初めての食事?
この森には色んな種類の化物が生息している。
例えば、巨大な蜘蛛の上に裸の女性の上半身がくっついている化物。
この女性は一見生きている人間の様に見えるが、捕食の際に胸部から腹部にかけて縦に裂けるように大きく開き、そこには臓器の代わりに鋭い歯がびっしりと無数に並んでる。
裸の女性で獲物をおびき寄せ、その口を一気に開いて捕食する恐ろしい化物だ。
人のいないこの森の中で果たしてどれ程の効果があるのかは不明だ。
何で知ってるのかって?
いや、こんなところで裸の女の人が手招きしてたら誰だって気になるでしょ?
声をかけても返事は無いし?
喋らないから何かおかしいとは思ったけど、気になってちょっと近付いてみたんだよ。
そしたら急にガサガサッて出て来たと思ったら、でっかい蜘蛛の上に女の人の上半身がくっ付いててもうビックリ。
一瞬驚いて固まってたら抱き着かれて、そのまま食べられそうになりましたからね……。
その際に躱しきれずに腕の肉を少し齧られたけど、どうにか引き剥がして魔眼で石にして差し上げました。
でも川で試した時とは違ってゆっくりとしか石化していかなかった。
耐性があるのか、生物には効き辛いのかもしれない。
因みに齧られた部分は急速に肉が盛り上がり、ほっといても数分で再生するみたいだ。
ちょっとした切り傷なら、ものの数秒で塞がる。
今、私がこうして生きているのもこの再生能力のお陰だ。
あの黒い獣と戦った後も、これは死んだなーって地面に転がって寝てたら勝手に完治してましたはい。
なんかすいません……。
だって普通に目が覚めていつの間にか腕も生えてたんだもん。
ほんと私の感傷を返して欲しい。
とは言えですよ? 痛いものは痛い、というかめちゃくちゃ痛い!
並の人間よりはかなり頑丈だとは思うけど、最初の時とは違って攻撃されれば普通に怪我をする身体になってしまったので、戦闘は毎回命懸けである事には違いない。
いや怪我をするのは当たり前だけど、欠損した部位が生えてくるなんて普通は有り得ないはずだ。
強かったり弱かったり本当にこの体は一体どうなっているのだろうか?
冷静に考えられる今だったらあの時に魔眼を使っていれば……なんて思わなくもないけど、正直あの時は熱くなりすぎて魔眼の事など忘れていた。
それに、悪い事ばかりでもなかったと思うんだ。
あの戦いを乗り越えた事で、私はこの世界で生きていく覚悟や諦めない気持ちだったり得がたいものを得た。……気がする。
でも、それが私の不安や恐怖を打ち消して自信に変わったのは間違いないと思ってる。
だから結果としてあれはあれで良かったと思ってる。
まぁ生きてたから言えるんだけどね。
ああ、それと目が覚めた時に、長かった髪の毛は獣の死体の爪を使って、首の後ろでスパッと切っちゃいました。
勿体ない気もしたが、もうあんな目はゴメンだからねえ……。
さて、話が逸れたけど他にも木に擬態している化物とか、小型犬くらいの蟻の大群とかにも襲われた。
あとは人間を丸呑み出来るサイズのミミズが足元の地面から飛び出てきたり、毒の息を撒き散らす八本足の巨大なトカゲとかもいた。
まあ、普通の人間ならどれも初見殺しもいいとこだ。
中でも八本足のトカゲはかなり頑丈で、殴ると怒って毒の息を撒き散らしてくる。
殴っても分厚いゴムみたいな感触で、その場所だけは拳の形に凹むけど、割とすぐに再生してしまう。
逃げてもずっと追いかけて来るし……。
それならと再生する前に同じ場所を集中攻撃をしようとしたけど、巨体の割にかなり素早くて同じ所を連続で殴れないどころか尻尾で弾き飛ばされる始末だ。
再生しても痛いものは痛いんだろうね、気持ちは分かるけど……。
怒った大トカゲはその大きな口から濃い紫色の息を撒き散らして、その息は触れた草木を一瞬で腐らせる程に凶悪だった。
そんで私はうっかり毒の息を吸い込んでしまった。
ほんと何やってんだろうね……。
そしたら喉が爛れて、内臓は焼けるように熱くて痛いし……。
焦った私は結局魔眼を使って石化させたんだけど、これもゆっくりとしか固まっていかなかった。
まあそれでも十分強力な力には違いないんだけどね。
魔眼は色んなものに一通り試したけど、今のところ何でも石に出来るようだ。
直接視認する必要はあるけど、木でも地面でも化物でも、文字通り何でもだ。
ただ、何故か初めて使った時と比べると、威力というか、石になり始めるのもそうだし、石化していく速度が明らかに遅くなった。
私が怪我をするようになった事と何か関係あるのかな?
