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名無しの悪魔ちゃん  作者: こめっこ
第2章 教育冒険者
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心の強さ

 ゴブリンの魔石を抜き取り終わると、少し場所を移動して再び魔力探知の練習を始めた。

 五メートルまでは先程の要領ですんなりといった。そこから更に六、七、八メートルと何度か失敗しながらもゆっくりと慎重に広げて確実に距離を伸ばしていく事に成功した。

 そうして繰り返していると十一メートル辺りでまた魔力が途切れてフワッと霧散した。

 当初予定していた十メートルは確保出来たので、次は早く広げる為に、一度魔力を戻し、広げてはまた戻すを繰り返す。


 とにかく慣れる為に何度も反復していると、またもや魔力探知にゴブリンの反応が掛かった。


 今度は六匹か……ここの森ゴブリン多いんだね。


 魔力探知を保持したまま様子を伺っていると、ゴブリン達はこちらに気付いたようで、私から隠れて周囲の状況を探りつつ近付いて来ているようだ。

 そのうちの三匹が散開して私を四方から囲むように展開した。

 そして、準備が整ったのだろう、正面から三匹のゴブリンが出て来た。


 こうしてみると、ある程度知性は高そうだけど――


「ギャギャギャッギャッ、グギャッ!」


 うーん。やっぱりこの厭らしい笑みを見ると、とてもそうは思えないんだよなぁ。


 この三匹のゴブリンに注目させて、私の後方と左右に展開したゴブリンが不意打ちをする算段なのだろうと思う。

 すると、案の定三方から一斉に飛び掛かって来た。


 私は左足を軸にクルリと回りつつ剣を一閃。一振りで三匹のゴブリンを一太刀で仕留めた。そして、何事も無かったかの様に再び正面のゴブリンに再び相対した。

 すると、それを見た正面の三匹は逡巡する事なく一目散に逃げていった。


「あっ」


 本来なら追いかけた方がいいのだろうが、魔力探知のコツを掴んできたところなので今のうちに出来るだけ練習をしたい。それに、本来の目的はホーンラビットであって、ゴブリン狩りに来た訳ではない。まあ、正直に言うと追いかけるのが面倒臭いだけなのだが……。

 そう長い時間ではないが、悩んでいるいる間にゴブリン達を完全に見失ってしまった。


 見逃したのでは無く、見失ったのだと自分に都合良く解釈して剣を収めた。そして、倒したゴブリンの魔石を抜き取り、練習を再開する。



 ほどなくすると血の匂いに惹かれたのか、今度は体長三メートル程の巨大な牙が特徴の猪に似た魔物、ファングボアが視界の奥に映った。

 彼らは雑食なので大方血の匂いに惹かれてやってきたのだろう。私はゴブリンの死体が目当てだろうと思い無(・)視(・)して練習を続けた。

 すると突然、ファングボアが私目掛けて突進して来た。


「わわっ!?」


 いくら獲物(ゴブリンの死体)が目の前にあったとしても、他の生物が近くにいれば襲って来るのは当然である。私の危機感は一体何処へ行ってしまったのだろうか……。

 慌てて下顎から生えている巨大な牙を掴んで踏ん張ると、そこでピタリと止まった。


 普通に正面から歩いて来られると、逆に警戒心なくなるんだ……。


 一つ深呼吸をして、そのまま力づくで地面に押さえつける。

 ファングボアは抜け出そうともがいているが、地面にしっかりと踏ん張っている私の力には及ばず、逃れる事が出来ない様だ。


「ブモオオオ!!」

「ふふふ、妾から逃れられると思うたか!」


 どこか芝居がかった、時代錯誤も甚だしい口調でファングボアに向かって言い放った私の表情はさぞドヤっている事だろう。

 しかし、ここではたと気付いた。


 これでは私も動けない……!?


