五話 『 大事な贈り物 』
二人の笑いが収まったのは、それから少し経った後だ。
アグニは笑いの残滓を大きな呼気とともに吐き出して起き上がると、笑い過ぎた所為でせき込むミーナの手を引いて立ち上がらせた。
「さて、どうするよ?」
ざっと辺りを見渡せば、目に映るのは周囲の更地と岩と石と砂、あとは遠くにところどころ生えている草木ばかりで、何らかの手がかりになりそうなものは見当たらない。そもそも、探している『秘密』と言うものがどんな形をしている物なのかアグニとミーナには教えられていないのだから、手掛かりを探そうとする方が間違っているが。
「うむ、それについてなのだが」
だから、やはり言うのはジョイズ・モントレーである。
ここに来るまでに何らかの手がかりを見つけていたのか、それとも、初めから情報をもってヘルズネクトへとやってきていたのか、ジョイズ・モントレーは言い置いてから、服についた汚れを気にするミーナへと視線を移し、こんなことを聞いた。
「ミーナと言ったか、そのネックレスについて少し聞かせてもらいたい」
純白の外套をめくって自分のお尻のあたりを汚れていないか見ていたミーナは、頭にクエスチョンマークを浮かべながらジョイズ・モントレーの巨体に向き直り、
「えっと、良いですけど……」
ネックレスに下がる銀板を見える様につまみあげてようやく、
「あれ? 光ってる」
ネックレスが光っていることに気が付いた。
ジョイズ・モントレーは言う。
「グリフォンが運ぶ荷台の上で光り始めた。それはおそらく、おぬしが父か母に渡された物だろうという事は、その銀板に彫られたメッセージから想像つくが、例えば、渡されたときに何かこう、言葉と一緒ではなかっただろうか?」
自分の持ち物を見るにしては不思議そうに目をぱちくりと瞬かせるミーナは、それを手の上に乗せて数秒、ふと、悲しそうに微笑んだ。
「生きていて、って。あたしがこれを貰ったあの日、父様と母様は、そう言ってました」
「じゃあ、それは……あの時に?」
アグニの問いに小さく頷く。
「そっか。アグニにも話して無かったんだっけ。これを貰った時のことって」
「ん。ああ、聞いてない。俺はもっと小さい頃に貰ったもんだと思ってた」
「普通は、そうかも。でも、これはそうじゃないんだ」
ミーナは、手のひらに乗る露草色のアウラを纏う銀板を見つめて、静かに話し始めた。
「これを貰ったあの日、私は誕生日だったの。家族だけの小さな誕生会を開くのが、毎年の恒例だった。――でも、予定されてた楽しいはずの誕生会は、あいつらが来て無期延期になったんだ。襲撃、って言うのかな。最初にそれを知ったのは、父様がメイド長に持たせた護身用の警報魔具から響く、大きなベルの音だった。ビックリするくらい大きな音で、その音を聞いた途端、父様と母様の顔がとっても怖くなったのを覚えてる。――手を強く掴まれて、いつもは使われない書庫に走りこんで、一つの書棚の本を引き抜くと、そこが扉になって……。中には階段があった。そこは地下通路だった。逃げる為に用意した非常用通路だ、そう言われた。あたしはそこに押し込められて、『生きるんだ』、『生きていて』って叫ばれた。あたしは一緒に行こうって言ったけど、父様も母様も首を横に振って、来てくれなかった……きっと、あたしが逃げる為の時間を稼ごうとしたんだよね。そのとき、このネックレスを貰ったの。『大事に持っていておくれ』そう言われて。その後は、アグニも知ってる通り。必死に逃げて、逃げて、逃げ切れなくなって、もう駄目だーって時にアグニに助けられた。あれから十か月。アグニはずっとあたしと一緒に居てくれる。だからあたしは、ここに居られる。アグニがあたしを、あたしの事を、今もずっと守っていてくれるから」
目を瞑り、手のひらにある銀板をそっと握って、手を自分の胸にぽんと乗せた。それから少し頬を染めて、照れたように笑ってみせる。
「って、そうじゃないよねっ! うんっ! だから、その、ええと。そう、あたしがこれを渡されたときに言われた言葉は『生きるんだ』『大事に持っていておくれ』ってこと。それ以外は、何にも言われてないですっ! はいっ!」
言い切って、しかしすぐ後に「あっ」と声を上げるミーナは、言葉を付け加えた。
「そう言えば、このネックレスのアウラ、父様の魔力の色です。なんででしょうね?」
露草色に光る銀板をつまみあげてねめつける様に見つめるミーナは、唇を突き出して可愛らしくむぅと唸るのだった。
次回 「 確かめる肩肘 」