誰か教えて下さい。
そうこうしていると暗くなってきた。
だけど、魔眼のおかげで視界には困らない。
暗視機能付きのスグレモノだ。
これは特に意識しなくても勝手に見えるので、猫の目みたいなものかと適当に納得した。
歩き詰めだけど肉体的な疲れは無く、不思議と空腹感もそこまでない、悪魔なので倒した化物の魂でも食べているのだろうか?
もしそうなら私こそ化物だと自覚しなければなりませんね。
いや、既に十分化物だとは自覚している。
そんな事を考えていると何だか泣けてくるけど、泣いたところで現実は変わらないのだ。
一日で色んな出来事がありすぎて、精神的に疲れていたけど、気のせいだと自分に言い聞かせて夜も強行軍を続けた。
眠くはないけど眠い、矛盾しているけどそんな感覚だ。
それに、夜の方が化物達と遭遇する頻度か多くなるので、どの道ゆっくり眠ってなどいられない。
♢ ♢ ♢
そんな殺伐とした生活が八日目にもなると、新たに気付いた事もある。
私の腕力や魔眼の能力は、人間の姿の時は大幅に弱体化するようだ。
弱体化するとはいっても、この事に気付くまで人間の姿で戦ってきたので、苦戦はするけど森の化物を倒せるぐらいには強い。
最悪石化でおkだし。
と言うか魔眼がでたらめすぎるんだよね……。
話を戻そう。
初めて大トカゲと戦った時は、殴っても少ししかダメージを与えられず、魔眼を使ってもゆっくりとしか石化しなかったのもこれが原因だった。
だから悪魔状態で殴ると、あんなに分厚いと感じた大トカゲの皮膚が嘘のように柔らかく感じて、殴りつけた場所から破裂するように飛び散った。
ゆっくりとしか石化しなかった化物も一瞬で石になるようにもなった。
そして、肝心の防御力も同様に、また傷一つ負わない身体になった。
悪魔状態とはつまり、無意識に魔力を全身に行き渡らせて肉体や神経を超強化している状態で、更にこの魔力を最も効率的に扱うのに適した形なのだろうと推測する、知らんけど。
逆に人間の姿になると、この魔力を全く使用していない。
全くというのは語弊があるけど、初めて人間の姿に切り替えた時に身体が重く感じたのは、この魔力の補助が無くなったからだと思う。
この事に気付いたのは、以前感じた魔力を何とか扱えないかと意識して悪魔と人間を切り替えていたら、悪魔状態の時に全身を覆っている魔力が見えた事がきっかけだ。
人間状態の時は魔力を使っていないだけで、魔力自体は悪魔状態の時と同様に、私の中から無限に湧き出ているのが分かるが、その殆どが堰き止められていて流れが悪い川の様な印象を受けた。
実際、悪魔状態の時は魔力が全身を循環していて、魔力を容易に扱えた。
魔力を集めたり、部分的に纏ったり、なんなら集めた魔力を放出して攻撃に転用する事だって出来た。
その時、加減が分からずにかなり広範囲の森林を消失させてしまったのは皆にはナイショだよ。
だけど、人間状態だとこの魔力の扱いが難しく、思ったように出来ない。
感覚は掴めているので、まずは魔力の流れを整える事を意識して魔力の扱いに慣れていく事にした。
この事に気付いて試験的に悪魔状態で一通り試してみたけど、戦闘が戦闘といえない程に拍子抜けしたものになってしまった。
まあ、いわゆる無双状態ですよ。
これまで必死に戦ってた自分がなんだかバカバカしくなったけど、こんな訳の分からない化物がいる世界で強い事は悪い事じゃない。
うん……悪い事じゃないんだよ。
だけど私は人間として生きたいから、敢えて人間の姿で戦う事にした。
それでも私が推定悪魔だという本質は変わらないので、ただの気休めにしか過ぎないと分かっていても、自分が本物の化物になったように感じてしまうから、出来る事ならもうあの姿にはなりたくない。
散々利用しておいて都合がいいのは分かってるけどね……。
♢ ♢ ♢
川沿いをひたすら下るという終わりの見えない生活を続けてはや二十五日目。
ようやく木々の密度が薄くなり、植生も変わり森の雰囲気も随分と明るくなった気がする。