 かくなる上は――


「奥義ドングリヘッドバッドっ! やあっ!」


 奥義ドングリヘッドバッド、又の名を頭突きとも言う。しかし、ただの頭突きと侮るなかれ。

 私の魔力で超強化した頭と私の超パワーが合わされば大木すらも簡単に薙ぎ倒すのだ。知らんけど。

 ちなみに名前は今思いついた。何故ならここにはドングリがいっぱい落ちているからだ。


 頭突きをファングボアの眉間辺りに叩きつけると、ドンッと地面まで重たい音が響き、直後白目をむいたファングボアから力が抜けて、少し痙攣した後、動かなくなった。



 何はともあれ、ファングボアは倒してしまったのだから無駄にしない為にも下処理をする。これも先日見ていたので、やり方は何となく覚えている。

 先ずはバックバックから縄を取り出し、猪の後ろ足を縛った。そして、ある程度強そうな木の枝に縄を引っ掛けて、猪を逆さに吊り上げる。

 見よう見真似でナイフを首筋に何度か突き込むと、動脈を切ったのかドバドバと血が落ちてきた。

 その時に足元に血が飛び散り、私の足は血塗れだ。

 本当ならお腹を開いて内蔵も処理したいが、最低限ならこれでもいいだろう。というか出来ない。


 ふぅ……やっぱり慣れない作業は疲れるなぁ……精神的に。まあ、今日はこれぐらいで帰ろうか。


「あーどうやって持って帰るかな……」


 私のバックパックに入る様な大きさじゃ当然ないし、かと言って竜の牙の皆さんの様な魔法の鞄なんて持っていない。

 少し考えてみてもこれといった妙案は思い浮かばなかったので、素直に担いで持って帰る事にした。


 バックパックは前に回して、ファングボアの前脚を肩に掛け、背中に担いで持ち上げた。


「よっこいしょ、っと」


 ……つい言っちゃうんだよね。


 大きさが大きさだから後ろ足は引き摺る事になるけどしょうがない。傍目にみたらファングボアが歩いてる様に見えるかと思うと少し笑えてきた。

 にしても自分でもよくこんな物担げるものだと思う。実際たいして重くないし、どうしてこうなってしまったのかと、ため息を吐いた。


 はぁ……帰ろ……。




 帰りの道中、道行く人達からの奇異の視線に晒された私は心を無にする事で、街門で少しトラブルはあったが何とか組合(ギルド)に辿り着いた。


 カランコロンコロン


 獲物を担いだまま何とか組合内に入ると、昼間からお酒を呑んでいる冒険者達がこちらを一瞥したかと思えば勢いよく立ち上がったり、二度見三度見したり、ある者は口を開けて惚けていたり、口々に何やら呟いている。


「お、おい。あれ……」

「ああ? って……マジかよ」

「うおっ! あんなでけぇファングボア背負える……のか……?」

「あの嬢ちゃんって、この前の奴だよな……」

「どんな馬鹿力してんだよ……」

「……かわいい」


 うう、恥ずかしい。

 しょうがないじゃないのよ、他に方法が無かったんだから!


 俯きつつ買取カウンターの方へ向かっていると、クレアさんが受付から出てきてこちらに近づいて来た。


「ナナシさん……?」

「は、はい! す、すいません、ホーンラビット取れませんでした……」

「え? あ、いえ。それは問題有りませんが……その獲物はここでは大き過ぎるので裏の解体所の方に、その……お願い、出来ますか?」

「あ、はい!」

「あの、今更聞くのもあれですが……重くはありませんか?」

「あっ、はい。大丈夫です」

「……そうですか。では、案内しますので付いて来てもらえますか?」

「はい、お願いします」


 一旦、外へ出て建物の右手側の奥に搬入口の様な広い入り口のガレージの様な所へ案内された。

 一定以上の大きさの獲物は直接ここに持ち込むのだそうだ。

 確かに正面入り口は通るのもギリギリだったしね。

 ついでにゴブリンの魔石も渡しとこう。

 ここで引き渡したら査定してくれるので、後はまた組合内に戻って待っていればいいそうだ。



「お待たせしました。こちらが報酬と内訳になります」


 ふむふむ、金貨二枚と銅貨三十二四枚か。

 ファングボアが金貨二枚でゴブリンの魔石が……一つ銅貨四枚か。

 一日でこの稼ぎは結構やばい気がする。いや、いい意味でね。


「ナナシさんには本当に驚かされてしまいました。先日の出来事もですが、恐らくファングボアを一人で担いで持ち帰った方はそうそういらっしゃらないと思いますよ」

「あはは……力だけが取り柄みたいなものですので……」



 それから少し話しをしていると、今日の仕事を終えた冒険者達が続々と帰って来たので話しを切り上げ、組合を後にした。


 宿に戻り、速攻でお風呂に入り身体中に付いた血を洗い流して、服も洗濯した。

 少し休憩していると、早いものでもう外は真っ暗だった。

 今日はレイラさんと二人きりの食事で、他のメンバーはまだ帰って来ていないそうだ。

 食事が終わって暫くしたら今夜もレイラ先生とお勉強の時間だ。


 やはり言葉は分かるせいか文字は何となく読めるようになってきた。

 書くのはまだ難しいけど、覚えが早いと先生に褒められて私は少し有頂天になっていた。

 そこで、ふと気になった事があったので尋ねてみた。


「そういえば、皆さんはいつまで街に滞在できるんですか?」

「そういえばまだ伝えていませんでしたね。本日指名の依頼が入りましたので、明後日には街を発つ事になりました」

「あぁ、そうなんですか。少し……寂しくなりますね」

「ええ。……もう少しナナシさんとゆっくりしていたかったのですが、申し訳ありません」

「そんな、謝らないで下さいよ。指名の依頼という事はそれだけの実績と実力があるからでしょうし、それだけ信用もあると言う事だと思いますし……えっと」

「ふふ、そんなに言って頂けると嬉しいですね」

「あっ……いえ、うぅ」


 少し感情的になってしまいテンパってしまった、恥ずかしい。


「それに、今生の別れという訳でもありません。生きてさえいればきっとまた会えますよ」

「生きてさえいれば……」


 そうだ、冒険者を続けていればまた会える、生きてさえいればまた会える。

 彼女の何気ない言葉の中からこの世界の死生観ともいえるものが伝わった気がした。

 冒険者は街から街へ、彼女達程の冒険者なら何度も出会いと別れを繰り返して来たのだろう。そして、その中には二度と会う事が出来なくなった人もいたのかも知れない。それでも今日まで歩き続けて来た彼女達冒険者の強さに私は言葉が出なくなった。


 私はどうだろうか、私も彼女みたいに強くなれるだろうか。

 今はまだ分からない。だけど、次に会った時に恥ずかしくない私に、胸を張って再開出来るように強くなろうと心に決めた。






あれ……この子実は天然なんじゃ……


ここまでお読み頂きありがとうございます(๑˃̵ᴗ˂̵)

良ければ感想、レビュー、ブクマ、評価など辛口評価、辛口コメントもお待ちしております。

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