六話 『 強さを孕んで進化する 』
「――許さない」
気が付けば、風など吹かなくても次から次へと耳に入ってくる強烈な想い。
「許さない……許さない……許さない……っ」
マグティーノは己の分身の陰で皮肉気に口元を引きつらせた。
「許さない? 何かと思えば、生き残りですか。まったく、小賢しいとはまさにこのことですね。本当に下らない。弱いから死ぬ。強いから生き残る。あなたの親が世の為人の為と言いながらも死んだのは、力が伴わない人間だったからでしょうに。そもそも、その程度の人間が死んだ所でどうという――」
「黙れっ! 父様の、母様の事を、何も知らないくせにッ!」
ミーナの怒りが、頂点を越えた。
ゴワアアアアアアッ! と膨大な新緑色のアウラがミーナの体から立ち上る。
「あなたは、あなただけは――生きていたらいけない人だっ!」
優しく両親の手を放してゆっくりと立ち上がるミーナは、一歩、足を前に出した。
途端、そのアウラに刺激されたのか、その足元から草木の新芽が萌え出てくる。
「父様は言った。〝尾を飲み込む円環の大蛇〟を守ってほしいって」
上空には、この空全てを覆うほどに無数の魔法陣が新緑色の明度も高く浮かんでいく。
「母様は言った。父様がすることはみんな、人々を守ることだって!」
生み出されるのは種々様々、大小膨大なこの世の銃器。
「二人は言った! あたしに生きていてって、生きるんだって!」
圧倒的な物量が超絶的な脅威となって、ミーナの背後上空を埋め尽くす。
「あなたはそれを邪魔する人だ! 許すなんて出来るはずないっ!」
その光景に、その脅威に、マグティーノは、知らずに足を下げていた。
ミーナの何が怖いという訳ではない。
ただ、ミーナの何もかもが怖かった。
「ま、まってくださいよ……いやだなあ、私が何か間違ったことを言いまし――」
自身の群れの中で自然と零れる意味の分からない言い訳を口にしようとして、
「………………………………ッ!」
しかし、それは怒りの表情によって完全に押し殺された。
上空に浮かぶ魔法陣から生み出される銃器はミーナの想いに触発されているのか、出現した直後にはその撃鉄を振り下ろし、その度にプリズム鉱石から生み出されたマグティーノの分身体を一体、また一体と砕いてく。
加速度的に生み出される銃器に比例して、その数を減らしていく分身体に、くっと歯噛みするマグティーノは、未だ数百と残る分身体をミーナへと怒涛のように向かわせる。
しかし、あまりに大量に生み出される銃器にそのことごとくが破壊されていった。
ミーナの迫力に押されて足を下げるマグティーノ。自分の分身体の陰で、その圧倒的な光景と、自分の常識の中にはない恐怖に、体を震わせる。
(こ、これが、恐怖っ! これが怒りッ! なんと、なんと恐ろしいッッッッ!)
それはマグティーノが初めて経験する、他人からの絶対的な怒りだった。
暗殺という、国からの命令で感情とは無関係な所から人を殺してきたマグティーノは、自身が暗殺者であるが故に、他人から向けられる絶対的な怒りがこれほど恐ろしいものだとは知らなかった。
初めて感じる恐ろしいという感情にガタガタと震えるマグティーノは、半分以上欠けた赤と緑の面の下で、今まで作った事の無い本当に情けない表情を作りながら涙まで流して、今まで殺してきた他人に許した事の無い許しを心から懇願して見せる。
「わ、分かりましたっ! もう分かりましたから! 殺さないでくださいっ。もう私はあなた達を狙わない事を約束します! 指輪もあきらめますから! 殺すなら、もっと弱い、殺しやすい奴を狙いますからぁ!」
しかしマグティーノは、ミーナが怒りを感じている部分を理解できていなかった。離れた場所でそれを見ていたアグニとジョイズ・モントレーも、怒りを感じるのは当然、マグティーノに対して憐れという感情を抱いていた。
だから。
「……やっぱりあなたは、生きていたらいけない人だ」
呟き、わずか背後の両親を見やって、アグニと目が合った。何か言われたわけでも、何かサインがあったわけでもない。それでも、新緑色のアウラの明度がさらに上がり、ミーナの瞳に強さが宿る。
「父様が望んで、母様が願った物は、生きている人の幸せだ。それを笑いながら奪えるあなたを、あたしは許して置く事は出来ない――絶対にッ!」
親から託された想いを背負う強さが、想いを貫く強烈な意思が、ミーナの力を底上げさせる。
「だからあたしは――」
上空の魔法陣から作り出されるのは、この世界にある銃器の全て。
「――生きるんだ! 父様と母様の約束を守る為に! 父様と母様の想いを受け継ぐ為に! あたしをここまで引っ張ってくれたアグニの為にも、あたしは!」
人への想いが強さとなって、ミーナの能力を進化させる。
進化式高等魔法――〝銃火器精製魔法〟は、
想いを乗せて〝銃火器創生魔法〟へと変貌する。
最後に作り出されるのは、すべてを飲み込むような巨大さを有する壮絶な大砲。
そして、ミーナの叫びが世界を揺らした。
「生きて、生きて、生き抜いてやるんだぁ!」
『銃華戦乱――黄昏埋める女神の咆哮』
さまざまな形の銃から打ち出される想いが、巨大すぎる大砲から打ち出されるミーナの怒りが、未だ数百と残っていたマグティーノの分身含め、ヘルズネクトという谷の地形をごっそりと変えた。人の命に無関心な一人の人間と一緒に、破壊し尽くしていった。
それは、すべてを新緑色に塗りつぶし、後には草木の新芽を萌え出させながら――――。
次回 七章 ―― アグニとミーナ