何よりも辺りに漂っていた魔力が随分と薄くなった。
あれから私も成長して、人間の姿でも前より上手く魔力を扱えるようになった。
魔力の循環が良くなった事でコントロールしやすくなり、体内であればある程度自在に移動させ、部分強化したり全身に纏わせる事で身体能力を高める事に成功した。
ただ、一定以上の魔力を解放すると、どうしても悪魔の姿に戻ってしまう。
だからこれは人間の姿に戻っているのではなくて、擬態しているのではないかと考えた。
つまり普段は人間の皮を被っていて、一定量の魔力を超えると、それが脱げてしまう。
もっと喩えるなら、北斗の人のシャツが本気を出すと破れてしまうのに近いと思う。
文字通り化けの皮が剥がれない様に注意が必要だ。
私の魔力量はここにいる化物達と比べても蟻と象以上の差があると言ってもいい。
何せ無限に湧き出てくるのだ、比べるべくもない。
そんな私が人間社会に混じれば浮いてしまうのは目に見えている。
それが私の思い過ごしであればいいけど、念の為極限まで魔力を抑える練習もした。
これでいつ誰と出会っても問題ないはずだ。
しばらく歩いていると、これまで見かけなかった化物と出会った。
熊だー!
その熊は手足に刃物の様な爪を持っていて、体長四メートル程はある。
熊……?
更によく見ると顔にクチバシが付いている。
熊……じゃない……
何だろう、端的に言うと頭だけフクロウとすげ替えたみたいな感じで、何だか気持ち悪いというか不安な気持ちになる。
雰囲気熊はこちらを視認するなり私に向かって突進してきた。
だけど特段焦りは無く、今なら余裕を持って対処出来ると分かる。
それに森の奥にいた化物と比べると魔力量も少なく、動きにキレがないように感じる。
雰囲気熊が目と鼻の先まで来たところで、拳を握りしめ、横っ面を殴り飛ばす。
かなり手を抜いたが、ズドンと鉄球を叩きつけた様な重い音と共に雰囲気熊は体ごと吹き飛んだ。
倒れた先を確認すると、首は明後日の方を向いていてもげかかっていた。
確認するまでもなく死んでいる。
相手から襲ってきたとはいえ、こうして命を奪う事に対して何も感じなくなってしまった事実に私は何とも言えない気持ちになった。
自然と暗くなってしまった気持ちを切り替える為に周りを見渡す。
森の雰囲気も変わった事で何か変化があるかもしれない。
もう少しで森を抜けられるかもしれないと思うと自然と歩みが軽やかになった。
「あっ!」
それから半日ほど川沿いを下って行くと、この世界で初めて食べられそうな果物を見つけて私は思わず駆け出していた。
それは赤黒く拳程の大きさで、軽くつついてみると、柔らかく弾力がある。
桃の様に見えなくもないけど違う。
程よく熟れたようなのを一つを手に取って割ってみた。
力を入れずともスッと真ん中から綺麗に割れたその中には、綺麗な赤い果肉がぎっしりと詰まっている。
甘い匂いがほのかに漂い、私は堪らずかぶりついた。
美味しい。
すっきりとした甘みでクセもなくて、しっとりとした食感と粒々の種の食感が口の中を楽しませてくれる。
少し酸味はあるけど、それが甘みを引き立てるアクセントになっていて、何というか飽きない甘さだ。
口まわりが汚れるのも気にせず、よく分からない果物を二個、三個と一心不乱に食べた。
お腹は空かないけど食欲はある。
私は食べ尽くす勢いでその果物を食べた。
気が付けば口も手もベタベタになっていた。
だけど、これ以上ないという程に満たされた気がした。
お腹が満たされたことでこれまでの緊張も緩み、今度は睡魔が襲ってきた。
眠らなくても問題ない身体だけど眠れるものなら眠りたい。
まあ、ここなら少しぐらい眠っても大丈夫だろうと、私はそのまま木に背中を預けて眠りについた。
なんか普通に生きてた!
こうなったらもう何でもありだー\(^o^)/
ここまでお読み頂きありがとうございます(๑˃̵ᴗ˂̵)




