろう。
こんな古典的な手で不意打ちをしてくるとは。
油断しないと決めていたのにこのザマだ。
いずれにせよ私は兎も角、この子を巻き込む訳にはいかない。
女の子を背中に隠し、正面から迫り来る炎の塊を見据える。
既に術者の手を離れた炎の塊は唸りを上げながら向かって来ている。
もしこれが着弾と同時に爆発するような魔法であれば、後ろにいるこの子は無事では済まないかもしれない。
少しでも女の子との距離が開くように、私は炎の塊に向かって駆けだし、掌を突き出した――
炎は私の掌に触れた瞬間、バンッと小規模な爆発を起こし、少し火の粉が飛び散った。
しかし、爆発はしたものの特に大した衝撃も無く、あまりに呆気なさすぎた為、流石に罠だと思い身構えていたがそれ以上何も起こらなかった。
……これ……だけ?
咄嗟に掌に魔力を集めたのが功を奏したのか、掌を見てみるが特に異常は見つからなかった。
思ったよりもショボい魔法だったけど、今回はそのショボさに助けられたと言えるだろう。
「……」
「お、お姉ちゃん……?」
おや、どうやら心配させてしまったようです。
お姉ちゃんは平気ですよ。
「な、何なんだよてめぇは!! 化け物が! ファイ――」
性懲りもなくまた魔法を使おうとした盗賊にすかさず飛び込み、こちらに向けている両手をへし折った。
痛みに喚いているが、今度は狸寝入りなど出来ないよう、しっかり殴っておく。
ついでに折れたモップの分も殴っておく。
さっきのしょぼい魔法程度じゃ死ぬ気はしないけど、この女の子はどうなるか分からないからね。
それに私を殺したいなら首を落とすぐらいしないとほとんど意味が無いだろう。
もしかしたら、それでも死なないかも知れないし、いや流石にそれはないか……。
何れにせよ、改めて私は化物なのだと思った。
モップはてめぇが……!?
ここまでお読み頂きありがとうございました(๑˃̵ᴗ˂̵)




